プロローグ
あぁ、何もうまくいかない。受験は失敗して第3志望のアホ高校に入ってしまった。噂で聞いたところによると今年は第1志望の庵緑館高校は大幅にボーダーが下がっていて俺の成績でも十分に通るような有様だったらしい。そして周りの人たちはどうやら同じ中学出身で固まって喋っている。同じ中学出身の人がまさかクラスで一人だけとは思わなかった。居心地が悪いことこの上ない。仲の良かった奴らはなぜか皆別々の高校に通うことになってしまった。あぁ、なぜ、こんな暗い気持ちで高校生を始めなければならないのだろう。
自分たち新入生が入学式が終了し体育館を退場し、自分のクラスが各教室の前に張り出されているのを一つ一つ確認していたので教室の中はすっからかんで廊下に人がごった返している。周りはとにかくにぎやかだ。女の子の「キャー」とも「ギャー」ともとれるような悲鳴と感動の再開シーンをわずかな期間にこれほど拝める時間はきっとそんなに多くはないだろう。自分のクラスを知るために廊下側の窓にテープで固定された大量の名前が印刷されている巨大な方眼紙を見る。並び順は出席番号順であり、出席番号順は、苗字の一文字目であいうえお順に並んでいた。俺はまず、タ行を探し、タ行の終わりの「と」から始まる名前の所を重点的に探してみる。1組には俺の名前が無かった。
最終的に自分の名前を見つけたのは5組の方眼紙だった。くそ真面目に1組から見ていた自分に何故だか腹がたった。5組を見てみると知っている顔はなんと一人だけであった。それも残念ながら中学時代にいけ好かないと内心では嫌っていたソフトテニス部の奴だった。しかし、お互いこの時点では友人が他にいるということもなく適当にしゃべった。
「よぉ帳。お互いとりあえず高校で私立じゃなくてよかったな」
なぜ彼が馴れ馴れしくも俺の苗字を呼ぶのかわからないけれど呼びかけられてしまったら無視するわけにもいかない。
「そうだね。一時間以上もバスに乗って通学しないといけないのは嫌だしね」
「ほんとう私立の高校は遠すぎだよな。もう少し近ければいいのによ」
「まぁ、俺らはここに受かったからよしとしよう」
「うぅん、だけどな、なんか同じ塾に通っていた奴から聞いた話なんだけどよ、今年の庵緑館すげぇ楽勝だったらしいぜ。俺とかお前ぐらいテストで点が取れていれば普通に入れたってよ」
その話を聞いて愕然としたものだ。両親からもお前の内申点じゃ、あの高校は高望みだと諭され、担任も安全に行くべきだと言い、父親の伝手を使って聞いた庵緑館の教頭先生にまで厳しいだろうねと言われて自分なんかでは入れないと諦めていたところが実は見せかけの張りぼてだったあのがっかり感。言葉が出なかった。
「まぁ、同じクラスになったし仲良くしようぜ」
恐らく彼とはこれから先喋ることなどめったにありはしないだろうがそれでも定型の返す言葉というものがある。
「そうだね。これからよろしく」
きっと、笑顔ではなかっただろう。内心はそんなことどうでもよかった。庵緑館に自分でも入れたかもしれないという可能性が頭をぐるぐると駆け回っていた。