表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Muse Night:origin  作者:
ライ編『嘘吐きグランギニョル』
4/25

マリオネット

週刊投稿も板についてきた

「もうすぐ着くから、じっとしてるんだよ……」

 ハンドルを握った男は、ライに向かって笑顔でそう言う。ワゴン車の中はカーテンで覆われ、前方からはイルミネーションに彩られた街が見える。

 彼は少しの後悔を表情に出さず、おどおどした人畜無害な少年を装っている。早く誘拐犯のアジトに潜入し、家で帰りを待つ弟を失望させないようにしないといけないのだ。ライはクリスマス・イブに呼び出した志柄木を恨みつつ、先刻の会合を回想する。


「つまり、笛吹き男はここで誰かと落ち合ってるんだよ……!」

「そこに潜入しろ、そういうことですか?」

 会議室に呼び出されたライは、DCCCの総勢三人というメンバーの少なさに驚きつつ、地図を見ながら作戦内容を確認する。

「ああ。僕も洋館の周辺に潜り込むから、ライくんは中に子供がいたら連絡してくれ!」

「えっ、南雲の仕事は……?」

「南雲“さん”と呼べ……。私は不測の事態に備え、ここで作戦を立てる」

「一人だけ仕事楽すぎない?」


「よし、君の安全は私たちが全力で保証しよう! 戦ってきてくれ!」

 ライは南雲の待遇に幾許かの不服を覚えたが、志柄木の一言で真剣な表情に変わる。

「何かあったら骨は拾ってくださいよ……!」

「やめてよ、縁起でもない……! そうだ、みんなで写真撮る?」

「また唐突な……!」

「良いじゃないか、決戦前のみそぎだよ」

 志柄木はポラロイドカメラのシャッターを押すと、南雲やライのいる場所まで走る。ぎこちなく笑う彼らの間で、老紳士は穏やかな笑みを浮かべていた。


 ヘッドライトの照らす景色が変わっていく。市街地を抜け、郊外へ突き進んでいくワゴン車は、やがて暗い海の見える埠頭へたどり着いた。

「さぁ、着いたよ!」

「ここ、家じゃないんだけど……」

「あれ、そうだったかい? でも今日はもう暗いし、この倉庫で一泊していかない?」

 笛吹き男はライを倉庫の中に招き入れる。ライは戸惑いつつ、彼の本拠地に足を踏み入れた。


 倉庫の中は薄暗く、時折床板が軋む音が響く。パーテーションでいくつかに小分けされた部屋を見渡しつつ、ライは男に手を引かれて歩く。

「坊や、ここでちょっと休んでいてよ! 俺は外の様子見てくるから、そこの子と仲良くしてね!」

 大きな柱が特徴的な部屋では、鎖に繋がれて震えている少年が体育座りをしている。白い服とズボンを穿いた彼は、蒼白な頬を涙で濡らしていた。

 誘拐犯が去ったあと、ライは震えている少年に声をかける。

「大丈夫、ヒーローが助けに来たぜ……!」

「ヒーロー……?」

「君、名前は? 好きな音楽とか有る?」

「ナオ……。好きな音楽……?」

 ナオと名乗る少年はライに弟の姿を重ねさせた。彼はナオの頭をしっかりと撫でる。

「俺はライ、夕澄ライ。俺のオススメの音楽聴く?」

 ナオは嬉しそうにイヤホンを付け、音楽を聴いている。

『ねぇ、もう出ていい?』

「OK。あの男に見つからないようにな……」

「ヒーロー? そのコウモリって……?」

 いつの間にか、ナオの瞳はライの肩を注視していた。

「お前……見えんの?」

「うん、僕のはここに来た時に出会ったんだ……!」

 ライは辺りを見渡すが、それらしい姿は見えない。ミューズもディークの気配を感じとろうとするが、外に微弱な気配を感じるのみだ。

「ホントだって……! 臆病だからなかなか出てこないけど、確かに居るんだ!」

「まぁどっちにしろ、あんまりディークの言うことは信じるなよ! お前が振り向くならどんな嘘でも吐くから!」


『ライくん、そろそろ電話したほうが良くない?』

「あっ、色々あって忘れてた……!」

 ライは借りた携帯電話をポケットから出す。

「もしもし、こちらライ。現場に到着しました……!」

「南雲だ。今どこにいる?」

「南雲……? まぁいいや、埠頭だよ。埠頭の倉庫に連れ去られた。今のところ、一人生存者がいる……!」

「埠頭か……。 アルカトピアで埠頭のある港は一箇所だけだ……!」

「とりあえず調査を続けようと思う。志柄木さんにすぐに伝えてくれ!」

「あぁ、俺もそっちに行こうと思う……!」


「そういや……この部屋の奥の扉、あそこにも誰かが居るのかな?」

「あの人が言うには、『俺の大切な人が隠れてるから入っちゃダメ』なんだって……」

 ライはナオからその話を聞くと、小さく扉をノックする。返ってくる音はなく、開けようにも固く閉ざされてびくともしない。

「ちょっと待ってろ……!」

 彼は緋銃グリムを発現させると、鍵穴に押し当て、軽く引き金を引いた。


ピキッ


「開いたぞ……」


 扉の奥はカビ臭く、ひどい湿気と臭気にライは顔をしかめる。さほど広くもない部屋に不釣り合いな大きさの円卓が置かれ、ハエのたかったコンソメ・スープが並べられている。

「気持ち悪ィ……」

 そう言い、顔を上げた彼の表情が変わる。円卓には何者かが既に座っていたのだ。

「おい、なんだよ……何なんだよアレ……!」

 そこには小学生ほどの少年少女が集い、円卓の上のスープをスプーンすくっていた。誰も彼も虚ろな目をし、濁った液体を掬っては口の近くで皿にこぼしている。

 耳を澄ますと、心臓の音が聞こえる。しかし、呼吸の音が聞こえない。整備不良のからくり人形のように、延々と無機質な動作を繰り返しているだけだ。

「生きてる……! こいつら生きてる!」

 ライは思い出す。笛吹き男のまだ見つかっていない被害者の顔は、ここにいる彼らに瓜二つだった。


「……見てしまったね」

「…………!?」

 背後の声は、やけに冷静だった。部屋の観葉植物を買い換えたかのようなフランクさで、笛吹き男は彼らの自慢を始める。

「そこの子、可愛いだろ? 須藤みかちゃん、刑事の娘だったかな? 見ていても綺麗だし、触れても最高だった……。魂を抜く時、興奮したよ。そこの男の子は妙に反抗的だったけど、三日放置プレイしたら従順になった……。締まりも良かったね!」

「…………」

「さて、君も俺の秘密を知ったからには、生かしておけない。ここの足りない一枠になるんだ。光栄に思ってくれなきゃ……!」

「…………野郎……」

「ん?」

「屑野郎…………!」

来週は投稿できないかも

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ