二十四☆【前編(下)】泰斗の精神……柚葉最後の日……。
悲しみの表情、切実な想い……。
「悪い……柊がそんな冗談を言うわけないよな。柚葉……どうしたんだ?」
「しおんからは桐宮くんに伝えないでと言わているんだけれど、このまま別れちゃうのは絶対に良くないと思って……しおんこの世界には本当は居なくて!元の世界に帰る期限があるの!」
悩みをずっと打ち明けられずにいたなゆりが、悲しみの表情で切実な想いを吐露する。
「十八才の誕生日の今日までしかしおんはこの世界には居れない!しおんが生まれた時間は十七時五十分なの!でも、この世界に居れる時間は細かくは分からないらしいの……桐宮くん!しおんこのままえんじぇるに来ないで元の世界に帰っちゃうかも!!」
「……なんなんだよ……なんなんだよあいつは……急すぎるし、そんなこと言われても頭の中の処理が……心の準備が追い付かないだろ……」
「私も一昨日直接しおんに会って聞いたんだけど、何もできなかった……しおん居なくなったらきっとみんなの記憶からもしおんは居なくなっちゃうかも知れない!……私……忘れたくない!忘れたくないよ!!」
「柊!待った!来れたのなら、帰れるなら……方法がない訳はない筈だ!」
「でも、きっと駄目だよ対価を奪われてしまう……そもそも魔術の書はもう消えてしまったんじゃ……」
「畜生……そうだった。世界中を探せばどこかにはある筈だが……対価か……」
「桐宮くん!兎に角早く!早くしおんに会いに行かなくちゃ!」
「……あほ柚葉……よし!行こう」
「うん!」
コウが先頭になりなゆりが追いかける形で装飾をしている部屋を通ったその時、邦正でも普通ではない空気を察した。
「おいこう!あら?柊ちゃん!?」
「にー!ちょー!楓を置いてっちゃダメじゃん!」
「おう!みんなで行くぞ!!」
「行くぞってどこに!?」
「柚葉んちだ!柚葉がこの世界から居なくなっちまう!」
「え!?」
「とにかく急ぐぞ!説明も装飾も後だ!」
「わかった!」
「あいあいさ〜!」
コウがマスターに部屋を空けることを端的に告げ、四人で急ぎ向かった柚葉邸正門前。コウが一刻も早くとなりふり構わずに叫ぶ。
「柚葉ーーー!!!」
「「しおんーーー!」」
その後になゆりと楓が続いて叫ぶと、それに気付いた庭の手入れ中の執事が近づいて来た。
「これはこれは先日の方達ですね。本日は如何しましたか?」
「単刀直入に言う!頼む!柚葉しおんに会わせてほしいんだ!」
「確認無しではそれは出来ません。私にも任務があります」
「ではお聞きします!その任務に柚葉を守ることも含まれている筈です!このままでは柚葉がやばいんだ!早急に理事長か柚葉に確認してくれ!但し、そんな猶予はないので連絡がつかなかった時はおれ達にボディチェックでも手錠でもなんでも構わないから、早急に柚葉と会って話させてくれ!頼む!!」
「どうやら只ならぬ状況のようですね……分かりました。確認します。少々お待ち下さいませ」
コウはまだ諦めてなどいなかった。
「執事さん!お願いだ!もし貴方の愛する人が!この世界から去ってしまうのが今日だったとしたら!貴方がその人に会うためにこんな風に一刻を争い、走り続けてここに辿り着いたのだとしたら!その確認を待っていられますか!!その確認の為に!もう二度と柚葉に会えなくなるのなら!……おれは貴方を!貴方をきっと許さない!!貴方を!!……」
「桐宮くん……執事さん!私もその時は貴方を許せないと思います。私からもお願いします!」
「「お願いします!」」
コウは門を両手で掴み叫びに近い説得を試みる……その後はなゆりが、そしてその後は楓と邦正が執事へ懸命に想いを伝えた。
「時にはルールを破らなければ得られないモノもある……そんなところでしょうか。分かりました。私も同行させて貰いますが構いませんか?」
「ああ!勿論だ!恩に着る!」
想いがルールを越えた……急いで柚葉の部屋に向かう一行。執事に頼み柚葉の部屋へ案内をしてもらう。コウが柚葉の部屋の扉をノックした。
「柚葉!おい!柚葉!お前ふざけるなよ!おれと何も話さないまま行っちまうのか?何でだよ!何なんだよ!……」
「……」
柚葉からの言葉は全く返ってこない。柚葉はその扉にもたれ掛かり声が漏れないように口を塞ぎながらコウの言葉を聞いていた……。
「柚葉!ここに柊も楓も邦正もいる!柚葉っ!!……」
「……」
コウはその扉を間隔を開けてノックを繰り返している。ノックと言うよりはコウの焦りからか、毎回ドンドンと比較的に低く強い音で木製の扉を叩いていた。
暫くすると啜り泣く呼吸音が微かに聞こえて来た……耳を澄ますコウ……。
「……柚葉……お前そこに、近くに居るのか?……」
「……」
「悪い。皆に少し離れてて欲しい。柚葉と二人で話したいんだ」
コウはそう言い、皆もそれを了承した……。




