青の時代
僕は、オクテで、恋愛には臆病な少年だった。
中学時代、気になる女の子がいた。いつしかその子を目で追うようになり、彼女のことを思うと、ドキドキして胸が苦しくなり、夜も寝付けなくなった。
囃し立てる周りの友人に背中を押され、僕は己の気持ち優先で思い切って彼女に告白した。が、あえなく撃沈。
「ごめんなさい。ほかに好きな人がいるの」
初の失恋。青かった僕の、ほろ苦い青春の1コマだ。
あれから12年。
サラリーマンの僕は接待で、クラブやキャバクラの女の子たちと店で適当に遊んだりすることにも慣れていった。
何人か付き合った女性はいたが、仲たがいしたり、相手が別の男に心変わりしたりで、もって1年というところだった。それに虚しさや寂しさを感じるようになってきていた。
ある時銀座の高級クラブの接待で、上司にお供することになった。
僕の席に現れた彼女は、上品なしぐさで、水割りを作ってくれた。
話しているうちに、アレ?彼女はもしかして中学時代に僕が振られたあの子・・・
目が合って、向こうも思い出した様子だった。
「○○中学のときの・・」「松崎さんだよね?」
同時に声が重なり、二人は思わず吹き出した。
そこからは、学生時代の思い出話に終始した。
彼女は大人の美しい女に変貌していたが、話している間の表情に、当時の面影が垣間見えて、それがとてもなつかしく、不思議な気分だった。
「ぼく松崎さんが初恋の人だったのよ。だから振られたときはショックだったなぁあ」なるべく軽い調子で僕がいうと、松崎さんは恥ずかしそうに、
「あの時はごめんなさい。本当は、好きな人がいるって嘘だったの。あたしね、あのころ、男性恐怖症っていうのかな、第二次性長期で急に大きくなってひげや声変わりで変わっていく男の子たちが怖かったのよ。あ、でも、決してあなたのことは嫌いというわけじゃなかったのよ。むしろ好きだった・・だからこそこれ以上踏み込みたくないっていうかそんな気持ちだったのよね」
「僕もオクテでさあ、告白で撃沈したあとはもう部活ひとすじだったよ。それが今では」
「私もあなたも年月がたって変わってしまったってことね。」
「そう、僕らは青かった。」「青の時代か・・懐かしいね」
二人は顔を見合わせて微笑むと、グラスをかちりとあわせ、乾杯した。