十一☆【後編】合宿!……自称ツンデレ……まじダァッシュッ!……。
続……海の近くのある別荘にて……。
「今回の合宿では幾つか衣装を着ることになるわ。衣装はわたしが用意してあるわ。先ずは水着よ!」
「いぇ〜い!夏っぽ〜い!」
さっきからテンションが高く少年のようにはしゃぐコウ。
「ほんっとにさっきからあんた子供よね」
呆れ顔の柚葉。ただ見ているこっちも楽しくなる程なので、きっと柚葉も苛立ったりしていないのだろう。
「あはは。本当に楽しそうよね。楓も楽しそうで良かった。今年の夏は色々と楽しめそうだわ」
「はいよちぃ。アイスでいつものでよかったかの?」
「うん。ありがとう」
マスターがミルクと砂糖を入れたコーヒーを淹れてちぃに渡した。
「皆は飲まんのか?花音は珈琲好きだった筈じゃが?」
「いい香り。えんじぇるの香りだわ。頂いてもいいかしら?」
「うむ。もちろんじゃわい。いつも通りホットでいいかのぅ?」
「私、自分でやります」
なゆりが立ち上がりマスターのところへ向かうと、ちぃも立ち上がり付いて行った。目を瞑り淹れたての珈琲の香りを深く吸い込むなゆり。ちぃはなゆりの隣にいてそんななゆりを嬉しそうに見ている。
「私この香り……落ち着くから好きなの」
「私もよ。一緒ね。ふふっ」
と言いながらはにかむちぃ。その愛らしい表情に脱力気味のなゆり。
「あー。ちぃちゃんはほんっとに可愛いいなぁ。ぎゅってしたくなる」
「どうぞ。かのんならいいわ」
ウェルカムなちぃが両手を伸ばしこっちに来てポーズをしている。だがこんな流れには上手く乗れないのがなゆりだ。
「え、良いの?……でも、なんか緊張して来ちゃった。今度ならさり気なくぎゅって出来る……かも?……」
「ふふっ」
皆がそんなやりとりを見て微笑む。
「楓〜もう食ったか?」
「あー。そうやって抜け駆けしようとしてるわね」
「う、うん」
「海は皆で一緒に行かなきゃダメよ!その方が喜びも倍増すると思うわ」
「ううっ……はぁーい」
いつになく素直なコウ。
「よし!なら皆!ちゃっちゃと着替えるぞ!マスターも早く着替えて!」
「わしはこのままじゃわい。海には行くがのう」
「なら、柊と柚葉早くいこーよー」
着替えを急かすコウ。もう駄々っ子レベルだ。
「はいはい。なゆりもう食べ終わってる?ならこっちに来なさい」
「うん。あの私の水着は用意あるの?自分でも持って来てあるんだけど……」
「きっとこっちを来たくなるわよ。いいからこっちにきなっさーい♡」
「おおお!あの伝説のオネエの面影を感じる……これは期待出来るかも」
『きなっさーい♡』は柚葉がカメラを持ち、写真家として本気モードの際のおネエが降臨している時の口調だ。
「うしし。あのしおんはきっとやってくれるし〜。楓も見て来る〜」
「おう!伝説が生まれる瞬間をその目に焼き付けてこい」
「らじゃ〜!」
暫くすると二階の寝室から声が聞こえてきた。おそらく柚葉だろう。
「ぬぅぉぉぉ!撮りたいっ!これは逃せない!逃さないわぁ〜!」
「あー。これは長くなる予感がする……」
「私もあのエル好きだから見てくるわ」
「おー。行ってこい~」
良く考えたら、時間が掛かったとしても、後でいい写真を見れそうだからそれはそれでありだな……と、大人しく待っているコウ。三十分後に皆が階段を降りて来た。なゆりがまた何かを奪われたような涙目をしているのでコウが確認をする。
「柊?また何かを奪われたのか?」
「しおんが……しおんが……うぅっ……」
「どうした?でも、嫌じゃなかったんだろ?」
「嫌ではなかったんだけど……言えないよ……」
「あああー!!何をされたんだ!ここははっきり言わないと妄想しか浮かばないっ!柊!頑張れ!頑張れ!!」
急に応援を始めたコウにたじろぐなゆり。邦正も一緒になって応援し始めた。それから頑張れしか言ってない邦正とコウ。
柚葉はとても満足そうな顔をしている。ちぃは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。三人共、陽射しを避ける為に薄い生地のパーカーやシャツを来ていて、すぐ脱げるようにしているようだ。下は短めのパンツやスカートでとても夏っぽい。
「どう?海に行く仕様のお姫様は?」
「とてもいいに決まっている!ただ、何が起きたのかが気になって気になって、この衝動を押さえられない!なぁ邦正!」
「なぁこう!ダメだぁ!そんなことしちゃダメだぁ!!」
もう妄想が勝っている邦正。何かにダメ出しをしている。
「まぁ。何でも良いじゃない。さぁ行くわよ!」
と投げ捨てるような口調の柚葉。なゆりはあのまま奪われたままの表情だ。
「話せるようになったらちゃんと言うね……」
「えええ!!!まさかの先延ばし放置プレイ。ダメだぁ邦正……おれはもう限界だぁ」
「分かってるぅ……ぅ。痛い程に分かるよこう……兎に角、今は……忘れよう……」
「出来るか?……おれに出来るのか?……邦正も……出来るのか?」
「大丈夫。水着姿を見ていないままでここで意識を失う方が勿体無いからね……ちゃんと理性が勝ったよ」
「おめでとう邦正。おれは勝てるのか?水着!?そうか。その策があったか。確かに勿体無い。よし!……あー。やった……勝ったのか?……やったぞ!理性が勝った!!」
「おめでとう!こう!」
「ありがとう!恩に着る!」
熱い握手を交わし変な友情が新たに芽生えた二人。
その間に柚葉がマスターを呼びに行っていた。車を出し海へ向かう一行。
「よーし!海へ向かいしゅっぱーつ!」
「「おー!」」
おー!の返事は、楓と邦正。さっき芽生えた友情からコウとの協調性がパない邦正。楓は今まで通りの安定のシンクロ率の高さだ。目指すは海!目指すは水着だ!
坂を下ること数分、海が水平線を描き空に包まれ、太陽の光を反射させている絶景に皆で盛り上がり、コウがまた楓を誘い走り出す。
「楓!砂浜への一番のりはどっちかな?ふははははっ!まじダァッシュッ!!」
「待て!こ〜に〜!とうとうまじになったか!負けるもんか〜!」
楓に直ぐに追いつかれ楓に「さっきより遅いし〜」と、言われながら砂浜へ走る二人、マスターはまた荷物を次々と車から出し、それを邦正が受け取る。邦正が「このシートとか軽そうなのをお願い!」と、言いなゆりとちぃが手伝う。
邦正がパラソルやらサマーベッド等の大物をぎりぎり抱えていたので何気にさり気なく手伝う柚葉。
「もう。予想通りにまた走って行ったわね。あんた大変そうね。貸しなさい!」
「あー!デレた!これがこうが言ってた、デレた時の差が激しいから気を付けろってやつ
か。うっ、ダメだ……さっき地獄へ落とされそうだったのに、今は誰よりも可愛く見える。小悪魔ってこんな感じなのかも〜」
「さっきから何言ってんのよ。あんたは」
「自称ツンデレでもやっぱりツンデレはいいもんだね」
「そうまじまじと言われるとやっぱり引くわ!」
「ぬぅぉぉぉ!くぅっ、再度落とされる時の落差も激しいのか……」
辺りは眩しい位の太陽の日射しが容赦無く照り付けていて……
陽炎が立ちのぼり火傷しそうな熱さの砂浜を私達は進んだ……
高校生活最後の二つと無いこの夏の一日一日を……
忘れられない程にくっきりと焼き付けて記憶に残して行きたいと考えていた……。
星と月と太陽から産まれた子★
六★星の子の不安と、嫉妬と……。
次の日、月の子は星の子に魔王を討伐しに行くことを話しました。
「どうしてあなたが行かなければならないの?あなたにもしものことがあったら私……」
星の子は今にも泣き出してしまいそうな顔をしています。
「そんな顔をしないで。必ず戻ってくるから。約束だ」
「ダメよ!これからは一緒にと、決めたじゃない!私も行くわ」
「この戦いは危険なんだ……君を守りながらでは不利な戦いになりそうだ。ただ、これからは一緒にと、約束をしたことも破るつもりはないよ。それなら戦いの場にだけは僕が一人で挑む。それでいいかな?」
「どうしても行かなきゃならないの?」
「ああ。放ってはおけない」
「どうして……?」
「もしあの子ではなく君が大切なものを奪われていたとしても、僕はそうするからだよ」
「もう……ずるいわ……」
「あの時、横たわっていたあの子を放って置けなかった君の気持ちと、これは変わらないことだと思う。この決着を付けないと、あの子はこれ以上前に進めない。昨日、あの子は声も出さずに涙を流していた……君の涙を僕は見ていられないように、あの子の涙も僕は見ていられないんだ。見て見ぬ振りをするような男で居たくはないんだ。わかってほしい」
「もう。でも……」
星の子は悩みに悩んだ末、月の子の想いを認めてあげたくて、月の子を信じ……そして応えました。
「……わかったわ。でも、もし危なくなったら直ぐに戻ってきてね」
「わかった。約束する」
そうして二人はまた一つ、二人を繋ぐ絆のような想いを増やしました。




