最終話☆【前編(中)】あれから……夢のような曖昧な記憶の中……☆パラレルワールド。
続……夢のような曖昧な記憶の中……。
「せ、先生!見てください!涙が……」
「……そうか、これは……もしかしたら……」
「表情が!今、瞼と頬が動きました!……」
「信じられない……これは奇跡だ……」
「あぁ……先生!意識を……意識を取り戻しました!」
「よし!」
医師が目を覚ました柚葉の状態を診ている……数分が経ち簡単な診察を終えた医師が、柚葉パパへ報告する。
「柚葉さん!やりました!直ぐにちゃんとした検査が必要ですが、大きな一歩を進みました。良かった……本当に良かった……」
「そうですか。先生ありがとうございます!しおん!聞こえるか?しおん!……しおん!……」
「……」
……しおんは言葉にせずに考えていた……
……みんなの表情が嬉しそうだ……
……でも……何も嬉しくなんかない……。
「しおん!応えてくれしおん!……パパがわかるか?……」
「……」
「お父さん。まだ意識が回復したばっかりです……ゆっくりと一歩一歩進んで行きましょう」
「あ、あぁ……そうですよね。わかりました……」
「お父さん……今日はこんな素晴らしい日です。柚葉さんの頬を伝う雫を拭ってあげましょう」
「はい……」
……しおんはまだ何も話さずに考えていた……
……今は話したくないの……
……パパごめん……。
柚葉パパがハンカチで柚葉の頬を撫でた。
『……そうか……わたし……泣いてたんだ……』
柚葉は違和感に気付く。自分の体が思うように動かない……きっとずっと入院をしていた為だろう……いつから入院していたのかは会話をしていないのでわからないが、パパやお医者さんの反応で長い入院になっていることは察している。それにしても体が不自由なのは厄介だった……でもそれも今の柚葉にはどうでも良かった……。
そんな毎日が一週間続いた……柚葉は目覚めても涙を流しているだけで、一切会話をしなかった……。
ある日パパがぬいぐるみを持ってきてくれた。「これはしおんのお気に入りだったやつなんだ」と言い、パパは得意そうな顔をしていた。目覚めてから今日まで、柚葉は毎晩泣いていた。でも今日はぬいぐるみのラモルが一緒だった。ラモルが来てからはラモルを抱きしめていると気持ちがとても軽くなった……その日から柚葉は涙を流さずに眠れるようになっていた。
リハビリを始めた時のことだった。思ったよりも自分の身長や体重、胸の膨らみ、指の長さ……どれを取っても、約五年前に戻ったかのような状態に気付いた。でもそれも今の柚葉にはどうでも良かった……。
リハビリを続けているうちに、少しづつだが柚葉は自分のことを自分でできるようになってきた。病院の先生は柚葉の回復の早さをこう言い表した。
「信じられない回復力だ……まるで脳だけ別の世界で生きていて感覚を養っていたとしか考えられん」
「また先生のパラレルワールド説ですか?」
「またとは何だ!まぁ証明できる根拠は何もないからな」
「でも私。先生のその説。嫌いじゃないんですよ」
「わかったわかった。もうフォローはよせ!」
「ああん……本当ですのにぃ……」
柚葉はいつもいつもぬいぐるみを抱きしめていた。単純にその方が気持ちが楽になるからだった。リハビリ以外の時間は柚葉はベッドの上から外ばかりを見ていた。まだ一切の会話はせずに柚葉パパが話しかけても首を縦か横に振るだけだった。そのことで病院の先生に柚葉パパが相談をしていた。
先生は「首を振ったりするのであれば理解はしているので、何かのきっかけで話せるようになる筈です。焦らずにゆっくりと進みましょう」と言った。
そんな柚葉に元気になってほしいと、柚葉パパは半ば強引に柚葉を車椅子で病院の敷地内の散歩に連れて行った時のこと。柚葉パパがしおんに話し掛ける。
「どうだ〜しおん。外は気持ち良いだろ?今日は風はあるが良い天気だな」
「……」
相変わらずしおんは何もかもに無関心だった。柚葉パパも話し上手ではないのでその会話以外は他にはせずにゆっくりと敷地内を移動していた。
すると突然に強い風が柚葉に吹き付ける。春風の悪戯か、その風に柚葉はぬいぐるみを落としてしまった……手を伸ばしぬいぐるみを拾おうとする柚葉より先に、そのぬいぐるみを拾う者がいた。
「今のすごい風だったな……はいどうぞ!落ちましたよ」
その男性が柚葉の目線の高さでぬいぐるみを渡そうとした時……柚葉はそれを受け取れずに驚きの表情を両手で隠しながら小刻みに震えていた。柚葉パパも驚きの表情でその男性を見ていた……。
「ん?どうしました?こんなに可愛いぬいぐるみ。落としたままではかわいそうだ」
「……うぅっ……」
涙を呑む声が漏れてしまった柚葉。その溢れ出した涙に男性が気付いたが、どうしたら良いのか戸惑っているようだった……。




