NPCの青春
2021/03/31 この上にprologueを移動し、さらに加筆修正(約3,000字→約10,000字)
2021/05/03 物語の進行上の違和感低減、加筆修正(約10,000字→約17,500字)
細かなミスは暫時修正
~システムメッセージ~
主人公津川 悠には、常人と比べ選択肢の「量」「質」ともに高い選択に直面する。彼の選択には、運命を決する力がある。
一見普通な選択「部活動選択」。誰であろうとも人生に一度や二度は経験する選択である。ある人は自分の才能、ある人は自分の興味で道を決めるだろう。それは主人公も同じだ。だがそれは、自分の親友になれたであろう人物を取捨選択しているのと変わりがない。それは、ふざけあう友だろうか、ともに高めあう友だろうか、はたまた恋人だろうか。誰と放課後を過ごすのかは、その手にあったであろうその紙が決めたのだ。
主人公にも紙が渡された。いたってシンプルなもので、希望部活動と簡単な希望理由と名前の署名欄、それと、入部後を支えてくれる親と先生の署名欄が印刷されている。だが、主人公の頭に一瞬であろうと世界の命運がかかっていようとは思ってはいなかったであろう。
改めて重々しく言い直そう。主人公の選択により、クラスメイトの行動が大きく変化してしまう。そう、世界の選択権は彼にしかなく、その他有象無象は、彼の選択によって引かれた新たな筋書の上を、彼ら自身の可能性を制限されたとしても、その選択に準じなければならない。選択は下記の様に三択である。
ー開くしおりの選択―
A_???のしおり 条件*??部へ入部
B_???のしおり 条件*??部へ入部 ※前回選択
C_橙色のナスタチウムのしおり 条件*テニス部への入部
選択:Cルート 主要団体:オカルト研究部(???)
主人公は、自身の能力を棚に上げ、自分が後発性の人間だと信じ、実力がないにもかかわらず、無理にこの選択を押し通した。そこには自身に嫌悪があったのだろう。受験にも失敗し、友人関係も優れない。そんな自分を振り払うために、自らをあえて困難な場に身を置いた。ただ、そこで精神が持つほどの人間ではない。尻上がりの人物であると自称し、精神の安定を図った。
だが、実力の世界において、それはより強い孤独を生む。実力を伸ばそうとしているところに、短時間ではあるが、熱心に下手なプレイをしていたらどう思うか。熱心に努力する分、この部をやめてくれとは言いづらい。しかし、部の練習効率が落ちることは間違いない。その鬱憤は陰口を生む。
そこでテニス次期部長安彦竜星は、半ば強制の申し出を主人公へ突き付ける。
……やはりと言うべきか、ある部への左遷の申し出という、体のいい退部通告だった。
~システムメッセージ 終~
ーーある少女の部屋/夕暮れーー
「この世界には非日常が存在し、それらがいつでも死のワルツを開演しようと機会を窺っている。そのような演者が我々を獣の目のような鋭い眼光で見ているというのに、なぜ、この世界が混沌に侵されることはないのか」
少女は問う。もしこの場に誰か居合わせたとしても、この問いに答えられる人がいないであろう問いを。そして、少女は次のように続ける。
「それは、我々が住む表世界が未来永劫の平穏を守るため、人間社会がその舞台幕を開けさせはしないからだ。一度その幕が上がり開演されてしまえば、この惑星に住むあらゆる生命体が非日常の混沌に屈し、日常が非現実へと様相を変えてしまうだろう」
少女は残酷な解を提示する。少女も、この結論だけにはたどり着きたくはなかったと、悔しさが言葉の節々から感じられる。そして最後にこう締めくくった。
「そしてそれは同時に、人間という種族の積み上げてきた歴史は、非日常に蹂躙され消滅し、『この表世界の惑星には人間がいた』などという事実は、胡散臭い神話に成り下がるであろう」
人間という種族は、それほどまでに容易く破壊されてしまうのだろうか。聴衆はそう思うだろう。しかし、それには前例があると少女言う。それこそが、火星である、と。火星といえば、『探査機を火星に着陸を実行に移す』といったニュースをよく目にする。そう、今まさに世界は、火星の観察に心血を注いでいる。
しかし、少女は予見している。そこで発掘された物の中で、すでに蹂躙された火星の種族の痕跡を見つけることになってしまうのではないか。そこには、隠しておくべきだった真実が表出してしまうのではないか。
さらに少女は続ける。
「人間はなにも残すことなく、この表世界の、いくつもある崩壊した惑星の中の一つの種族であるということでしか話には上がらないであろうことを意味する。そして、一度非日常が我々の世界に顔を覗かせたならもうすでに、その後の悲惨な未来が確定したのと同義なのである」
ある部屋の一室。太陽の沈み具合からして、日の入りの時間までそんなに長くは残されていないだろう。もうすぐ、ここら一帯が暗闇に支配される。
その闇がまるで、その少女が言うことが現実化するまでに、もう対策を打ち出せるような時間は残されていないのだろう事を予感させる。
その部屋の中心にいる一人の少女の頬には、赤く輝いた瞳孔をもつ目から、涙が一粒流れ落ちる。なぜ泣いているのか、傍から見れば、感情が揺さぶられ、その感情が抑えきれず、涙という形で形而下されているのだろうと思うことであろう。しかしその感情は、この世界の命運を哀れんでのものなのか。
それとも、彼らの求めた心理の結末が、このような袋小路であったことへの、少女の研究の無意味さを嘆いての涙なのか。その少女は、一瞬だけ、本の方を見やる。
少女自身の傍らにある本棚の中には、この社会では到底起こり得ないような、超自然について言及した古書であふれている。
人間社会には、多くのこの真実を探求したものの、少女のたどり着いたこの研究成果にはたどり着けず、道半ばにおいて、惜しくも人生の終点の駅へと入構する時を迎えてしまった。
しかし、人生をなげうった者が何も遺産を残さないはずがない。彼らの知識の遺産は、新たな探求者によって、また命尽きる。
その繰り返しによって、書き加えられていった本は、もはや、人が本を選ぶのではない。その本自身が適任である者を探しだすのだ。
そして少女の書斎にある本は、すべてが修復の跡が、つぎはぎだらけの布のように経年劣化や人為的劣化が重なっている
そう、その修復跡ができるほどそれだけの探求者を探し求めた真実に、少女と呼ばれるほどの若輩ながら到達したのだ。これは少女こそが、この本が選び出した逸材ではないのか。
だがその逸材の考え方は、第三者では目測では測りを見誤っている。そう、言える。
少女は1匹の人の子がある結論にたどり着けたことに喜びを感じている。嬉し泣いているのだ。
少女自身は、この世界に多くの人々が、この事実を解明するのに生涯をかけても見つけられなかった、などいう事実は全く気にしていなかった。少女は、この事を発見したことへの喜びではなく、この結論こそに喜んでいるので涙しているのである。
人間はそれから惑星を守る一つの種族であり宇宙を含めた、世界の森羅万象を守る騎士団であると。
そのときはその眼はまさに情勢をわきまえず、長い獄中生活に散った現代遺伝学の第一人者の様に、全人類の誤解はいずれの未来において真実になるであろうという希望をもった眼であった。
少女は信じているのである。真実は、今この手の中にあるが、すぐには理解されないことはわかっている。この現代では、超自然自体が一部を除いて、忌避されている。
それは偉大なる彼も同じであった。
少女の座っている机には、その科学者の彫刻が置かれている。彼の生き方はその少女の人生を大きく変えた。彼は、少女にとって人生最大の偉人なのだ。
子供がなぜ、親と似るのか。それを調べるのは、禁忌とされていた。子供は神によって生み出され、神の選別によって、この世界での生き方が決定される。すべては神のみぞ知る神秘であったのである。
しかし彼は、神の旗本であるはずの教会でその禁忌を犯した。そして彼は見つけ出したのである。
人々が神々の力であるとした神通力は、ただの遺伝子であるという真実を。
現在少女が導き出した真理。それは、現代では前述のように、禁忌というと少し度が過ぎているが、その研究をすれば、奇怪な方面のコミュニティーに所属しない限り、まず、生きることが出来ない。
資本主義を土台としたこの世界において、生きるための業、文字通り生業を持たないと同義なのである。資本主義、そしてそれと対になる社会主義は、それまであった、王権神授説を真っ向から否定し、人間だけで、世界のすべてを動かそうとする思想である。
その思想の中生きる人間にとって、非日常からの客人は、ただの障害となる。そして、それを示唆することもも同様である。そのような情勢の中、彼女もまた、それをわきまえず、この結論が人々に広く認知されることを望んでいるのである。
平穏である現実は、人間社会が隠ぺいした非日常を見ることがないからこそ、人間は平穏の中で生活しているという真理を......
ーーオカルト研究部 部室/10月某日 PM5:00ーー
「はいはい。またその妄言ですか。いい加減、目の前の問題を解決してください。もう何度生徒会から廃部の勧告を受けたか。その度、その度生徒会のご機嫌取りに行かされている私の身にもなって下さい」
真理にたどり着いた、そういう少女に、ある長身の男子学生が不満を表にする。
男子学生は、黒色の下地に赤のラインが横に入ったズボンと、暗い緑に金色の学校紋の入ったブレザー、その間から同じように赤いネクタイが胸元からみえる、といった服装をし、その服の胸ポケットには、家紋らしきものが刺繍されており、ポケットチーフがその家紋をアピールするかのように、ひょい顔をのぞかせている。
この男子学生は名家の出身であり、その歴史は平安にまでさかのぼる。彼の先祖は、水産業で名をあげ朝廷から、貴族の身分を賜りはしたが、それでも水産業を辞めず、さらには平民と結びを結んだことで、貴族から平民に没落してしまった。その後でも、真面目に働き、今の北海財閥があるのだと彼は言う。確かに彼の一家は、水産業の北海財閥と呼ばれるくらいには営業規模の大きい会社だ。
だが、彼の一族の言う始業者伝説は、信憑性が全くないといって良い。
彼の家の発展は、冷凍船が開発されたのを聞き、即座に一家のものすべてを質に入れ、冷凍船に投資し実用化に成功した、言い換えればうまく技術革命の波に乗った、彼のご先祖様が設立した会社が、財閥と呼ばれるほどに成長したものであったからだ。
なぜそのような、根も葉もない話を信じるのかは、俺には分からない。
(余談となるのだが、彼の服装から明らかに目立っている、制服のラインの赤という色、これは俺たちが通う、私立シュバインイヤハ高校の学年色だ。現在、1年青、俺たち2年赤、3年の緑が学年色である。
そして、このラインこそが、生徒会を悩ませている『制服廃止運動』の起因でもある。この制服は何処へ行っても、よく目立つのである。その結果、良くも悪くも、生徒一人一人が学校の広告塔のようになっている。
残念ながらこの高校は、すべての能力において、生徒から生徒でピンキリであり、
優秀組は『こんな奴らと同じにするな(俺の偏見)』、
普通組は『優秀と見られて苦労する(同)』、
といったふうに誇張さえしているが、制服の廃止には、
『学校の名に気負いしなくていい』
『優秀な人のおこぼれをもらえる』
という、いかにも社会に素早く適応できそうな意見を持つ人を除いて、おおむね【賛成】している)
先ほど俺が、男子学生と呼んだ彼の名は副部長の北海竜太。副部長は、俺と同じクラス2-3の生徒である。
だが、ここ以外で特に交流はない。副部長との関係はわずかこの部屋でだけの関係。うん。言いたいことはわかる。
“ただのお仕事的な関係”ということだ。
俺も金持ちと友達であるという利点は身に染みるほどわかっている。
俺の通うシュバ高(正式名称が長いので公式な場以外ではこの名前を使っている)は、入学者の多くが特殊な推薦を勝ち抜いている。
その才能発見型の推薦に合格するには、それこそ特殊中の特殊な分野でありながら、その分野の中で第一線の教師の下で才能を極めなくてはならない。
それができる人物の親は、100%ではないにしろ、ほとんど裕福ですよね......
そんな人たちが一般組と同じクラスに配属されたら、人生バラ色なカリスマ集団と苦境しかない非カリスマ集団が、一つのクラスに混在することになる。そうすると何が起こるか。
石を不動の岩に投げつけるとどうなるか。
岩は、多少ひびが入る程度で大きな被害はないが、石はもう、粉々に砕け散る。
砕け散った石は、単一の石として見ることがあろうか。その石はもはや背景でしかない。その岩の芸術的価値を高める、添え物でしかない。その程度なのだ、カリスマのない人間は。
もう誰にも認識されることがないのだ。矜持を持てなくなった人間に、人権が残っているだろうか。この高校では、この二極化が激しい。
そしてこの俺は、一般組。非カリスマである。ただし、運悪く遠くまで飛び散った破片である。
カリスマの下でカリスマを高めている者と違い、カリスマとは距離ができている。そうすると、人であるかどうかさえ怪しくなっていく。
俺は空気に近いそんな錯覚に陥る。そしていつも思うのだ。カリスマと組することができれば、自分は人間のままでいられるのではないかと。
そう思うのだが、いざ行動することになると、地団太を踏んでしまう。果たしてそれは、人生の目標である、自由で開放された生き方とかけ離れているのではないか。カリスマたちのために自由な時間が削れ、そして、こうして喪失した時間が戻ってくることは無いのではないのかと。
そう思うと、ただ一つの結論に毎度帰着する。
【もう、一人で生きたほうが楽じゃね……と】
さらに、副部長はカリスマの中でも格が違う。
何せ副部長はクラスでは頼れる紳士みたいな感じで、みんなから慕われている。俺がまず話しかけるには、慕っている取り巻きの目を掻い潜らなくてはならず、話しかけられたとしても、すぐに話を切られる。
そんな気がするのだ。ただ、まだ一度も、クラスで話しかけたことはない。
ただ根拠がある。
ーー2-3教室/某日 AM10:00ーー
前に運動苦手仲間の()のぶと つねあき信太 恒昭を副部長のもとへ派遣した。(ああ、ちなみに俺の運動神経は下の下。さらに、運動に苦手意識のある恒昭に、身長を除いて勝てるものはない)
言葉にはしなかったが、俺は恒昭を代わりに派遣した。俺も用事があり、副部長を頼ろうとしたのだ。しかしそこでちょうど良く恒昭が、俺に話を振ってきたのだ。
「津川、宿題の最後解けた? これ、今日の放課後までの」
「うん。無理だ。勉強できる奴に聞け。俺は、このまま白紙で出そうとしてるからな」
「……こうしてまた、津川は通知表で2を取るのであった(ナレーター風)」
「お願いだから前期のことを掘り返さないでくれ。本当に。本当に……」
この学校のレベルは、一般入試組には、そこまで高くないことで知られていた。ただ、それは推薦組の悪評が積み重なったのが原因であり、実際の教育レベルは同レベルの学校より、格段に高い。
最高学府の問題を、多少かみ砕いてあるとしても、才のない一般組に解けるわけもない。
そして、そのまま最終問題を白紙で出し続けた結果、オール2というある意味快挙のような成績をたたき出した。
今回もその内容が、俺がやはり解けない箇所であり、白紙を出し続けるわけにもいかず、まさしく副部長に聞きに行きたいと思っていたところだった。
不確かな解説をするわけにもいかず、頭がいいと“盗み聞き“して知っていて、うちの副部長に聞いたらどうだ、と。
この問題の解説を副部長から聞き出す。そしてその聞き出し役を恒昭任せ、俺は副部長にクラスで話しかけることができるのかという不安が解消され、安堵した俺は答えがこれでわかると信じ込んでいたので、ノートを広げて待っていた。
だが、俺を呼ぶ声がうっすら聞こえたので、副部長の席の方へ目を向ける。
相変わらず、副部長の周りには、クラスで権力をこれでもかと、非カリスマに見せつけてくる連中の巣窟だった。ただ、一つ失念していたことに気がついた。
奴らは、ファンクラブ所属の連中であり、クラブ内では仲間を大切にし、外を排斥する。つまりは、内輪意識の高い連中の集まりであり、その中を未所属の恒昭が突破しようとするとどうなるか考える頃にはもう遅かった。
恒昭はクラブ員に捕まり、何かを耳打ちされていた。それなり副部長と席が遠いので、聞こえはしなかったが、恒昭が少し青ざめて急いでこっちに戻ってきたので、何かしらの脅しをされたようである。
ちなみにその後、俺が教科書の見様見真似で教えたのだが、意外に的を得ていたらしく、『津川、わかるなら教えてよ』と軽く怒った恒昭に謝罪の意を込めて、最高級アイス〈コンビニ内調べ〉を買ってやった。
ー戻ーオカルト研究部 部室/10月某日 PM5:00ーー
そんな彼が、妄想する暇があったら早く仕事しろと言うかのように湯気のでている湯呑を少女の座っている金属製の事務机の上に
ドンッッッッッッ
と置く。
あれほどの音が鳴ったのだ。怒りを抑える事の多い副部長が、怒りを抑え切れず、感情が表に出てきてしまっている。部長への鬱憤がどれ程なのか考えたくもない。
そして先ほど俺が少女といった彼女は部長の新井茉莉である。初めの方で俺が第三者を演じた時、部長を少女と形容したのには訳がある。背が明らかに低いのである。
「助手くんもこの部は長いんだ。この世界の真理に近づいていると思わないかね。まあ私はつい先ほどそれに到達したが。助手くん、気が緩んでるのではないかここは、時代に取り残されて打ち捨てられた数々の事実をつなぎ合わせ、この世界で起こるであろう終末から、人類を守る為に組織されたのだ。いわば、世界の命運は、我々、真理探究部にあるのだ。これからも、非日常を解明していこうではないか。さあ、手を取れ。今日のパーティーに招待しようではないか。発見の発表会を兼ねてな」
腕を部長の方へ差し出す、おそらくここで手を取れば、この後は完全にこの部はより深淵に足を踏み入れることとなるだろう。そう思えるほど、現在の部長は何かを知っている、と周囲に思わせている。目標に到達した者が、まだ、目標からほど遠い者に目標に近づくために、自分の手を取るか、取らないかを聞いているのと同意義であるであるかのように、手を取るか否かを副部長に聞いている。ここでの副部長の答えは…。
「パーティと言っても、ただのパジャマパーティでしょう。しかも学校の設備借りる役、生徒会に使用料を払う役、そして片づけは私と津川、部長料理以外何もしないじゃないですか」
「その料理に舌を打っているのは、そなたらではないか。『うまい。こんなのどうやったらつくれるんだ』だとか『おいしいですね。まさか部長にこのような特技があったとは』『うちの部に欲しいでごわす。これなら、何日合宿でも文句なしでごわす』」
「そうですが…」
この部に入って部長の言うパーティーはすでに通算8回である。流石に多すぎる。2~3週間に一回もやる意味あるのか。それでも結局は、参加することになってしまう。
俺たち男を食いつかせるエサはその料理の腕にある。これがうまいのなんの。
小合宿室にはキャンプに行くときに持っていく用の、アルミのテーブルが一つとガスコンロと狭い風呂があるのみで、ここ蓄電池があるとしても、夜中は合宿館を除く、すべての電気が落とされるため、トイレに行くには、合宿館までいかなくてはならない。
はっきり言ってつらい。しかし、それと天秤にかけても、部長の料理はうまいのだ。これが女に胃をつかまれるという事なのかと初めて知ることとなった。俺、彼女いないのに。
部長の話の最後のは相撲部の人である。彼は、合宿で外を走っていた時、部長の料理につられ、そのままの流れで餌付けされてしまい、パーティーがあると聞きつけると、料理をもらい、その代わりとして、皿洗い、合宿館まで食器を戻すことをかって出ている。 ありがたいこと、このうえない。何も用事がなければ、彼の大会を応援しに行こうと思う。
「もうその話はいいです。それより、修学旅行から帰ってきたら、文化部活動報告会じゃないですか。本当にこのまま発表するつもりですか」
この部室には文化部活動報告会用に作成したポスターが数枚部室の黒板に張られていて
「人間惑星の騎士団説」
「幽霊スポットから安全に生還する方法」
まだ完成はしていないが「幽霊体験談」
の三枚が掲示されていた。
部長のポスターは、論の骨組みはあるが、参考文献のようなものは少なく、ただ部長の頭の中をポスターに書き表したものであると誤解されても文句が言えないものだった。(まあおそらく、そうであろうが)
副部長のものはコピペで埋め尽くされて、一見真面目でも検索をかければすぐに気づかれるだろう。
俺のは家で撮影した心霊写真一枚でどうにかポスターの形にしようとして自分の日記風創作文を張り付けたものだ。
他の部活では、パフォーマンスを交えたものや、単純に成果を発表したりする。部活によって様々だ。ただ、生徒の目を引けない発表をした部活は、問答無用で部費の減額を食らう。今でさえ雀の涙なのだ。これ以上減額されたら、施設代で赤字になり、部費を徴収しなくてはならない。それだけは何としても避けたい。
「はぁ。この部〔オカルト研究部〕の活動を生徒会に認めてもらうために週何で生徒会の補助に行ってると思ってるんですか。週3ですよ。週3。僕の身にもなってほしいですね。今部長の座ってる机、40,000円と聞いたときはホントに部を辞めたくなりましたよ」
「その件では苦労をかけたな。褒美をやろう。何でもよい。好きに申せ」
「(^^)反省する気はないと?そう言っているのですか」
「ごめんなさい。まさか差し引き5万円までしか活動資金が出ないとは思わなくて」
部長は初めにあった、希望を進む研究者のような堂々とした雰囲気はどこに行ったのやら、副部長の静かな笑みの前では無力のようだ。
何で俺はこの部の助っ人やってるんだ。俺だって部活やりたいんだぞーと心の中で思うが、おそらく運動部に戻っても居場所がないことは明白だった。俺津川 悠は現在高2の運動部員だ。まあ、だったが正しいというのが適切かもしれない。
ーーオカルト研究部 部室/7月某日 PM5:00ーー
遡ること3か月、一枚の心霊写真を偶然家で撮った。偶然、心霊動画を一人で見ていた時、なんとなく、パシャリ。箱の隙間からひょこっと日本人形風の女の子の顔が俺の事を睨んでいた。
その写真を隣席になっていた仲間の信太にその写真について相談しているとき、部長に会話の間に入ってきた。『おいこれはまさか本物か。ならばお前のような逸材放ってはおけん。うちの部にこい。書記という特別待遇も用意してやる。どうだ不満か』、6月の当時は席は、俺前、部長後ろ、とかなり近くはあった。
それ以前は話すことは一度もなく、同じ教室でほぼ他人として生活していただけの関係だった。初めはクラスの中で美少女な方である部長の正直意外な口調には驚かされたりもしたが、女性経験なんてものは、母ちゃん以外には只の一回もあったわけではなく、天は俺に味方したァァとか心の中で叫ぶような勘違いして、ウキウキになってしまった俺は部長に先導されるまま部長に案内され部室に入った。
すると、すでに計画がされていたのであろう。どうやら俺のいないところで、もうすでに部活の2年リーダーであり部長と同じようにクラスメイトの安彦竜星と副部長の話し合いが終了しており、俺を無期限貸し出し(運動部追い出し)が決定していた。
リーダーからは『津川まじめな話だ。面と面を向かって言うのは酷なことだろうと思って、お前のいないところで話を進めたんだが、見ちゃったならしかない。正直に言おう。これは部内でもう決定していた。
部内でも『退部させようぜ』。とか過激な奴らもいてさ。これでも俺頑張ったんだぜ。部内のイジメは問題になるって。でも俺も正直抑えるのに疲れた。籍だけを置いといてやるからこの部で存分に手腕を発揮してくれよ』
「ただ、良かった。もうここの部長とある程度は打ち解けたようで」
「いやまだ、テニスを…
「私も歓迎します。まさか、身分にある程度の反発心を持っている方だとは。あの方々は……、少し私を持ち上げすぎですからね」
「まって、俺はまだ
「さっ、研究に取り掛かれ我が民たちよ。我は成果を望む。新人津川には我直々に職務を与えてやろう。それでは我が民たちよ。さあ、取り掛かれ!」
と会計書類とか、箒とか、模造紙とか。
そのある意味の戦力外通告から俺のオカルト研究部での生活が始まった。ただ蓋を開けてみれば、ただのポンコツ部長(料理を除く)とその部長に振り回されている副部長との二人の部活だった。
ー戻ーオカルト研究部 部室/10月某日 PM5:00ーー
「それでどうして俺の後ろに隠れているんだ部長さん」
「(津川君の後ろにいれば助手も怒れないと思って。唯一この部で成果をがある人を挟んで、説教への巻き添えには、あの助手でもしない〈ドヤッ〉)」
部長が副部長に聞かれないよう小さな声で言った。クラス以外で部長が通常語に戻っている時は、何かからの逃避である。今回は副部長からの逃避。俺はこの部長のモードを退化モードと呼んでいる。
いつもは、偉そうにしている部長だが、そんなに精神的に強くないのか、すぐに感情的に不安定になる。すると防衛本能なのか、身長相応の行動をするようになる。このモードの部長が、俺のもとへ駆け込んでくることは少なくない。
このモードの時の部長に『なんで俺のもとに来るのか』と聞いた時、
「津川は怒らないし、私を守ってくれるから」
と返答。少し、聞いた自分を恨む。そんなこと言われたら、少し意識してしまうではないか。
ちなみにと期待を込めて、どれくらい優しいかと聞いたら『近所のお年玉たくさんくれる田中おじさん』と返答。部長の人の判断基準を垣間見た気がする。財布の紐を絞らなくては。俺のなけなしの5人の野口さんが危ない。
「たしかにそれは名案ですね。さすがの僕でも津川クンを挟んで怒ることはできない」
その声もまた俺の後ろから聞こえ、それは部長が副部長に背後を取られることを意味した。
「でしょ。私頭いい」
「ですが後ろからなら関係ないですよね」
「(ひえっ)」
短い悲鳴が聞こえた後、副部長のお怒りタイムが始まった。これでこの二人のやり取り通算50回目ほど。部長は部活モードの似非王族口調でごまかそうとしているのかは俺には分からないが、結局のところ、何処か抜けている。
うちの学校では夏と冬休みに生徒会が予算審査を行い、半期予算を各部に割り当てるのだが、その前日会計書類をまとめ、部長に報告として原本をそのまま渡していた。翌日審査団に書類の提出を求められたが、部長が鞄の中を多少時間をかけて探し、彼らの机に意気揚々と紙を提出した。
【今日の@@商店のお買い得はこちら 9月29日】
事もあろうに、近場の商店街の売り込みチラシを出したのである。笑いを堪える審査団一同と2人。その時はUSB他の用事で持ち歩いていたため事なきを得たが、さすがに審査団の印象に残ったのか、しばらくその話は学校中を流れ、恥ずかしそうにしながら部室に急いで駆け込んでいたのも記憶に新しい。その後土日含めた3日間退化モードが継続したらしい。新井の親さんゴメン。
そういえばこんな事もあった。これはここで俺が活動し始めて、それほど経っていない時のことだ。俺が部長を少女と形容した理由を象徴しているような話だ。
ーーオカルト研究部 部室/5月某日 放課後ーー
彼女は自転車通学なのだが、新人のお巡りさんに『ヘルメットを通学時につけなさい』と、叱られたことがあり、その後近隣の中学校に連絡されてしまうという珍事が発生した。その後、事実を知ったお巡りさんが交番の所長と一緒に菓子折りを持って、謝りに来たが、なんとあろうことか部室にまで来たのである。
部長は俺たち2人思っている以上に身長を気にしていたらしく、お巡りさんたちが帰るまではどうにか表情を変えずに乗り切ったが、帰った後は、しばらく部室のクッションに顔を埋めていた。(もちろんのその近くで、いいものが見れたと、副部長と2人でお茶をすすってほのぼのとしていた)
クッションに顔を埋めている。その様子は、まるで親戚を預かっているようだ、と副部長と笑いあった。
その後、諸々の活動を粗方終わらせていると部活動終了時刻になり、部長に『そろそろ学校閉まるから、出る準備を……ん?』
『(ゥ~スピー)』
部長はあのまま眠りの世界に誘われたようだった。部長から寝息が聞こえてしまい、そこに副部長もやってきて、ほのぼのする会第二会が始まってしまった。
下校時刻も完全に過ぎてしまい、当番の先生が見回りに来て、俺たちを部室から追い出す……かと思いきや,その回にさらっと途中参加。
先生のこの行動がさらに事態を悪化させる。
あまりにも帰りの遅ければ、探しに来る人が来るのは想像できる。その人がまた参加してしまったら……
次々に集まる先生方。特に教頭などの爺さん先生の孫自慢に始まり、二人のみであったほのぼのが先生方にも伝染していった。
部長は、俺たちが談笑しているせいで、目が覚めてしまった。その時に目に入るのは、部長を温かい目で見守る先生方。全ては状況が説明していた。
部長は、視覚で和やかな雰囲気が部長を中心に広がっていることを認識すると、
「みんなぁ、どうして私のねむねむをみてるの。みんな……、みんな……、“見ないでェー!”」
そう顔を隠しながら大声をあげると、すぐに部室から飛び出してしまったので、俺は部長の荷物を持って、家にまで持っていった。
ー戻ーオカルト研究部 部室/10月某日 PM5:00ーー
しかしこのやり取りの中いつも俺が置いてきぼりになる。俺には、彼らとの接点が明らかに少ない。俺にはこの反省会に口出しすることが出来ないのだ。だから、この時の二人を見て、俺はこう思う。
俺、必要ないんじゃね。
と。この部に貸し出されてから3か月、新人なのには変わりない。だが、この副部長が部長を正座させるこの構図を何回も見ていると、この二人は、二人がいてこそ、それぞれが一個人として完成されているような気がする。気がするだけだ。だが、ボッチ生活で培った感はそう俺に告げる。
『俺とこの2人には大きな接点はないようだ。ただの2人の世界に必要のない面倒事を雑用係として処理をしているだけである』と。
「何を悩んでいるのだ。少年よ」
部長が俺の様子に気が付いたらしく、部活モードに戻る。
「まだ、説教は終わっていませんよ」
「では、悩んでいる者を無視していいのか」
「なら早く成果を出してください。それとも今すぐ出せるのですか。新井部長は覚えているでしょう。去年の文化祭の二の舞でもするつもりですか……。はぁ。どうして仕事を片付けられないのでしょうか」
手を組みながら、厳しい視線を部長に向けている。
「うう…。助けてよ、津川えもぉん」
そしてすぐ戻る。どんだけ切り替えが早いんだ?僅か1分以下でモードの切り替えをしていた。
部長は子供のころ小豆えもんを見て育ったらしく、よくその主人公に成り切る。退化部長によると、アニメでは、主人公が泣きつけば解決する。ならば俺に泣きつけば何でも解決してくれるのではないか。という事だ。随分と他人任せなこった。
「なんで、俺の悩んでいると勘違いして、そして、助けを求めるとは、どういうこっちゃ」
間違ってはいないのだが。でも、部を抜けたほうがいいかな。とか部長を前にして言えるわけないだろう。
「何かないの、例えば津川君の家の心霊調査とか、ネッシーを見に行くとか」
「前者は、母さんが禁止してるから無し、後者はネス湖に行くのに金が払えないから無し」
「じゃあ何か、文化部発表会でみんなを『あっ』と思わせるだけでいいから」
それがないから、現在副部長が交渉役、俺が書類の詳細の作成、男どもが頑張っているわけだが。
「少しは部長も、俺たちの仕事を手伝ってくれよ。凝り固まった男の頭じゃ、何も思いつくわけない、こういうのって女性の方が適任だろ」
俺には前提の知識がない。オカルトなんてものは、この部にやってきて初めて接点を持った分野だった。俺の頭からオカルトらしいアイデアなど出てくるわけがない。
「そうです。少しは新井部長も手伝ってください」
「う~ん。う~ん。はっッッ」
「おっ。何か思いついたか」
「うん。スイーツ食べたかったんだった」
がくっと、なぜこの話題でスイーツが出てくるのか理解ができないと、男ども。さすがの部長の行動を理解している男どもでも、突発的なスイーツ発言には拍子抜けするしかない。ただ、副部長が機転を利かせた提案をする。
「なら、逆で考えてみたらしてみたらどうです。例えば、発表会が成功して皆さんから賞賛されたとします」
「みんなに褒められたら、(北海……それだけで…。…する)えへへ」
この部長の俺にしがみ付いている時に小声で言った一言が、部長と副部長の関係を完全に悟らせた。めったに助手以外で副部長の名前を呼ばない部長が北海と呼んだ。これだけで、感情の動揺により部長の口から不意にも漏れだした言葉を、ボッチの感がすべてを埋め合わせてしまう。
脳内【北海さんに褒められて、それだけで少しいい雰囲気になって。みんなの目の前で告白する】変換
そう本当に俺は一般人だったのである。
俺は、二人の衝突の緩衝材を役割に持つNPCであったのだ。俺はラブコメ主人公の様に、難聴だとか、察しが悪いわけでもない。
ましてや、我ボッチなり。
クラスの中で生き残るためには人の“感情を察する技術”が必修科目。相手の感情が、変化の起伏の大きい山のように乱れていれば、その浮き沈みくらいは手に取るように理解できる。ただ部長のこの純粋な感情はあからさますぎて、基本中の基本で行けるくらいだった。
部長の少し桜色に染まった頬。顔の向きこそ俺の方を向いているが、副部長に向いた熱い視線。
俺にその部長のしぐさが副部長に認めてもらう為に呼ばれただけの存在であることを嫌でも分からせられた。
やはり、俺はこの二人の世界にはNPCとしてしか存在しないらしい。そう、悪く言うと俺は、彼らの恋に利用されていたのである。
そして、そのような悪感情が、心を締め付けるくらいにはこの部を気に入っていた。小中と根暗に生活していた俺にとって、集団の中で笑いあうという経験は、このオカルト研究部が初めてだった。
この経験の貴重さが分かるからこそ、この生活が卒業式まででいいから、ずっと続けばいいなと思っていた。
ただ、THE青春というものには、“全員が幸せな卒業式”がゴールというものは限りなく少ない。話がぺらっぺらで、その物語が日の目を見るためには、相当卓越した手腕を持つ作者が執筆する必要がある。
そこで比較的凡人は、話を華やかにする“恋愛”という、必須エピソードを付け加える。これはすべての登場人物がニコニコハッピーエンドとなることはまずありえない。誰かが、負けを認め奪い合いの舞台から降壇してこそ生まれるハッピーエンドだ。悪役でも、影薄民でも、誰かは陰で涙を流しているはずだ。
初の女性経験はそもそも卓上に上がることなく、微なる期待は期待のままこの世界から確率0をおれにたたきつけた。
影薄民には、手の届くことのない世界を高望んでいた。卒業式にさらっと行くという消極的な考え方も自分が影薄民から抜け出すことができなった要因の一つであろう。少しは、天涯孤独の可能性を縮められるかなと思っていた。
しかし、利用されていたとしても、初めての女性で笑いあうような会話相手となった部長に冷たくしようとは思えない。俺はこの二人との出会いで、生きる世界が変わったといっても良い。
同級生とのパーティーなんて、この二人がいなけりゃ、生涯参加することはなかったかもしれない。これでも、俺の意味のない白色の青春は、ライトブル-の点しか打たれないとしても、意味のない白色よりは、相当充実している。
それに彼ら二人の青春も俺の絵の具が塗られるだろう。俺に生きた証が彼らの結婚であり、それは彼らの子孫に僅かでも受け継がれる。素晴らしいことじゃないか。
俺の心の傷からあふれ出した、水色。
これは、彼らを俺の手で祝福する為の代償。
そして彼らの生きる道の正しい道を示す看板に使う、幸せへの道を示すための→のもと。
あふれ出しただけでは、地面に垂れ流すだけでは、誰の役に立つこともない。
ならせめてこの水色は、彼らの為に使いたい。
この一点のライトブルーを塗ってくれたお礼に。
せめて二人を結んでから、この部を出ようと思う。その時には俺という2人の間の緩衝材も必要はなくなるだろから。俺はこれ以上この二人の楽園にいてはならない。そんな気がする。
そうと決まったら、善は急げと言うし行動を開始する。これは、俺には部活動がどのようなものであろうと、適性がなかったと自分自身で認めるようかもしれない。
テニス部もそうだった。自分をがむしゃらに信じ続け、すべてが妥協と妥協の隙間で安定すると考えていた。しかし、実際は自分が妥協を超えたものに欲を出し、結果のけ者となってしまった。
自分に妥協するといったことが苦手なのかもしれない。自分はある程度の段階には確実に行けるであろうと信じていた。しかし、多少前よりもできることが増えれば、またその上に目標を作る。このころには、初めのゴールをすでに通り過ぎたかのような目標を立てる。
しかしそれは、周りが見えなくなってしまうほどの努力を要求される。それは、“野心”と呼べるものだ。それが、積み重なるうちに、自分を後戻りできないほどに追い込む。それこそが、団体常連から疎まれた原因であろう。
この“野心”を抱かないように生きるには、まだ人生経験が浅すぎる。TOPの響きにあこがれてしまうのだ。
そして、オカルト研究部でも同じことだ。テニス部とは違い、そこに技術という天才に大きなアドバンテージがあるものは存在しない。ただその分だけ、人間関係が重要となってくる。そこで、“女性との関わりが少しでもできたらいいな”から始まり、“青春歩めないかな”へと要求に野心を紛れ込ませてしまった。
その結果として、長時間オカルト研究部に居座っていた。自分の目標しか見えていなかった。
ただ、部長の発言が、またテニス部でのことと同じことを繰り返す可能性があったことを自分に自覚させた。
テニス部との関係は、追い出しが決定するほど冷え切っていた。人としての信用も失っていた。
会計の勉強をするときに、初心者には1週間もかかるような難題を押し付けられた。しかしそれは信用の埋め合わせであり、それをしないと会計を教える気にもなれなかったのであろう。
オカルト研究部とギクシャクしたくはない。それならば、野心駄々洩れの目標を取り下げ、彼らの目標が達成されるような目標へと軌道修正すればいい。
ならば俺は何か二人の仲を進展させるため、助言をしたいところだが、今一度いうがオカルト方面には全くと言っていいほど特別な知識はなく、俺の追い出し決定後から現在に至るまで、部の為に自分で行動したことといえば、部活では暇そうにしている元の運動部の会計に勉強を頼み込み、運動部の会計の手伝いをしながら、会計のいろはを学び、最近はポスター作製をしていたから、これといったオカルトチックなものはない。
それに女の幸せは、人生の王子様から受け取るものではないのか。最低でも、一般人の役ではないだろう。俺がやるべきことは、主役になることではない。主役の面々が主役の輪において成功するように補助し、華やかなハッピーエンドへ導くことだ。
全てはここで決めた。“この2人が相思相愛であると自覚させる”
「なにかあったの。それってなにか部活動成果を残せそうのものだったりする?」
「いや俺には何も案がない。お手上げだ」
部長の落胆した表情、これを見るのはおそらく最後であろう。しかし、この表情も副部長とのチャンスが生まれず、もしかしたらここで挽回できるかもしれないという思いを砕かれただけである。俺に向かって向けられたものではない。
俺がやるべきことは、ここで慰めることではない。そもそもの根幹を取り除くことこそが俺の役目だ。
副部長は、部長がいないときに手帳を胸ポケットから取り出していた。その手帳は、キラキラしたカリスマ組の長が持っているとは思えない、使い古されて表紙がくたっていた。しかし、そこに書かれていることをちらと見たが、オカルトに部長ほど興味のない副部長とは思えないくらい、詳しくオカルトについて書かれていて、このまま模造紙にまとめれば、部の存続くらいはできるだろうという代物であった。
しかし、それよりも目を引くのは、ところどころに赤ペンで、POINTと書かれているところだった。そこには、その場所で何を言えば部長を振り向かせることができるか、副部長なりに、考察したメモが残されていた。
副部長は、オカルトにちなんだ場所で、告白したいと思っているようだった。そこまでの、計画を重ねているというのに、そこまでの進展があったとは自分には思えない。
副部長の不器用さが出てきてしまっている。このままでは、発展することは無いであろう。それならば、俺という第三者が導いてしまえばいい。
副部長の手帳には、俺が大きく変更しなくてはならないような点は、おそらく存在しない。ただ、俺が背中を押してやればいい。
俺は副部長に運命の日を前倒しさせればいいだけだ。そうすれば、副部長の努力が、報われず終わるなんてことはない。
それと同時に俺はそれとなく部からいなくなればいい。これ以上の反感を持つ人物が増えなくて済む。それこそが、俺の望む平穏安泰な学生生活が送れるという入学当初と同じ目指したゴールに近づくのではないか。そうだよな……?
「俺がダメとなると副部長次第だな」
俺は副部長に話を振る。部長の王子様は、おそらく右ポケットに入っているその秘密兵器の内容をいつ部長に見せるかを悩んでいる。副部長はその見せれば必中ものだが、どのタイミングが効果的か、そんな、考えても時が過ぎるだけの考え事をずっとしてきたんだろう。
「残念ながら持ち合わせがありません。もし、そのようなものがあったら、部の為に、情報を交換しているでしょう。それが出来ないから、まあ、そういう事です」
どんなに隠しても、孤立した男の目は騙せない。今まさに、俺から部長を引きはがそうとして、ポケットに手を入れ、ポケットからいつでも手帳を出せるよう準備している。そこで、俺は一つの提案をした。この状況を打開する提案を。
「副部長もダメなら、ちょっとネタ、気分転換ついでに図書室に探しに行こう。三人で思いつかないなら、3人では力不足だってことじゃないか?ならいっそのこと調べてみるべきだ」
今の俺は、2人の恋を成就させる、それが、廃棄となる水色の正しい使い方だ。
今回の登場人物
新井茉莉(new!)
北海竜太(new!)
津川悠(new!)
エキストラ 苗字のみ
信太(new!) 安彦(new!) 新人警官と上司(new!) 審査団の皆様(new!) 学校の先生方(new!) 副部長ファンクラブ(new!)