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18.晩餐会(2)

三角関係が勃発した後、晩餐会はまた男女が合流しそれぞれ気の合う友人達とお喋りをし始めていた。

その時ルチアはブルネッタ卿に捕まっていた。


「うちの料理はどうだった!?」

「はい。とても美味しく頂きました」

「そうだろう、そうだろう!」

「ブルネッタ領は海に面しているだけあって、海鮮類が新鮮で特に美味しく感じました。

濃い味付けではなく、素材の良さを生かしたお料理の数々で、ついつい手が伸びてしまいました」


最初はブルネッタ卿の威圧感のある風貌にルチアは一歩退いてしまったが、よくよく話してみるととても話しやすく、親しみやすい人だと分かった。


「そうかそうか、よく解ってるな!」

「ありがとうございます。ブルネッタ侯爵領は初めて訪れたのですが、街並みも素敵ですね」

「そうか?」

「はい。色彩豊かで見ていて楽しかったです。ですから創作意欲が湧いてきました」


ルチアがキラキラと目を輝かせていると、ブルネッタ卿は首を傾げた。


「創作意欲?」

「妻は絵を描いているんです。素晴らしい才能ですよ」


レオポルトがブルネッタ卿に説明をした。ルチアは褒めてもらえて嬉しくなった。


「そうか、是非とも見てみたいな!」

「ありがとうございます。私もブルネッタ卿の感想を聞いてみたいと思います」

「これは、責任重大だな!!」


豪快に笑うブルネッタ卿に、ルチアもクスクスと笑ってしまう。

ブルネッタ卿は絵を見せても下手な賛辞など言わない率直な感想を述べてくれそうだ。だから是非とも聞いてみたいと思った。


「いやー、残念だ!」


ブルネッタ卿は、パンっと両手を叩いた。


「え?」

「もう少し早く出会っていたら、うちの息子の嫁にと思えるほど、いいお嬢さんだと思ってな!」


ブルネッタ卿の言葉にルチアは苦笑した。


「またまた、ご冗談を」

「いや、冗談ではないぞ。レオに飽きたらうちの息子と……」

「ブルネッタ卿、いい加減にして下さい」


遮るようにレオポルトがブルネッタ卿に冷たく言い放つ。


「おぉ、すまんすまん」

「夫の前で妻を誘惑するなど、何を考えているのですか」


レオポルトはルチアを庇うように前に立った。

そんな彼をルチアは素直に格好いいと思った。まるで、本当の妻を守る夫のようである。

誰もルチアが期間限定の妻だなどと思わない。結婚式当日の無表情さが嘘のようである。

そんなレオポルトの様子に、ブルネッタ卿はフッと笑みを浮かべた。


「そうか、レオにも家族が出来たんだな……」


ブルネッタ卿の声は小さかったが、やけに響いて聞こえた。

その声にレオポルトは困惑する。


「ブルネッタ卿……?」

「いや、本当に良かったな!!お前の父と母も喜んでる事だろう!!」


ブルネッタ卿はレオポルトの肩をバンバン叩きながら、上機嫌で大きな口を開けて笑っている。


「……ありがとうございます」


レオポルトは彼に向かって深く頭を下げた。それを見てルチアも慌てて頭を下げる。


ルチアはその言葉を嬉しく感じたが、同時に心苦しいと思った。彼女は嘘をついていて、どんなに本物の夫婦に見えたとしても期間限定の妻だ。一年後離婚する。

そうなればブルネッタ卿を悲しませてしまうだろう。彼だけでなく、ディーノやヴァニアも。

本物の夫婦なら、こんな風に言ってもらえたらとても嬉しい事なのにとルチアは少し悲しい気持ちになった。


こうして、結婚後初めての晩餐会が終わりを告げ、レオポルトとルチアはブルネッタ侯爵家を後にした。


車に乗り込んで暫くすると、レオポルトに話しかけられる。


「今日は付き合わせて悪かった」

「いえ。ブルネッタ家の皆さんも招待された方々も良い人ばかりで、楽しかったです」

「そうか、それなら良かったのだが……。疲れたなら、寝ててもいいぞ」

「いえ、大丈夫です」

「そうか……」


ルチアは、フッと息を吐く。


「ブルネッタ卿は、良い人ですね」

「……そうだな」

「ヴァニア様ともたくさんお話しできました。今度こちらにも遊びに来て欲しいとお伝えしたのですが、よろしかったですか?」

「ん?ああ、もちろんだ」


ルチアはレオポルトの了承を得られ安堵する。


「ディーノ様とは、それほどお話出来ませんでしたが……レオ様やディーノ様、それからご学友の方々とお話ししているレオ様を見る事が出来て嬉しかったです」

「そうなのか?」


レオポルトは不思議そうに首を傾げた。


「はい。だって友人を紹介されるのは嬉しい事ではないですか?

その人がこれまでどんな人達と関わってきたのか知る事が出来るんですもの。

だから、レオ様の事を知れた気がして嬉しかったです」


ルチアがそう言ってにこりと笑うと、レオポルトは少し頬を緩めた。


「そんな風に考えられて、ルチアは凄いな」

「そうですか?」

「ああ。それに、ルチアは誰とでもすぐ打ち解けられて羨ましい。

私は話すのがあまり得意ではないから……なかなか仲良くなれないんだ」


彼の残念そうな様子に、ルチアは少し悩んだ末に声を掛けた。


「……確かに、レオ様は無口なところがありますから、誤解を受けやすいかも知れませんね。

ですが、思い遣りがあって優しい人です。

だからこそ、理解してくれた人はずっとレオ様の側に居てくれると思いますよ」

「ああ、ありがとう」


そう言ったレオポルトは、とても優しい笑顔を返してくれた。

その笑顔にルチアはドキッとしてしまう。


普段笑わない人が優しい笑顔を見せるとこうも破壊力があるのかと、ルチアは高鳴る胸を必死で抑えた。

男性との交流が少なかったからか、このような笑顔に免疫がなさ過ぎたのか。

ルチアは動揺が顔に出ていない事を祈りながら、なんとか落ち着く為に深く深呼吸をした。


ここは、さっさと話を変えるべきだとルチアは他の話題を提供することにする。


「レ、レオ様にお聞きしたいことがあるんですが」

「聞きたいこと?」

「はい。レオ様は、身分違いの恋についてどうお考えですか?」

「身分違い?」


レオポルトは若干険しい表情になりつつ聞いてくる。


「はい。例えば、貴族の令嬢と執事とか。侯爵様と執……いや、侍女とかです」

「あ、ああ」


レオポルトは、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。ルチアは彼の返事を待った。


「……悪いとは言わないが、苦労はするだろうな」

「苦労ですか?」

「ああ。未だに貴族のしがらみは多い。古い考えを持つ御仁は幾らでもいる。

そういう人間は、異端なものを排除する傾向にある。

どちらの立場でも苦労するのは目に見えている」

「そうですか……」


ルチアは彼の言葉が仕方のないことだと理解している。

だからこそ、期間限定の妻を必要としたレオポルトが貧乏でも伯爵令嬢という立場にあったルチアを選んだのだ。


「どうしていきなり、そんな事を聞いてきたんだ?」

「え?えっと、先程他の方々と話していた時にそんな話が出て来たんです。ですからレオ様はどういった考えをお持ちなのかと気になってしまって……」


ルチアはヴァニアの気持ちを話す訳にはいかないので、慌ててそう言った。


「……そうか」


そう呟いた後、レオポルトは黙り込んでしまった。眉間に皺が寄っているので何か考え事しているのだろう。


もしかしたらレオポルト自身の事を色々と考えているのかも知れない。

ルチアは静かにしておくことにした。


ルチアは、身分違いの恋というものに憧れがある。

王女様と平民の騎士、王子様と平民の女性。苦難を乗り越え結ばれる二人、何と甘美な響きだろうか。


けれど、自分には無理だと思っている。

身分違いの相手に胸を焦がすような恋が出来るとはルチアは思えなかった。

周りに迷惑を掛け過ぎる、この一点だ。


ルチアはまだ良い。貧乏を経験している……というよりずっと貧乏だったので平民に嫁いでも何とかやっていける自信がある。


けれど、贅沢をしているだろう王女様が平民の騎士に嫁いで暮らしていけるのか?

もしくは、貴族社会について何も知らない平民の女性が王族に嫁入りして暮らしていけるのか?

問題は山の様にあるはずだ。


愛は尊いものだと思うが、それがあれば本当に全てに耐える事が出来るのかとルチアは冷静に考えてしまうのだ。

だから、身を焦がすような恋は自分には出来ないと思っている。


だからこそ、そんな恋をしている人を応援したい気持ちがあった。レオポルトしかりヴァニアしかり。


ルチアはレオポルトの横顔をチラッと見る。今も眉間に皺を寄せて考え込んでいるようだ。果たしてレオポルトの恋路はどうなってしまうのか。

ルチアがそう考えている間も、車は静かに走っていく。

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