煉獄の賢者 4
「『帝都大急襲』ってのは、魔王側が劣勢になった時期の超絶長かった戦いだ」
ナージャは燃えた旧住宅街にあった石の上にどっかりと座り込んだ。
俺もエレナも適当なところに腰を下ろす。
「丁度そのとき、確か……史上4番目にでかい戦いがあってな。俺ら10人と勇者はトルシンの街で総力戦をやってたんだ」
ふと空気の乱れを感じて横を見てみると、エレナの手がギュッと握られて、険しい表情をしていた。
「どうしたんだ?」
「……その戦いは、私の父さんが死んだ戦いなの」
まずいことを聞いたな。
デリカシーがなさすぎたか。
「あーっ! そっかそっか、ベルモント家が『英雄の一族』になったのはあの戦いのあとか!」
英雄の一族、とはまたすごいな。
ていうかエレナの父さんがどれほど活躍したのか知らないけど、一族に丸ごと『英雄』ってつくの変じゃないか?
「まあそう、そんな感じの戦いがあってな。俺らは油断してたんだ。そしてその戦いの最後の日だ。
敵の大将のなんとかってのが出てきた」
「ヘカトンケイルですね」
ヘカトンケイルだったのかよ。
あー、だからエレナがあんな仇打ちみたいな雰囲気だったのか。
「そうそう、そいつをぶっ殺そうとしたときだった。帝都から連絡が入ったんだ」
――帝都に大量の悪魔が召喚された。
それを聞いた十賢人と勇者は話し合ったそうだ。
「結果、勇者を残して俺らは帝都に向かった。そこで見たのは阿鼻叫喚、地獄かと思ったさ」
帝都の住民たちは抵抗できるものを残して、食われ、魂を抜かれ、壊されていたそうだ。
「帝都に召喚されたのはのちに勇者が『七つの大罪』と名付けた悪魔とその眷属だった」
ルシファー、サタン、レヴィアタン、ベルフェゴール、マモン、アスモデウス、ベルゼブブ。
………丁度7体出てきてよかったね。
下手に8体悪魔が出てきたら名前つけようもないしな。
「後で知ったんだが、それが魔王軍最強の7人だったらしくてな。正直、強敵だった。
まあ倒せないわけじゃなかったんだが……」
それぞれが強力な能力を持っていたらしい。
固有魔法のような特殊なものだったという。
「まあ【貫通】を防ぐ方法はなかったし、なんせリジェルが強かったからなぁ……」
ナージャは遠い目をする。
まったくもって理解できないがリジェルは死者なんだそうだ。
「意外な顔をしてるな。多分お前が見たのはリジェルの魔力の残滓で作られた『概念』みたいなもんだ」
概念、ねぇ……
リジェルという概念が俺を育てたってのか。
「それで終われば最大の戦いとは言えないんだが、なぜか奴らは再生したんだ。何度も、何度もな」
戦いが終わった初日の夜。
王都に再び『七つの大罪』が現れ、夜戦が開幕したそうだ。
「それが5日ほど続いた日だ。勇者が帰ってきた。
勇者は防衛を俺らに任せると、『七つの大罪』の再生の理由を探り始めた」
なんだか勇者っぽいことしてるじゃねえか。
チラッとエレナを見ると、さっきのシリアスな雰囲気は失せて、キラキラした目で話を聞いていた。
……子供か。
「そうして原因が掴めないまま、数日がたった」
その日。最悪の事態が起こった。
魔王の召喚。
「俺らは絶望したな。魔王に勝とうと思ったら、十賢人と勇者だけでは足りねえ。もっと大量の力が必要だった」
彼らが選択したのは帝都の一時放棄。
国中から最強の冒険者たちを招集し、一気攻勢に転じて撃破しようと考えたそうだ。
「当時はSSSランク冒険者は9人。SSランク冒険者が15人。Sランク冒険者が41人いたんだ」
それらのほとんどをかき集めたという。
「もちろん妨害工作は多々あったな。なんせ無限に召喚される『七つの大罪』だ。惜しみなく妨害にと仕向けてきた」
そして2ヶ月が経った頃。
「全ての準備が整った」
ゴクリ、とエレナが唾を飲んだ。
「『七つの大罪』を各個撃破しつつ、俺らは進んでいった。Sランク冒険者はピンキリだから眷属の悪魔にも殺されたりしたが、ほとんど損失なく俺らは魔王の元までたどり着いた」
そして。
ナージャは一呼吸、間を置いた。
「全滅した」




