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26.王都へ出発

その日王宮の舞踏会に出席する為に侯爵家を出発したレオポルトとルチア。

彼らの同行者はセスとリリーだ。


レオポルトはアラーナの側にいた方がいいとギリギリまでセスのららの同行を反対していたが、彼は断固として拒否をした。

ルチアもレオポルトと同じ考えだったが、セスの仕事に対する気持ちも分からないでもなかった為何も言えなかった。


そんな事がありながらも、とうとう出発の日を迎えたのである。


王都へは列車に乗って行く事になっていて、長距離移動に関してはそれが一番楽な方法だ。

コンスタンツィ領には王都に繋がる線路が敷かれており、列車に乗れば一直線で着くことが出来る。


駅に到着したルチアは、目をキラキラさせながら列車を見つめていた。


「何て大きいのでしょうか!」


初めて見る列車の姿にルチアは思わず声を上げた。

駅に停車している列車は、大きくて真っ黒な車体、今まで見た事が無いような容貌だった。


「ルチアは、列車を見たのは初めてか?」

「はい!話には聞いた事がありましたが見たのは初めてです。

こんなに大きなものが動くなんて、信じられません」


ルチアが興奮気味にそう答えると、レオポルトがクスクスと笑う。


「これは、蒸気機関車というんだ。蒸気機関車は湯を沸かして発生した蒸気を動力源として走行する」

「湯を沸かすんですか?」

「ああ。加熱によって、水を蒸気に変えて、ピストン運動から回転運動を得ることで出力を得る。そうする事で走るんだ」


レオポルトが説明してくれたのだが、ルチアは益々首を傾げる。


「えっと……難しいんですね」

「そうだな。私もよく分からないんだ」


レオポルトが肩を竦めたので、ルチアは思わず笑ってしまった。


「分からないのに、説明してくださったのですか?」

「ああ」


レオポルトも笑いながら頷く。

彼の笑顔が嬉しくて、ルチアは益々笑ってしまった。


「さて、お二人方。乗車の時間ですよ」


そんな二人に、セスが声をかけてくる。


「分かった」


レオポルトが答え、4人は列車に乗り込んだ。


客車は一等車両と二等車両の二種類に別れている。

その内一等車両は、個室が並んだような形になっていて、二等車両は椅子だけがズラリと並んでいるという作りになっている。


ルチア達が乗るのは一等車両だ。


一等車両の個室スペースは、6人ほどが座れるような作りになっていて、向かい合わせのフカフカのソファー。

中央にテーブルが置かれており、ゆったりと列車の旅が楽しめそうだった。


ルチアはワクワクしながら窓の外を見つめる。


窓側にルチアとレオポルトが向かい合わせで座り、ルチアの横にリリー。そしてレオポルトの横はセスだ。


「早く動かないですかね」


ルチアがソワソワしながら聞くと、レオポルトが答える。


「出発時間はもうすぐだから、もう動くはずだ」

「楽しみです」


ルチアは列車が動くのを今か今かと待ちわびていた。

すると、突然ブォーっという大きな音が聞こえ、ガタンっと衝撃があった後、ゆっくりと窓の景色が動いていく。


「動きましたよ!!」


ルチアは嬉しそうにレオポルトに声をかけた。


「そうだな。すぐにもっとスピードが速くなるぞ」


レオポルトにそう言われて、ルチアは窓の外を見た。

確かに、どんどんと外の景色が動くスピードは速くなる。


「すごい……これが列車なんですね」


ルチアは、目を輝かせながら窓の外を見つめていた。


「良いですね奥様。反応が新鮮で可愛らしいなぁ」


セスにそう言われて、ルチアは目を瞬かせた。レオポルトは不機嫌そうに彼に注意をする。


「おい、セス。お前は主人の妻に対して気安過ぎるぞ」

「別に良いだろ。今は親父も居ないし、うるさく言う奴もいない。あー、息抜き息抜き」


セスはグッと腕を伸ばす。


セスが言葉を崩しているのを見たのは久し振りだった。

セスが口調を崩すのは、レオポルトとルチアが揃っている時だけだ。ルチアとだけ話す時は口調を崩していないと彼女は気が付いた。


「お前はいつも息抜きしてるだろう」


レオが冷めた目でセスを見ると、彼は自分の顔を手で覆って泣いているフリをし始めた。


「旦那様が酷いー。俺いつも一生懸命仕事してるのにぃ」

「やめろ、気持ち悪い!」


セスとレオポルトのやり取りを見て、ルチアは思わずクスクスと笑ってしまった。


「お二人は本当に仲がよろしいですね」

「そうだよ。レオと俺は、こんなに小さい時から一緒にいるからね」


セスはそう言いながら、右手の親指と人差し指で形を作る。人としてはあり得ない小ささだ。


「ただの腐れ縁だ」

「旦那様の意地悪」


セスの言葉にレオポルトは彼を睨みつけた。


セスと一緒にいる時のレオポルトは肩の力が抜け、リラックスしている。ルチアはそれが羨ましいと思った。


これは嫉妬という感情ではないだろうかとルチアは思った。

ルチアのライバルはセスなのだ。


彼女は思わずセスをジッと見てしまう。


「えっと、ルチアちゃん。何か俺の顔に付いてる?」


見ている事を気付かれてしまい、セスに質問される。ルチアはプイッとそっぽを向いてしまう。


「別に何でもないわ」


気まずい為思わずとってしまった行動に、ルチアは感じが悪かったかと後悔した。けれど謝ると理由を聞かれてしまうのでどうしようかと悩んでいると、セスはレオポルトに話しかけた。


「そうだ。なあレオ。ルチアちゃんに列車内を案内してあげたらどうだ?」


セスがそう提案をするとルチアは彼に感謝した。そして、心の中でそっぽを向いてごめんなさいと謝った。


「そうだな。せっかくだから、少し見に行くか?」

「はい!」


ルチアはウキウキしながら立ち上がった。


「少し回って来る」

「いってらっしゃい」


レオポルトと共に、ルチアは個室を出て行く。

残されたリリーとセス。


「やっぱり、仲睦まじい夫婦ですよね?」


リリーはうーんと首を傾げている。


「どうしたの?」


セスが尋ねると、リリーが自分の頬に手を当てて溜息をついた。


「先日、奥様が不安がられていたんですよ」

「奥様が?」

「はい。旦那様、ああいう方ですから、普段から好意を口に出さないんだと思うんですよね。

だから奥様も不安なんだと……」

「それって、奥様が言ってたの?」

「いえ、私の推測ですが。

ただ、旦那様に喜んで貰えることはないかと悩んでおられたので……」


リリーの言葉にセスはふうんと呟いた。


二人の結婚はレオポルトが無理矢理、援助と引き換えに迫ったものだった為セスは少し心配をしていた。


政略結婚を了承した時点で、ルチアは覚悟を決めて嫁いできた筈で、後継者を産むのも侯爵夫人としての務めの一つだ。

にも関わらずちっとも彼女に手を出そうとしないレオポルトにもセスはヤキモキしていたのだ。


だが既に想い合っている様子にセスはホッとした。


期間限定の妻という話を知らない彼は、そう考えていた。


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