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31.舞踏会(2)

家族ともっとゆっくり話したかったが、ルチア達は他の挨拶回りもしなければならなかったので、一旦父母とは別れた。

レオポルトと共に移動しながら他の方々への挨拶をしていく。


中には結婚式に来てくれていた方もいたのだが、ルチアは完璧に覚えているわけでは無かったので、レオポルトが話している横でニコニコと微笑み続けていた。


中には彼女に話しかけてくる人もいたが、失礼にならない程度に会話を交わす。


「お、レオ!」


そんな中ルチアが知っている人達にも会えた。


「ディーノ。それに、ヴァニア嬢も来ていたのか」


ブルネッタ侯爵家のディーノとヴァニア兄妹だ。前と同じくディーノは気安い雰囲気で話しかけて来る。


「まあな。王宮からの呼び出しだ、来ないわけにはいかないだろ。まあ、父は面倒だからって俺達に丸投げしたんだけどな」

「……相変わらずだな、ブルネッタ卿は」


ディーノの言葉にレオポルトは苦笑する。

お互いに挨拶をし終えた後、ルチアはヴァニアに声を掛けた。


「ヴァニア嬢に会えて嬉しくてホッとしました。凄い方々ばかりなので気後れしてしまって.……」

「私もです。コンスタンツィ夫人に会えて良かったです」


ルチアとヴァニアは、お互いの顔を見て少し安心していた。


「こちらにはいつ?」

「昨日です。夫人は……?」

「私も昨日です。レオ様と……セスも来てます。今は控え室にいると思いますが」

「そうなんですね」


ヴァニアは自分の手を胸の辺りでギュッと握り締めており、その表情は憂いを帯びていた。


「大丈夫ですか?ご気分でも悪いのでは……?」


ルチアが尋ねると彼女は迷うように目を泳がせた後、気落ちした様子で話し始めた。


「……実は、父に男性を紹介されたんです」

「え?」


ヴァニアは小さく息を吐いた。


「こんな日が来ることは分かっていました。父も随分私の結婚を待ってくれていたと分かっています」

「……ヴァニア様」

「駄目ですね。早く諦めなければならないと思ってはいるんですが……」


ヴァニアの深いため息に、ルチアはなんと言っていいか分からなかった。

容易に諦めるのかと叱咤する事も、諦めて別の道を選ぶ方がいいと勧めることもできない。

どちらが本当に彼女のためになるのか、ルチアには判断がつかなかった。

ルチアは困ってしまったが、何か彼女の為になる事を言わなければと焦ってしまう。

すると後ろからディーノがヴァニアの頭を小突いた。


「何だ、お前まだウダウダしてんのか?」

「兄様、やめて下さい」


ヴァニアは自分の頭をさすり、ディーノを睨みつけた。


「ったく」


ディーノが呆れたように肩を竦めると、レオポルトが不思議そうに彼とヴァニアを交互に視線を向けた。


「何かあったのか?」

「ん?あー、ヴァニアがな……父に男を紹介されたんだよ。結婚を本気で考えろってね。

俺も挨拶したけど、なかなかの好青年だったんだぞ。

ヴァニアは気に入らないみたいだがな」


ディーノの言葉に、ヴァニアはムッとしたように反論する。


「気に入らない訳じゃないわ。ただ、好きじゃない人と結婚することに抵抗があるだけです。

貴族が何をそんな甘い事って思われるのは分かっています。

でも……好きな人と結婚する夢くらい見てはいけないの?

そんな気持ちで結婚したって相手にだって失礼だわ。

それにどんなに苦しくたって諦められない気持ちってあるでしょう?」


ヴァニアはそこまで言うと、俯いてしまう。

ルチアには彼女の辛い気持ちが伝わった。諦めた方がいいと分かっていても、感情はそう簡単には切り替わってくれないのだ。

ヴァニアは気まずそうにそれぞれへ視線走らせた後、頭を下げた。


「……ごめんなさい。少し風に当たってくるわ」


そう言ってヴァニアは足早に立ち去り、誰も彼女を引き留める言葉を発する事ができなかった。

それを見送ったディーノは大きなため息を吐き、他の二人に謝る。


「悪いな、ヴァニアがあんなんで」

「いや、大丈夫なのか?」


レオポルトが尋ねると、ディーノがうーんと唸る。


「父が紹介した男は本当に好青年なんだよ。

ただ、ヴァニアは父の名があるから自分と結婚しようとしてるって思っているんだ。

あいつ夢見がちだから愛する人と結婚するのが幸せだって思い込んでるんだよ。

無理矢理、結婚させられるなんて絶対に嫌だし、そんなの女の幸せじゃないと思ってる。

別に父も俺も無理矢理結婚をさせようなんて考えてないさ。

それに……、父が紹介した男は本当にヴァニアに惚れてるんだ。

何度も何度も父に頭下げてやっと紹介してもらったんだよ。

だから応援したい気持ちもあるし、ヴァニアの気持ちを尊重してやりたい気持ちもある。

俺も父もそう考えてるんだけど、ヴァニアはああ見えてなかなか頑固で上手くいかなくてな。

あいつは一度じっくり自分の気持ちと向き合う必要があるんだよな」


ブルネッタ卿もディーノも本当に妹を大切に思っているのだ。

彼女の幸せの為に何をするべきか悩んだ結果、こうなってしまったのだろう。

ディーノは苦悶の表情で、自分の頭を乱暴に掻いた。


「好きな人と結婚するのと、好きになってくれた人と結婚するのは、どっちが本当に幸せなんだろうな?」


ディーノの言葉にルチアは考えさせられた。


ルチアは好きな人と結婚しているといえるが、今後好きになってもらえなかったら悲惨だ。


好きな人と結婚したいヴァニアの気持ちも分かる。

だが、好きな人と結婚しても振り向いてもらえないかも知れない名も知らぬ好青年の気持ちもルチアはわかった。


誰も彼も幸せになりたいだけなのに、上手くいかないものだなと彼女は切ない気持ちになった。


その後ディーノはヴァニアを探しに行くと言ってルチアとレオポルトの元から立ち去り、二人は彼を見送った。


「ヴァニア様、大丈夫でしょうか?」


ルチアは心配になり、そう言葉にしたのだが、レオポルトからの返事はなかった。不思議に思ったルチアは彼の顔を見上げる。

彼の顔色にルチアは驚いた。


「……だ、大丈夫ですか、レオ様!?」


レオポルトの顔は真っ青だ。慌てたルチアの言葉に彼はハッとして顔を上げる。


「あ……いや、大丈夫だ」


彼は戸惑いの表情を浮かべている。


「顔色が悪いです。大丈夫には見えません」

「本当に平気だ。少し疲れただけだ」

「休憩なさった方がいいのではないですか?本当に調子が悪そうです」


ルチアが心配そうに尋ねるが、レオポルトは首を横に振った。


「本当に平気だ」


そう言った後のレオポルトの表情は幾分かマシになったように見えたが、それでもルチアは心配だった。


「分かりました。ですが、気分が悪くなったら言って下さいね」

「あ……ああ。分かっている」


レオポルトは頷いたものの、彼の様子に気をつけなければとルチアは思った。


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