ガンガーレ
魔法っていうと胡散臭いけれど、本当に魔法の言葉はあるように思えたことがあった。きっかけは、友人からの一言からだった。
「本当にキミって、とってもガンガーレだね」
「え?」
初めてその言葉を聞いた時、私の頭にクエッションマークでいっぱいになった。何なのだ。ガンガーレって。ガンバレを言い間違えたのかな。
「だからガンガーレだよ。ガンガーレ」
「ガンガーレって何?私のことをおちょくっている?」
「はあ?ガンガーレは、ガンガーレだよ」
まったく話が、かみ合っていなかった。それでも辛抱深く聞いてみると、どうやら若者の間で最近流行っているそうだ。特に意味もなく、どちらかといえばポジティブな言葉らしい。その後も、街中でラジオでテレビで度々耳にした。
私は、この新しい言葉に不快になった。何がガンガーレだ。どうせすぐに廃れるのだろう。意味のないような言葉を作りやがって。また日本語が汚れるではないか。頭が軽い若者らしい。浅はかな行為だ。
しばらく経って、そんなことなどすっかり忘れていたある日。
「この絵、どう思うかね?」
社長が自室に新しく飾った絵を指さして、私に聞いてきた。正直、子どもが描いた絵にしか見えなかった。もちろん、バカ正直にそんなことはとても言えない。しかし建前は必要でも、できる限り嘘はつきたくないのだ。
「え、あっ、はい。とってもガンガーレだと思います」
「そうかそうか。ガンガーレか。ハハハッ」
社長は機嫌がよかった。何とか切り抜けられた?みたいだ。本当に魔法みたいに便利な言葉だな。ガンガーレって。