最終話☆【前編(上)】あれから……夢のような曖昧な記憶の中……☆パラレルワールド。
あれから……。
柚葉は初めからこの世界には存在しなかったのではないかと思う程に、誰も柚葉を覚えている者は居なくなっていた。
教室の机、ロッカー、下駄箱、コス部の部室や衣装……もうどこにも柚葉が居た形跡はない。
「おかえりなさいませっ!って……」
「ちょっとまった!ちぃちゃんは何でおれを見てがっかりするのかな?……今、おれの方はちぃがより自然にそしてスマイリーに挨拶できていて、成長を感じてほっこりしてたんだけど!」
「そうですか。いや、何となく反射的にです」
「……まぁそうだね。変な間違いとか起きないように男の人にはそんな感じの方がいいかもね。ただ、ちぃの中でおれってそんなにち〜っぽけな存在だったのね。おれのほっこりを返せっ!」
「私のリスペクトはかのんだけだわ」
「はいはい。そうですか〜」
膨れっ面になっているちぃに納得がいってないコウ。待ち合わせていたなゆりがタイミング良く入ってきた。
「失礼します。あ!ちぃちゃんみっけ!」
「あー!かのん!どうしたの?」
「今日は桐宮くんとえんじぇるを見に行こうって約束してて、私はさっきまで予定があったから待ち合わせはここにしてたの」
「やった!じゃあもうちょっとは居るってことよね?」
「うん!ちぃちゃんはほんと可愛いなぁ〜ぎゅ〜っ!あ!ちぃちゃん聞いたよ!今えんじぇるで一番人気なんでしょ?凄いよ〜!」
「全然そんなことないわ。カノンとかいないからよ。カノンがいたら敵わないわ」
本当に嬉しそうになゆりの手を取り話すちぃを抱き締めたなゆりが、ちぃといちゃいちゃしている。その二人を見たコウが首を傾げている。
「うーん。なんだろう〜この差は……」
「ふぉっふぉっふぉ。元気にしてたかの?」
「お!マスターこそ元気そうだな!えんじぇるの調子いい話も邦正から聞いたぞ」
「あやつにはホームページ更新の件や、えんじぇるの宣伝関連でちょくちょく会ってるからのぅ。お前さん達が先陣を切ってくれたお蔭で暫くは安泰のようじゃ」
「それは良かった」
「そう言えば楓のことなんだけど。急にばったりお兄さんと会ったらしくて」
「まじか!?大丈夫だったのか!?」
「うん。お兄さんの方も凄く楓を心配していたらしいの。この前一緒に買い物行ってたのを聞いたし、今はうまくやってるみたい」
「そうか。なんか最近楓が来ないと思ったらそゆことね……うーん。なんだろ〜この疎外感……」
「……少し寂しいね」
「そうだな。だいぶな……でも時間が解決することもあるってところなのかな。良かったんだよな。そうだな。うん。良かった良かった……はぁ……」
「桐宮くん。とても寂しそう……」
「まぁな……」
いつものコウにべったりだった楓がコウを卒業してしまったようで、楓離れが全く出来ていなくため息混じりのコウ。
「あの……桐宮くんも東京の大学に行くんだよね?……」
「ああ。また邦正と一緒の大学なんだけどな。柊も音大は都内なんだろ?」
「うん。桐宮くん達の大学からは少し離れてるみたいだけど……」
「でも、それならまた向こうで会ったりできそうだな」
「うん!」
「あれ?楓は服飾の専門学校だったっけ?おれ達のとこから近いのか?」
「うん。みんな都内だし、地図を見てみたらそんなに遠くはなさそうだった!」
「そうか。それならなんとか楽しくできそうだな!」
夢のような曖昧な記憶の中……。
ここはどこ?……わたしは今……何をしているんだろう……
ダメだ思い出せない……
……まぁいいか……
……もう少しこのまま……こうしていよう……。
小鳥の囀りが聞こえる……風が木々を揺らす音も聞こえる……。
この匂いは嗅いだことがある……エタノールの匂いだ……この感じは……病院かな?……。
閉じていた目をゆっくりと開こうとするが、瞼が重い……何よこれ?瞼をセロテープで固定されているみたいに動かそうと思っても動かない……ぴくぴくと痙攣する瞼。
楓かコウのいたずらに違いないわ……手を動かそうとしても重い……両手もって。いたずらにしては度が過ぎるわね……。
ああ……思い出した……コウやみんなと別れて……
そうかわたしはもう一つの別の世界へ……
また始めから?……そんなのイヤよ……
……悲しい……
……切ない……
……苦しい……。
もうみんなに会えないのか……。
……寂しい……
……わたしってこんなに一人がイヤだったっけ……
……イヤだ……
……イヤだ……イヤだ……イヤだ……
……何も見えない……。
あれ?……記憶……わたしには残ってるのか……。
……どちらが辛いのだろう……前の世界の記憶があるのと無いのと……
体に痛みを感じる……思うように動かない……
……そんなことよりも……
……コウと会えない……
……なゆりとも会えない……
……コス部のみんなとも……
……それって今のわたしには……
『……何もないってことじゃない……』




