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Muse Night:origin  作者:
ライ編『嘘吐きグランギニョル』
7/25

黄泉

今週もなんとか間に合わせてる

 ライが目を覚ました場所は、見渡す限りの真っ白な世界だ。天井も床も消え去ったような空間に確かに立っている彼は、視線をぐるりと動かして周囲を観察する。

「何も無いんだけど……」

 手をつけていないスケッチブックのような背景にコラージュのように映る自らの姿は、不恰好で、シュールだ。ライは少し微笑みながら、その背景に溶け込むように寝転がる。


「なに順応してんの!?」

 白い世界の奥からフェードインしてくるように現れたコウモリは、目をつぶっている主に対して呆れながら話しかける。

「ん、ミューズ……ここどこ?」

「ここ……どう説明したらわかりやすいかなぁ? えーっと、ヴァルハラと言いますか……彼岸と言いますか……三途の川?」

「あっ、俺死んだんだ。なるほどね……」

「だから順応が早いって……」


「三途の川ねぇ……。もっと心穏やかなとこだと思ったけど、意外と殺風景なんだな!」

「精神世界の構造って意外とこんなもんよ?」

「マジで? 初めて聴いたわ。やっぱ人間一度死んでみるもんだね……」

 死、か。ライは未だ現実離れした、ふわふわと浮世から離れた感情を持て余していた。『死』という言葉を口に出して初めて、ずきずきした背中の疼きを感じてしまう。

「そっか、死んだんだな……俺」

「あのさ、厳密には死んでないよ。死んだのは私!」

「は?」

 ライは改めて目の前のコウモリを観察する。血は出ていないし、表情も元気だ。と、少年はここまで思ってコウモリの表情の違いなんて知らないことに気づき、一人で乾いた笑いを漏らした。

「君の肉体は確かに死んだよ。でも、君の崇高でかっこいい魂は、まだ生きてる。わかる? 私がもらう予定だった精神は、まだ記憶を伴ってここに現存してるの。これ、結構ラッキーなことだよ?」

「一度死んで何がラッキーなんだよ……」

「だからさ、私の肉体をあげようかなって! 君の精神の記憶は残ってるから、種族が人間からディークに変わるだけ! 記憶があれば、生前の身体も再現できるよ! あっ、お日様はもう見れないけど……」

「でも、それだとミューズの精神は……?」

「消えちゃう、ね……」

 ミューズは眉と思われる箇所を下げて、笑った。

「あのな、人に迷惑かけてまで生き返るつもりはないよ。ダサいじゃん……」

「ふーん、弟くんにあげるためのプレゼントはどうするの? 聖夜クリスマスに帰る約束は?」

「そっ、そんなのどうでもいいし……」

「どうでもよかったらわざわざ願い事にする?」

「うっ……」

 黙るライに、ミューズは諭す。

「あのね、ライくん! 君はまだ若いんだよ! 十二歳って、まだ未来のある楽しい時期なんでしょ、人間では。だからさ、ここでカッコよく譲らせてよ。セカンドチャンスだよ! ずっと若い姿のまま居れるんだよ!? 弟くんとの約束を守るためにも、私に借りを作るためにも、身体使ってくれない?」

「ミューズ、ミューズ……。人生って、一度しかチャンスがないから面白いんだと思うんだよ。俺たち人間は、なるべくゲームオーバーにならないように慎重に生きてる。コンティニュー用のコインは無いんだ。そこで無敵のチートなんて使ったら、生きてる意味なんて無いんじゃないか?」

「ゲーム内で予測してないバグなんだから、ミスそのものを無かったことにしてあげるって言ってるんだよ。あと、それはまた誰かの借り物の言葉?」

「俺の言葉だよ……!」

 ミューズはライの返答に満足したような笑みを浮かべると、彼の肩にちょこんと座った。

「じゃあ、頑張ってね。私の身体で変なことしないように!」

「ちょっ、まだ俺は承認してないって……!」

 ライの言葉を無視するように、ミューズの身体は突如輝きだす。その口から瘴気が放出されると、白い世界はライの足元から崩れていく。



 志柄木が現場に着いた時、廃倉庫は混沌としていた。倒れている男は拳銃を握って気絶し、所々から血を噴き出している。その後ろの部屋では、たくさんの子供たちが泣き叫びながらその場でへたりこんでいる。

「ひどい……。そうだ、ライくんは!?」

 老紳士があたりを見渡すと、乱雑に積まれた木箱の影に黒服の少年の姿を見つける。

「なっ……なん……だって……!?」

 志柄木はライの方へ駆け寄ると、心臓の音を確認する。耳を澄ませると、心臓の音はもちろん、肺が空気を供給する音さえも聴こえない。

「おい、ライくん……? 返事してくれ、ライくん!?」

 小さな肩を抱えると、背中に風穴が空いている。そこから流れる血を、転がっている薬莢やっきょうを、志柄木は確認し、すべてを察する。

「笛吹き男、お前が……ッ!」

 老紳士の静かな怒りは、貨物に隠れた二つの影に気づかないほど深かった。


 ライがコウモリの姿で目を覚ました時、彼の脳内でがんがんと声が響いていた。

「お前はミューズ、ただのディークだ……」

 今は耳元で聴こえるその声に呑み込まれるように、彼の記憶は上書きされていく。

「俺はミューズ……ミューズ……ミューズ…………」

これでライ編は終わり!

次はラウン編を予定してます!

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