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ラブコメって!パラレルった?コスプレ部☆  作者: フォーシーズンス
 第一章 〜【春コス】ボーイミーツガールズ編〜
4/102

 四☆楓の思い……降りしきる雨……優しさ……。

 喫茶えんじぇるにて……。


「すまぬのぅ……あやつから聞いておる。私がこの店のマスターじゃ。宜しく頼む」


『経営困難な喫茶店を盛り上げる手助けを』とのことで、マスターは学園長の旧友ということもあり、学園側からは許可も下り、この商店街のごく普通の喫茶店『えんじぇる』をコスプレ喫茶に……という企画。なんと企画案は柚葉らしい。柚葉は学園長の孫娘。色々と世の中の繋がりを感じるコウ達であった。


「おおお!仙人発見〜!」

「マスター久しぶり!大船に乗ったつもりでいいわよ」

「宜しくお願い致します」

「マスター宜しくな!って……思ってたよりは普通空間だな。この店内を装飾するのもありなのか?どうせならもっとコスの世界へ振り切った方がいいだろう」


「もうわしも老ぼれじゃて。若いもんの価値観とはかけ離れておるからのぅ。今回はお主らに色々と任せるのも悪くないと思っておる」

「おおお!聞いたか楓!おれこういう店の店長ってやってみたかったんだよな」

「おおお!なんか上がるな〜こ〜に〜よ!」

「ちょっと二人とも……失礼なんじゃないかな?」

「柊、仙人をよく見ろ。悟りを開いてきました〜みたいな顔をしてるだろ。これで逆にツンツンして来たら引くぞ。決定打は柚葉の提案をのんでるってことだ。あんなSっ気全開の暴君を受け入れるのは仏の道を極めた者に違いない。止めは経営不振の藁をも掴む現状。依って問題無し!相手は紛れも無く……イェスマンだっ!」


「ちょっとあなた達……黙って聞いていれば……わたくしのお祖父様を侮辱しないでもらえるかしら?」


 現れたのはマスターの孫娘、金髪で西洋のお人形さんみたいに可愛いく華奢な子だ。


「あああ!楓ー!お前のライバル的存在になりそうなニューフェイスなお嬢キャラがきたぞ。ファーストコンタクト取ってこなくていいのか?」


「ここはオトナの余裕を見せつけるべきやし〜。あの手のキャラはスルーが得策かと。何か小っちゃいしおんみたいやし」

「ちょっと!ロリ乳!今のは聞き捨てならないわ!わたしの方が色々と豊作じゃない!」

「みんなー。仲良くしなきゃダメだよ。きっと同じ仕事仲間になるんだから」

「そうなのか?だってあいつ……幼女じゃね?」

「あなた達!レディに向かって失礼よ!大器晩成って言葉はご存知ないのかしら?」

「知ってっても答えんし〜」

「あー。楓がそんな感じならおれがコンタクト取ってくるしかないな」


 ライバル視からか珍しく必要以上に距離を取り温度感がめっちゃ低い楓。それを見たコウがお嬢にファーストコンタクトを試みる。


「さっきは悪かった。おれの目は節穴だった。初めまして、おれはコウだ。桐宮虹。既にこんなにお人形さんみたいに可愛かったら、将来は素敵なお姫様だな。もう王子様には会えたのか?」

「ま!ま、まだに決まってるじゃない!このボケカスが!」


 顔を真っ赤にしながら上ずった声で答えた女の子。コウの急な問い掛けに慌ててわたわたしているのがとても可愛らしい。


「女の子はなぁ……そんな風に強がらない方が可愛いく映るもんだ。もし王子様がここに居たらどうするんだ?」

「待て!こ〜に〜は楓のだ!ポッと出の新人にはわたさんっ!名を名乗れ!」


 コウの腕にぎゅっとしがみ付き離そうとしない楓。いつになくいきり立った顔付きで華奢な女の子を睨みつけていた。


「私は勘解由小路杏[カデノコウジ アン]よ!」

「お?おれは楓のだったんだな」

「うるさいっ!にーは静かにしてて!今、にーを取られそうな予感がしたんだから!!もうにーは離さないんだから!!!」

「か、え……で?……」


 楓の小さな身体から吐露された悲痛の叫びが切実に響いた……辺りは凍りつき、コウはピクリとも動けなかった……

 楓が何かを思い出したのかうずくまり怯え震えながら叫び始めた……。


「もう嫌なんだ!一人は嫌!わたしを置いて行かないで……んっ……嫌だ嫌だ嫌だー!!……嫌だ……う、うっ……」


 時にか細く……闇を映す楓の瞳からは悲げに涙が溢れ、もういつもの天真爛漫さはどこにも無かった。


「か、楓!大丈夫だ!かえで……」


 コウの言葉が尻窄みになる……泣き崩れた楓に寄り添い支えるなゆりの側で、コウは励ます言葉が浮かばずに何もできずにいた……悲しみから救いたい想いだけでは解決出来ないことがあると思い知らされ、無力な自分を責めていた……

 窓の外には灰色よりも暗い雲から漏れ出す冷たい雨粒が、和やかだったまちを薄暗く包み、冷ましながら強く降りしきる……その雨は止む時を告げぬままただただ濡らし続けていた……。


 楓を休ませる為に柚葉がマスターに声を掛け奥の一室を借りた。コウが楓を抱えソファーに横にならせる。コウは楓が強く握り締めてきた手を解くわけにはいかずに側に付き添うことになる。なゆりも楓を心配しているようでそばから離れないでいた。柚葉は部屋の入り口に寄り掛かり離れたところで見守っていた。


 暫くすると楓はやっと苦しみから解放されたようで、寝息を立てながら涙に濡れた表情を緩ませていた……なゆりは眠った楓の頬に張り付いた髪を解き、頭を優しく撫でながら、珍しくなゆりから話しを始めた。


「楓ね……小学生の頃に兄と父親と離れ離れになっているの。離婚が原因らしい。それから楓はお母さんと一緒に住むようになって、あなたをお兄さんと重ねているみたいなの」

「そうだったのか……ずっと会えていないのか?」

「そうみたい……」

「会わせない方がいいと思うか?」

「それがわからないの。向こうの家庭の事情がきっとあって。現状、会っていないのがおそらく向こう側の答えだとは思うのだけれど……正直、会わせるのは怖いの。楓の悲しみをこれ以上増やしたくないから」

「確かにな……ただ、おそらくこのままではこのようなことを繰り返してしまう。大事なのは状況を飲み込めた上で前を向かい過ごせているかどうかだと思うんだ。現実逃避の連続からでは根本にある問題は解決していない、割り切れていない、今の状況を改善することができるのは楓の外ではない。楓の家族の関係を元に戻すこと事態でもないんだ。もし、家族が元通りになったとしても、一度生まれた不信感や不安はゼロにはできない筈だ。ましてやパラレルワールドを願ってもこの件は解決はしない。どのような現実でも楓本人が受け入れて、その上で前を向かい進もうとすることができる考え方を、楓の中に持てているのかどうかに改善への切符はある……だから楓が苦しい時、上手くできない時には側に居て助けてあげたい。おれはそう思っている」


「うん……私もそう思うわ」

「楓が落ち着いてから考えを聞いてみよう。楓の出す答えにおれは応じたい」

「うん。桐宮くん……ありがとう」

「あれ?なんか違和感を感じたと思ったら……おれの名前を呼んでくれたのは初めてだな」

 視線を避けるように両手を交互に振り慌てながら高い声になるなゆり。

「そ、そうなんだけど!そこは触れないで欲しかったよ……」

 そして小声で続けた言葉はコウには届いていなかった。

「さり気なく呼んでみたんだから……」



 優しさはどこから来るのだろう……

 今までにもこのような場面は幾つかあった……

 どうせなるようになるだろうだとか、おれが動く必要はないだろうとその場から逃げてしまっていた……

 照れくさくて上手に伝えられない時もあった……でもきっと今はそうはしたくない……


 そうか……優しさは信じ合える人から、気づかぬうちに少しづつ譲り受けているんだ……面倒なくらいに親身になり、自分のことのように苦しくなり、悲しくなり、悔しくなり、嬉しくなり、楽しくなる……そんな時に優しさを譲り受けていて、譲り受けた分しか僕らは誰かに優しさを与えることは出来ないのだろう……


 それならば、今ここにあるこの信用を大切にし、失わないようにしよう……信じ合える人なんてそんなに多くはできない筈だから……。



 どれくらいの時間が経ったのだろう……肩を揺する何かに意識を戻したコウ。


「こ〜に〜。起きて」

「ん……おう、あ、おれ、寝てたのか……柊は?」

 横に目をやると予想外に近くにいて驚く、なゆりも寝ていたようだ。近くで見ると長い黒髪が艶やかでとても綺麗だった。コウの側に来てすまなそうにしている楓が可愛いらしい。


「さっきはごめんね。あたし……えっと……」


 無難な言葉を俯き探している楓に、安心を与えたくなるコウ。楓の両肩にコウが手をあて楓の目線の高さで優しく告げる。


「ああ、気にするな。少し疲れていたのかもな。そう言えばさっき後で話を聞くと言ったが、今ここででもいいか?」

「うん。あたしね……に〜がいたの。今は会えてないの」

「そうか。楓はお兄さんに会いたいのか?」

「会いたいけど……会いたくにゃい。かも……」

「そうか。話、詳しく聞かせてもらっていいか?」


 一生懸命に言葉を探しながら楓は服の裾をいじり俯きながら答える。


「うん。えっとね。ずっと前にね。パパとママがケンカしてて、もう離れて暮らすって言い出して、イヤだって言ったけどダメでね。う、うっ……仲良しだったに〜もね、んっ……どうしてもお父さんと一緒に行かなきゃいけないからって言ってねっ。んっ……い、行っちゃったのー。それがずっとね……んっ……ずっと嫌だったのーーー。びぃぁーーーん!」

「そっかそっか。それは、びぃぁーーーん!だな。泣くことは全然悪いことではない。今の楓の気持ちと向き合った証拠だからな」


 気持ちを落ち着かせたい思いと、安心させたい思いからか楓の頭を無心に撫でていたコウ。


「泣くと疲れるけどな。よし!これが楓用のオトナ対応だっ!」

「ひっ、っくっ、ぐっ……さっきはダメって言ってたのに?」

「さっきのは……そうだな。おれがちょっと照れていただけだ」

「楓がかわいいから?……」

「お!おっきく出たな。それくらいの元気があれば大丈夫そうだな。ははっ」

「ねー。こ〜に〜が楓のお兄ちゃんになって」


 涙に溺れてしまいそうな程、楓の瞳は波打っていた。その楓に安心を与えられるなら頷いてもいいと思ったコウ。


「今でも充分……お兄ちゃんでないかい?」

「んー……そうだけど。いなくならない?」

「ああ。いなくならない。いなくなったら……そうだな。五百円やろう!」

「安っ!」

「お!いつもの楓らしくなって来たな。もしいなくなったら、その時はおれはどうかしている。地の果てまでも追いかけて来てくれ」

「おう!わかった!こ〜に〜だ〜い好きっ!」

「っ……んー。私……こんなとこで寝ちゃってたみたい……」


 なゆりが眠りから覚め伸びをしながら告げる。部屋の外で壁に寄りかかりタイミングを見計らっていた柚葉もコウ達の部屋に入ってきた。


「あんた達ー。そろそろ今日はおいとまするわよ」

「あー。確かに。もういい時間だな」



 急に降り出し辺りを水の膜で覆った雨も止み……

「てか、楓ー。自分で歩けるだろ?何故におんぶせにゃあかん」

「細かいことは気にしない気にしない〜、きゃは〜」

 雲間から漏れる月の光は星の瞬きと共に笑い合っているように見えた……

「あんた楓のえっちなとこさり気なく触ろうとしたらただじゃ済まさないわ!」

「するかっ!」

 柚葉の計らいにより、ミニお嬢と楓が顔を合わせることのないようにマスターに挨拶を済ませ……

「あはは。ねぇ楓〜。明日は授業何があるんだっけ?」

「物理と〜、体育と〜、現文が小テストと〜……」

「あー!そうだった……私、勉強しなきゃ……」

「テストは開始前の十分間がネックだよな、それまではおれは勉強はやらん」

 取り敢えず今日のところは喫茶えんじぇるを後にした……。

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