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4.拾ったハンカチ

「結婚を了承して貰った」

「そりゃ、めでたい」


ルチアから婚姻の了承を得られたレオポルトは、カファロ家を後にし車に戻ると開口一番そう満足気に言い放った。

その言葉に返答したのは、車を運転している赤茶毛の若い男性だ。


「ルチアちゃんだっけ?可愛かった?」

「ちゃん付けするな」

「…じゃあ、奥様?」


赤茶毛の男がそう言うと、レオポルトは黙り込む。

男はバックミラー越しにレオポルトの表情を窺った。

無表情に近いながらも、彼が嬉しそうにしている事は、長年一緒にいる赤茶毛の男には分かった。


「セス。先ずは結婚式の準備だ」

「そうだねぇ」


赤茶毛の男の名はセス。レオポルトの乳兄弟であり、執事と護衛も兼ねている。

細身の体格にレオポルト程ではないが背も高く、優し気で甘い雰囲気を持つ美男子だ。

強そうには見えないが、実は体術、剣術、銃器の扱いにも長けている男で、レオポルトが一番信頼している友人でもあった。


「二年前…だっけ?ルチア嬢に出会ったの?」

「…ああ」


レオポルトは彼女に会った時の事を思い出す。


それは一度きりの邂逅だった。


レオポルトはその日、とある夫人の晩餐会に出席する予定だった。

ところが晩餐会が始まるのを待っている間に、緊急の連絡が入り急遽帰らなくてはならなくなった。

夫人に謝罪を述べた後、急いで帰ることになった彼は玄関ホールで人とぶつかった。

その人物こそルチアだった。


「も、申し訳ございません」


慌てた様子で何度も頭を下げるルチア。

レオポルトは彼女が落としたハンカチに気がつき、それを拾った。


「こちらこそ、申し訳ない。急いでいたもので…これは、カファロ織?」


拾い上げたハンカチは見覚えのあるものだった。


「カファロ織、ご存知なんですか!?」

「え?あ…ああ。私の乳母がカファロ織の製品が好きなんだ」


レオポルトの乳母の部屋は、好みのカファロ織製品で埋め尽くされている。


「そうでしたか!私、カファロ家の者なんです。

あ、これはアイリスという紫色の花をモチーフにしたハンカチで…私が15歳の時にデザインしたものなんです。

これまでも何度かデザインをしてたんですけど、全部駄目で…初めて採用されて嬉しかった思い出の品で…あっ、すみません。こんな話…」


嬉しそうに話す彼女の瞳にレオポルトは引き込まれた。

アイリスの花と同じ鮮やかな紫色の瞳をキラキラと輝かせるルチア。

話の内容も話す様子も彼には好ましく思えた。

黄金色の髪も輝いていており、白い肌にピンクに色付いた頬、まだデビュタントを終えたばかりだろうかあどけなさが残る。

美しい少女だなと彼は素直にそう思った。


「あ、そうだ。良ければ乳母さんにハンカチを贈らせて下さい。えっと…それは地面に落としてしまったので…」


そう言いながら彼女は小さな鞄からもう一枚ハンカチを取り出した。


「これなら新品なので安心して下さい。カファロ織で一番人気の薔薇をモチーフにしたものなんです」


そう提案してくれたルチアに対して、レオポルトは首を横に振った。

そして拾ったハンカチを見つめる。


「…いや、こちらのハンカチを貰えるか?」

「え?でも…」

「これが気に入った。これがいい」


そう答えたレオポルトに対して満面の笑みを浮かべた彼女は、とても可愛らしかった。


彼女と別れて車に戻った後、自分が名乗っておらず、彼女の名前すら聞かなかった事に気がついた。


もう一度話してみたいと思ったが、また他の夜会で再会する事もあるだろうと特に深く気にする事なく屋敷に戻った。


その時発生した問題が色々と長引いて、暫く夜会に出る事が無かったのだが、その後出席した夜会で再び彼女と出会うことは無かった。

その時は残念だと思ったが、それだけだった。


その後暫くして、とある事情で結婚相手を探す事になったが、レオポルトはなかなか相手を見つける事が出来なかった。

何度か若者が多い社交場などに顔を出し、ご令嬢方と交流を持ったのだが、これといって惹かれる気持ちにならず。


16歳で侯爵家の当主になったレオポルトは、女性慣れしていない。

遊びらしい遊びを殆どすることなく領地経営ばかりに気を取られていた為、なかなか女性と打ち解けられない。

声を掛けてくる積極的な令嬢は、あまり得意ではなかった。


彼女達の話は、噂話や自分の身に着けているドレス、アクセサリーなどの自慢話が多く、それらに興味のないレオポルトには酷くつまらなく思えた。


噂話が役に立つことがある事も分かっているし、自慢話が多い女性ばかりではないとも分かっているのだが、近づいてくるのはそういう女性が多かった。


結婚相手を探さなければならない気持ちはあったものの、せめて好感が持てる、もしくは信頼のできる女性を妻に迎えたかった。


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