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Day5:バンパイアクエスト 後半

 

 斬!


 剣撃はジュニアマンティスの鎌をあっさり二等分する。


 「いやあ、やっぱり黒鋼は最高の素材だね~」


 今は自我自賛しながら洞窟を攻略中である。



 途中マンティスジュニアに手こずる何人もの冒険者をごぼう抜きにしながら奥を目指した。


 確か突き当りに隠し部屋がある筈である。


 代り映えのしないレイアウトも初心者が多いこのLv帯では攻略の難易度設定的にしかたが無いと


納得しながら突き当りまで来ると頬を膨らませたソラシドが座っていた。



 「よう、やっと見つけたぞ。」


 「もう!遅いじゃない、ずっと待ってたのよ?


  前は簡単にドアが開いたのに、今度はイベントを発動させた貴方じゃ無きゃ無理みたい。」


 「そうか、じゃあ任せて於け。」



 古めかしい鉄の扉に手を掛けると力を込める前にそれはユックリと静かに奥に向かって開いていく。


 「よう、クレア。姉さんは如何した?」


 部屋の中央で黒い棺桶の上に覆いかぶさる様に座ったクレアが顔を上げると、真っ黒な眼をした


バンパイアは血の涙を流して怒りながら泣いていた。




 「フレアは殺されたわ」


 もう一度ゆっくりと尋ねた。


 「誰に殺された?仇を取ってやる。」



 シャーっと、顎まで裂けた口でフレアは叫ぶ。


 「仇打ち?!出来る物ならやって見なさい!彼ならこの壁の向こうにいるわ。」


 「隠し扉か...しかし如何やって開ける...」


 のだ?と最後まで言い切る前に隠し扉が独りでに開き始めた。


 急いで剣を構えると、そこからノッシノッシと出て来たのは青い体に尻尾を生やした悪魔で


あった。とても変わった顔の形をしている。


 ガキンッ


 自慢の黒鋼から火花が散った。


 突如目の前に現れた黒い刀と火花に驚いたクレアがへたりと腰を地面に付ける。


 「何クレアまで殺そうとしてるんだ、このカマボコ野郎!」



 頭部が銀杏切りの紅白カマボコそっくりな奇妙な形をしたその悪魔は突如問答無用でクレアに襲い


掛かったのだ。


 「貴方止めて!私よ、クレアよっ!分からないの?」


 クレアの叫びも悪魔の耳には届かない。



 彼女を背にかばいながら悪魔の攻撃を受け続けるが、ガードするのが精いっぱいで反撃の機会が


見いだせなかった。


 それはソラシドの目にも力の差が歴然と見えたのであろう。


 「イッパチ、そいつは今の私たちには倒せないわっ!直ぐにマーカラになって戻ってくるから頑張


って時間を凌いでっ!」


 入り口の扉からソラシドの声が響いたと思ったら彼女の名前がPT蘭でグレーアウトした。


今頃ロングドレスのマーカラと成ってが此方に向かっているに違いない。


 「クレア!とにかく一回逃げろ、お前がいると戦えない!」


 「止めて、その人を殺さないで!」



 無茶言うなよ...


 でも庇うって事はクレアの恋人ってこの蒲鉾悪魔で確定か?


 なんて無駄な事を考えていると「ボキッ」...攻撃を受け続けた黒鋼の剣がとうとうポッキリと折れてしまった。


 「うそっー!」


 折れた剣を片手に必死でクレアの手を引くと俺たちは部屋のドアから脱出する。



 「ぎゃおおおお」


 青い悪魔は獣の様な雄たけびを上げてドアから飛び出して来た。


 そして洞窟の外に向かって逃げようとする俺達に直ぐに追いつくと素早く先回りして道を塞ぐではないか?


 マーカラ。早く来てくれ。


 俺は折れた黒刀を仕舞うとソラシドの策略で劣化してしまった青銅の剣+1を握り直す。


 だが黒鋼をも叩き負る悪魔の攻撃にそう長く耐えれる気などしなかった。



 「おい、何だそのデカブツは?手を貸してやろうか?」


 見かねた一人の冒険者が声を掛けてくれる。


 「そんな事をしたら、お前迄死んじまうぞ?」



 「別に死亡ペナルティーなんて怖かねえよ。」


 「じゃあ頼むっ!」


 左手でペチッとそいつの手を叩くとパーティー欄に新しく「うおとら」という名前が表示された。


 魚虎...タイガーフィッシュという意味なのであろうか?



 「げっ剣が折れたああー!」


 戦いに参加した魚虎うおとらの剣はどう見てもただの鉄剣だった。


 それは、数合打ち合っただけであっさりと折れてしまう。




 「俺も加勢してやるっ!」


 「サンキュー!」


 ペチッ


 今度は「マグネットアーム」という名前が追加された。


 「げー、俺の剣もー!」


 剣を折られたアーム氏はその時の悪魔の攻撃で腕に大きな傷を負ってしまう。


 俺は、折角助太刀に入ってくれた気の良い奴らを殺させて堪るかと、ボロボロの剣で悪魔の背中に


斬りかかった。


 ズバッ!


 ん?黒鋼の剣で戦った時ですら剣が敵の体の表面で弾かれるような感触だったのに、今僅かだが


攻撃が通った気がする。


 現に悪魔は痛がる様な素振りでこちらを振り返った。


 ガン・ガン・ガン


 腕を振り回す悪魔の攻撃に今にも折れそうな青銅の剣(+1)は耐えている。


 おかしい。


 今までの事を総合するともうとっくに折れていても良いはずである。


 何かが腑に落ちない。


 つまり、もしかしてこういう事では無いだろうか?この悪魔はプラス補正の付いた武器で無いと


傷つける事が出来ないとか?


 「二人とも悪いがコイツの注意を引き付けてくれ!」


 こんな無茶な頼みにも二人の冒険者達は折れた剣を振って快く囮に成ってくれた。




 俺は地べたに座り込むクレアの元に駆け寄ると奴の弱点を教えて欲しいと懇願する。


 「フレアの仇を討ちたいだろう?」


 「...耳の後ろの穴よ...」


 蒲鉾の左右を耳だと仮定すると確かに後ろから見ると長細い穴が2か所空いている。


 「イッパチ、来たわよ。パーティーに加えて!」


 折しも疾風のようにマーカラが到着した所であった。しかし俺は彼女の申し出を断り剣を構えた。


 「マーカラ、一つだけ試させてくれ。ダメだったら直ぐお願いするから。」


 「うわあっ」「ぐおっ」


 そうこうしている内に悪魔の爪で切り裂かれた魚虎とアーム氏の名前がグレーアウトして状況は


もう予断を許さなかった。


 「これでもくらえっー!」

 

 仲間の無念を力に洞窟の壁に力いっぱい足を掛けると俺は跳躍する。


 そして、にっくき悪魔の後頭部目がけて青銅の剣+1を突き立てた。


 ◆ ■ ◆


 「ああ、私はこの人を裏切ってしまった!」


 そう言って悪魔の死体に駆け寄ったクレアは落ちていた折れた剣で首筋を斬って自害してしまった。


 すると二人の遺体は消えてそこには白銀の宝箱が出現する。




 何とも後味の悪い結末である。


 大量の経験値が振り込まれたのかさっきから『シャリーン・シャリーン』とレベルアップの音


が2回ほど聞こえたが、全く喜ぶ気分になれなかった。


 振り返るとマーカラは俺を見て頷いた。


 そして宝箱を開け俺は中から小型の糸車を発見する。




 また裁縫関係だ。


 訳が分からなかったがそれをマーカラと1億ギルで交換すると彼女は直ぐに消えて行った。


 俺は魚虎とアーム氏の折れた剣を拾い上げると戦いの余韻に浸るかのようにその場に座り続ける。


 直ぐに洞窟の奥からソラシドがやって来た。



 「まだ攻略法も分かっていない隠しクエストを立て続けにクリアする何て凄いねイッパチ。


  お陰で奴らに差を付ける事が出来たわ。」


 「次...もあるのか?」



 そう聞くとソラシドは商人の様な顔つきでニッカリと笑った。


 宿に戻ろうと急かすソラシドを宥めて俺は尚もそこに座り続けた。


 暫くすると血だらけのアーム氏と魚虎が真新しい青銅の剣を持って駆け込んで来たので状況を説明する。



 「あれを一人で倒したのか!やるな、イッパチ」


 気のいい二人は自分の事の様に喜んでくれた。俺は折れた剣を二人に返しながら礼を言う。



 「いやあ、お二方が加勢してくれたお陰です。


  お礼を言いたくて待ってました。


  それでぜひ今から街に行って代わりの剣をプレゼントさせてください。


  そうしないと俺の気持ちが収まらないので、ぜひ貰ってやってください。」



 頭を下げて頼むと最初は断っていた二人も承諾してくれたので皆で露天商の所へ飛んで


剣をプレゼントした。


 勿論自分も含めて3本黒鋼の刀を買って皆でお揃いにした。


 それから仲間外れは可哀そうだったので必要は無かったのだがソラシドにも黒鋼の小刀を


プレゼントしておいた。



 「いやあ、このレベルでこの素材を使っている人って中々居ないよね?それが4人並んで歩いてたらちょっと格好よくない?どこのチームよ?見たいな。」


 魚虎が嬉しそうに言った所でアーム氏がこう提言した。



 「じゃあ折角だからこの4人でクランを造らないか?」


 ちらり、とソラシドの方を見ると片目を瞑っていてサファイヤ色の瞳が俺の方を見ている。


 「よし、じゃあこの4人でクランを作ろう!リーダーは言い出しっぺのアーム氏!」


 「「賛成!」」

 

 こうして4人でクランを結成する事になった。


 ◆ ■ ◆


 その夜宿屋でソラシドが俺の部屋を訪ねて来た。


 「あの二人、ハリーの回し者じゃ無いわよね?」


 俺は違うと感じていた。


 「次の隠しクエストで様子を見て居れば自然と分かるんじゃないの?」


 「そうね、それにクエスト遂行には多少の人数が居た方がスムースに進めれるからね。」



 ソラシドには何故役にも立たなそうなアイテムを集めて居るのか聞いて見たかったが、


それを聞いたら拒絶される気がして怖かった。




 「なあ、クラン結成ってどうやるんだ?あれか、金を払って登録するのか?」


 するとソラシドは片目を瞑ると緑色の瞳で俺を見た。



 「そうだけど、もう一つ試練を課せられるわ。


  大体討伐系かしら。


  貴方たちだけじゃあ絶対倒せない様なすごい魔物を倒して証を持ってこいって言われるの。」




 ...だめじゃん。そりゃ。


 するとソラシドは安心しろと言ってくれた。


 明日の朝マーカラになって噴水で待っているからパーティーに加えろというのだ。


 それはズルじゃないのか?と迷っていると、他もクラン結成には大概助っ人要請していると


諭されたのでそう言う物かと納得して寝る事にした。


(続く)

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