二十三☆【前編(上)】突然パパから告げられた真実……山奥の古城……。
突然パパから告げられた真実……。
泰斗がいなくなってから数十日が経ったある日、柚葉パパがリビングで食後に話しを始めた。
「しおんにずっと話そうと思っていたんだが、伝えられなかったことがあるんだ」
「え?何?」
「タイミングを見計らっていたんだがずっと言い出せなかった……」
「何よ……止めてよ」
「ただ、もう時間がないんだ」
「時間って……」
柚葉パパが両肘をテーブルにつき、言葉を探すように、整理するように目を瞑り、そしておもむろに語る。
「何から話せばいいんだろう……そうだな。しおんが小学生の時、ずっと体調が悪く病院に入院することになった。それからいろんな診察や検査をしたが原因不明だった……それからママが色々な方法を試したが、体調が治らなかった。しおんはやがて昏睡状態になってしまったんだ……」
「ならなんでわたしは今ここにいるのよ!」
「そうだね。ママのしおんへの愛情の賜物とパパは思っている。ママはしおんが元気になる可能性が少しでもあることは全て試した。それでもしおんは目覚めなかった……幾つか試した後にママは魔術に辿り着いた。そしてしおんを目覚めさせる手掛かりを見つけたんだ。そしてママはしおんを魔術で並行世界へ転移することを選んだ。その時にしおん一生分全てを転移させることは不可能なことがわかった。せめてしおんが十八才になるまで……とママは願い、その願いが叶ったんだ。ママはしおんが一人だけでは心配だからといってパパに『お願い……しおんを側で見守ってほしい』と、言った。パパはそれに頷いたんだ……」
「っ??ちょっと!何よそれ?そんなことできるわけな……」
柚葉はできるわけないじゃないと口にしようとしたが、既に魔術で色々なことが起きている現状がその言葉を塞いだ。パパがそのまま話しを続ける……
「端的に言う。パパとしおんはこの世界には存在しない。もう一つの世界からこの世界に転移して来たんだ」
「……」
柚葉は言葉を失うしかなかった……ハッと我に帰り疑問を投げ掛ける。
「そんなわけないじゃない!ならこの世界の私とパパはどうなったの?」
「この世界のパパはパパの代わりにもう一つの世界に行った。この世界のしおんは存在しないんだ……授かっていなかった世界なんだ……」
「……わたしはいない?……」
「この世界のパパとママはずっと子供が出来なかった……その失意の中でママは、もうひとつ世界のママと魔術で意思確認のやり取りをしていた。そしてある日、ママもパパも双方同意の上で転移が行われたんだ……それは『しおんにせめて恋をすることの素晴らしさを知ってほしい』と願ったママの配慮なんだ……」
「なによ。それ……」
「パパはあまり上手く伝えられていないかもしれないが、この世界に居れるのは、今日を入れて残り三日……しおんの十八才の誕生日までなんだ……」
「あと……三日……ママ……」
「しおんの誕生日がきたらまたパパと元の世界に戻ることになる筈だ……」
「そう……わかったわ……」
柚葉がゆっくりと自分の部屋へ向かう。柚葉パパが柚葉を呼び止めようと名前を連呼していたが柚葉はそのまま部屋に向かった……。
「しおん……すまない……このことを早めに伝えたとしたら、しおんがこの世界の何もかもをどうでもよく考えて投げ出してしまうかも知れない……諦めてしまうかも知れない……最後までしおんには何も伝えない方がしおんは幸せなままで居られるのかもとも考えていたんだ……だが、今のしおんには素敵な仲間が出来たようだ……これからどうするのかはきっと……しおん本人が選ぶべきだ……」
柚葉は部屋でベッドにうつ伏せになり考えていた……。
途方にくれる……その言葉が当てはまりそうだ……思っていたより柚葉は自分が冷静だと感じていた……
ママはきっと私の為に……パパだってわたしの為に……。
コウとなゆりやみんなに会えなくなる……でもきっと、みんなは学校のみんなが泰斗を忘れてしまったように私のことなんて忘れちゃうんだ……それなら何も言わなくても……いいのかな……。
そんな想像を繰り返していた……。
「私はバカだ!バカだバカだバカだバカだ大バカだ!!」
しおんは一時間程悩み答えに辿り着き叫んだ。
「あの子には言わなきゃダメに決まってるじゃない!……」




