第19話 トンローとエカマイ その4
エカマイとトンローのエリアを散策した後、ホテルエリアに、いつもとなりでそびえているバイヨークスカイの展望台に向かった
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店を後にして、さらにエカマイ通りを北上する。地図で見たところ、余り北のほうには気になる店が無いので、トンロー側に行きたいと料理長が言ってきた。
幸いまもなくすると、トンロー側に抜ける道があることがわかり、そこで左に曲がった。
ただ、この時間暗闇になったので、注意しないといけないのは野犬の存在。
連中らが最も苦手とする懐中電灯(眼に向けて光を当てると相手は吼えながら怯む)
を持ってくるのを忘れてしまったので、少し気がかりであったが、この道は車の通行量も多く、店も何軒かあって明るかったので、心配は要らなかった。
やがて、トンロー側に抜けると、気になるお店が沢山存在していた。
スターバックスのような定番のものから日系のお店までその気になれば選び放題と言う面持ちであったが、先ほど食べてしまったのでその気は起きなかった。
ただ、ビールもたらふく飲んだためか、トイレが近くなってきた。
「どこかでお茶でも飲もう」と言うことになり、物色するとひときわ派手なお店が現れた。
「これは、タイの芸能人が経営している店だわ」と料理長。中はがらがらであったが、せっかくなので入って見る事にした。
その芸能人が好きだということで、店内には熊の存在が目立っていた。このあたりは前店の“BEER&BEAR”を思い起こされ、
変な親しみが湧いてくるのだった。
ドリンクはコーラなどがあって、ビールのようなアルコールは置いていなかったが、代わりに気になる麺を一つ注文。
汁は少ないものの、ルークチン(タイの肉や魚のつみれ)などが入っていて辛さも十二分。
このあたりは、“タイ”に来ているんだと実感した。
料理長と店長が交替でトイレに行き、清算し、
もう少し歩く事にした。
ある商業施設が並んでいるビルの1階に“HOUSE OF BEER”の文字が!
「ひょっとしてビールを造っている??」
と思い、中に向かったがどうやら違っていた。
造っているのではなく、ベルギーの有名なビールの樽生が飲めるという意味であった。
ステラアルトアやヒューガルデンといった馴染みのベルギービールのメニューがあったが、
それなら「特に」と言うことで、店の中に入るのをやめる事にした。
さすがに歩きつかれてしまったので、ホテルエリアに。
以前ならBTSのあるスクンビット通りに南下するところを、今回のホテルの位置関係から北上するほうが近いとわかった店長は、北行きの斜線からタクシーを広いホテルまで案内してもらった。
ホテルエリアに付くと、もう少し遊んで見ようという事で、隣のバイヨークスカイに行って見る事になった。
宿泊しているバイヨークブティックもこのバイヨークスカイと同じ系列であったが、安ホテルを改造したブティックに比べると、高く84階まであるというバイヨークスカイのほうが、遥かに存在感があった。
いつもこのホテルの1階のトンネルを抜けてホテルに戻っていたが、今回(というより唯一)このホテルのドアを開いた。
受付は、20階近くのロビー階と言うところにあって、そこで入場券を買う必要があった。ただ、入場券の中にバーのワンドリンクが付いているので、それを購入。
しかし、当初事情が飲み込めずうろうろしていると、そこに日本人の案内の人がいて丁寧に説明してもらい、全て納得することができた。
しかし、店長はそんな事よりも、「こんなところにまで日本人が働いているんだなあ」とそちらのほうに不思議な感動を感じるのだった。
エレベーターで84階へ、展望台には夜景と共に多くの観光客がいるのだった。
だが、飛行機は平気なのに高いところが苦手な料理長が、やや不満そうであった。
そういうこともあり、適当に眺めただけで、
バーに向かった。
バーは非常に暗く、その為バンコクの夜景が非常に良く見渡せるように設計されていた。
そこで、カクテルを1杯ずつ注文し、一息を付く。料理長はやはり苦手なのか窓からは離れた席に腰掛けていた。
夜景を眺めると、地平線のかなたまでネオンや電灯がついているのが見える。
「うーん、さすがは大都会!」唸る店長。
「やっぱりベトナムとは桁違いね」少し慣れてきたのかようやく落ち着いた料理長。
しばらく、夜景を楽しんでいたが、あることがきっかけで、料理長を激怒させてしまった。
それは、ステージで歌っている歌手の知り合いが来ていたらしく、
(実際にそうであったが)誰も聞いていないだろうと思って、客席の人をステージに上がらせるなど好き勝手な事をはじめたからであった。
「あんなのはプロとして最低ね!」怒る料理長を、店長はなだめながら、エレベーターで下に。
ロビー階にあるコンビニで少し買い物をすると、隣のバイヨークブティックに戻るのだった。