十五・五☆【後編(中)】エピソードゼロ……。
それからのとある平日……。
コウは遊びに行った邦正の家で、邦正といつも通りの一通りのしょうもない会話を終えまったりとしていた。今度の日曜のことを思い出し誰を誘うかを考えているコウ。うーん。邦正じゃ色々と面倒になりそうだからな。よし……決心をして邦正に告げる。
「邦正!悪い。急用を思い出したんだ。これからそこに向かわなければならない。行ってもいいか?」
「なんか今日こうおかしくない?まあいいけど……」
「すまん!この埋め合わせはちゃんとする!」
邦正と別れコウは全力で走り向かう。
すれ違う人達がコウの普通ではなさそうな素振りに振り返る。
目指す場所は決まっている。いつもの時間にコウが訪ねると、いつもと変わらずにピアノの音が聴こえてきた。今日の番犬はしっかり機能していたので、その騒がしさに気付きなゆりが玄関から出てきた。簡単に挨拶を交わしコウが唐突に切り出す。
「仲良くなった奴がいるんだ!今度の日曜日そいつと遊ぶんだけど一緒に行かないか?きっと柊も直ぐ仲良くなれると思う!紹介したいんだ!」
引っ込み思案な性格のなゆりは躊躇い勝ちに答える。
「え?で、でも……私……突然どうしたの?」
「会ったばかりなんだけど、おもしろい奴がいるんだ。柊に会わせたい!きっと仲良くなれる筈だ」
「う、うん……そこまで言うなら。でも私、ちゃんと話せるかしら……」
「その子は女の子だし、きっと大丈夫だ。もしもの時はおれが上手く取り持つから」
「っう、うん……分かったわ」
一方……柚葉サイド……。
「ちょっと……あんたしっかりしなさいよね!」
「うん。でも……」
「あんた男の子でしょ?」
「そうだけど。あれは無理だって。気持ち悪いって」
「ほんっとにもう。わたしが取るわ!」
木の枝に捕まっているカマキリを柚葉が摘んで見せる。
「あんたこんなのにビビってちゃダメよ!好きな子ができてもそれじゃ守れないじゃない!」
「そんなことない!その時は俺だって根性見せる!」
眼鏡の位置を直しながら負け惜しみを言った泰斗。
「どうだかね~まあ、でもそんなところも可愛いらしいんだけどね。あんたは」
柚葉がそう言い泰斗の頭をくしゃくしゃとすると、泰斗は嫌がりながらも顔を赤くしていた。そして柚葉の変化に気づいた泰斗。
「あれ?そう言えば眼鏡どうしたの?」
「あー。掛けない方がいいって言われたのよ」
「そう……」
俯き気味に答える泰斗。柚葉に変化をもたらした人物が気になってしょうがない。
「あ!あんた今度の日曜日はどうせ暇でしょ?わたしと一緒に来なさいよね!」
「いいけど。何すんの?」
「それはお楽しみよ」
「はは。そんな感じの時の柚葉は大体妙なことを企んでいる時だからな。期待をせずに待ってるよ」
「ちょっと!可愛くないわね。今回は本当に楽しいのに!」
幼馴染が故、経験からある程度の予測はつくようだ。
そして日曜日……。
「おーい!柊!行こうぜー!」
なゆりの家に迎えに来たコウが外から叫んでいる。カーテンから顔だけを出し返事をするなゆり。
「あと少しだけ待ってて!」
「おう!」
着て行く服を迷い中々支度ができなかったなゆり。今日はワンピースではなく袖口等にさり気なくひらひらが付いた、柔らかいイメージを引き立たせる白いトップスと、赤いスカート、膝上まであるニーハイソックスを履きいつもよりオシャレをしていた。
「お待たせ。ど、どうかな?」
「スカートも似合うんだな。柊はすらっとしてるからなんでも似合うな。今日は楽しくなるといいな」
「うん!……っふふ」
さっきまでは緊張感でいっぱいになっていたが、安堵からか少しだけ緊張から解放されるなゆり。 期待に心を躍らせているのを感じていた。
せせらぎ公園にて……。
この辺りでは誰もが知る特別に大きなこの公園。噴水が心地よい音を立て緑に囲まれながら笑うように煌めく正午過ぎ、約束通りの時間にコウが現れた。柚葉がコウ達を見つけた直後に叫ぶ。
「何よその子かっわいいー!!」
コウの後ろに隠れ人見知りからか下を向いたままのなゆり。
「だろ?道路を歩いてたら音がして見つけた!」
「ちょっと!あんたどんだけはしょってるのよ。それナンパじゃないでしょうね?あなたから普通の答えが返って来るとは思っていないわ。その子に聞くからいいわ!」
柚葉の目力に気圧され上手く喋れなくなってしまうなゆり。
「あ、あの……桐宮くんが……強引に……」
「おい。柊さん。この流れだと誤解を招いちゃうよ?」
緊張に赤面した顔を強張らせ全力で体から絞り出すように言葉を紡ぐなゆり。
「あの……初めてだと……上手くできないって言ったら……桐宮くんがまたこの時間に来るって……やってみないと分からないって……その時はもう初めてではないって!」
「最っ低!」
「ちょっ!待て!元眼鏡っ娘!柊の心の扉が開くのを待つんだ!!」
「あなたが強引にこじ開けたせいで閉じてしまっているのかしら?」
「違う!おれは優しくした!」
「何をわたしにカミングアウトしているのかしら?」
「だぁーん。もう……この負のスパイラルからは抜け出せない気がする……って。あ、あれ?その眼鏡の男は誰?」
「ああ。この子が私の幼馴染の泰斗よ」
「なんでメンズなん?それじゃハーレムにならないじゃん……」
「あんたの思惑なんて幻想ごとぶち壊してやるわ!」
「しおん。何?この変態」
会って早々変態呼ばわりされたコウ。
「おおっと!危ない。ははっ……眠れる獅子が雄叫びを上げるところだったぜ」
「はいはい。ここに居る厨二病が今回のお楽しみよ。どう?」
「ほらな。しおんのお楽しみなんていっつもこんな感じだよな」
「おい!元眼鏡っ娘!加勢が必要か?」
「どちらかと言うとあなたがこの話題での負の根源よ!加勢をされたら余計に変なことになるじゃない」
「大丈夫だ任せておけ。おれにはとっておきがある」
眼鏡男子泰斗が警戒をしている……。
「柊!そのむっつりスケベ眼鏡に色仕掛けを頼む!」
「え!……私……そ、そんな……上手く……できないよ……」
なゆりの困って照れている愛くるしいもじもじ具合が泰斗の心を掻き乱す。なぜかコウまでも悶え始めた。
「ぬぅぉ!柊!なぜに仲間のおれまでもそのスキルの対象にしたのだ!」
なぜか泰斗も面白がって悶え始めた。
「ぬぅぁぁ!俺はむっつりスケベ眼鏡ではない!こんなにもオープンに表現をしているーっ!!」
「あんた達……中学の割に随分と向かってはいけない方へ好んで振り切っていったわね。こんな感じの泰斗、見るの初めてだけどやっぱり引くわ。でも……あははっ。なんでだろう面白いわ。あははっ」
約一年ぶりに曇りのない笑顔を取り戻す柚葉。柚葉は何気ないコウのちょっとした笑いの種に『救われた』と感じていた……
暖かい空気……明るい会話……そんな空間に久しぶりに触れた……
この日は不安を少しだけ忘れることができていた。




