パラレル閑話☆【後編(中)】とある冬の日……。
トナカイ優勢?……。
「あら〜みんないらっしゃい!これは私から。今までえんじぇるを色々と盛り上げてくれたお礼よ!」
「い、いや!ソ!……そんな……そんなことっ!」
美羽ママが料理を持って来た。色々と作ってくれたようで次々にテーブルへ運んでくれている。コウの違和感しかない反応に柚葉が黙っていなかった。
「コウ。あざといしキモい!」
「あぃ……」
「きゃはは。に〜今日ダメな日だ〜!」
「ダメな日とか言うなし!うぅ……誰にでも調子ってのがあるんだよ!きっと!」
「桐宮くんがんばれ〜」
「うぅ……確実に柊が慰めモードだぁぁ……お!美羽ママ!チキンじゃん!クリスマスっぽい!」
「あらトナカイさん達。カワイイわね〜」
「やばい。今は美羽ママの優しさが心に響く……」
「あら?コウくんどうかしたの?」
急に美羽ママの正面に向かい、神やエンジェルを崇めるように祈りを捧げる姿勢のコウ。
「いや……笑いの神が降りてこない病で」
「それは良くあるわよ」
予想外な優しさにびっくり顔なコウ。
「良くあるんすか!?」
「あるある。だから大丈夫!」
「なんだろう……この抱擁力と安心感」
優しい笑顔の美羽ママに、何かに目覚めたのか祈りを捧げ続けているコウ。
祈りの最中でも視界の隅でなゆりがもじもじし始めたのをコウが見逃さなかった。
「ん?どうかしたか柊?また柚葉になんかされたの?」
「ううん。あの……チョコレートケーキを作ってみたんだけど……美味しくできてるかは自信ないんだけど……」
「あ!そうそう。少し前になゆりがパーティーの日のケーキを作りたいって言い出したのよね。なゆりなら美味しそうだから普通にお願いしたわ!みんなで食べるわよ!」
「それはいいのう。コーヒー欲しければわしが淹れるからのぅ」
「私飲む!かのんは?」
「マスター!私も頂いてもいいですか?」
「うむ」
「やったねちぃちゃん!コーヒー飲みながらのケーキは最高だね〜!」
「ふふ。かのんかわいい〜」
ブレないなゆりの女子力に、コウが仏のような笑みで腕を組み頷き続けている。女子はみんな甘い物が好きなようで、スイーツがあることを知りとても嬉しそうだ。
「あ!そう言えばおれ、来る時に飲み物を適当に買って来たので、みんな飲みたいのあったら適当にどうぞ〜!」
「気が効くぜに〜!コーラプリーズ!」
「おう!……あ。取って来いってことね」
「きゃはは〜」
「あ!忘れてた!美羽ママ!さっきから火に掛けてたコウくん特製のドリアは?」
「丁度できたところよ!とっても美味しそうだったわよ〜今持って来るわ!」
「おお!に〜って何気に料理するんだよね〜!に〜の食べてみたい〜」
ここぞと言うタイミングで片手を顔に添え指はピンと伸ばし、厨二的なポーズでニヒルな笑みと共にコウができる限りの低い声で告げるが、忘れてるのか知っててやっているのか、トナカイのコスがコミカルさを煽っている。
「楓!……フフッ。気をつけろっ!……胃袋を掴まれるぜ!……胃袋……いくつあっても足りないぜっ!」
「あはは。私も桐宮くんの食べてみたい」
「ふはははは!ドリアはパーティー感ハンパ無いからな!皆で食お〜!なんかかなり豪華でない?あら?ケーキって食後に食べるんじゃないの?」
「女子は甘いの食べてチキンいって、また甘いの食べてをできるもんなのよ。覚えときなさい!」
「へ〜。女子やばっ!」
「おれもそれいける口だけどね〜」
「そりゃ邦正はそうだろ」
えんじぇるのテーブルを六つ隙間無く並べて大テーブルにし、料理やケーキや飲み物で次々に埋めてゆく。
美羽ママとマスターが梅酒やビールを持って一緒に料理をつまみに来た。皆で大テーブルを囲む。
「私も混ぜて〜!」
「またママお酒飲んでる〜」
「え〜杏。今日はいいの!」
「随分と楽しそうじゃのう」
「そりゃそうだろマスター!えんじぇるもちゃんと賑わってるんだし、勝利の美酒にでも酔いしれようぜ〜!」
そう言ってコウがマスターにビールを注ぐ。
「うむ。おお。すまぬのぅ」
マスターのビールを注ぎ終えたコウが、皆の様子を見て仕切り始める。
「よし!皆でいっただっきま〜すしようぜ〜!用意はいいか〜!……せーのっ!!」
「「「「「「「「「いっただっきま〜す!」」」」」」」」」
コウとなゆりと美羽ママが手分けして取り分けを始める。コウがケーキ入刀をやりたいと言い出したので、コウがケーキを切り取り分ける役になった。美羽ママがチキンを取り分け、なゆりはサラダ担当だ。
皆に配り終え、各々好きな物から食べ始めた。
「チキンうまっ!」
「あら、それは良かったわ!」
「おおー!にー!ドリア美味いぞ〜!」
「楓。リアクション違うだろ?……胃袋掴まれた〜ぁ!!……だろ?」
「きゃはは!でもほんとおいし〜よ!さすがに〜!」
「何よその茶番劇」
「柚葉にはやらん!」
「なゆりのを一口もらうからいいわよ〜」
「どうぞしおん。はい!あ〜んして!あ〜ん……」
「何よなゆりのその感じ。ちょっとなんか食べづらいじゃない!」
あーんに躊躇いつつも、なゆりの好意は拒もうとせずに、なゆりを受け入れる柚葉。
「もう……わかったわよ。あーん……ん!美味しいじゃない……シャクだわ!……」
「お〜いみんな〜。リアクション間違ってるぞ〜」
本日なぜか空気読み絶好調の邦正。
「胃袋掴まれた〜ぁ!!」
「あなたの胃袋を掴んだ覚えはありませんっ!!って、邦正はドリアを食ってから言えな!」
邦正がドリアを食べずに喋りたいだけでコウのフリに乗っかったのを見抜き、間髪入れずにコウが応えた。
早くもちぃはケーキを口に運んでいた。
「ケーキおいし〜!私かのんと今度一緒に作りたいな〜」
「良かった!うん!今度一緒に作ろう〜!」
賑やかな時間は続き、みんな一通り食べ終え、邦正は自主的にちゃんと正座に戻っていた。コウも笑いの神に見放されていることを自覚しているので、邦正と一緒に自主的に正座をし始める。ふと楓の視線に気付いたコウ。
「楓〜何見てるんだ?さては……お前ももしかしたらこっち組かもな……な!トナカイ!」
「ふふ。だね!トナカイ!」
「あら?……使い手の称号はもう無いのか?」
「だって。どう見てもトナカイでしょ」
「だよな……」
「きゃはは〜わちしもトナカイ着たくなってきた〜!」
「わぉ。言ってみるもんだな。ここでまさかのトナカイブーム!越すのか?サンタ率を越えてしまうのか?……」
「それはないわ!トナカイは三つしか買ってないわ!」
「「「もう一つキターーーっ!!」」」
楓が仲間になりたそうにこっちを見ている的なやつだったので、仲間に誘ったコウ達。楓も便乗し三人で正座をしている。
「なんかあれだな……」
「うん。あれだね……」
「うしし……あれだね〜……」
パッと見、反省させられているように見える三人が正座をしながら楽しそうにコショコショ話をしている。コショコショ話をしているのに、ギリギリ皆に聞こえる声量で話し、視線でも柚葉やなゆりへアピるコウ。
「今日いち楽しめてるのって……オレらっぽいよな」
「だね!トナカイ!」
「だね〜!トナカイ〜!」
「何なのよ……このサンタへのイヤな圧力は……」




