二十三☆【後編(下)】突然パパから告げられた真実……山奥の古城……。
黒い影……。
黒い影は泰斗だった。柚葉と泰斗は幼い頃からの親友。
柚葉は通常より強い愛情の力を持っており、その愛情をコウに。
愛情に最も近い友情をなゆりと泰斗に抱いていた……。
過去にコウと柚葉は共に一緒にいることを約束していた。
泰斗だけはその場を耐え切れずに走って逃げ出してしまう。
柚葉に偏った愛情を抱いていた泰斗は悲しみを振り切れずに、魔術に手を染め思いも寄らぬ柚葉の記憶までも奪われ、我を忘れ心と生命までも奪われ、邪な存在となっていたのだった……。
星と月と太陽から産まれた子★
十三★魔王再び……。
あれから魔王が三人が揃うことのないように太陽の子の記憶を消したと仮定し、魔術について調べ始めた月の子。太陽の子が受けた術の作用を確認する……この術に間違いない。
何故あの子を狙ったんだ?あれから僕らは一度も会わなくなった……であればあのタイミングでの発動……魔王の挙動に見た面影……。
「そうか……であればもう一度……」
辻褄が合うある一つの推測に辿り着いた月の子。
魔王の古城の重い扉を開け、今度は中まで三人で向かい挑みました。
「二人のことは必ず僕が守る。一度目の戦いで魔王の動きと行動パターンは掴んでいる。二人にはここに居てもらうことに意味があるんだ。ここで見ていてほしい」
「何を言ってるのかはわからないけど……あなたがそう言うのならここにいるわ」
「うん。私も問題ないわ」
「さあ、魔王よ!もう一度手合わせをしてもらおう」
魔王は頭の中から直接喋っているようなテレパシーのような声で語りかける。
「我は汝には負けぬ……」
「そうかもな。そうかも知れないが……今回は太陽の子も居るんだ」
「ぬぅおおおおおお!!!痛む……何故だ!や、やめろおおおおおお!!!」
酷く苦しそうにもがき始める魔王。
「やはり……」
「ちょっと、なんなのよ?説明しなさいよ!」
「忘れていた記臆の中の僕らが約束をした日から数日後……この穏やかだった関係に、亀裂を入れることになる儀式が行われていたんだ。苦しみや悲しみから我を忘れた太陽の子の幼馴染み……空の子が行った魔術の作用は……」
「——『愛する思い』と『愛する思いに関わる記憶全てを奪う』——
——奪われたもの甲は奪われた自覚はある。ただし、奪われたものが愛した相手側乙は、愛された思いに関わる記憶だけを奪われていてその自覚はない。乙は誰かを愛することは可能——
——奪われたもの甲が『愛する思い』だということを他のものに明かすと、二度と戻ることは無い——
——奪われたもの甲が愛した相手に会ったとしても、互いに何も解らなく初対面と同等——
——『愛する思い』と『愛する思いに関わる記憶全て』を戻す条件は、術者の消滅又は、奪われた愛する想いの相手乙との真の接吻——」
「ただこれには!予想外の副作用もあった……君は星の子へ抱いていた愛情のような友情を空の子にも抱いてた筈だ、魔術に手を染めてしまった空の子自身も君との大切な記憶を奪われてしまっていた筈なんだ!ここからは憶測だが、我を忘れ、魔術に手を染め、生きる目的だった太陽の子への大切な記憶まで失った空の子は、行くあても無く、孤独に耐え切れずに、邪な王に心と生命を利用されてしまい魔王に支配され、おそらく……既に命までも奪われている……」
「目の前に居るのは魔王などではなく!君を好きで仕方なかった一人の男……空の子だったんだ!!今の空の子を止められるのは君しかいない!気が動転している今なら魔王は何も出来ない筈だ!頼む!!魔王の心に触れてみてくれー!!」
「心に触れる……もう何なのよ……あんたは何を見ていたのよ!ぅ、うっ……わたしはずっとあんたと一緒だった!愛情か友情かの区別なんてまだできなかった!!ぅ、……んっ……急に居なくなったら寂しいに決まってるじゃない!返事をしなさいよ!もう……ばかぁーーーっ!!」
太陽の子が泣きながら悲鳴のような声で叫び魔王へ手を伸ばすと……その伸ばした手と叫びの願いは魔王の中に潜む空の子の意識まで届いていました。魔王は太陽の子に想われていたことを改めて知り嘆き苦しみました。
魔王は眩しく暖かな光を放ち、元の男……空の子の意識や表情に戻りました。心なしかその表情は迷走から抜け出したような潔さを映していました。
「……あんた。もしかして……戻ったの?……」
太陽の子の目の前の魔王だった者がゆっくりと己の存在を確かめるように口を開きます。
「……ああ……そのようだ。こうなるとは思わなかった……俺はなんて馬鹿なことをしたんだ……君を……皆を悲しませてしまった。この責任は俺が必ず取る。もう俺の命は魔王に奪われている……魔王は孤独の悲しみから生まれた心の迷いに巣食う。君は俺のことも想ってくれていたんだな……俺を今まで支配していた迷いはもう無くなったようだ……本当にすまなかった。君ともっと……皆ともっと共に居たかった。俺はもう空に帰る……俺はこれからお前達の空になり見守り続けることを誓おう……俺は君のことをずっと好き……だった……ん……だ…………」
太陽の子に想いを伝えながら次第に透けるように消えてゆく空の子。
太陽の子は地に座り込み消滅してゆく空の子を抱き締めるように縋り付こうとして倒れ込み叫んだ……。
「待って!嫌ぁぁぁーーー!!!」
太陽の子の腕の中には空の子がいつも身につけていた指輪だけが残りました。
その指輪を抱き締め地に倒れたままで泣き噦る太陽の子を、月の子と星の子が歩み寄り、星の子が太陽の子を優しく抱き締めました。太陽の子の涙が枯れるまで二人は側から離れられませんでした……。
魔王は空の子でした。太陽の子と空の子は幼い頃からの親友。
太陽の子は通常より強い愛の力を持っており、その愛情を月の子に。
愛情に最も近い友情を星の子と空の子にも抱いていました。
過去に月の子と太陽の子は共に一緒にいることを約束していた……空の子だけはその場を耐え切れずに走って逃げ出してしまう。
太陽の子に狂おしい程の想いを抱いていた空の子は、悲しみを振り切れずに、魔術に手を染め、大切だった太陽の子への想いも皆と過ごした記憶までも奪われてしまい、我を忘れ心と生命までも奪われ、邪な存在となっていたのでした。
三人は空が一番大きく見える場所に石でお墓を作り、空の子の指輪をお墓に外れないように括り付け弔いました。




