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7.結婚式

ここまで読んで下さった読者様方、ありがとうございます!

それと誤字脱字報告ありがとうございます!


それから3ヶ月後、とうとう結婚式当日がやって来た。

この3ヶ月の間、ルチアがレオポルトと会う事は殆どなかった。


その代わり何度か手紙のやり取りをしていたが、彼から届く手紙は仕事の報告書のようなものだった。

仕事や結婚式の準備の進捗状況が良く分かる綺麗にまとめられた報告書。

ルチアはどう返事を書いて良いか分からず、結局報告書の感想文のような手紙を送り返してしまっていた。


期間限定の妻にここまできちんとした報告をする必要はないのではないかという内容の手紙を書こうか悩んだが、結局そのやりとりは変わらないまま、結婚式を迎える事になった。


「ルチア、とっても素敵よ」

「姉様、綺麗!」

「綺麗だなぁ」

「お母様、エリク……お父様」


控え室でドレスを着たルチアを嬉しそうに見つめるマグリットとエリク。そして今にも泣き出しそうなヴィーゴ。


着ている花嫁衣装は、本当に美しい。

淡い紫のフワリとしたスカート、裾に向かって広がるアイリスの花。髪飾りもアイリスの花束のような豪華なもので、ネックレスもルチアの瞳に合わせたような艶やかな紫色の大きな宝石がついている。


ルチアは豪華すぎて余計に緊張していた。


結婚式が行われるのは、コンスタンツィ侯爵領にある一番大きな教会だ。ルチアの家族がここに来るまでの旅費や結婚式で着る衣装も、レオポルトの好意で準備してもらった。

期間限定の妻にここまでしてくれるとは、彼はとても良い人だ。


この3ヶ月間、確かに本人同士の交流は報告書らしい手紙しか無かったが、彼がカファロ家に心を砕いてくれた事をルチアは理解していたし、大変感謝もしていた。


彼が紹介してくれた人物が、ヴィーゴと共に自領を発展させる為に色々と動いてくれている。

その試みもいずれ実を結ぶだろうと思われるほど、素晴らしい計画だった。


カファロ家の屋敷も修繕され、美しく生まれ変わりつつある。


エリクが次期当主として立派に務めることが出来るように、有名な家庭教師も紹介してくれて、その費用も負担してもらっている。


既にレオポルトに足を向けて寝ることは許されない程の援助を受けていた。


だからこそ、ルチアは期間限定の妻を頑張るつもりだ。

何が出来るのか未だ分からないが、期間限定の妻の間は、妻として立派に務めあげてみせると彼女は心に誓った。


何があってもレオポルトの味方でいよう、ルチアは彼を尊敬し始めていた。


「る、ルチアーー。辛いことがあったらいつでも帰ってくるんだよ!」


ヴィーゴが涙を流しながら、ルチアに向かって言う。


「もう……あなたったら、ほら」


すかさずマグリットがヴィーゴにハンカチを差し出した。


「お父様、大丈夫だから」

「だ、だがなぁ。い、今からでも結婚式を中止に……!」

「無理に決まってるでしょう。何言ってるの」


今更中止になど出来るわけがない。どれだけコンスタンツィ卿に世話になっていると思っているんだと、ルチアは言外に含める。


「姉様、幸せになってね。いつでも遊びに帰ってきてね」

「ありがとう、エリク。貴方も頑張るのよ?」

「うん、分かってる。父様と母様とマウロの事は、僕に任せて!」


エリクが自分の胸をポンっと叩く。

姉様姉様と後ろを追いかけてきていた小さな弟はもう立派な紳士になっている事に、彼女は少しだけ寂しい気持ちと、誇らしい気持ちになった。


「ルチア、貴女は私の娘よ。どこに行ってもそれは変わらないわ。貴女は貴女らしく頑張りなさい」

「お母様、ありがとう」


家族の優しい言葉に、ルチアは幸せを噛み締めながら結婚式に臨む。


結婚式とは教会で、神に結婚の誓いを立てることである。


教会の入り口でレオポルトと落ち合う事になっていた。招待客は既に教会の中で待っている。


「お待たせしました」


ルチアは久しぶりにレオポルトに会った。

彼も花婿らしく、グレイのタキシードを着ており、背が高く、端正な顔立ちの彼によく似合っていた。


「タキシード、お似合いですね」


そう声をかけたルチアだったが、当のレオポルトは何も答えず、ジッとこちらを無表情で見ている。


普通なら嘘でも似合っているとか言わないかと少しだけ彼女は不満に思ったが、期間限定の妻にそこまで気を使う必要はないかと思い直し気にしない事にした。


「では、入場致します」


案内係にそう言われたので、ルチアはレオポルトの腕に手を添える。すると、ハッとしたように彼も動き出した。


美しいパイプオルガンの演奏と共に、二人は入場する。沢山の招待客の拍手の音に包まれながら、ゆっくりと進んだ。


神像の前に到着し、結婚の誓いの言葉を述べる。


「私、レオポルト・コンスタンツィは、ルチア・カファロを妻として愛し、慈しむ事を誓います」

「私、ルチア・カファロは、レオポルト・コンスタンツィを夫として愛し、慈しむことを誓います」


神に嘘をついてしまっていいのだろうかとルチアは不安に思ったが、期間限定だとしても約束の時までは、妻としての務めを精一杯頑張ろうと改めて誓う。


「では、誓いの口付けを」


神父の言葉にルチアは固まった。すっかり忘れていた彼女は焦った。

だがどうする事も出来ずベールを捲られ、レオポルトと正面から対面する。

顎に手を添えられ、上を向かされた。


嘘、本当にするの!?


顔を近づけてくるレオポルトの瞳を涙目になりながらルチアは見つめる。


「すまない。一度だけ……我慢してくれ」


自分にしか聞こえないくらいの小さな声で伝えられた彼の言葉に、彼女は覚悟を決めて目を瞑った。


一瞬、唇に柔らかい感触が当たるが、ルチアはよく分からなかった。


「では、二人を夫婦と認めます」


神父の声でルチアは目を開けた。

いつの間にか口付けは終わっており、レオポルトは既にルチアから離れている。

教会内に大きな拍手が沸きおこった。


初めての口付けだったが、思っていたより何の感慨もなかった。目を瞑ってしまったのが原因かと彼女は思う。


結婚式が終わると、婚礼の宴が催された。出席者はルチアの想像を超える大人数で、食事する間も無く挨拶をし続ける事になった。


大半の招待客はレオポルトの関係者だったので、ルチアはただ彼の隣で笑顔であり続けた。

きっと明日は、顔が引きつっているだろう。


宴が終わると、とうとうルチアはコンスタンツィ家の屋敷に向かう事になる。

家族と別れの挨拶を終えた後、レオポルトとルチアは車に乗り込み屋敷へと向かった。


ルチアは初めて車に乗ったので、少しドキドキしていた。

近年開発された自動車という乗り物は、馬がいなくても移動できる優れた乗り物だ。

だが高価で維持費も高く、お金持ちしか購入できない。

移動手段として今も馬や馬車が主流であり、自動車を所有している事は、裕福さの証となっている。


「疲れたか?」


車内をキョロキョロと落ち着きなく見渡していたルチアに、レオポルトが声を掛けてくる。


「いえ、大丈夫です」

「……そうか」


そのまま黙り込むレオポルトに、ルチアは話しかけた。


「コンスタンツィ卿、色々とありがとうございます。

一度きちんと御礼を申し上げたいと思っておりました。

お陰で我が家も持ち直す希望が見えました。本当に感謝しております。

ですから……妻としてお役に立てるように頑張っていきたいと思っております。

何か私に出来ることがあれば、可能な限りお手伝いさせていただきますので、これからよろしくお願いいたします」


ルチアはレオポルトに向かって頭を下げた。だが何も返事がない為彼女は顔を上げてもう一度声を掛ける。


「あの?」

「ああ……いや。気にしなくていい」

「そうですか?」

「ああ。ところで、夫婦になったのだから、卿と呼ぶのはどうかと思うのだ。

だから、レオと呼んでくれ」

「……確かにそうですね。分かりました、ではレオ様と呼ばせて頂きます」

「ああ。私は……ルチアと呼んでも?」

「はい、もちろんです」


ルチアが答えると、レオポルトはコクリと頷いた。

彼は無表情の為、感情が読めない。


一年の間に彼の無表情以外の表情を見る事が出来るのか、それを見る事をこの一年の目標にしようかとルチアは勝手に楽しみになっていた。





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