笛吹き男
毎週投稿その2
「〈DCCC 代表理事 志柄木憲芳〉……?」
「“ディークノア犯罪対策委員会”だよ。官民一体の自警団みたいな物だね」
志柄木と名乗る紳士はライに微笑みかける。
「最近横行してるディークノアの犯罪は法で裁けないんだ。まだ彼らの存在が生物学的に立証されてないからね……」
「そういう事件や事故を処理するのがそのナントカっていう組織だとして、その人たちが俺に何の用?」
「いやー、素質持ちはなかなか居なくてねー。僕の周りでかき集めても数えられるほどしかいなかったんだ。なぁ、南雲くん?」
「えぇ、私も視えるようになったのはつい最近ですから……」
南雲という几帳面さがスーツを着たような長身の男はそう言い、ライは彼もさして若くないことを外見から察する。
「〈素質持ち〉は昔から一定層いたそうなんだけど、古代では神の御姿を見ることのできる神職者や生贄となり、近代では狂人として幽閉されてるんだよ。どうも先天性の人と後天性の人がいるらしい。何かきっかけがあって視えるようになった人はいるんだけど、先天性はとても稀少だ」
「だから? 俺で人体実験でもするつもりですか?」
南雲の唇が少し歪んだ。志柄木はそれを気にせず会話を続ける。
「いやいや、軽いバイトだよ! 私たちで協力して、凶悪犯の身柄を拘束する。もちろん報酬は払うよ!」
『えっ、ヒーローになりつつ稼げるんですか!? ライくん、願ってもない条件じゃん!』
突如現れたコウモリに対して、志柄木は少し驚いてみせる。
「ほぉ……綺麗な青い目をしたコウモリじゃないか! えーっと、君の名前は?」
「俺ですか? ライ、夕澄來です!」
彼の名前を聞いた瞬間、志柄木はさらに驚く。
「夕澄!? 君、不未彦の知り合いかい!?」
「知り合いっていうか、父親なんだけど……」
「はー、確かにどことなく似ている……。なるほど、君の実力が高いことも肯ける。なおさら気に入ったよ!」
老紳士は頬を緩め、何か懐かしむように目を細める。ライはあまり父親に関心がないため、少し語気を強めて答える。
「親父と俺の実力は関係ないでしょ……! 帰ります。かわいい弟が待っていますから……」
足早にその場を去ろうとする彼の背中に、志柄木は小さく声をかける。
「君の弟、小学生ぐらいかな?」
「そうですけど、それが何か……?」
「『笛吹き男』には気をつけた方がいいよ……!」
笛吹き男。その聞き覚えのない単語にライは振り向く。
「知ってるかな? 二ヶ月前からこの街で子どもの失踪が相次いでるんだ。昨日二十件目が発生した……」
首を横に振るライに、南雲は焦りの色を見せた。
「志柄木さん、それは機密事項です!」
「良いんだ。知っておいたほうがいい。失踪した少年少女はたいてい一週間ほどで見つかるんだけど、何も話さなくなるんだ……」
「何も……」
「話さないというより、“話せない”んだよ。口が利けなくなってしまう。外傷はないんだが、亡霊のようにその場に存在するだけになってしまう」
「恐怖やストレスを感じたことによるPTSDですかね……?」
「その線も考えられるんだけど、僕はもう一つの可能性を考えている。『何者かに心を奪われた』という可能性を……」
志柄木はここまで話し、ライの方を見据える。その視線は真っ直ぐ彼の瞳孔を捉え、事件への静かな怒りを伝える。
「つまり、その事件に関する重要人物が“笛吹き男”だと?」
「うん。それぞれの子が行方不明となった場所には、決まってディークの反応があるんだよ。スモーク加工の施された窓がついてるワゴン車もね……」
「誘拐……?」
「そう、誘拐だ。そこで、君にはおとり捜査をしてもらうかもしれない」
志柄木の高らかな宣言に、南雲の声が重なる。
「やめましょうよ! こんな素人に危険な捜査をさせる必要はない! それに、まだ子どもですよ!?」
「なるべくそんな手段は使わないように最善を尽くすさ……!」
焦る南雲を尻目に、ライは志柄木に一つの疑問を静かにぶつけた。
「で、一回あたりの報酬はいくら?」
黙って指を三本立てる老紳士に、彼は大きく肯く。
「弟が安全に暮らせるよう、やってやりますよ……!!」
会話劇チックだけどパロも挟んだ