十五・五☆【後編(上)】エピソードゼロ……。
とある日曜のこと……。
コウは今日は中学は休みなので、また新しい景色や発見を探しに行先も決めずに惹かれる方へ自転車で進み続けていた。
「うーん……右と見せかけて左!!!」
綺麗なフェイクを入れT字路を曲がる。すれ違いざまにそれを目の当たりにし、驚く眼鏡っ娘。
「わぁ!ちょっと!!あんた今何にフェイクを入れたのよ!」
「お!お前にはわかったんだな。おれの華麗なフェイクが!」
「だから何にフェイクを入れたか聞いてるのよ!!」
コウは自信に満ち溢れた表情で答える。
「もしもだぞ。もしもお前が幽霊だったとする。右に曲がろうとしてるおれに何かしようとしていても……おれは左に曲がった!ってことは……どうなった?」
「えぇぇ!何でそこでわたしに答えを求めるのよ!」
「念の為だ。で……どうなった?」
「うっ、なんか……うーん。とりあえずびっくりするし、ぬぅぁ!って思うわ」
「だろ?なんかしようと思ってたことを忘れそうになるだろ?ましてや何かをしている瞬間だったとしてもきっとおれは回避した筈だ。ふはははは!勝った!!」
「あー。あんたあれね。きれっきれの厨二病ね」
「よし。お前に特別にこの技を授けよう。好きなだけ使ってもいいぞ」
「あんたね……そんな無茶振りで感謝の言葉を貰えるとでも思ってるわけ?」
「そんなものいらん。笑いと自己満ウェルカムだ!」
「あんたのその初対面の人相手でも全開で行けるところだけは認めるわ」
「じゃ、そう言うことで!」
急に満足したのかコウは先を急ごうとする。
「なに普通に一方的に別れようとしてんのよ!」
「お!お前いいな。突っ込み担当に任命する」
「何のよ!」
「みんな……の?」
「随分幅広いし、随分と急に自信なさげに答えたわね」
「おお!お前やっぱりいいな!名を聞いておこう」
「そのキャラの設定や世界観がかなり気になるけど……いいわ。柚葉よ。柚葉しおん。あんたは?」
「こうだ。桐宮虹。普段は中学生をしている」
「大丈夫よ。今もちゃんと中学生にしか見えてないわ。あんたそこまで振り切ってると面白いわね。褒めてあげるわ」
「お前の方こそなかなかのもんだぞ。でも……うーん。なんかしっくりこないんだよなー……あああ!!分かった!!」
「うわぁ!な、何よ。びっくりするじゃない……」
「ちょっと眼鏡取ってみ?」
「あんったねー。まぁ、いいわ」
柚葉が眼鏡を取ると大きな瞳が瞬きを終えぱっちりと開いた。するとコウが間髪入れずに告げる。
「あ。めっちゃかわいい」
「あ、あああんた!き、急に何なのよ!ばかなのっ!?」
後ずさりをしながらきょどりつつ真っ赤になる柚葉。
「あ。デレた……」
「デレてないわ!!はぁ、はぁ……なんなのかしら。あんたに会った瞬間から心に疲れを感じるわ」
「それがあれだろ。噂の……恋」
「今殺意を覚えたわ!こんなモノが恋だったら人生に希望を失うわ!」
「あのさ……柚葉ってキャラはツンデレじゃん?じゃ何で眼鏡なん?」
「あんたと違ってキャラ設定とか考えてやってる訳ではないわ!」
「そうかもしれんが、上にスーツ着て下にパジャマ穿いてるようなもんだぞ」
「何かしら。説得力があるような無いような……」
「じゃ分かった。今度からは頼む。ノーガードで来てくれ!」
「あんったねー……初対面なんだからちゃんと言いなさいよ。そんなんで百パーセントを伝えられると思ったら大間違いよ。メガネなしでってことでいいのかしら?」
「うむ」
「そして来るって言ってたけど。いつどこへ行けばいいのよ」
「そうだな。どこが良い?決めないとまたここになるぞ」
「ここって何も無いじゃない」
「じゃ分かった。あっちにあった大きい公園」
「あー。せせらぎ公園ね。まぁ妥当よね。いいわ」
「あともう一つ。おれはまだ青少年だ。ヘタしたら初めてのデートになってしまう。お互い仲の良い友達を連れて来るのはどうだ?きっと楽しい日になるぞ」
「青少年とか色々引っかかるけど、あなたの言う通りね。分かったわ」
「じゃあ今度の日曜日!この時間にせせらぎ公園で!」
「分かったわ」
「またな」
「あんたちゃんと来なさいよね!」
「ああ。約束だ!」
立ち漕ぎで自転車を走らせるコウ。柚葉はその後ろ姿を見えなくなるまで目で追ってしまっていた。
「ばか。簡単に約束なんて言葉。口にしないでよ……」
コウが交差点を曲がり見えなくなるまで目で追っていた柚葉。ゆっくりと一人言を呟く。
「ほんっと何なのよあいつ……あれ?わたし。新しく知り合いができたのいつぶりだろう……」
「約束って。あれ?何わたし期待してるのよ……」
「コンタクト。買ってみようかな……」




