第7話夜と朝のハイバーチューン その2
2人は、かつてホーチミンの定宿としていたエリア、レタントン通りへ。予想はされていたが、2年の月日で大きく変わっている状況を目の当たりに
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店の新陳代謝は、ベトナムだろうが日本の大阪だろうが同じようなもので、この日本人街でも以前あったお店がなくなって、代わりに別の店がオープンしているという状況に変わりは無かった。
その一方で以前からなくなることなく、存在し続けているお店があるかと思えば、前回(2年前)に、新しい店が出来ているなあと思っていたところが、早くも消滅し、別の店になっているなどのパターンもあった。
一つの例では、かつて大きなビアガーデンを想像させられる店で、全員同じ青いTシャツを着て、ビールをわんこそばのように、グラスが、空になるとすぐに新しいものを持ってきてくれたビアトゥイ(生ビール)の店
“パシフィック”。
最初の頃は大きなスペースを取っていたのに、徐々に他店が出来るにつれ、小さな規模になっていたが、この時には、ついに完全になくなり単なる工事現場になっているのを見ると、心に痛みが走るのだった。
いろいろなものが急激に変わっているレタントン通りを目の当たりにしながら、ようやく
DUDUの前に到着。
かつての管理人であった日本人のロコ氏はもうここにはおらず、中の様子を見るのも憚れた。
だが、ホテルの目の前にいつもたむろしているベトナム人の女性は健在で、料理長の顔をしっかり覚えていて、顔を見るとすぐに懐かしそうな表情で出迎え、お互いの再会を祝うのだった。
さらに、レタントン通りを前に進み、大きな通りになるとようやく日本人街が終了。
その大通りを右に曲がると、ビールの店を発見。
実は料理長が、ホテルからタクシーでオーバーランドクラブに向かう途中、見つけたお店で、ビールの醸造釜が見えるので「新しいマイクロブルワリーパブ!」と目をつけていたのだった。
迷うことなくその店に入る。
店に入ると、ベトナムらしく、一般的なイメージでのビールのお店では無い雰囲気。
店員の服装にせよ動きにせよ、ベトナムにごく一般的にありそうな中華系のレストランのようにも感じるのだった。
客は少なく、店内の真ん中で、10数名のベトナム人ファミリー一組が、にぎやかに宴会をしていた。
席に座るとそのオリジナルビールを注文する。
ノーマルなタイプのビールを飲んだが、味は普通のビールの味で、30分歩いた事もあってか、非常に美味しく感じた。
「ベトナムのマイクロブルワリーと言えばチェコビールのイメージだけど・・・」料理長がつぶやく。
そう言う疑問があるものの、普通にビールとしては美味しいので、不満も無く、今後の予定を立てながら20分ほど一息入れると、店を後にした。
帰り際に、入口の醸造タンクを見たが、作っている感じには見えず、どうやらどこかで出来上がったものを持ち込んでいるのかもしれない。
と言うことであれば、昔、街中にたくさんあった安い生ビール“ビアホイ”のイメージもしくは、先ほど跡地を見てきたパシフィックの“ビアトォイ”のようなのかもしれない。
もちろん店の人に聞いてもいないので推測の域を離れないものの、店長は一人勝手な想像を巡らせるのだった。
最後に、ホテルの上のバーで閉めようということになり、歩いて高級ホテルが立ち並ぶエリアにむかった。
シンガポールのセントラルエリアをこじんまりしたようなイメージの市民劇場を囲むように立ち並ぶ高級ホテルエリアの中で、縁のある“カラベルホテル”のバーに行く事になった。
このホテルは、かつて2人の結婚式を行った際、九州から買い付けを兼ねて式に参列された、料理長の知り合いの企業グループの会長一行が泊まったホテルであった。
会長の滞在期間中、式の後も、メコンデルタでの買い付けなどに店長と料理長も同行したが、2人の分の全ての費用をも出してもらうという御恩があった。
その会長一行が泊まったカラベルホテルで、滞在中、一度だけ階上のバーに同行して入った記憶があった。
2人は、その頃を思い出しながら、エレベーターでバーへ向かった。
店内に入ると、にぎやかに欧米人の客が騒ぎ、大音響の生演奏が行われていたが、運よくテラスの席が空いていたので、そこに座ると、音も緩く感じた。
その緩い空間に浸りながらカクテルを1杯ずつ注文するのだった。
外から見るホーチミンシティの夜景。
ちょうど高級ホテルが立ち並んでいる角度であったが、伝統的なホテルややや遠方に存在する大聖堂の威厳は変わらないものの、
その一方で、次々と新しい建物が出来上がっていく・・・・。
店長と料理長の2人は2年ぶりにベトナムのHCMに戻って来る事ができた喜びと、ベトナムと言う国の更なる成長の可能性を感じつつ、旅の最初の夜の余韻を心行くまで楽しむのだった。