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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬼の目には涙

作者: ブリキの木こり

「これで終わりだ鬼め!」と人間が言いいました。

鬼の周りには仲間の骸がいくつも倒れている。残されている鬼はたった一人だけのようです。

一瞬怯んだ隙に、人間の振った刀が鬼の首をはねました。

その首の目には涙が浮かんでいました。


遡ること20年前、鬼ヶ島という島に(ごん)という名の鬼が生まれました。権はすくすく成長して体は木々が豊かな山のように大きく、虫も殺せぬほどの優しい心の持ち主になったのです。

19歳になった権は人間と仲良くなりたいと考えました。しかし鬼族の誰もその考えには賛成しませんでした。それは鬼族が皆、人間に恐れられ嫌われているということを知っていたからです。

そもそも鬼が悪い奴らだというのは人間の勝手な決めつけでした。人間よりも体が大きく、角や牙をこしらえた顔が物々しかったために、地獄から来た恐ろしい存在であると決めつけられたのです。だからこそ優しい鬼たちは、人間を怖がらせないために鬼ヶ島から出ないようにしていました。

それを知らない権はどうしても人間と仲良くなりたかったので、他の鬼族には内緒で鬼ヶ島から出て、人間の住む村を探しに旅に出ました。


旅の途中、どんな話をしようか何をして遊ぼうかと楽しい想像を膨らませていた権は、とうとう人間の住む村を見つけました。そして突然悲鳴が聞こえてきました。声のする方へ行くと怯えた女性が腰を抜かして座り込んでいたのです。

「お、鬼。おにぃ!来ないで!」

女性は取り乱し、権は驚きと混乱でどうしていいのかわからなくなってしまいました。

叫び声を聞きつけ集まった村人は、女性と同じように権を見て怯えました。

「命だけは勘弁してくれ。」

そんな懇願する声も聞こえました。

ますますわけがわからなくなった権はこう言いました。

「怯えなくていい。頼みを聞いて欲しいんだ。」

それを聞いた村長は何が望みだと聞き返しました。

「俺はお前達と仲良くなりたい。」

村人は驚きを隠せません。人間の世界で鬼は恐ろしい存在として考えられているからです。そんな迷信が深く心に刻まれているので村人たちは誰一人として権の言うことを信じませんでした。

そこで村長は友達の印だと村の宝を権に渡してこう言いました。

「また1年後来てくれ。その時は改めて歓迎しよう。」

もちろん鬼を帰らすための嘘でした。

優しい権は村長の言うことを信じ、急に来てしまったことを詫びて今日は帰ることにしました。1年後の楽しみに思いを馳せて。


権は鬼ヶ島へ帰り、村に行って起きたことを仲間に全て話しました。しかし、他の鬼の顔は雨雲のように暗くなっていきました。人間の嘘を理解し、権の純粋な心を痛ましく思ったからです。

仲間の鬼は、傷つけないようにと本当の事を言わず、良かったねと精一杯の笑顔で喜んでみせたのでした。


半年後、村では村人達が桃太郎という名の青年に村の宝を盗んだ鬼を退治して、宝を取り戻して欲しいと頼んでいました。村人達は鬼の根も葉もない悪い噂を桃太郎に話しました。そんな噂を真に受けた桃太郎は放ってはおけないと鬼ヶ島への旅に出る決意をしました。それを村人は盛大に送り出したのでした。


桃太郎が3匹の動物を仲間にし鬼ヶ島に着いた時、何も知らない鬼達は困惑しました。自分達を怖がっている人間がなぜここに来たのかと。

話を聞きに行こうと1人の鬼が桃太郎に近づくやいなや、体が真っ二つに切られてしまいました。

そう、桃太郎は話をする気などなかったのです。村人に炊きたてられた怒りと憎しみの感情を全て刃に宿し、目の前の仇を片っ端から襲っていきます。

その頃、権は山菜狩りの帰路にいました。しばらくして、どうも集落の様子がおかしいと気づき急いで向かいます。

そして着いたそこには血を流し倒れる仲間達の姿と見慣れない人間、3匹の動物の姿がありました。

「これで終わりだ鬼め!」

「な、んで...。」

権は怒りや悲しみよりも後悔に苛まれました。仲間達が人間に会いに行くのに賛成しなかった理由を考えずに旅に出たことに。そして人間がどういう存在なのか知らなかったことに。

「人間って恐ろしい存在だったんだ。」

そう呟いた時には、桃太郎が刀を振って権の首を切ろうとしていました。権は涙が止まりませんでした。


桃太郎は鬼の気持ちや村人の嘘を知らず、英雄として崇められました。

権は人間の価値観や仲間の本当の優しさを知らず、命を失っていきました。

こうして村には平和が訪れ、人間達は幸せに暮らしたのでした。

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