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耐久レース;其の3

ちょっと煮詰まったので気分転換を兼ねて書かせていただきました。


え?いつ出すのって?今でしょ!


・・・・カサハリボウソウ劇場、始まり、始まり~☆

今日も明るい太陽の光が燦々と降り注いでいる。

窓から入ってくる柔らかな日射しは、花柄のレースを通り、床にうっすらと花畑を作る。

そう、穏やかな日常。平和な日常。

そんな中、今日の男爵家令嬢、エミリナは、少々調子外れな音階で鼻歌を歌っていた。


鳥が逃げたのは、何か害獣がいたせいである。


「お、いい感じじゃない?」


姿見に映る自分に、満更でもない気がする。

ぱっと見、バレないと思う。多分。家族位なら。まぁ、客人は十中八九分からないだろう。

黒髪は、特殊な染料を使い明るい茶色に。全体的にきつめのウェーブをかけて、項の辺りで空色のリボンで纏めている。

真っ白なYシャツはしっかり上まで止めて、黒のボウタイをしめる。その上に黒のベスト、同じく黒のやや光沢のある燕尾服を着る。襟がブラックシルバーで、ちょっとだけ遊び心をだしている。黒のスラックスに、これまた黒の革靴を合わせる。

最後にシルバーの細いフレームのだて眼鏡を掛ければ完成だ。


「よしっ、ではでは、職業体験、行きましょうか☆」


準備が出来たところで、扉が叩かれる。入室の許可を出すと、入ってきたのは執事のセスランだ。

セスランは30代半ば(自称ピチピチの28歳)で、本人曰く、没落した侯爵家三男で、路頭に迷い、腹ペコで死にかけたところをエミリナの父親に助けられた。父の激しい拒否にも関わらず(振りきるために3日ほど国中を駆け回った)、給料なし、寝食さえあればいい、と、物凄い押せ押せで押し掛け執事をしている。押し掛けから3年。今では父の右腕として領地運営や、事業展開、果ては邸の切り盛りの補助もしている。

そんな彼だが、完璧人間ではない。顔は整っている方だと思う。決して不細工出はない。ただ、表情筋が職務放棄してしまったのか、行方不明なのだ。喜怒哀楽が無いわけではない。声の抑揚や目の動きで伝わる。それに見合う表情の変化がない。全くと言っていいほどない。

まぁ、あった方がいいかもしれないが、顔合わせの時に本人から伝えられているし、特に問題ないので気にしないでいる。


「職業体験と言うことで旦那様から伺っております。間違いはございませんか?」

「はい。無理を言って申し訳ありません。」


普通の貴族なら、使用人の真似事などと、眉をしかめるが、そこは男爵家。何事も経験である。興味があることは自己責任の範囲でやれば、問題なしである。

だからこそ、エミリナは趣味に没頭できるわけである。


「畏まりました。では皆には私の遠縁の者で名はリオン。臨時の執事補助と伝えましょう。期間は3週間。調度事業や領地からの定期報告やらで忙しくなるので、主に雑用になると思いますが、手は抜きません。よろしいですか?」

「はい。短い期間ですが、よろしくお願いします。」


こうして職業体験は始まった。

直ぐに邸の使用人と顔合わせをする。簡単な自己紹介と、説明をする。使用人と言っても、セスランとハディと、もう一人の侍女のメリッサと料理人のハロルドぐらいだ。ハディは気が付いたようだが、他の2人は人懐っこい笑顔で迎え入れてくれた。

次によく使う資料のありかを説明される。父の書斎の隣で、壁だけではなく人が1人通れるぐらいの幅を残して天井まである棚が沢山ある。その中に年代別、カテゴリー別に資料が納められている。

あとは、お使いだが、趣味の材料を自ら買いに行くエミリナにとって、街のどこに店があって何が売っているなど問題ない。行ってはいけない場所も熟知している。辻馬車の乗り方も問題ないし、金銭のやり取りも問題ない。簡単な確認だけで済んだ。


「では、習うより慣れろ。案ずるより産むが易し。去年の領地の作物の収支報告書を持って旦那様のいる書斎に届けてください。その後は辻馬車で街まで行き、ここにある物を買ってきてください。代金は支払ってあるので、受け取ってサインしてくれれば大丈夫です。その後は帰宅したらまた指示します。」


ではお願いしますと、行ってしまった。

こうして職業体験1日目が始まった。



結果として、物凄く疲れた。手は抜かない宣言通り容赦なくこきつかわれた。

始まって3日はまごついた。1週間が経つ頃には流れに乗れてきた。2週間で少し余裕が出てきた。

そして3週間目。それは起きた。

お使いに出ようとエントランスに差し掛かったとき、来客を告げるベルが鳴る。扉を開けてエミリナは悲鳴をあげそうになった。

しかし、ここ3週間の実地演習で培った笑顔が、知識が、僅かながらに芽生えた矜持がそれをねじ伏せた。

そう、今の彼女は執事補助。この家の使用人である。

瞬時に笑顔を張り付かせると、一礼する。


「クライスラー伯爵家令息、ヴィンセント様。ようこそいらっしゃいました。」


ヴィンセントはそれを見て僅かばかり空色の目を見開くが、礼をしているエミリナは気が付かなかった。顔をあげるよう指示され、やや伏せ目がちに姿勢を正す。


「初めて見るようだが。」

「はい。執事補助のリオンと申します。短い間ですが、こちらで学ばせて頂いております。」


何だろう、先程から視線が居たたまれない。何か、物凄く見られてるような。

使用人が客人に目を合わせるなんて、ましてや上位貴族なら失礼にあたり、罰を受けても申し開きは出来ない。


「エミリナ嬢に会いに来たのだが。」


先触れ出てたっけ⁉


エミリナの背中に汗が流れる。聞いてない。全く知らなかった。

だがここで、出掛けなかったのが幸いかもしれない。

呼んでくることにして応接室に招き、ダッシュで自室に戻り速攻で着替える。そうすればなんとかなるかも知れない。

即座に思い付くと、あとは実行あるのみである。


「では、お呼び致しますので、応接室にてお待ちください。」


先に立ち案内する。その間も観察するような視線がビシビシくる。

時々獲物をロックオンしたような、何やら本能的な危険を報せるような視線を感じるのは自意識過剰なせいだ。きっと。

応接室に着いて、ヴィンセントがソファに座ると、示し会わせたかのようにハディが紅茶とお菓子ののったワゴンを押してきた。

よっしゃ天の助けと、退室しようとすると、ヴィンセントと目があった。

気のせいと離すには、ばっちりあいすぎている。

笑顔がひきつりそうだ。

今行かないで、いつ行く?今でしょ⁉

と、口を開こうとすると、遮られる。


「聞きたいことがあるんだが、いいかな?」


嫌と言えない極上の笑顔。

お茶の用意が終ったハディが、しずしずと退室していく。

心の中で助けを求めるが、いつもはわかってくれる筈なのに、目を会わせず出ていった。


「聞きたいこととは、何でしょう?」


にこやかに対応するが、さっきから背中の汗が止まらない。

ヴィンセントはソファの肘おきに片肘を乗せ、妖艶な笑顔でエミリナを上目遣いで見る。

その妖しさにドキッとする。

いつの間にか手を捕られていた。

ヴィンセントの指先が、手のひらをやさしく擽る。何だか背中がぞわりとして、思わず引っ込めようとするが、抵抗できない力で引かれ、よろめいた隙にヴィンセントの膝の上に座り込んでしまう。


「きゃっ、ごめんなさい!」


思わず素が出てしまうが、テンパっているエミリナは気がつかない。ついでにこの上なく恍惚とした笑みを浮かべているヴィンセントにも気がつかない。

慌てて立ち上がろうとするが、伸びてきた手が視界に入る。その手がエミリナの髪を一房掴み、そのまま口許に持っていく。その唇を思わず凝視していると、わざわざ聞こえるようにたてたリップ音がする。空色の瞳が情熱的に見つめてくる。

頭がパニック状態になる。

今のエミリナは執事補助で、男装をしている。髪の色も変えて、だて眼鏡もかけている。

そう、今は男の子の見た目のはず。

混乱している頭が出した答えは、


ヴィンセントは、男の子も好きなの⁉


ヴィンセントの悪戯な手は、髪から二の腕、前腕を通り、再び手に戻ってきた。指先にキスをして、人差し指の爪先を口に含む。舐められた瞬間、


「きゃむぐっ?!」


唇を塞がれた。

目の前には睫毛が数えられそうなほど近いヴィンセント。思わずぎゅっと目をつむる。

抗議の声をあげようと胸を押すが、片方の手は指を絡めてソファに縫い止められてしまう。顔を背けようにもガッチリホールドされて動かせない。入り込んできた熱が抗議の声や思いを絡めとり、頭が真っ白になっていく。胸を押す手がいつの間にか彼の背中に回り、キスを受け入れていく。

どのぐらいそうしていただろうか。

何度も啄まれた唇は、ぽってりと腫れて赤く染まり、唾液に濡れてきらきら妖しくひかる。

名残惜しそうに離れた唇をぼんやり見つめる。


「・・・いつから、気が付いていたの?」

「・・・初めて見たときから。」


だからあの視線なのね。


「・・・なぜ執事補助を?」

「・・・父の手伝いがしたかったの。」


毎年この時期になると税金やら法改正やら報告から決済やらで、父や母、兄達は寝る間も無いほど忙しくなる。必然的に顔を合わせることも減り、次に会ったときはびっくりするぐらい燃え尽きている様子で、毎年心を痛めていた。力になりたくても「大丈夫。エミリナの笑顔が見れれば元気になるよ。」と言われ、手伝うことはおろか、関わることも出来なかった。

しかし、今年は違った。本人に言って玉砕するなら、外堀から攻めればいいのだ。

だからセスランに協力を求めた。正直に事情を話して対策を練った。最初は渋られたが、ここはセスランの押せ押せ大作戦だ。論理的に話し、時に自分を売り込み粘った。泣き落としも考えたが、それはやっちゃいけない気がした。折れてもらうのではなく、認めて欲しかったからだ。結果は執事補助で受け入れられた。あとは必死にやるだけである。

エミリナは、ヴィンセントを見た。少しやつれているようだ。彼は伯爵家令息である。エミリナの男爵家以上に忙しかったに違いない。だからこの3週間会えなかったのだろう。

頬を撫でる。そのまま唇に触れる。手をとられ、ひらにやさしく口付けられる。


「・・・お疲れ様、ヴィンセント。」

「・・・ん。会いたかった、俺のエミリナ。」


静かに目を閉じ、キスを受け入れる。


ご褒美のキスは、どこまでもやさしかった。






まだ書きたいボウソウ、いや、妄想があるので、まだ続きます。


書類、大変ですよね?


え?アタクシですか?書類書き、嫌いです。デスクワーク、苦手です。


読んでいただきありがとうございました。

ではまた。

・・・不定期なので、なんと書いていいか悩みますね。

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