11。助け
急いで秘密基地に戻ろうと必死に走る私の後ろからと例の魔物の遠吠えが聞こえる。
威嚇か??
しばらくするとまた遠吠えが聞こえた。今度は先ほどよりも近くなっている。
それは始めは遠かったのにあっという間に自分のすぐ近くまで聞こえたのだ。やっぱりピョルタンはやられた様だ。
で次は私ってわけ!?
「まずい!?このまま行くと捕まるよ!?」
必死で走るが人間の走る速さなんて魔物には劣るだろう。
だけれどそれでも必死に走った。
走って走って走って…………えっ!?
無我夢中で走っていた。後ろを振り返りながら必死になって走った。
そして、一歩足を前に出したら地面がないではないか。
そこは私の目の前は崖だったのだ。
魔物に気を取られていたばかりに崖から転落してしまったのだ。
「ぎゃーっ!?」
自分の叫び声も虚しく下へと落下する私と小さな魔物。
ぐっ……!死ぬ……!?
落ちていく恐怖とはこういうものなのか。今、目の前に見える陸地が少しずつ近づいていく。とてもスローモーションの様にゆっくりと……
そして、恐怖のあまり目を閉じた。
もうダメッッ!?…………
……ってあれ……??
一瞬自分の体が重力に逆らい止まった気がする。そして次の瞬間地面へ到達したのか軽い衝撃が体に伝わる。
軽い?結構な高さから落ちたのにそんなに痛くない。
恐る恐る目を開けてみると、目の前は木々が生い茂っている。うん、崖の下にいる様だ。
何より地面のような硬いものにあたったのでは無く。こう……
そして私は思いっきり目を見開いた。
なぜって?それはこの前助けた、魔族のその男にお姫様抱っこをされていたからだ。
「すごい所から落ちてきたな」
放心状態の私に平然と語りかけてくる。そんな彼に慌てて私も返事をする。
「……いや、魔物に襲われまして」
「それで崖の上から身を投げたと」
「…………」
これ以上何を言っていいのか分からず、とりあえずお礼を言うとそそくさと地面へ降りた。
地面へ激突する前に受け止めてくれたってことだよね?
もちろん助けた小さな魔物も無事だ。私の腕の中で失神しているが。
「で、こいつか?お前を襲った魔物というのは?」
「えっ?」
次々起こる出来事に頭をぐるぐるさせていると、男がなにか魔物と言うワードを発した。律儀に指を刺してくれた方を見るとそこにはさっきまで私達を追いかけていた魔物がいるではないか。
「崖を降りてきたのっ!?」
災難を越したと思ったらまた災難。
どうしよう?助かったと思ったのに。今度こそやられてしまう!?
なのに彼は怯えている私を他所に、剣を抜いて魔物の対処方法を説明し出す始末。
いや、あの、魔物来てますけど……?
魔物は待ってくれない。
なんなら、背を向けている魔族の男にチャンスだと思ったのか、一目散に襲ってきた。
「ちょっと!?魔物がきてるって!?」
パニックになった私。叫び声ともとれる声は響き渡った。
だが、男に飛びかかろうとした魔物は一次の瞬間剣で一突きされて音を立てて倒れた。
「……は?」
それは一瞬の出来事だった。
彼は魔物の姿を見たものの、私に説明をする為に背を向けていた。
見ていなかったのに、気づいたら剣が魔物を貫通している。
早いなんてものじゃない。たとえ、人間より力がある魔族とはいえ速すぎたのだ。
「ん?どうした?」
「いや。その。魔物を一瞬で倒すなんて」
「あぁ。こんなの朝飯前だ」
唖然とした私の横で、すかした顔でそう答える彼。
「そ、そうなんだ」
と言うしかなかった。
【魔族は人間の事を奴隷としか思っていない】
ライズの言った言葉がふと脳裏を遮る。
目の前の今起こったこの光景。でたらめな強さ。私の様な人間はやはり魔族と関わってはいけないと、脳が警告しているのか、体が震えた。
助けてもらったのに申し訳ないが、この人とは早く離れた方がいい。
お礼を改めて言い早々にこの場から離れようとしたが、なぜか呼び止められてしまった。
これ以上私に何の話があるの?
ドキドキしながら魔族の男と面と向かう。
「この前の礼が言いたかったんだよ」
えっ、お礼?どんな罵倒をされるか戦々恐々としていたのに。すごく拍子抜けだ。
実は彼、フェンリルにお礼は言ったものの、私に直接言っていなかった事を気にしていた。だから、私に出会うまでこの秘密基地の近くをウロウロしていたとこのと。で、私が落ちてきて今に至るそうだ。
「あの時はきつい言葉を言って悪かったな。お前が助けてくれなかったら俺はあの時は死んでいた」
改めて、私にお辞儀をしながらお礼をしてくれた。
魔族だから警戒していたのに。なんて律儀なやつなのだ。
いつのまにか体の震えも止まってた。彼に対して恐怖がなくなった証拠だ。
今目の前にいる彼を見ていると、魔族でもいい奴もいるんだなと思う。
「……気にしないで?それに元気になったみたいだし。良かったよ」
「ありがとう。あっ、自己紹介が遅れたな。俺の名前ギルードだ」
「私はミジュ」
「ミジュか……」
何か言いたげそうな顔をしていたがそれ以上は言葉にしなかった。
「で、お前が大事そうに抱えているその魔物は?」
「そうだった!私、この子を助けようとしつて魔物に襲われたの」
私の腕の中で気を失っていたこの子もいつの間にか目を覚ましたみたいだ。抱かれて居心地がいいのかあくびをしている。
もう大丈夫だな。
小さな魔物をそっと地面に下ろすとかわいい鳴き声を上げながら草むらの中へと消えていく。
それはまるでありがとう。と言っている様にも聞こえた。




