第25話 本物のスコールの歓迎を受けた夜 その2
バンコク最後の夜を楽しもうとした店長と料理長であったが、その前に立ちはだかったのは、東南アジアの強力なスコールであった。
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清算を終え、次の目的地へは地下鉄に乗る必要があった。
地下鉄に乗り込み3駅で、タイランド文化センター駅に到着。
料理長の話では、ここに面白いクラブがあるので遊んで見たいという。
その場所に行く前にトイレに行きたいというので、まずは、駅の北側にあったバンコクのジャスコのトイレに行き、その後、そのクラブを目指した。
そのクラブに行く途中、生ぬるい風と大粒の雨がポツリポツリと降ってきた。
「ちょっと嫌な予感」が店長の頭によぎったが、とりあえずそのクラブに入れば問題ないと思い、そこにたどり着いたが、
入口で念密な荷物チェックを受けてしまった。
とりあえず中に入ることができたが、料理長が乗り気ではなく、引き返す事になった。
すると、雨脚がだんだん強くなってきた。
目の前のショッピングセンターで雨宿りをすると、ついに本降り、日本の爆弾低気圧といわれるものの豪雨とは桁違いの、本場タイのスコールが降り始めたのだった。
「なんとなく最低ね」料理長がつぶやくも、もはや手も足も出ない。
ここでも日本料理店があったが、閉店作業中。唯一開いているがマクドナルドと少し寂しい。
出るに出るような状態でもなかったので、しばらく待機をしていると、ビルの警備員らしき人物が「タクシー?」と声をかけてきた。
このままいても仕方が無いので、タクシーに乗り込むことにした。
ビルの入口ぎりぎりまでつけてくれたのでほとんど濡れずに乗り込むことが出来るのだった。
当初、別の店に行ってもらおうと、電話をしてもらったが出る様子が無い。もう存在しているかどうかもわからない。
その間も豪雨は、止みそうにもない、
残念ながら宿に引き返す事になった。
タクシーが動き出すと、先ほど雨宿りした建物の前に大きな看板が表示されていた。
見ると日本系の料理店や他国の料理店の看板が並んでいたが、あたかも、日本のどこかの地方のロードサイドのショッピングセンターやホームセンターのように見えて、とても海外に来ている気分には感じなかった。
豪雨の中タクシーは突き進む途中から
大きな雷が鳴り出し、異常な状態。
タクシーは水しぶきを上げ、ひた走る。
しかし、屋台は通常通り営業している。
雨期になれている彼らにはこれらの事は営業を休止するレベルではないのだろう。
2日前に行ったピンクのカオマンガイの店も、豪雨の存在が無いかのごとく、普通に営業をしている。
ただ戸惑っているのは欧米人カップル。
出るに出られずオロオロしている表情がこちらにも嫌と言うほど伝わってきた。
「この人らと比べればまだ恵まれている」そんな気すら感じるのだった。
タクシーはホテルの近くまでやってきたが、強力な雨のため視界が悪く、どこを曲がればいいのか見慣れているはずの2人もわからなくなってしまった。
少し迷ったが、ようやく宿に到着。
しかし、今頃になって空腹が襲ってきた。
「この雨の中、食べるようなところにもいけない」
失意の中、宿で食事を採ることになった。
不味いことはわかっていたが、贅沢な事もいえない。
席に座るとさらに追い討ちをかける出来事が!
大きな音と共に停電になってしまった。
どうやら雷が落ちたらしい。冷房が止まり蒸し暑い空気が流れる。唯、戸惑う2人。
だが、2人だけでは無い。戸惑ったのは他の宿泊客も同じ。
そして対応に慌てふためくホテルのスタッフ・・・・。
15分くらいで停電は終わり、
ホテルのスタッフの顔の表情も元に戻っていた。
気を取り直してパッタイを注文。
ただ高いだけのパッタイは、とても食べられる代物ではなかったが、空腹の状況だったので胃につめる事ができるのだった。
このときの店長は、比較的冷静であった。以前ならこんなトラブルが続けばイラつくはずであったが、今回なぜかそれが無い。
物事が冷静に見る事ができていた。
むしろスコールの強烈な歓迎を喜んでしまうほどであった。
海外の旅を何度も続けているので、ある程度のトラブルに慣れたのだろうか。
ようやく旅慣れたのかもしれない。
お腹を膨らませ、部屋に戻った2人。
「半日つぶれちゃったね」少し残念がる料理長であったが、すぐに気を取り直して、「明日早起きして美味しいものを食べよう」
明日は旅の最終日。
スコールによって見事に潰された半日を倍にして取り戻すべく、2人は早起きをするために、いつもより少し早い目の就寝をするのだった。