十七☆【後編(下)】白でも黒でもない色……たーっまやー!……。
円陣……。
「さ〜て今回も〜おれらで武勇伝を〜作っちゃ……」
「おっ肉ぅー!!!」
邦正一人が被せ気味に全力で叫んだ。
「……」
コウは邦正から視線を逸らし予想外に力技な体当たりなボケをもっと寂しくさせようと笑いをこらえている。皆笑いをこらえようとギリギリで耐えているが、楓は声に出してはいないがもうほぼ笑っちゃっている。
「邦正!あれだ。初めての子達がいるだろう?達人っぽさが前に出過ぎていて皆がついてこれん。頼む」
生き生きした目のまま、足元は軽快なフットワークでコウの言葉にめっちゃ頷きながら次の掛け声を待つ邦正。
「さ〜この三年最後の文化祭で〜思い出と言うおれらのプライスレスな花を咲かせ……」
「ぬぅおおおおっ肉ぅー!!!」
タイミングを見計らいなぜかはやる気持ちを抑えられず、プライスレス辺りからもう既に「ぬぅおおおお」を発していた邦正。
「……」
コウは再度視線を逸らしいつになく責めてくる邦正をもっと寂しくさせようと笑いをこらえている。皆笑いをこらえようとギリギリで耐えているが、楓は片手で口を隠し笑っていない風をギリギリで装う。
「邦正!ここぞとばかりに責めて来るけど……どうした?」
「ここが映れるチャンスかと思って。なんかのってきちゃって」
「芸人かっ!大丈夫だ。表面積で確実に誰よりも映れている!こっちも円陣っぽいこと言うの結構大変なんだかんね!もうダメだぞ。本っ当にダメだかんな!」
生き生きした目のまま、足元は軽快なフットワークでコウの言葉にめっちゃ頷きながら次の掛け声を待つ邦正。その軽快さをコウが両肩をがっしりと掴み、全力で邦正のフットワークを零にした。
瞳の輝きを失った邦正。
「よし!これで多分もう大丈夫だ!長くなったけど〜。今年最後の文化祭で〜。この最っ高のメンバーで〜。最っ高の思い出を作ったろうぜ〜っ!!!」
「「「「「おっ肉ぅー!!!」」」」」
「あああー!!!おれ嬉しいかも!」
「あっはは!おれがボケるつもりだったのにまさかのカブった!おもれ〜!」
「あちしももう途中で言っちゃおうかと思ってたし〜」
邦正が再び瞳の輝きを取り戻し叫んだ。軽快なフットワークに戻り柚葉の言う厄介な状態になる邦正。コウも歓喜の声を上げる。その後に楓が満面の笑みで答えた。思わぬところでみんなの気持ちが一つに揃った。
「皆うける!五人が揃って言うとはな。笑いを心得てるな。あははっ!」
「ふふっ、あんた達が考えてることなんてもうおみとうしよ」
「私までおっ肉ぅーって言っちゃった。でも円陣って楽しい。あはは」
「途中邦正のせいでぐだぐだになったから、これが円陣なのかどうかは微妙なトコだからな」
「そうなの?じゃ本当の円陣は?」
「おれ達が楽しいんならこれでいい。いや、むしろこれこそが真の円陣だろ」
その瞬間パッと開く大きな火の花の明かりが眩しく輝いた。
次々にドンっと言う重く低い音と共に一筋一筋空を昇っていく。
そして辺りが明るくなりそれぞれの横顔は花火の色に染められ一際輝いていた。
「たーっまやー!」
楓が楽しそうに夜空に向かって叫ぶ。邦正がその後に応える。
「かーっぎやー!」
コウはなゆりと柚葉が見える位置で見惚れていた……
浴衣に合うように纏められた髪からか、二人の横顔はいつもよりも大人っぽく、浴衣の効果も加わりコウの視線を奪うには充分過ぎる程だった。
「……なんでこうなっちまったんかな……」
コウが一人ふとつぶやきその声にきっと気付いたであろう二人がコウに視線を向けた。
「まぁでもわたしたち二人をなんてとんだハーレム状態よね」
「しおん。そんなこと。女の子が言っちゃ駄目だよ」
「ほんっと、なゆりはいい子よね。ちょっと!そのかき氷一口食べたい!」
「いいよ。あーん。ふふ」
「んーーー!!なゆり多い!頭キーンてなった!」
「えー!ごめん!」
ほんのりと火薬の匂いが辺りを包み込み……
夏の思い出に一振りかけたスパイスのように鼻をつんと刺した。
それは高校生活最後の夏を思い知らせるようで少し痛いくらいで……
追い打ちのように秋虫が夏の終わりを告げていた……。
それでも私達には夢のような希望がある。
明日に向かう想いがある。
今はまだこのままでこうして皆でそれを追っていたい……
ずっとずっと……出来ることならば……ずーーーっとね。
花火の後の帰り道で……。
「お前らを探していた……」
花火が終わりてくてくと歩く帰りの道で目の前から声を掛けて来た人影に目を凝らす。
同級生の泰斗が両手をポケットに入れ立ち構えていた。
コウはとうとう泰斗と女子達を会わせてしまったか……と思い、誤魔化そうと考えようとしていたその時。
「……っ」
息を呑み記憶が絡みつき動けなくなるコウ。表情は硬くなり冷や汗を流し始めている。
予感と違和感を覚えコウは今までの記憶を駆け足で遡っていた……。
星と月と太陽から産まれた子★
十★うるさい記憶……。
毛布に包まり寝ていた星の子。
何の予兆もなく不意に頭の中に溢れてくる映像に、星の子は最初は夢を見ているのかと思い、ただ、瞳を開けたまま見る夢の異様な感覚に呆然としていました。夢だと思いたかった。
星の子は月の子との記憶全てを思い出したその直後、ゆっくりと床に倒れ込みます。
何も言わないまま、言えないまま、今までを見つめ直すように……記憶全てを整理しています。
急に何人もに同時に話し掛けられてしまい戸惑う、そんな風に入り込んでくる記憶がうるさくて、耳を手で塞ぎながら……星の子は何も出来ずに横になっていました。
「今の私に応援が出来る訳がない……だって、私にも約束があるもの……」
一方、月の子はまだ夢の中にいた。記憶なのか夢なのか又は、魔王の術に掛かり幻の中にいるのか。
頭痛がする……ばかな。太陽の子がおれを選ぶ訳がない。そんなことよりも先に魔王を倒す。そう思い身体を動かそうとしても、身体が動かない。何故だ……。
目覚めた月の子の視線の先には木目の天井があった。仰向けになっている……ここは?魔王は?……。
「……そうか……負けたのか……」




