19。待ち人
――ギルと付き合うことになって数週間。
実は彼から音沙汰は無い。
この前、別れ際に次会う約束したのに彼は会いに来なかったのだ。
普段忙しいとは言っていたが、まさか約束を破られた上に何にも連絡が無いなんて……。こんな事になるなんて思ってもみなかった。
ずっとギルがいつ会いにきてもいいように身だしなみもしっかりとし待っているのに。待てども待てども彼は来ない。
あの甘い日は一体何だったんだ……?
「今日も来なかった……」
『向こうも忙しいんだよ』
フェンリルに慰められながらガックリと項垂れる私。
ちなみに今家にいるのはフェンリルと私の2人だけだ。
ライズはというと、あれから頻繁に家を開ける事が多くなった。なんか避けられている気もしたけど、彼も何かと忙しいみたいだ。
私が起きる前に出かけて、寝た後に帰ってきているみたいで、中々会えてない。
そして、マルジンの件もあれから特に襲われることも無かった。
ライズやフリード様が威嚇してくれたおかげだろう。きっと。
まぁ、もし私がいなくなったら一番に疑われるのはマルジンだし、そんなこと分かっているから手を出してこないんだろうと思う。
『ミジュ。久しぶりに秘密基地にでも行くか?』
家にずっといても退屈だろうとフェンリルは気を利かせてそう言ってくれる。
私もギルのことを待ったり、考えるのが疲れてきたので気分転換に外に出ることに賛成した。
そしてフェンリルの背中に乗って秘密基地に到着したのである。
来るのは久々だ!
うん。何にも変わっていない。当たり前だけど。とても綺麗で、癒されるな。
滝の音、自然と触れ合ってすごくリフレッシュした気分だ。
草原に座って風を受けると、心地いい暖かさが体に触れる。
……いけない。これはまさに睡魔が襲ってくるやつだ。
『俺が起きているから寝てもいいぞ?』
私がウトウトし出したのを見てフェンリルがそう言ってくれる。
この数週間ギルに会えなくて辛かった。
夜も彼のことを考えてあまり眠れなかったのだ。
それが今、この睡魔となって私を襲う。
「じゃあちょっとだけいいかな?」
フェンリルの言葉に甘え、彼の大きくなった体へともたれる。
私は目を閉じるとあっという間に夢の世界へと入っていった。
それをフェンリルは優しい目でただ見守っていた。
それからしばらくして……
『やっと来たか。ミジュは待ちくたびれてたぞ』
「すまない」
フェンリル達がいる場所に歩み寄ってきた何者かにフェンリルは話しかけた。
そして、全く……とため息を吐く。
そう、ギルがやっと現れたのだ。
『どうするよ?起こすか?』
「いや。折角眠っているんだ。もう少しそのまま寝かせてやりたい」
ギルはミジュの隣に座るとそっと彼女の頬を触った。
久しぶりに触るミジュの肌。
愛おしい人の肌。
「それにしてもよく寝るやつだな。初めて会った時も寝ていたよな?」
『誰のせいだと思ってるんだよ。どっちもお前のせいだぞ?』
フェンリルの呆れた声が聞こえて、その言葉に笑うギルの声が聞こえる。はじめは遠くで聞こえていたが、意識がはっきりしてきたのかその声は大きくなり目が覚めた。
「ん……ギルッ!?」
目を覚ました私は彼の顔を見た瞬間飛び起きて抱きついた。
「……会いたかったよ!約束もスッポかされるし、連絡もないし、全然会えないんだもん」
「……ごめんな。急にこの国をしばらく離れることになって」
ギルは私の頭をよしよしと撫でる。
『じゃあ、王子様が来たから俺はヅラかるよ。ギル、家までミジュを頼むよ?』
「あぁ。分かった」
私たちのやりとりを見たフェンリルはそう言って気を遣ってくれて、先に家へと帰っていった。
久しぶりにギルに会えた。うれしくて嬉しくて。
日が暗くなるまでの間、彼とずっと尽きない話をしていた。
だけど、楽しかった時間は彼の口から出た最後の発言で終わってしまった。
「そういえば、ライズ様からも話があると思うけど。イースに乗り込む日が決まったんだ」
「えっ?乗り込むって?ついに戦いが始まるって事?」
ギルを不安そうにじっと見つめた。彼の事が心配でたまらない。
「ギル……」
「大丈夫だって!そんな目で見るなよ。俺を誰だと思っているんだ?」
その言葉に嘘はない。彼は強いんだ。フリード様からもお墨付きを頂いている。だから誰にも負けないはず。
いや、負けない。
でも、ギルの事以外にも、もう一つ気がかりがある。
ライズもイースに行ってしまうという事だよね?
最近すれ違ってばかりで会えていないのに。戦いが始まってしまうと、終わるまでずっと会えなくなってしまう。
考えれば考える程、不安が増す。
「戦いが始まるとギルにもライズにも会えなくなるんでしょ?そんなの嫌だな……」
「そうだけど……でも、すぐに終わらせて帰ってくるさ。だから待っててくれ」
不安を吐き出した私をギルはぎゅっと抱きしめた……
◇
空も暗くなり私はギルに家まで送ってもらった。
また当分会えなくなるのかな?とも思ったが、戦いに備えて、もう国を離れる事はないとの事。だからイースに行くまでの間、少しでも時間が取れれば私に会いに来てくれると約束してくれた。
だが、一度約束を破られている。なので絶対だよ?と何度も彼に念を押した。
彼と別れた私は気が重い中、家への中へと入ると、ライズも珍しく既に帰っており気まずい雰囲気が漂う。久しぶりに会ったのに。
「……ただいま」
「ギルから聞いたか?」
「……うん」
フェンリルも既にライズから聞かされているみたいだ。
「言っておくが、お前はダイスに置いていくからな」
「えっ?私の考えてることなんで分かったの?」
「お前の考えなんてお見通しだ」
私はギルから話を聞いた後考えていた。
みんなと離れたくない。戦いはいつ終わるのかも分からないし。
もしみんな死んでしまったらその時点で永久に会えなくなってしまう。
だったら私も着いて行き少しの間でも一緒に居たかった。
それに、ライズには面倒を見てくれた恩もある。
すこしでもライズ達の力になりたいんだよ!
「私だって戦えるし」
「おい!何を言っているのか分かっているのか?」
「嫌なんだよ!みんな必死に戦っているのに、自分だけのうのうと生きているのは!!」
私の荒げた声は家の中に響いた。
「それでもダメだ」
「なんでっ?ライズ達が居なくなったら、マルジンに狙われるかもしれないよ?」
正直マルジンの事なんて今はどうだって良かった。ただ、私を一緒に連れて行ってくれる口実が作れるならと言い放った言葉だった。だけどライズは……
「マルジンの事は心配するな。ちゃんと対策は考えてあるから……」
彼は下を向いてその後言葉を詰まらせた。そして再び顔をあげ私を見る。
「敵陣に乗り込むんだ、お前を守れる保証はない。だからもし、お前が死んでしまったら……俺は……」
そんなライズに私は食い下がった。
「ライズお願い。絶対に足手まといにはならないから……」
「俺もギルも必ず戻ってくるから。だからそれまで待っているだ!」
だが、彼はそう言って強引に話を中断した。そして部屋へと入っていってしまった。
残されは私は目から涙が溢れる。
それをフェンリルが心配そうに見つめる。
頑とした彼の意志は固く、私の願いは聞き入れられなかった。




