3.コンスタンツィ卿という男
失敗したので、本日3話も公開します。
失礼しました!
一話目から恥ずかしい!!
レオポルト・コンスタンツィという男の第一印象は、まず大きな人だな…であった。
背が高くがっしりとした体格、黒髪は短めに刈り上げている。
威圧感のある風貌でダークスーツを着込んでいた。
顔の作りは整っており、笑えば親近感が湧いて素直に男前だと思えただろう。
昼過ぎにカファロ家の屋敷を訪れたレオポルトは、ヴィーゴと挨拶を交わした後、後は若い者だけでというヴィーゴの謎の発言の元、今は部屋にレオポルトとルチアの2人だ。
婚姻前なので2人きりという訳にもいかず、部屋の扉は少し空いている。
ところが、このレオポルトという男は黙ったまま無表情でルチアを見てくるばかりだ。
とても見初めた女性に会いに来たという表情ではない。
「あの…コンスタンツィ卿」
この空気に耐えきれず、ルチアは意を決して声をかけた。すると彼は瞬きをした。
「あ…ああ」
そう言ったまま黙り込む彼に、ルチアは困惑していた。
今日は初の顔合わせで、距離を縮める為にも会話をするべきではないかと思ったのだが、彼は一切話をしない。一体何をしに来たのか分からなかった。
ルチアはワザとらしく咳払いをする。
「一つお伺いしても、よろしいですか?」
「ああ」
彼の返事に彼女は一度息を吐いた。
「何故、私に求婚なさったのでしょうか?
夜会で見初めたと伺いしましたが…私が夜会に出席したのは二年も前のデビュタントと晩餐会の二度きりです。
二年前に見初めた女性に求婚だなんて…あり得ないでしょう?
それに、何故二年も経った今なのかとも思います。
ですから、見初めたというのは嘘だと考えています。
一体何が目的なのですか?…私は援助してくださるなら婚姻に関して文句はありません。
ただ…理由をお伺いしたいです」
そこまで言った後、これで怒らせてしまうかも知れないと思ったが、聞かずにはいられなかった。
「二年前から、夜会には出ていないのか…?」
「はい」
レオポルトの質問にそう答えたルチアは、自分の質問の答えが返ってくるのを期待して彼をジッと見つめた。
すると彼にフッと視線を逸らされる。
暫く待っていると、やっとレオポルトが話し出した。
「…その、いきなりの話で申し訳なかった」
「いえ」
「つまり…その…、き…期間限定で妻になってもらいたい」
「期間限定?」
自然とルチアの眉間に皺が寄る。
レオポルトは視線を逸らすのを止め、ルチアと目を合わせた。
「取り敢えず一年間、場合によっては延長してもらう可能性もあるが。
そうしてくれれば、カファロ家への援助もする。どうだろうか?」
レオポルトの言葉は理解し難いものだった。
馬鹿にされているのかとも思えたが、彼の目は真剣そのものに見える。
何かのっぴきならない事情があるのではないかとルチアは思った。
「期間限定の妻というお話ですが、どの程度の事を私はすればいいのでしょう?」
「それは…対外的には、妻としての務めをして欲しい。
例えば、社交で夫婦同伴が必要な場合は一緒に出席してもらいたい。
後は好きに過ごしてもらって構わない。
不自由な暮らしはさせないし、何かを強要する事はないと誓おう」
「…そうですか。一年間というお話でしたが、一年間という期間に何か理由はあるのですか?」
ルチアは更に疑問をぶつける。だが彼はまた視線を逸らした。
「それは…秘密だ」
一年間の理由は聞けなかったが、話自体はそう悪いものではない。
期間限定の妻を務めればカファロ家へ援助をしてくれるという話であるし、一年間という期間も短くていい。
延長の可能性があるという事だったが、それでも倍の期間になるという事はないだろう。
援助を受ける為に老人の後妻や商家の妻、愛のない結婚を受け入れる覚悟がとうの昔にあったルチアには、寧ろありがたい話だった。
夫婦同伴の社交場に出る事になれば人脈も築ける。
離婚した後、その人脈を使って当主となった弟の補佐をしながら領地の発展に貢献すればいいのではないかとルチアは考えた。
だから、断るという選択肢は彼女にはなかった。
「お話は分かりました。この求婚お受けいたします」
そう言葉にすると、レオポルトは一瞬だけホッとしたように頬を緩めた。
その表情に少しだけドキッとしたルチアは、やはり彼には無表情より笑顔の方が絶対に似合うのにとそう思った。