第12話 「暁の寺とチャイナタウンとピンクのシャツ その3」
チャオプラヤー川沿いにあるレストランに到着した2人は、料理よりも目の前に映るワットアルンの存在に感動するのだった。
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「そろそろかなあ」料理長がつぶやきながらレストラン“ザ・デッキ”を求めて路地に入るが、奥まで進んでも地元の人の住居の場所しか見つからない。
その中の一人に、そのレストランの場所を尋ねると隣の路地だと言う。
といわれたものの、果たしてこのような生活臭が漂うエリアにそのようなレストランが存在するのだろうか?
店長と料理長の2人は、やや不安な面持ちで、次の路地に入ると、”DECK”と書いてある看板を発見し、安堵の表情に変わった。
早速店内に入り、席を案内される。
まだ他のお客さんの姿はなかったが、川に近いエリアの席は、すべて予約で埋まっているらしい。
やや遠くから川の方角に目を通すとまさにワットアルンの目の前に位置し、「これは、人気があるなあ」と2人で痛感するのだった。
料理は、今タイで流行っているという「ソムオー(グレープフルーツの辛いサラダ)」と
たこを使ったやや創作系の料理を注文した。
店長が、早速とばかりにワットアルンのスケッチを開始。その間料理長は、階上にあるトイレに行ったが、戻ってくるなり「上はもっと面白い」と言い出した。
言われるままに、店長もトイレに向かうと、最上階は、バーになっていて、ワットアルンがさらに迫力あるように見える。
「よい席が空いたら後でバーに行こう」
席に戻った店長がそういうと、料理が登場した。
ソムオーのほうは、見た目は面白いものの・・・であったが、もうひとつの料理は確かにうまい。
最近店で、”たこのナンプラー炒め”と言うメニューを追加し、好評を得ているが、「落ち着いたらこの料理もメニューに加えても面白いなあ」と料理長が思わずつぶやいた。
これはあくまで研修である。
2人は常に店の繁栄のためのことを考え続けているのだった。
食事も一息がつき、他の席にもお客さんが入りだした頃、最初にトイレに行った際に見つけた、一番の特等席にいたお客様が降りてきた。
「今がチャンス」そう思った料理長は、ここでの清算を済ませ、店員に上のバーに行く旨を伝えるのだった。
階上のバーエリアには確かに特等席が空いていた。
そこに腰掛けると、早速ドリンクを注文。
瓶ながらもドイツビールがメニューに乗っていたのでそれを注文した。
席からは、先ほどまで夕暮れで柿色に染まっていたワットアルンが、ライトアップされ、また違う表情を見せていた。
ワットアルンは、調べてみると、まだ首都がバンコクの北にあるアユタヤの王朝時代から存在していて、10バーツ硬貨にも描かれるほど非常に格の高いお寺であった。
有名なのは三島由紀夫の小説”暁の寺”に由来するお寺ということで、6年前に一度見学をしたのであったが、まだ無知だったのか、それほど強い印象は受けなかった。
しかし、今回バンコクに研修に行くことが決まったので、急遽”小説・暁の寺 ”を購入し、出発の前日までかけて読み漁った。
そのことも影響したのだろう。
今回、実際にワットアルンを見たときの感動は以前とは比べ物にならないほど強く感じるのだった。
ドイツビールをちびちび飲みながら、ひたすら目の前のワットアルンを眺める。
暗がりのチャオプラヤー川には、すでに定期船は終了したものの、派手なネオンを光らせた観光船が何隻も行き来する。
砂利のようなものを積んでいる運搬船より手前(2人が見ている側)に進んでしまい、せっかくのワットアルンが見えにくくなっている船があるかと思えば、それまでと比べて、急速にスピードを落とし、船内にいる人たちに撮影しやすいように配慮している船など、対応がさまざまで、それを見るのも、観光船を出している各企業の考え方が見えて非常に面白かった。
先ほど、食事をしていたお客さんが、店長・料理長の2人と同じように、バーにやってきた。
「そろそろ次に行こう」そう思った2人は席を立ち、ゆっくり歩かないと危険な階段を下りていく。
レストランのエリアを見ると、見事に満席の状態で賑わっていた。
早い時間にこの店に来ることができたことを感謝しつつ、次に向かったのは中華街ヤワラート。
ここは、バンコクに来れば毎回といっていいほど来ていて、今回は行くべきリストから外すことも考えていたが、近くということと、やはり大好きなエリアなので、立ち寄ることにするのだった。
路線バスで移動することを考えたが、なかなかバスがやってこない。
同じようにバス停で待っているタイの人にバスの番号を聞いて、待っていたが、
その人が「向こうのほうが、バスがたくさん走っているよ」と教えてくれたので、その方向に向かった。
ところがなんとしたことか!歩いている途中で、待っていた番号のバスが過ぎ去ってしまった。
「そのままいたら乗れたのに、余計なおせっかいを!」と思いつつ、バスを使うのを断念。タクシーでヤワラートに向かった。




