Day4 p.m:マーカラと吸血鬼 後編
「へえ~。二人ともウイザードでクレアが回復職でフレアが攻撃職なのかあ。」
まあ、二人とも三角のとんがり帽子を被っていたので予想通りと言えばそうだった。
しかもクレアが白を基調とした服装でフレアのそれは赤色だから猶の事分かりやすい。
二人共容姿が良く似ていた。姉妹かな?
「なぜ一緒に来ようと思ったの?」
世間話に深い意味は無い。
「実はまだ魔力量に自信が無くって、もし途中で使い切っちゃったらって考えると中々奥まで
進めなくて困っていたんです。」
まあ、最初は誰でも慎重になってしまう物である。昨日の自分もそうだった。クレアの言葉に納得
した俺はコクコクと頷くばかりである。
そうこうしている内に最初の敵が現れた。こいつはでっかいタガメである。
タガメというのは淡水に生息する虫で前足がデカい。
それが地上でモンスターサイズとなって軽くメーターを越えた奴がノッシノッシと歩き迫る姿を
見て思わずブルっと体が震えた。
「先ずは俺が行って見る。二人は魔力を温存しておいてくれ。」
別に良いところ見せたかったという訳では無い。
新しい玩具を手に入れた子供の心境だったのである。
一見重そうに見える黒鋼の鋼刀は風を斬るようにタガメ型モンスターに突き刺さり、硬たそうな
外殻を易々と寸断した。これは予想以上に使いやすい刀だ。
「すごーい、イッパチ君強いねえ~」
褒められると照れ臭いがやはり嬉しい。そして誉めてくれた人の事を悪くは思えない物である。
「ねえねえ、その剣ちょっと見せてくれる?」
「いいとも、良いとも、いいトモロー」
調子に乗っているとふとソラシドが可哀そうな子を見る目で見ている事に気付いた。
そして突然クレアとフレアが俯いたまま笑い出す。
「うふふふふふ。」「うふふふふふ」
「どっどうしたの?」
心配になって二人の顔を覗き込むとその瞳はもはや人の物では無かった。
「うわあっ!」
「「この刀は貰ったわ。返して欲しければダンジョンの奥まで取りに来なさい。」」
振り返るとソラシドが抱きかかえる様にお腹を抑えて笑いを堪えていた。
このっ!こいつ最初から知っていたな?
もしかして予備の剣を勧めたのは俺が容易にハニートラップに引っかかると見越しての事か?
悔しさに塗れながらアイテムボックスから青銅の剣(+4)を取り出した。
「くそうっ!俺には未だこの剣がある。これは俺のラッキーアイテムだっ。待ってろ吸血鬼共
っ!」
そう、正体を現したクレア達の顔は青白く、瞳は真っ黒で口角を上げたその口元に光る犬歯は
伝説の吸血鬼その物であったのだ。
◆ ■ ◆
「うりゃあ!」
「どりゃあ!」
「ふりゃあっ!」
怒涛の剣裁きで立ちはざかる昆虫型モンスター共をバッサバッサと斬り裂いていく。
怒りの余り当初目論んでいた素材集めの事などスッカリ忘れていた。
倒れたモンスターの素材も取らずに放置すると駆ける様にずんずん洞窟を奥へと進んで行くが、
ガキン
暫く進むと、とうとう剣を弾かれてしまう敵が出て来た。
子供程の背丈だがマンティスの鎌は予想以上に堅い。
「イベントは日を跨いでも消えないから、今日はこの位で引き揚げましょう?」
そう言ってソラシドがノールックでナイフを2本投げるとそれはマンティスの腹と頭部に向けて
襲い掛かる。
狙われたマンティスは2本の鎌で頭部を覆ってガードしたのでナイフの1本が腹に突き刺さり
痛さの余り体を捩りながら鎌を高く上げ威嚇のポーズを取った。
ズバッ。すかさず横一線に剣を振るった。
ガードの上がった隙を逃さず腹と胸の継ぎ目を狙って振った剣は軽々と振り抜けた。
そして独特な逆三角形の顔を不思議な角度に傾けたまま、真っ二つにされたマンティスの上半身
が地面に落下した。
(続く)