五☆ナンバーワンにならなくったっていい……。
翌日の放課後……えんじぇるにて……。
「嗚呼あああぁぁぁ……どうしておれはこんな簡単なことに気付けなかったんだ。サービス業は基本客足の多い時間帯と少ない時間帯があるように……喫茶店にも混みやすい時間帯がある。昼時や夜食時は勿論、他にはいつだと思います?……そうです。皆さん正解。土日祝日はやっぱり混むんです。ってことはアレですか?学校入れて週七勤務確定ですか?百歩譲っておれの三週間は週七で二十一連勤だとする。そうだよねー。コウくんタフだからなんだかんだ乗り越えちゃうのかな〜。んふっ……テンションおかしくなって来ちゃった〜。まぁおれのことは置いといてぇー。柊と楓どうすんのよぉぉ……二十一連勤?暴君は二十一連勤でも良しとしてぇ〜。んふふっ。あ!やっばいもう一個気づいてしまいましたぁ!ライバル的存在な人はもしかして主婦だったり〜登校拒否とかしてて毎日出勤出来るんですー。みたいなチートメイドとかはさすがにいないよね〜あははっ。それなら不利にも程があるからねぇぇ……」
「初めまして、普段は主婦で新妻やってます。勘解由小路美羽[カデノコウジ ミウ]です。宜しくお願いします!」
「おいーーー!!!ちょっと待って!色々引っかかる!主婦?昨日の幼女のママ的存在だったりしないですかね?」
「大正解!」
「わああぁー!もー!新妻偽りやん!あ、あのぉ。つかぬことを伺いますがぁ。娘さん……登校拒否をしていたりとかしないでもらいたいんですけど……」
「何でわかるの?コウくんエスパーかぁ?杏のストーカーさん?」
「こっのチーター一家めっ!!はあぁぁ……こりゃまずいな……」
え〜今日は昨日いなかったもう一人のメイドママンもいて喫茶にメイドが全て出揃いました。
「どうしたの?さっきから。暴君は二十一連勤だとか。チーターとかまずいとかエスパー◯藤とか」
「最後のは言っとらん!」
早速鋭い柚葉となゆりと楓も獣耳メイド仕様で登場。ん?……出勤でいいのか??
「お、お待たせ。私……これで大丈夫……かな?」
漏れなく恥じらうなゆりに、は〜い柊さ〜ん今日も百点満点!言うことなしでぇ〜す!とはさすがに理性が働き言えず。
「柊は何でも似合うな。文句無しだ!」
「こ〜に〜!楓のは?みてみて〜スカート短くしたのと〜、しおんが谷間が武器になるからって楓のだけハートの窓作った!」
「今日も天然えっちキャラ全開だな。楓も似合ってるぞ!今日は天然えっちと人工えっちのコラボだな」
柚葉まじぐっジョブっす。それをピュアに着こなす楓は天然記念物に認定してもらいたいレベルだ。
「どう?わたしの裁縫の腕は?この部のコスは基本わたしが作ってるのよ」
柚葉の手先の器用さに、はーい。悩殺レベルまじパないっすぅ〜!とは、理性が働き言えず。
「柚葉は何でもできるな。良いお嫁さんになるぞ」
「ちょ!……ちょっとあんた急にやめなさいよね……」
「そうやってデレるとこも含めておまえ完璧だな」
「も、もう、やめてって!あまり褒められるのホント慣れてないんだから……」
熱を持った顔を手で扇ぎ冷まそうとしている柚葉。おおお。真っ赤になる柚葉は普段ツンツンしてる分、差が激し過ぎてかなりの悩殺力だ。
「あー。コウくん思い出しちゃったー。柚葉は置いといて……柊と楓は土日祝日はどうする?でれるのか?そしてー。柚葉は土日祝日も出勤なのはわかってるんだけどー。土日祝日はデレるのか?」
「ちょっと!わたしだけ変に扱わないでよね!」
「そうか。ピアノ弾かなきゃだけど……そうよね。出ないと一番取れないもんね……」
「柊ピアノもやってるのか」
「に〜は出るの?」
「おれはアレだろ。みんなを誘ったくらいだし……休みだろ」
「「「おい!」」」
三人のタイミングがピッタリ合う絶妙なトス上げのようなボケに三人が同時に応える。
「お!早くも一体感出て来たな。もうね〜おれはね〜出るに決まってるでしょう出るにぃ!さっき一人で既に二十一連勤かぁとテンションおかしくなってたところですぅ〜。もうナンバーワンにならなくてもいいかもよ……」
「何よあんたもう弱音を吐くつもり?」
「あい」
「昨日の威勢はどうしたのよ?」
「柚葉。ライバルメイドのスペック知ってる?」
「あんたバカ?知る訳ないじゃない!!」
「ですよね〜。ちょっと出勤日数がチートな偽り新妻主婦と、登校拒否幼女なの。言い方変えればおれたちはマイナスからのスタートってことっす」
「そんなの想定内だわ!」
「マジっすか柚葉しゃん!」
「当たり前じゃない!あんたがなんとかしなさい!」
「わぁー!出たぁー!ツンデレの都合の良いように遊ばれた。もう!返せぇ!!おれの純心っ!」
そのやり取りを近くで聞いていたなゆりが、片手で口を隠し笑いながら告げる。
「あはは。私もでれるから一緒に頑張ろうよ!」
「でれるってどっちの?出れ?デレ?デレがいい……」
「で、デレはしませんっ!私も出れるから」
「うん。楓は?」
「に〜が出るなら決まってるし〜」
「よおーし!ううう……ふっかぁぁーつ!今日から本気に策を練る!敵の秘密を探り出す!こっちの良い部分を引き出す!世の中を欺くぅ!プロデュース魂が燃えるように熱いぜ!」
「やる気が零から急に百に行ったわね」
「という訳でぇ。撮影会やるぞ!」
「「「ええ!」」……何でよ?」
「この近代ネット社会!上手く使わんてはないだろう。SNSを上手く使う。ホームページを作る。そこに告知を載せる。無論、画像も載せる。ここはSっ気全開且つ、センスに長けてる柚葉が撮影担当!絶妙なポージングや撮影技術で二人の魅力と悩殺力を充分に引き出し、おれを悶絶させてくれ!おれはその間に調べなきゃならないことがある。柚葉のも撮影係チェンジしたりして撮っといてな!じゃあね〜〜」
「ちょ、ちょっと!もう……しょうがないわね……」
急にやる気スイッチが入ったのか急いでえんじぇるを後にしたコウ。
コウが向かった先は意外にも邦正の家だった。あいつがこの時間に部屋にいない筈がないと、桑渕宅前で叫ぶコウ。
「邦〜正〜!今回のミッションはおまえにかかっていると言っても過言ではない!この前、空から落ちてきた女の子が居ただろう?あと降って来た声も!邦正も関わって良くなったんだ!おまえしかいないんだ!!」
雑過ぎる説明と急な展開に半信半疑な邦正。ただ期待と喜びに胸が膨らみ然程時間も経たずに窓を開けてしまう邦正。だが顔を隠したままで返答する。
「……信じていいの?……」
「ああ!悪かった。やっぱりおまえしかいないんだ!」
「ちょっとうちの前でそんなことを叫ばないでよ。恥ずかしいじゃん」
「邦正の恥じらいにはおそらくニーズは無い!だから恥じらうのはよせ!」
「わかったよ。いいから入って。もう。普通にピンポン押して来てっていつも言ってるじゃん」
玄関を越え階段を登り一番近くのドアが邦正の部屋の入り口だ。ドアを開けるといつも通りの状態だった。
「邦正。お前に足りなものがデリカシー以外にも幾つかある。ここにもし明日女の子が来るとしたらどうする?」
「え!来るの!えー掃除をします!あと、痩せます!」
「だよな。喜べ!そんなことが近い将来に訪れるかもしれん。では本題に入るとしよう」
「うわー!何だよ!こう!気になるよー!気になって痩せちゃうよー!」
想像以上のリアクションにどん引くコウ。でも止むを得なく頑張って続ける。
「おまえコスプレ部って知ってるか?」
邦正がいつに無く真剣な表情でためにためて答える。
「何それ?……えっちなお店?」
「そうだよな。そう来るよな。それがな、うちの部活動にコスプレ部ってのが存在するんだ」
「まじで!その情報が本当なら……人生変わるね」
「だろ?それだけじゃないんだ邦正!いいか。落ち着いてよく聞いてほしい」
コウは眉間にしわを寄せたり、窓の向こうを確認したり。いつもより入念にただただ……時間を稼いでいる。
「なんだよ!早く言ってくれないと痩せちゃうってー!」
はい。そろそろ説明が必要だと思うので補足します。邦正は面白自虐ネタは得意です。ただ聞き慣れるとそのボケに触れることすら面倒になってくるのでこの痩せちゃうネタは基本スルーが得策かと。依ってこのボケにはのりません。ちなみに邦正は約四年前からこんな感じの体格なのでね……
「邦正。女の子が待ってる!おまえが今まで磨いてきたことは何だ?」
「この体格を維持する為の抜かりの無い努力?」
「よし分かった。今日もそのボケにはオトナ対応をさせてもらう。他にもう一つだけあるだろう?」
「あー。パソね」
「そうだよな。その腕前を女の子が求めている。しかも一人じゃ無い!五人だ!」
コウが邦正をやる気にさせるために盛る。一人はもう女の子ではないかもだけどね……あはっ。
「やりますっ!」
「まだ言っとらん!だが気持ちは充分に伝わった。気持ちがあれば何でも出来る。二度は言わんぞ!『今日中にホームページを作ってね♡』とのことだ!」
「えええぇぇぇ!期間短いよー。今日は後六時間くらいで終わるよ?」
「問題ない。その完成度によって女の子の邦正に対する待遇が変わるだけだ。おれはこれからきっと色々と忙しくなる。この手の仕事をこなせるのはおまえしかいないんだ。いつも通りのゲーム三昧でも結構。ただそれだけでは青春の無駄遣いをしているとは思わないか?一度でいい!コス部の救世主になって欲しい!」
「こりゃ徹夜だよ。カロリー足りるかなぁ」
「邦正。ここがパラレルワールドの分岐点だったらどうする?」
「そりゃ足を踏み入れるよ」
「だよな。これがパラレルワールドの分岐点なのかは正直わからない……ただ自信があるのはおまえの人生のスパイスには確実になる。それが人生の分岐点になり得る可能性も少なくないとおれは思うぞ」
「うー……わかったよ。全力を尽くします。お腹に誓います」
「ありがとう。みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶ。載せて欲しいデータやワードは後でメールで送る。他は女の子の喜ぶ顔をイメージして作って欲しい。そうすれば変に邦正色になり過ぎることはない筈だ。期待してるぞ邦正!悪い!先を急ぐから頼んだぞ!」
邦正宅を出てえんじぇるに戻るコウ。一日でも早く完成をさせる為にちょっと煽りすぎたかな?いや邦正はこのくらい言わないとサボるからな。後で眠くなりそうなタイミングでセクシーショットを送ればまた奮い立ってくれるだろう……
邦正宅からはスマホのマップで徒歩一時間ちょっととあったがほぼ本気ダッシュで三十分程でえんじぇるに到着。喫茶店の裏口から入り扉を開けると……
「きゃーぁ!ちょ、ちょっと待って!今。エプロンだけだから……」
「は、はい?柊だよな?はぁ、はぁ……」
まさかの展開。裸にエプロン?柚葉さん〜?
「ちょっと!なんか外からはぁはぁ聞こえてくるわね。あんた、変態なの?」
「否定はしないが。本気ダッシュで駆け付けたんだ。そっちは順調か?」
「わたしを誰だと思ってんのよ!写真集用に今色々と遊びを入れていたとこよ。うちの父さんカメラマンだしね。父親譲りのテクの全てを注いだわ!」
「柚葉流石だな。データ見てもいいか?」
「いいわよ!存分に悶絶しなさい」
「ちょ、ちょっと待ってしおん!私、まだ確認してないから!」
「だーいじょうぶよ〜なゆり。わたしを信じなさい。マイナスなものは全て消してあるわ」
「この短時間で随分と距離が縮まったみたいだな。そりゃ裸にエプロンの付き合いを越えたならそれなりの関係値は作れてるよね……」
なんだかんだで三十分程待ち、なゆりのチェック後のデータに目を通すこう。
「おー!なんだこれっ!普通に売れるだろ?邦正になら多分このクオリティーなら五千円で売れるぞ。この多少ストーリーを感じる取り方は尊敬に値する。てか柊!やばいぞっ!」
「どっちよ!」
緊張感に包まれた表情がこんなに似合う美少女はおそらく他にいないだろう。敢えてどっちとも取れる答え方をし、時間稼ぎをしてしまう。
「いいに決まってる。このデータを内緒で持って帰りたいくらいだ!」
「それはダメです!もう……大変だったんだから……」
今回は柚葉様様だ。
「お!にーおかえり〜!楓の裸エプロンはどう?」
「待ってろ。今、予想以上のクオリティーに悶絶中で中々進めない病なんだ」
ホッと安堵の表情で胸を撫で下ろすなゆり。天真爛漫なまん丸な目で答えを待っている楓。二人共楽しそうなのが何より嬉しい。ん?そうか。盲点だった。なる早で色々とマスターに交渉をしてみようコウは幾つかの策と案を用意していた。そこにもう一つの勝てる要素を思い付いた。
「こ〜に〜遅い。まだ〜?」
「悪い。考えごとをしていた。よし!柊の完成度は細かいチェックの必要は無いな!後はは楓と柚葉だな」
楓はまた違った色を持っていてそこを踏まえたポージングや撮影技術に驚かされる。妹属性を充分に表現している。柚葉自信の写真はどうなのか気になったが、そこも器用になゆり辺りに指導をしたのだろう。柚葉のキャラ通りの攻めのカットが心地いいくらいだ。こんなに手ごたえを感じることがあるだろうか……。
「いいよ!ホントにみんな良過ぎる!柚葉もそうだけど撮られる側も大変だっただろう。今日はそろそろ上がっても良いんじゃないか?」
「そうね……明日に備えることにするわ」
「私も。楓は?」
「に〜がいるならいようかな?」
「そうだな。楓悪い。おれはマスターに大事な交渉がある。今日は皆で先に帰っててくれるか?」
「らじゃ〜!」
「みんな気をつけて帰ってな。あ、柚葉!ありがとな!おまえを心の友として一つだけ聞いて良いか?」
「なによ気持ち悪い」
「おまえ。パラレルワールドって信じるか?」
なゆりと楓も興味があるのか良い答えを期待をしているのか重心を前に乗り出してほんのりと笑顔で答えを待っている。
辺りは満月の明かりがくっきりと光と影を分けていて、とても綺麗な夜だった。聞くまでもなく、答えの予想はもうついていた。いつもの調子で柚葉が答える。
「当たり前じゃない」
「あはは。おまえらしい答え方だな」
皆で一つの目標に向かい進むことがこんなに充実感があるとは思わなかった。
普段は概ね歩いて向かう目的地までの長い道のりを、全力で走り向かってしまうような高揚感や、他のことが手につかなくなる位に意識が奪われてゆく……これが夢中になるということだろう。
今日の皆の笑顔が物語っている……教えてくれている……コウは実際ナンバーワンにならなくたっていいとも思えていた。
例えこの部がなくなることになってしまっても……僕達の中には確実に今までとは違う『何か』が芽生えていると。
ただ……それでも出来ることならば……この部を続けて行きたいと切に願っていた。
星と月と太陽から産まれた子★
三★太陽の子
三人で一緒に旅をしていると、新しい別の楽しさが加わりました。
太陽の子も目に見える傷がある訳ではなく、話していると辛い気持ちが和らぐようで、段々と楽しそうに明るく笑うことが多くなりました。
太陽の子は星の子が持っている虹色の石と似た物をブレスレットにして身に付けていました。
それに気づいた星の子。
「まあ。とっても素敵なブレスレットだわ」
太陽の子は目を細めながら応えます。
「このブレスレットだけはね、何故だか特別なもののようで……肌身離さずに身に付けているの」
「素敵だわ。実はね、私もこの石に似たものを持っているの」
星の子は布に包んであった月の子からもらった大切な石を太陽の子に見せると、
「ホント、とっても素敵な石ね!でもこれでは身に付けられないじゃない。あなたに似合うように……そうね!わたしがネックレスにしてあげる。わたし、あなた達にお礼がしたいの。今こうして楽しく過ごせているのはあなた達のお蔭だもの」
「そんな!お礼なんて……でも、凄い!本当に?そんなことができるの?」
「ええ、できるわ。少しだけ貸りるわね」
しばらくすると太陽の子は満足そうな笑みで、虹色に輝く素敵なネックレスを両手の平に乗せて持ってきました。
「はい!お待たせ!付けてみて!」
「凄ーい!わぁ……なんて素敵なの!ありがとう!とっても気に入ったわ」
星の子は月の子にこのことを話しに行きました。
「ねえ、見て!あなたからもらった石を、あの子がこんな素敵なネックレスにしてくれたの!私、あの子、大好きよ!」
「本当だ、とても似合ってる。お姫様みたいだ」
嬉しそうにクルックルッとと回りながら話す楽しそうな星の子をみると、月の子もとても幸せな気持ちになりました。
その後も、三人はバランスを取り合うように、お互いを尊重するように、時には喧嘩をし、それでもすぐに仲直りをして、親友とはこんな感じなのかな……と、それぞれが思い合えている……そんな素敵な関係になりました。