十八☆【前編(中)】泰斗の記憶……文化祭準備……。
柚葉邸……。
柚葉邸の正門前に着き、コウとなゆりが驚きの声を上げる。
「でかっ!」
「しおんってそうかなぁとは思ってはいたものの……やっぱりそうだったのね」
大きなお城みたいな家と言えば大体の想像はつくだろう。門から建物の入り口までは石畳で作られた通路があり、その通路を仕切るように緑色の植物が綺麗に整備され並んでいる。庭園のようだ。
おそらく執事であろう年配の男性が柚葉に気付き頭を下げながら告げる。
「お嬢様お帰りなさいませ。今日は沢山のお友達ですな」
「ちょっと訳ありでね。客室を使うけど問題ないかしら?」
なゆりとコウが目配せをしている。
「特に今日はもう予定は無かった筈ですので、宜しいかと」
「わかったわ」
柚葉はいかにもこれが私の日常ですと言わんばかりにいたって自然な振る舞いをしていた。コウもなゆりも敢えて何も言わずの姿勢を貫く。多少緊張をしているのかなゆりの表情は焦っている時のなゆりだ。
しばらく進むと四人を優雅な真っ白な噴水が迎え入れた。それを越えるとイギリス庭園を思わせる花々の一帯に入る。夜の闇に包まれていても柚葉の引かないでねの意味は容易に理解できた。
柚葉がセキュリティーを指紋認証で解き、居住スペースへの入り口の扉を開けると絨毯と階段と手摺りとシャンデリアが視線を奪った。泰斗は何度か来ているのかそれどころではないのかここまではほぼ無反応だった。柚葉が部屋の案内を始めた。
「こっちよ」
「お、「おじゃましまーす……」」
まだまだ全貌の見えていない柚葉邸だが客室らしい部屋は一番近くに位置していて、その部屋に入りやっと肩の力を抜くコウとなゆり。近くのソファーでくつろぎ始める一同。
「はぁ……しおん。引くと言うより体に変な力が入ったよ」
「それわかるぅ〜。お城の扉を開けたら数十人のメイドが待ってるかと思った。あー。やっとリラックスできる〜」
「もう……ごめんって。爺の趣味なの。仲良くなるまで簡単に見せられたものではないわ。今紅茶淹れるね」
「うむ。よかろう」
コウがこの場の空気に飲まれ始めたようだ。
「あはは。あなたのだけは淹れたくないこの気持ちは何かしら?」
「やっぱりあれでしょ?……愛情の裏返し?」
「あはははは。笑うしかないわ」
「また桐宮くんは……」
なゆりがまたフォロー体勢に入る。柚葉は紅茶を淹れる準備をしている。
今までの三人のやり取りを終始聞き手だった泰斗が話し始めた。
「お前ら相変わらず仲良いな。なんか中一の頃のことを思い出したよ。お前らあのまま付き合ってるのか?」
「わぉ……」
「……」
コウとなゆりはなんと説明をすればいいのか分からずに沈黙する。その場を柚葉が冷静に収めようとする。
「あー。まあ何も泰斗は知らないんだもんね。あんたにはわたし達が付き合ってるように見える?」
「見えない」
即答の泰斗。
「そうよ。色々あってね。今度落ち着いた頃に詳しく話すわ」
「なんか立ち入ったこと聞いてしまったみたいだな。悪い」
「別にいいわよ隠すつもりもないし」
「しおんは変わらないな。その潔いところも」
「そう?まあいつになってもわたしはわたしだからね。はい。お待たせ」
柚葉がティーカップをそれぞれに渡し始める。
「っはは。そうだな……ああ。なんでだろうな。やっぱりお前らといると落ち着くのな」
やっと安堵からか泰斗が笑みを見せた。
「それは良かったわ」
「光栄です」
「だいぶ元気になってきたみたいだな……って、おれの少なっ!!」
「あっはは。あら?ほんとね。なんでかしら?不思議なこともあるものね」
コウのだけティーカップの十分の一程度しか紅茶が入っていない。
「ちょっと〜。また愛情を裏返してぇ〜」
「あら失礼。もうどっちが表だか分からなくなってしまったみたいだわ。あはははは」
「ううっ……今のおれには突き刺さるお言葉で。うー。笑えない」
「もう。しおんっ!やめてあげて!」
ぎりぎりの笑いを皆で楽しみながら、懐かしみながら過ごし、しばらく他愛もない話しをしていると、理事長が帰宅し、理事長の一言が四人を引き離す。
「おう。今日は大勢じゃのう。いらっしゃい。しおんからお主らの頑張りは聞いておる。だが、もう今日は遅いからのう。淑女を遅くならないうちに送り届けるのが紳士の責務じゃぞ。今日はもうお開きにせい」




