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30.舞踏会(1)

本日は七夕ですね。皆様の願い事が叶いますように。

ルチア達は移動用の車に乗り込み、ホテルを出発した。


昨夜レオポルトが話していた通り、王宮に近づくにつれて落ち着いた風景に変わっていった。


大きな屋敷が多く、これらは王都で官職に就いている貴族などが住んでいるのだとレオポルトに説明を受けた。

屋敷が並んでいる場所を抜けると、今度は大きな公園が見えてくる。

ここでピクニックでもすれば気持ちが良いだろうなと思えるほど整備されていて、寝転んだら芝生が気持ちよさそうな公園だ。

その公園を横切ると、とうとう王宮に到着する。


それはとても優雅で優美なものだった。

クリーム色の壁面で、コの字型の建物。所々に美しい装飾が施されルチアはその豪華絢爛な王宮に圧倒される。


ルチア達は車を降りた後、王宮の中に入った。


舞踏会まではまだ時間がある。遠くから参加する為にやって来た面々は、それぞれ部屋に案内されそこで舞踏会の準備を済ませる事になっていた。


ルチアもレオポルトと別れて準備をする事になる。

リリーと共に案内された部屋に到着すると、ルチアはドレスに着替えるわけだが、いつも通りリリーに任せる事にした。余計な事はしない、というかできない。


舞踏会のために用意されたドレスは薄いクリーム色のもの。

裾の辺りと上半身部分に赤や青やピンクの花が散りばめられている。スカート部分はレースが幾重にも重なっていて、動くとユラユラ揺れ、とても軽やかで可愛らしく見える。


このドレスも超一流仕立て屋ヒルベルタの作品だ。今回は王宮での舞踏会という事で彼女も相当忙しかったはずなのに、とても素敵なドレスを作ってくれた事にルチアは大変感謝した。


そしてネックレスも花をモチーフにしたもので、全体的に小さな宝石が散りばめられていて、光に反射するととても輝いて見えるものだ。


髪型はたくさん三つ編みを作って更にそれを三つ編みにして、垂れ流す。そこに花の髪飾りをつける。

化粧はいつもより濃くしているが、派手という程ではない自然な仕上がりだ。


完成した自分の姿に、ルチアは感嘆の声をあげた。


「いつもありがとう、リリー。とても素敵だわ」

「はい!完璧です奥様!!」


リリーは満足気に頷くが、ルチアも自分の姿にかなり満足している。だが心配もあった。


「レオ様は気に入ってくださるかしら?」

「勿論です!!」


思わず漏れたルチアの言葉に、リリーは何度も頷いて肯定してくれて、その気持ちがとても嬉しかった。

しかし、またドレスだけ褒められたら寂しいなとルチアはしんみりしてしまう。


舞踏会の準備を終えて、ルチアが少し休憩しているとレオポルトが迎えに来てくれた。


レオポルトは焦げ茶色のタキシードを着用していた。背が高いレオポルトによく似合ってる。

いつものように、レオポルトは黙ったままルチアをジーっと見てくる。


「レオ様、タキシードよくお似合いです。素敵ですね」


レオポルトに声を掛けると、彼が顔を上げたので目が合った。


「ありがとう。ルチアもドレスが似合っている。とても……綺麗だ」


そう言われてルチアは目を見開いた。

初めてドレス姿を褒められた。

そして綺麗だと言われた事を理解すると、ルチアは一瞬にして頬を赤く染めた。


「あ、ありがとうございます」


気恥ずかしい気持ちになりながらも、ルチアは何とか彼にお礼を言った。まさかの出来事にルチアはとても動揺している。


「さて、そろそろ行こうか?」


レオポルトはそう言いながら手を差し出してくれたので、ルチアは深呼吸して落ち着きを取り戻した。


「はい」


そう答えたルチアが彼の手を取ると、レオポルトは彼女の手を自分の腕に絡ませた。


王宮の広間に向かうと既に多くの招待客が集まっていた。

それぞれダンスを踊っていたり、食事を楽しんでいたり、話をしていたり各々で過ごしている。


「人がとても多いですね」

「ああ、そうだな」


ルチアは緊張感が増してきた為、大層、胸がドキドキしている。


「緊張します」

「そんなに気負う必要はない。ここでは私達も一介の貴族だ。目立つ事もないから気軽に楽しめばいい」

「た、楽しめる気がしませんよ」


ルチアは涙目になりながら、レオポルトを見上げた。すると彼は安心させるような優しい笑みを浮かべた。


「私がいるから大丈夫だ」

「……はい」


レオポルトの頼りになる言葉にルチアは思っていた以上に安堵した。

その時、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえる。


「ルチア」


その声に反応して振り返ると、そこにいたのはヴィーゴとマグリットだった。


「お父様、お母様!?」


二人ともきちんとしたタキシードとシックで素敵なドレスを身につけている。


「どうしてここに!?」

「うむ。列車でのんびりと来たぞ」


ヴィーゴがそう答えると、マグリットが呆れたように言う。


「ルチアはそんな事聞いてないわよ、あなた」

「ん?ああ。今回はルチアが参加するからと、コンスタンツィ卿が誘って下さったんだ」

「ええ、そうなのよ」


マグリットはルチアの耳元に顔を近づけると、小さな声で囁く。


「旅費もドレスも全部コンスタンツィ卿が準備して下さったのよ」


その言葉にルチアは驚いてレオポルトに視線を向けた後、慌てて頭を下げた。


「レオ様、申し訳ございません。迷惑をお掛けして……」


しかしレオポルトはルチアの言葉を遮った。


「迷惑など掛かっていない。ルチアも久し振りに家族に会いたいかと思ってお誘いしただけだ」


レオポルトの優しい言葉にルチアは涙が出そうなほど嬉しかった。

するとマグリットがルチアの背中をポンポンっと優しく叩く。


「エリクも来ているのだけど、舞踏会には出席できないから、ホテルでお留守番しているわ。後で会いに行ってあげてくれる?」

「エリクも来てるのね。もちろん、私も会いたいわ」


ルチアはとても嬉しかった。弟にも会えるとは何て良い日なのだろうか。全てレオポルトのお陰だ。

ルチアはもう一つ気になることをマグリットに質問する。


「マウロは元気にしてる?」

「ええ。流石に屋敷で留守番してもらっているけれど、元気よ」

「そう、良かった」


ルチアは家族皆が元気そうで安心した。それを知れただけでも王都に来て良かったと思う。


「コンスタンツィ卿、色々とありがとう」


ヴィーゴがレオポルトに向かって御礼を述べると、彼は少し頬を緩めた。


「いえ、お会いできて良かった。皆さんもお元気そうなご様子で、安心しました」

「ありがとう。それにルチアの事を大切にして下さっているようで私も安心しました。今日のルチアはとても綺麗だ」


ヴィーゴはしみじみとルチアを見つめる。


「ルチアは大切な妻です。そして妻の家族も私にとっては大切な家族です」


レオポルトの言葉にルチアは嬉しいと思うのと同時に胸が痛くなった。こんな事を言われては自分が本当にレオポルトの大切な妻だと本気にして勘違いしてしまう。


ルチアの家族を安心させる為の言葉だと分かっているのに、それが彼女にはとても辛かった。


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