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Day6:砂漠のラクダ


 今日は3人で街の中心部にあるクラン組合事務所に来ている。


 3階建てのレンガ壁が立ち並ぶこの中心部にあって、ポツンと2階建てのこの建物は異彩を放っていた。


 「儲かってなさそうだな?」


 戸外で呟いたアーム氏の率直な感想が耳に入ったという訳では無かろうが、登録に際して


求められたクエストはかなり厳し目の物だった。


 「1000万ギルにサイクロプスの棍棒ですか?」


 「そうだよ、それ位の資金力と実力がなければクランとは認められないからねえ。」


 事務長は禿げた小男だっで、高そうな服を身に着けたNPCだ。



 「両方きついけど、サイクロプスは最悪だよなあ?たしか奴ら最低でもLv60はあるぜ?」


 魚虎うおとらが嘆いた。


 「なあ、サイクロプスを倒さなくても誰かが倒した棍棒を買えば良いんじゃ無いのか?」


 そう提案したのだが、なかなかそうは問屋が卸さない。




 「ダメダメ、調べてみたけどサイクロプスの棍棒は特殊アイテムで特定のクエストでしか


ドロップしないらしい。だから持って居る人は稀みたいだね。」



 情報通のアーム氏にもお手上げの様だった。




 「じゃあさあ、助っ人呼ぶわ。ソラシドの知り合い。」


 そう言って皆を引き連れて噴水前に行くと、そこにはシックな出で立ちのマーカラが立っていた。




 目ざとく彼女を見つけたアーム氏がマーカラを見ながら彼女が手にしているのが傘で


その色が珍しいあずき色である事を指摘した。



 以前からマーカラはそういうスタイルである。




 なのでそれが如何かしたのか聞いて見るとどうやらあの傘は上級の武器で、更に色から判断する


と傘のシリーズ中でも上位系らしい。


 そんなマーカラに無造作に近づいた俺に仲間たちは慌てふためいた。


 しかし、話していた助っ人が彼女の事でしかもクエストに協力してくれると聞いて動揺は一転して


喜びに変わったようだ。




 パーティー欄にマーカラの名前が表示されると彼女は言った。


 「どうする?私一人でちゃっちゃっと倒してくる?」


 「いや、折角だからクエストの雰囲気を味わいたいんだ。我儘いう様だけど、


俺たちも連れて行ってくれないか?」


 そうお願いすると彼女は快く俺たちを連れて行ってくれた。


 ◆ ■ ◆



 「すげえ...」「すげえ...」「確かに...何回飛んでもすげえよな...」



 マーカラと数珠繋ぎに手を繋いだ3人は一瞬にしてサイクロプスが棲むという荒野にたどり着いた。



ここは通常の手段ならば馬車を借りて1週間は旅をする羽目になる僻地である。


 「あら、おあつらえ向きに小型の奴が歩いているわ。試しに三人で攻撃して見たら?」




 私は手を出さずに見ていてあげるからというので、3人は揃いの黒刀を抜いて


小型のサイクロプスに挑んでみる。


 しかし小型と言えども身の丈は2mを優に超える。


敵の前に立ってみるとその大きさにビビってしまう、まるで大人と子供である。


 当然懐に入らないと刃が届かないが、


入ってしまうと頭上から振り下ろされる棍棒を避けるが非常に難しい。




 「そうだ、イッパチ。俺がしゃがむから俺の背中に乗ってジャンプしてみろよ?」


 魚虎の発案で3人が連携して攻撃をしてみる事になった。


 まずアーム氏が近寄って注意を引く。


その間に後ろに回った二人が背中目がけて走り寄りしゃがんだ魚虎の背中を踏み台に


飛び上がった俺が振り返ったサイクロプスの大きな瞳に斬りかかった。


 バクン


 顔面の骨と肉が圧搾される凄まじい衝撃と共に俺は街の噴水から飛び出す。


 「一撃かよっ!」


 ずぶ濡れの状態で噴水の縁に腰かけると俯き、皆が帰ってくるまで何をして時間を潰そうかと思案した。


 ふと視界に誰かの足先が入り込む。


 はっと顔を上げるとそこには微笑んだマーカラが立っていた。


 「おおっ迎えに来てくれたのか?アームと魚虎は?」


 マーカラはユックリと左手を伸ばす。


 ザブッ ザブッ


 「勝てる気がしねえ!」「痛ったー!」


 噴水から飛び出して来たのはご想像通り、血まみれになった愉快な仲間達であった。


 ◆ ■ ◆



 「気が済んだかしら?」


 マーカラにそう聞かれた俺達3人は顔を見合わせる。


 皆不完全燃焼な顔つきをしていた。




 「マーカラさえ良ければもう少しだけ付き合って欲しいのだが?」


 そう申し出ると少し考えた後にOKが出た。


 「うーん、良いわ。但し...」


 但し?



 「但し、先に一つクエストを攻略してくれないかしら?


  受託レベルは20~35。


  万が一にでも貴方たちがサイクロプスを倒しちゃったら受けれなくなる可能性があるレベルよ。


  場所は西の砂漠でラクダが怪我をして困っている商人を助けるクエストなの。」




 それが次なる隠しアイテムを持つクエストなのか。


 お安い御用と引き受けるアーム氏を制止しておれはマーカラに条件を再確認した。


 「マーカラ、それは普通にクリアしても良いんだな?」


 ダメだと言われると思ったのだが、彼女はそれでも構わないと言った。一体どういう事だろう?



 話が纏まった所で一行は治療院に寄ってから西の砂漠へと移動する事となる。



 ◆ ■ ◆


 治療院は街に何件かあるが価格に大きな差異はないので一番近い所の門を叩いた。


 「ライフを治療して欲しいのだが?」


 3人とも死亡明けでライフが10%を切って真っ赤っかである。


 「お一人様100万ギルになります。」


 なんだそのボッタくりは...




 「うげえ、だから宿に止まって明日にしようって言ったんだよ。」


 アーム氏が渋い表情で言った。


 「そう言えばマーカラ、ハリーを追っ払ったら臨時ボーナスくれるんじゃ無かったけ?」


 そう吹っ掛けてみると意外な事に本当に高額な治療費を払ってくれた。



 「じゃあ飛ぶわよ...さあ着いたわ。」


 「すげえ」「凄え」「うん、すげえな。」


 「あんた達、そろそろ慣れなさい。」


 そうマーカラに諭されたがこの感動はしばらく続きそうである。




 ここでマーカラは一旦パーティーを抜けて傍観者となる。


 彼女がいるとレベル制限でクエストが受諾出来なくなるのだ。




 らくだ、らくだ、らくだ...


 広い砂漠を手分けして探していると、1匹のラクダが倒れているのを発見した。


 しかしラクダの周りには数人の人だかりが居る。


 近づいてみると数人の内3人は冒険者の様だった。


 どうやら先を越されたのである。




 大人しくここで待とうと皆で砂の上に腰かけると、冒険者達の一人が声を掛けて来た。


 「あれ?若しかして、うおとらじゃないか?剣は取り戻せたのか?」


 ぎゃっはっはっと他の二人が笑った。いけ好かない感じである。




 うおとらは恥ずかしそう俯いている。


 冒険者達が去ったあと、事情を聞いて見ると彼らは魚虎の元パーティーメンバーだったらしい。


 しかし彼らは人の好い魚虎がバンパイア姉妹に騙され剣を盗られた時に、武器を持たない魚虎を

邪魔者扱いして追放したのだという。


 その後、剣を取り戻した魚虎がレベル上げの為に例の洞窟に通っていた時に俺達が出会う。



 「何だ、頼りがいの無い仲間だな。そんな奴らとは手を切って正解だよ。」


 アーム氏の言葉に魚虎は嬉しそうに笑ったが、少しだけまだ寂しそうではあった。



 「そうだよ、それに奴らは未だクランにも加入して無いだろう?


  俺たちはじきに自分たちのクランを持つんだぜ?


  そうなったら創立メンバーである魚虎は未来の大幹部様よ。


  どうよ、すげーだろう?」




 そう言って励ますと、魚虎は随分元気を取り戻したかの様に見えた。


 でももっと元気づけてやりたい。


 その為にはこのクエストでも隠しアイテムを入手したい。


 


そして皆で手に入れた金で堂々とクランを創立するんだ。




 そう考えた俺はアーム氏にこのクエストの攻略方法を尋ねた。


 すると彼はすらすらと教えてくれる。


つまりそれが普通の攻略方法である。




 <砂漠のラクダ>


  砂漠を旅する行商人のマークはラクダが病気で倒れて身動き出来なくなってしまった。


  彼を見つけた人は彼の依頼を聞いて荷物を街の商工会議所まで届けてあげよう。




 「それで、砂漠で依頼を受けたら普通に荷物を受け取って届ければ良いらしいよ。」


 「うーん。」


 アーム氏の解説に暫し考え込んでしまった。


 隠しアイテムへの分岐点が想像できない。




 実は荷物はご禁制の物でそれを役場に届ける事に依って...違うなあ。


 大体今までのパターンからいうと通常のボスの裏にもう一段構えていたけど、


そもそも今回は戦闘イベントですらないしなあ。



 いっそ試しにマークかラクダに斬りかかってみるか?


 等と物騒な事を考えて居ると、


目の前で倒れていたラクダがすっと立ち上がりマークと一緒に歩き出した。


 「おいっ、追いかけるぞ。」


 アーム氏の号令で俺たちはラクダと商人を追う。


すると物の数分もしない内にラクダがパタリと倒れる様に横たわった。


 「大丈夫ですか?」


 「おお、冒険者殿。急に実はラクダが倒れて困っています。


  私の代わりに荷物を街まで運んで頂けませんか?」


 「良いですよ。」


 早速荷物を受け取った俺たちは、先ずは荷物の中身を検証した。




 「小麦粉?」


 荷袋の中は白い粉だった。


 早く届けてサイクロプス退治に戻ろうと急かす魚虎に俺は隠しアイテムの事を説明する。


 「もし通常ルート以外でここをクリアできれば、出て来た妙なアイテムをマーカラが1000万ギルで買い取ってくれるんだ。そうしたらギルドの設立資金が賄える。」


 正直に1億ギルと言わなかったのは余りに突拍子もない金額なので却って


信用して貰えなくなるのが怖かったからである。



 勿論それを聞いた二人は大喜びで、ぜひ通常以外のルートでクエストを完遂しようという。


しかし如何いった進め方をした物か、其処が意見の分かれ処だった。



 結局相談の結果、小麦粉の様な粉を街のポリスに持ち込むことにした。


 「済みません。人にお願いされて持ってきた粉があるんですけど、何の粉か調べて貰えませんか?」




 対応したのは目玉のぎょろりとした頭の薄いNPC。

 

 偉そうにふんぞり返りながら見下した様に言う。


 「なにい?こっちは忙しいんだ。粉なんぞ街の粉屋に行けば調べてくれるだろう?」



 なるほど、粉屋なる商売があるとは知らなかった。


 道行く人に聞きながら探してみると確かに粉屋なる店舗にたどり着く。


 隣がパン屋である所がとても分かりやすいのである。




 「すみませーん。ちょっと何の粉か調べて欲しいんですけど。」


 「いらっしゃいませ。メニューをお選び下さい。」


 「いや、買いに来たんじゃなくて...」


 「おい、イッパチ。ここに粉の鑑定ってあるぜ?」


 魚虎が言うので皆でメニューを覗き込むと、


確かに其処には『粉の鑑定…100ギル』と書いて有った。


 へえ~他にも粉なんて鑑定して欲しい奴が世の中には居るんだ?


と思ったが、直ぐにしまったと舌打ちしていまう。




 「鑑定で分かるなら、ソラシドに鑑定して貰えば良かったっ!」


 「そう言えば、彼女見てないけど元気?」


 二人はマーカラ=ソラシドだと未だ知らない。


 「アイツは殺しても死なないよ。


  まあ、居ない人の事言っても仕方が無いから100ギル払うよ。」



 そう言ってNPCに100ギル払うと直ぐに粉の判定結果が表示された。


 『極上の砂糖』


 …益々ゴールが見えなくなってきた。



 困った挙句に訪れたのは露天商の武器商人の所だった。


 「なあ、おっさん。極上の砂糖とかって聞いた事ある?」


 しかし彼は武器屋だ。



 「うーん、すまんがうちは食品関係は取り扱っていないだ。


  粉もんだったら粉屋か街はずれの食料品専門でやっている露店に聞いて見た方がいい。」




 という事で俺たちは食品専門でやっているという露店の所までやってきた。


 露店主の名前はノワール。


顔をすっぽりベールで覆った褐色の肌を持つ女性NPCである。


 彼女に荷物を見せるととても興奮して様子になった。


 「お願い、教えて!これを何処で手に入れたの?」


 とある商人からだと説明すると如何しても合わせて欲しいという。


 相談した結果、荷物を商工会議所に届けた後に案内するという事で結論づいた。


荷物を届けたので最悪このルートがハズレであってもサイクロプス退治には戻れる予定だった。



 そしてここにきて待たせたままのマーカラの事を思い出し背筋に悪寒が走る。


 「やべっアイツの事忘れてた。」


 しかし連絡の取りようが無い。




 「クラン内なら伝書鳩っていうのが使えるみたいだぜ。」


 というアーム氏の情報も今は有効に生かす事が出来なかった。


 ダメもとで噴水に戻ってみるとそこにはソラシドの姿があるではないか。


 やはり察しの好い彼女は困った時に俺がここに来ることを予見していたのだ。




 ソラシドをPTに加えた俺たちは馬車を借りて粉物の露天商を乗せると砂漠へ向かう。


 しかし其処には今までなかった巨大なすり鉢状の砂穴があり、ラクダとマークが今正にそのすり鉢のそこへ引きずり込まれようとしている最中だった。


 「ソラシドっ!」

 

 「うん、皆であの中心に潜んでいるモンスターを倒すわよっ!」


 「うおおおー!いっせんまんー!」


 魚虎の雄たけびにソラシドがきょとんとした顔をしたが詳しく説明している暇は無かった。




 さりとて自分だけ「一億ギルー!」と叫ぶわけにもいかなかったので魚虎に呼応するかのように


一千万の掛け声と共に砂穴に飛び込んで行った。


 しかし砂穴に飛び込んだ瞬間から体がずぶずぶと沈み始まる。




 この調子では底にたどり着く前に頭の先まで砂に埋もれてしまうだろう。


 「皆さん!これを使って下さい!」


 そう叫んで大きな空ダルを投げ込んでくれたのは誰有ろう、粉物露店商の彼女だった。


 それを見たソラシドも一緒に成って馬車の屋根に積んでいた空樽をドンドン砂穴に放り込んでくれた。


 空樽に掴まった俺たちは穴の底近くで一斉に黒刀を抜くと刀を構えて次々に砂穴の中心に飛び込む。



 すると、砂の中で何かに刺さる手ごたえがあり、「きゅおおおーん。」という甲高い叫び声と共に


俺達三人は砂の中から弾き飛ばされると宙に舞った。



 砂漠に投げ出された俺たちは直ぐに剣を拾うと砂穴に戻ろうとした。


 しかしその時には既に砂穴は無く、マークと横たわったラクダの隣には駆け寄った露天商の女性


が寄り添い、彼らの前には白銀の宝箱が一つ燦然と輝いていた。




 あれで倒したのか?手ごたえが無さ過ぎだ。だが現に宝箱は出現した。



 そう思った瞬間例の耳慣れた『シャリーン』という音が何回か鳴り響いく。


レベルアップしたのだ。



 そして代表としてアーム氏が宝箱に手を掛けると中からは刺繍に使うフープが出て来た。


既に白い布がセットされている。




 「これで正解なのか?」


 ソラシドに問いかけたが既に彼女は居なかった。



 代わりにいつの間にかそばに寄って来たのはマーカラ。


彼女がアームに取引を持ち掛けるとその金額を見たアームが絶句した。


 「マーカラさん、ゼロが一つ多いですよ?」


 「あら、イッパチがそう言ったの?なら訂正しようかしら?」

 

 「アーム!承認を押すんだ。今すぐ!」




 間一髪取引は成立し、無事チームは大金を手に入れる事が出来た。


 「じゃあ、明日はもう一度サイクロプスね。」


 明日の朝、もう一度噴水前で集合する約束でその日はお開きとなった。



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