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33.レオポルトの苦悩

舞踏会が終わった後、レオポルトはホテルの部屋に戻って来ていた。

ルチアは一緒ではない。

彼女は久しぶりに会った家族と過ごす為に、別の部屋に宿泊することになった。


ルチアはレオポルトの具合が悪そうだと心配をしており、一緒にいようとしてくれたが彼はそれを断った。

せっかく家族と会えたのだから、家族と過ごすようにと勧めたのだ。


そう勧めたのもレオポルトは一人になってゆっくりと考えたかったからだ。


昨日のレオポルトはずっとルチアと過ごせてとても幸せな一日だったと思っている。

列車の中のルチアの可愛い笑顔は今思い出しても身悶えそうになる。


そして夜は同じベッドで眠った。

ルチアが同じ部屋で寝ればいいと提案した時、レオポルトは混乱した。

彼女は自分を信用し過ぎており、もし何かあったらどうするつもりなのだと説教をしたいくらいだった。

だが結局彼は自分の欲望に負けてしまった。

湯上りのルチアはとてもいい香りがしたし、一緒にいて楽しいと言ってくれて、レオポルトを夢見心地な気分に浸らせてくれた。


次の日、目が覚めた時に無意識にルチアを抱き寄せていた事に驚愕した。彼女を起こさないように慌てて手を離し、ベッドから素早く降りた。

落ち着く為に腕立て伏せをしたが、ルチアの柔らかな肌と甘い匂いは今思い出しても……と想像しそうになり、レオポルトは慌てて首を振る。


何とか紳士的な振る舞いを貫き通した自分をレオポルトは褒めてやりたい。


その後セスと二人になった時に、何故一部屋しかとらなかったのかと詰め寄ったのだが、彼はきっぱりと言い返してきた。


「お前がルチアちゃんの実家を援助する代わりに結婚を迫ったのは分かってる。

けどな、彼女はそれを了承したんだろ?

だったら妻としての務めも覚悟しているはずだ。

いつまでたっても手を出さずに済ます訳にはいかないんだぞ。お前は当主なんだから」


セスの言うことは当たり前のことで、レオポルトは侯爵家の当主として後継である子供をもうけなければならない事も充分理解している。

確かにただの政略結婚ならば、多少無理を通したかもしれない。

だがルチアはただ期間限定の妻としての立場を了承したに過ぎな

いのだ。

そんな彼女に無理強いなど出来るはずもない。レオポルトにとって彼女の気持ちを守る事が最優先するべきことなのだ。

侯爵家の当主としては失格だなとレオポルトは自嘲した。


そして舞踏会。

ルチアのドレス姿はとても綺麗だった。いつも情けなくもちゃんと綺麗だと伝えられなかったレオポルトが初めてルチアを褒めることができた。彼女も喜んでいる様子で彼はとても満足した。


ルチアの家族を王都に誘ったことも、彼女を喜ばせる事ができて良かったと思えたし、その家族も全員元気そうでレオポルトも安心できた。

彼女の大切な家族は自分にとっても大切な家族なのだ。側にいられない以上、できるだけの配慮はしたい。


レオポルトはその時までは穏やかな気持ちでいられたのだ。


ところが舞踏会で会ったディーノの言葉がレオポルトの胸に深く突き刺さった。


「好きな人と結婚するのと好きになってくれた人と結婚するのは、どっちが本当に幸せなんだろうな?」


ヴァニア嬢に求婚している名も無き好青年の気持ちがレオポルトには痛い程よく分かった。

レオポルトは無理矢理好きな人と結婚したが、好きになってもらえなければそれはとても悲惨なことだ。


しかし名も無き好青年はレオポルトよりずっと誠実だ。

下手な小細工をせず、真正面からあのブルネッタ卿を口説き落としヴァニアを紹介してもらったのだ。

称賛に値する男である。是非とも一度会ってみたいものだとレオポルトは思った。


ディーノと別れた後、気分を変える為にいつルチアをダンスに誘おうかと悩んでいたのだが、タイミングが掴めなかった。

それでも一番最初に彼女と踊るのは自分だと思っていた。

もたもたしている間に、先にグリアムがルチアをダンスに誘ってしまったのだ。


彼の誘いを断る事はできないと分かっていたのだが、レオポルトはとても嫌な気持ちになった。

ルチアがダンスを了承した事にもモヤモヤした気持ちが湧き上がる。


そして二人のダンスを目の前で見て、レオポルトは激しい嫉妬を感じた。

二人は年齢も同じ、ダンスを踊る姿はとてもさまになっている。

彼女達はとても楽しそうに話しているように見えた。


彼女がレオポルトの元に戻って来た後も、視線がグリアムを追っていたし、ダンス中に何を話したのか聞いても歯切れが悪く誤魔化していた。

ルチアとダンスを踊れて嬉しいのに、心の奥にドロドロとした感情があり胃が重苦しかった。こんな気持ちのまま彼女と踊っていてもいいのかと葛藤してしまい、自然と表情も険しくなってしまっていたに違いない。

彼女には体調が悪いのかととても心配させてしまって彼は申し訳なく思った。


もしルチアが期間限定の妻でなかったら、今日の舞踏会で一人の貴族令嬢として出席し、グリアムでなくても他の誰かと出会い恋に落ちたかも知れない。

そう考えると、レオポルトは彼女の自由を奪ってしまっているのだと痛感する。


期間限定の妻という約束にルチアを縛り付けている。

そんな自分が彼女を幸せにしたいと思う資格があるのかとレオポルトは苦悩していた。


もちろんレオポルトはルチアにきちんと気持ちを伝えるべきだと理解している。

だが彼に恩を感じているルチアに気持ちを伝えれば、彼女を困らせてしまうのではないかと懸念している。


援助の事が頭にチラつき、好きという気持ちが無くてもレオポルトの気持ちに無理矢理応じてしまうのではないかと心配だった。

レオポルトは自分がどうすれば良いのか分からなくなっていたのだ。


できれば自分の手で彼女を幸せにしたい、だが自分と共にいる事が果たして彼女の幸せになるのだろうか。

彼女の本当の幸せは、別のところにあるのではないか。


そこでまたディーノの言葉が胸を刺す。

好きな人と結婚するか、好きになってくれた人と結婚するか、どちらが本当の幸せか。

ルチアにとってどちらが幸せなのか。


何の考えも纏まらないまま、レオポルトの夜は更けていった。


なかなか寝付くことが出来ずにいたレオポルトがようやく眠りについた頃、部屋の扉が乱暴にノックされた。


レオポルトはぼんやりしながら、部屋の鍵をあけ扉を開く。


「レオ!!……母さんが!!」


扉の向こうにいたセスの慌てた様子にレオポルトは一瞬にして目が覚め背筋が寒くなった。


領地からの連絡は、アラーナが倒れ意識不明だというものだった。

その報告を聞いたセスとレオポルトはとにかく一番早く領地に帰れる方法を探した。

そして、朝一番の列車の切符を入手することが出来た。


リリーにルチアを呼んできてもらい、ルチアの家族への挨拶もそこそこに、彼らは急いで駅に向かい列車に乗り込んだ。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

前話、王子の名前が違う箇所がありました。ご指摘くださりありがとうございます。

読者様も失礼いたしました。



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