二十☆【中編(中)】ねむりひめ……。
次の日の校舎の屋上……。
コウと邦正が途方に暮れながら屋上で仰向けになっている。
「あー。まじで何もわからん。昨日から柊には避けられてるし……」
「こんな時は空を見上げるのが定番だよね〜」
「だなー。それで雲の形がヒントになったりとかするのがラブコメの定番なんだけどな」
「ラブコメだったらおれの嫁は誰だろう」
上の空でほぼ聞いていないコウが適当に答える。
「好きなやつを選べばいい。複数でもいいんだぞ」
「まじで!なら……全員っ!」
上半身だけ起き上がり邦正が力強く叫んだ。
「それは幾ら何でも欲張り過ぎだ。ワンクールでは収まらんし、構成を練るおれが困る」
「えー。こうが構成考えるの?」
そう言って邦正は再度仰向けになる。コウは相変わらず適当に答え続ける。
「不服そうだな」
「それはそうでしょ。売れっ子作家に書いてもらわないとアニメ化した時に途中で終わったりする時代だからね」
「だな。思いの外、話が膨らんでしまった……おれから話を断とう……」
「だね……」
昼休みだが吹奏楽部の練習する音が聞こえている。冬服のジャケットだけではもう寒く、セーターやマフラーがないと冷える季節になっていた。しばらく二人がぼーっとしていると屋上の扉が開く音がした。コウも邦正も特にその音に反応することはなく空を見上げ続けている。
「おい。のんびりと何をしている」
「ん?あー。泰斗か。見れば分かるだろ。途方に暮れてるんだよ」
「そんなことを聞いているんじゃない。まあいい。柚葉の眠った理由が分かったぞ」
だらだらしていたコウが上半身だけサッと起き上がった。
「お前!本当か?医者にも分からなかったんだぞ」
「今思えば医者に分からなかったところで気づくべきだった」
「お前。まさか……」
「ああ」
「でも何の根拠がある?」
「根拠か。俺には今見えてはいけなそうなものが見えているって言ったら信じるか?」
コウが泰斗へ視線を向けると、泰斗はコウを真剣な面持ちで見ていた。コウは泰斗が冗談を言っているようには見えなかったので核心に触れる。
「では聞こう。お前には何が見えたんだ?」
「体長二十センチ程のサキュバスだ」
「ほう……そのサキュバスが見えたのは昨日のことか?」
コウが左手で頬杖をつきあぐらをかいて座り睨むように見上げた。邦正もただならぬ二人の会話に上半身だけ起き上がった。泰斗は立ったままポケットに手を入れ二人を見下ろし淡々と告げる。
「ああ。昨夜はそいつと一緒に過ごし柚葉を救う方法の手掛かりを探していた。柚葉を起こせそうなんだが、お前らも手伝ってくれないか?」
コウは意味ありげに含み笑いをしながら、
「ふふっ、手伝うに決まってるだろう?こんな退屈な日々はうんざりだ。ところでサキュバスってなんなんだ?ゲームやアニメの世界のイメージと一緒か?」
「ああ。おそらくな。命を奪われる可能性だってある戦いだ。いいのか?」
「このままにしておいたら柚葉の命が危うい。放っておける訳がないだろう。柊と約束をしたしな。柊とは微妙な空気になってるし……楽しかった今までが柚葉の眠りのせいで急に遠くなってしまった。おれが柚葉を助ける」
コウが立ち上がると邦正も勢いよく立ち上がりわざとらしく親指を立てたポーズと太い声で告げる。
「今回はこの名ハッカーは不要かな?」
コウと泰斗は一旦目を合わせ、
「どうだろうな。まぁ。一応連れてくか」
とコウ。続いて泰斗、
「随分と答えに躊躇うフリだよな」
邦正の表情がいつものいじられ易い困り顔に変わり、
「っておいっ!二人!死ぬかもなんだよ?たまにはおれだってカッコつけたっていいじゃん!!」
「わかったわかった。数少ない邦正ファンが微妙に萌えたところで。よし!さっきまでは正直八方塞りだったんだがやっと光が見えてきた!こうなったら一刻も早く……」
泰斗がテンション上がってきたコウを遮る。
「まて!上がってきてるところ悪いが向こうももしかしたら勘づき始めてるかもしれない。策を練るのも小声で頼む」
声量を落とし、三人はより近づき話しを続ける。恐怖心も勿論のことだが、好奇心の高まりを表情から感じ取れる。
「そうだな。悪い。相手は一人か?」
「ああ。今のところな。それと今のうちに言っておかなければならないことがあるんだが……おれはそいつの仲間かもしれない」
「「はーぁ!?」」
驚きを隠せない二人。三人で「「「しー!」」」と口元に人差し指を立て周囲を気にしながら会話を続ける。周りにリーシャがいないか辺りを見渡した泰斗。
「昨日そいつを初めて見たとき……そいつから俺に話し掛けてきたんだ。俺のことをルシー様と呼んでいた。話していくうちに分かったんだが、おれが記憶をなくす前はそいつと共に行動をしていたらしい。そいつはなぜか俺を慕っていた。それを利用して多少の情報を聞き出したんだ。そいつの根城も突き止めた。そいつが柚葉を眠らせたと言っていた。おそらく魔術だ」
「そういうことか。どうやって共に過ごしたのか疑問に思っていたところだ。ただ……気になるのは奴の目的は?そしてなぜ泰斗にだけ見える?なぜ泰斗を慕っている?」
「それはまだ分からない」
「ちょっと待った!魔術は生命も奪えたりするのか?」
「そのようだ。魔術はとても危険だ。ただし、魔術を使う際に術者が対価として何か相応な物を奪われる。いくら強力な魔術が使えるとしても乱発できるものではないし、安易に使うこともしない筈だ」
「そうか……ふふ」
コウが何かを企んでいる表情で笑みを浮かべながら告げる。
「色々と慎重にいかなきゃだな。だがやっと尻尾を掴んだぜ……泰斗。おれに考えがある……」




