煉獄の賢者 1
フィルターは何かを弱めるものという意味があるそうです。
肉体派賢者ってのはリジェルだけだと思ってた。
だが違うと目の前の存在が、存在で語っている。
…………賢者の方々、魔法使おうや。
たしかに炎弾は手に持ってたけどね? でもこう、俺の知ってる魔法使いとは違う気がするんだ。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ナージャ・ペネトレイトは質問をしてくる。
「なあ、ここで『巌窟の賢者』見なかった?」
「『巌窟の賢者』は既に死んだはずではないのですか?」
エレナが似合わぬ敬語で話す。
というか敬語使えたんだな。
「そうなんだけどさー、リジェルの魔力がこの辺りからビンビンに伝わってきたしー」
エレナがチラリと俺を見る。
そして腕を組んで考え始めた。
………いやもうほぼバレてますよね。
確信とはいかずとも俺だってバレてますよね!
「それにこの前、エルドの森の辺りからもリジェルのSSSランク級の魔法を感じたし」
エレナの俺を見る目が険しくなる。
これ以上は無理だよなぁ。
「あの……多分、それ、俺です」
俺は転生してきた辺りから、一切合切をエレナとナージャに向かって話し出した。
――――――――――――――――――――――――
煉獄の賢者、ナージャ・ペネトレイト。
そう名乗った女性は豪快に笑って言った。
「あっはっはっはっ! なるほどなぁ! お前がリジェルの後継者ってか!」
後継者というより弟子? うーん、いまいち自分の位置どりが分からない。
ふと横を見たら、エレナが驚きで声を出せなくなっていた。
………そういえば言ってなかったな。
どうやら唐突な煉獄の賢者の到来からの、突然の俺の賢者の弟子発言に驚き過ぎたっぽい。
まあそうだろうな。もし俺が同じ立場でも、多分そうなる。
「おい、お前。ちょっと手合わせしようぜ」
そんなエレナのことは気にもかけず、ナージャは腕試しをしようと言う。
「分かりました」
ちょうど俺も消化不良というか、あまりにもゴイルが弱過ぎて力が余ってるんだよな。
場所的にも焼け野原で何にもないし、賢者レベルと戦うには適している。
いまだに硬直しているエレナだけ、隅っこに寄せておくと準備完了だ。
「へへっ、ラッキー。んじゃ、いくぞっ!」
ナージャはトントンッ、と軽くジャンプする。
相手は賢者だ。もちろん賢者というのは魔法使いだが、リジェルは肉弾戦でも恐ろしく強かった。
つまりいきなり接近戦、という展開もあり得る。
さっきだって手に炎弾を持って、急に背後から飛びかかってきたのだ。
さて、どうくる。
「疾ッ!」
トンッ
とエレナとは正反対と言ってもいいほどの地面を蹴る音がする。
そして目の前には既にナージャがいた。
「はや………っ!」
これリジェルより速いぞ!?
俺は思い切り横に跳ぶ。
その直後、ズドンッ! という音と共に、俺のいた地面が焼け焦げて固まっていた。
「いやー、避けるかぁ! 流石だなぁ!」
余裕の表情で勝負を楽しむナージャ。
「次、いくぞっ!」
「………っ!」
先程の一撃のせいで引き締まった俺は、ナージャの拳に反応して紙一重で避けていく。
………スキあらば一撃叩き込む!
リジェルと戦っていたときもそうだった。
彼らは強者である。
俺よりも長い時を戦いの中で過ごしてきたのだ。
それをたかだか数年鍛えた程度で覆せるとは思っていない。
だが、相手の攻撃を見切って避けるだけ。
相手の隙をみて一撃を叩き込むだけ。
それだけなら、なんとかなる。
「よく避けやがるなぁ!」
ナージャが俺の顔面に拳を打ち込もうとしてくる。
それを首を傾けて間一髪で避ける。
そのまま空いた胴体に俺の拳を叩き込み、上に突き上げる。
体格差もあり、地に足の付いていなかったナージャは上空に吹っ飛んだ。
「へえ、やるねぇ……ならっ!」
ナージャは空中で体勢を変える。
そうして足を上に向けると、空気を蹴った。
「〈爆進〉」
足の裏から熱気を放ち加速する。
咄嗟にその場から離れようとするも、近距離からの落下の方が速い。
「痛っ!」
どうにか〈石膜〉で衝撃を殺したとはいえ物凄いダメージだ。
多分左腕が折れてる。
「ぐ……っ!」
やはり賢者クラスは別格だ。
俺を見て、ナージャはニヤリと笑った。
フィルターの日本語を膜にしたら、ひ弱な感じが出てしまった……




