15.ルチアの一日
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ルチアの朝は早い。朝起きて着替えが終わるくらいにリリーがやって来る。
その後、彼女が髪を綺麗に梳かし、薄く化粧も施してくれる。
化粧は夜会などに行く時だけで良いのではないかとルチアは言ったのだが、侯爵夫人ともなれば、いつ何時来客があるか分からないので化粧は必須ですとリリーに力説された。
そう言うのならと結局毎日ルチアは化粧をしてもらっている。
朝の準備が終わると、朝食の時間までは庭を散歩したり、レオポルトの鍛錬を見学しに行ったり、本を読んだりして過ごす。
時間になれば、食堂に向かいレオポルトと共に朝食を食べる。
朝食が終わると、彼は仕事の為執務室に行くか外出するかなので、外出する場合はお見送りに玄関ホールに向かう。
レオポルトを見送った後は、その日によって行動が変わる。
アラーナの所に遊びに行ったり、厨房でお菓子を作ったり、そして最近ルチアの部屋の隣に絵を描くための部屋を用意してもらったので、そこに入り浸って絵を描いたりしている。
昼食はレオポルトがいない場合も多いので、部屋で軽く食べるくらいだ。
外出していたレオポルトが帰ってくると連絡があれば玄関ホールに迎えに行く。
夕食も殆ど彼と共にとっている。そして、湯浴みして就寝。
ルチアの生活は、大体この繰り返しだった。
「はあ、奥様の作ったアップルパイ、最高です!」
「本当、中はトロトロ、外はサクサク!」
ルチアには、時間的余裕が沢山ある。
ダラダラする訳にもいかないので、ルチアは侯爵家に馴染もうと考え、使用人達とよく会話をしていた。
その甲斐あって、ルチアは殆どの使用人達と打ち解けることができた。
男性使用人は打ち解けたと言っても、ルチアが奥様という立場なので一歩引いた様子だったが、女性はその垣根があまりない。
ルチアはすっかり女性使用人達と仲良くなっていた。
「喜んでもらえて良かったわ。うちの母直伝のアップルパイなの」
地下にある使用人達の休憩室で、ルチアは女性使用人数人にアップルパイをふるまっていた。今この場にいるのは、ルチアとリリーを含めて5人程だ。
「本当に、旦那様が選んだ方が奥様で良かったです!」
「本当にそうですよ。私の友人が働いている所の旦那様が、ついこの前奥様をお迎えしたそうなんです。ですが、その方が凄く我儘で気に入らない事があると使用人に八つ当たりするらしいんですよ。
いくら旦那様がいい方でも奥様がそれでは、働くのはちょっと……と思ってしまいます」
「それは酷いですね。私、ここで働けるようになって良かったです」
この場に居るのは、ルチアと同年代の女性ばかりなので、ついつい噂話に花を咲かせてしまう。
ルチアは彼女達を見て領地の女の子達を思い出していた。
「その点、うちの奥様は、優しいですし料理も上手ですし……最高です!」
「そう言って貰えて嬉しいわ」
嫁いできた当初から優しく、温かく迎え入れてくれた使用人達をルチアはどんどん好きになっている。
「そう言えば、奥様は今度夜会に出席なさるんですよね?」
「え?ええそうよ」
「奥様のドレス姿楽しみですね。花嫁衣装、私達は見る事が出来なかったですから」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私がドレス着てもそれ程では……」
ルチアはこれ以上持ち上げられては堪らないと首を横に振る。すると、リリーが拳を握り締め力説し始める。
「私に全てお任せ下さい。完璧な侯爵夫人にしてみせます!!いえ、そもそも奥様のお美しさは、何も手を加えなくとも充分なのですが!」
「分かるわ、リリー!頑張って!!」
「応援してる!」
どうしてだろうか、とっても評価が高いとルチアは困惑していた。
「あの、リリー。出来れば、あまり目立たないドレスが……いいかな」
あまり気合が入り過ぎても困ると思ったルチアは、おずおずとそう言ったのだが、全員が同時に首を横に振る。
「何を仰ってるんですか!結婚後、初めての社交の場ですよ。目立たなくてどうするんですか!」
「そうです!奥様の美しさを世間に知らしめるのです!」
「ああ、侯爵家の奥様は素晴らしい方ねと思ってもらう事が、私達の役使命です!」
悪化している……とルチアは早々に諦めた。
「……程々にね。あ、ごめんなさい。そろそろレオ様が休憩する時間だからお菓子を持って行ってくるわ」
ルチアは席を立ち、用意していたアップルパイとサクサククッキーをお盆に乗せる。
「本当に奥様の鏡ですよね」
「愛する旦那様に、お菓子を手作りして持っていく妻……私もそんな妻が欲しいです!」
「分かります!!」
使用人達の言葉に、ルチアは苦笑する。
愛なんてない。彼が好きなのは自分ではないんだよと、言葉に出せないルチアは心の中で呟いた。
「奥様、私が持ちます!!」
「良いわ。自分で持って行くから」
「でも……」
「リリーは休憩してて。レオ様の執務室の場所は分かってるから」
「……分かりました。ですが、何かあればすぐにお呼び下さいね」
「ええ、ありがとう」
ルチアはお盆を持ってレオポルトの執務室に向かう。
今日は前もってお菓子作りをするとレオポルトに伝えており、これくらいの時間に持って行くことを約束していた為、自然と足早になる。
レオポルトの執務室は寝室などがある二階。
扉の前まで来てノックをすると、すぐに返事があった。
「はい」
「ルチアです。入っても構いませんか?」
「ああ、今開ける」
暫くすると、扉が開いた。
「お菓子を持ってきました。休憩しませんか?」
「ああ、ありがとう」
ルチアは中に入ると、テキパキとアップルパイとクッキー、そして紅茶を準備する。
「美味そうだ」
「お口に合うと良いんですが。アップルパイとクッキーです」
レオポルトは、アップルパイを一口サイズに切って口の中に入れる。
「……美味い」
「本当ですか!?」
「ああ。美味い。このクッキーも美味い」
レオポルトは、そのままアップルパイとクッキーをあっという間に完食した。ルチアはその速さに圧倒されて、思わずジーっと見つめてしまっていた。
「ルチアは凄いな。絵も描ける、料理も上手だ」
「褒めても何も出ませんよ?」
ルチアがクスクスと笑うと、レオポルトは彼女に視線を向ける。
「今度の夜会の準備はどうだ?」
「え?あ、はい。リリーが色々と準備してくれてます。私はあまり流行りのドレスとかを知らないので……」
「そうか。私もその方面には疎くてな」
「それは、レオ様は男性ですし。ですがリリーも張り切ってくれてるので大丈夫ですよ」
「そうか。
そうだな……母が亡くなってから、屋敷内では華やかな事から遠ざかってしまったから。こういった事がある方が、使用人達にも張り合いが出るのだろう」
「それは、そうかも知れませんね」
レオポルトの言葉にルチアは頷く。
彼は紅茶を一口飲むと、ルチアに質問してくる。
「ルチアは……使用人達とも仲良くしているそうだな?」
「そうですね。特に女性達は仲良くしてくれてます。領地の女の子達とも仲良くしてたので、懐かしくて楽しいです」
「そうか」
レオポルトの表情が和らぐ。
最近の彼は、ルチアと話している時に表情を和らげる事が多くなった。
まるで人間嫌いの動物が、少しずつ警戒心を解いて近づいてくるのに似ていると、ルチアは密かに思っている。
最初に思っていたよりも彼とは良い関係を築けているなとルチアは嬉しかった。
一年経ち離婚した後、この屋敷を出て行く時は少し寂しく感じるだろうなとルチアは少ししんみりした気分になった。
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