クロード達の計画
ミストラル大聖堂へと呼び出されるクロード、マリエッタ、ソフィア、パトリシアの4名は、シルヴィオに貸し与えられている大聖堂の私室でシルヴィオ当人落ち合っていた。
大きいテーブルの片側にシルヴィオ、対面にクロード達4人が椅子に座って話し合うという状況であった。
「クロードさんから話は聞きました。銀翼の魔族を討伐し、アルゴス復活を阻止したいと」
「ああ」
ソフィアは正面に座るシルヴィオをジッと睨みつける。
仮面に隠されて表情の読み取れないシルヴィオを睨んだ所でどうしようもないのは分かっているが、それでもソフィアからすれば釈然としないものがある。
重要な話を勇者である自分に話さず、部外者のクロード経由で話された事がかなり気に入らなかったようだ。
勿論、ソフィアはクロードがいくつかシルヴィオについて隠している部分を感じられたので、部外者だからこそ話せる内容もあったとは理解している。
「その点については我々も協力をしましょう。しかし、そのような重要な案件があったならもっと早く聞きたかった所ですが?」
「貴公は早合点するからね。そもそも古典派と自由派は仲が良くない。世界を滅ぼそうとする魔族を東の大陸から逃したという事実を、君に説明した場合の対応が予測つかなかった。最悪、銀翼の魔公やアルゴスを放置したまま東西教団の戦争と言う形もありえたんだ」
「うぐ。で、ですが、彼は…」
「彼は今回の問題の当事者の1人だ。私と彼は同じく銀翼の魔公の被害者でもある。貴公がもう少し頭が回るか、政治を介しているなら、彼と直接話す事もせずに議論になったのだがね」
「うううう」
ソフィアはかなり悔しそうにする。どうやら当人にも自覚があったようだ。自身が政治案件に弱いという事実を。
「ですが、そのアルゴスと言うモンスターはそんなに厄介なのですか?銀翼の魔公という者も……正直に言いまして一介の魔族やちょっと強力なモンスター程度なら勇者一行で十分だと考えています。聖剣騎士団のような集団を集める必要があるのでしょうか?」
パトリシアはソフィアへの援護射撃も含めてフォローを入れる。ソフィアがこのままやり込められるのはあまり西側の人間としてよろしくないからである。
だが、その言葉にクロードとマリエッタは渋い顔をする。
2人は、ルーシュとアルゴスの戦いを見ていた。その為、銀翼の魔公とアルゴスに置き換えて考えてしまう。あんな危険な存在がダブルで襲い掛かってくると思えば、正直大陸が滅びるのではと考えてもおかしくはない。
「聖剣騎士団は役に立つのでしょうか?僕も含めて大勢で挑んでもあれに勝てるとは思いません」
クロードは不安そうに尋ねる。
「普通に山の頭頂部をぶん投げてたのです」
マリエッタは手を大きく広げて、どれだけ大きいかを表現するように口にする。
「いや、クロード。そもそもアルゴスが復活したら負けだと思って欲しい。その前に、銀翼の魔公を倒す。その為には急ぎ奴を捉える必要がある。ハッキリ言えば聖剣騎士団は我々が銀翼の魔公に辿り着くための肉壁に過ぎない。だが……銀翼の魔公はそれほど強い。10分もあれば1つの集落の人間をあっという間に皆殺しにする」
「大規模殲滅魔法を使うような相手では軍隊は役に立たないのでは?」
パトリシアは訊ねる。
「大規模殲滅魔法を使えば必ず隙が出来る。魔力消費も大きい。私はその隙を逃すつもりはない。彼らは壁であり生贄でもある。とはいえ、奴も自身を脅かす存在が私である事を理解しているから迂闊な行動は取らない。北へ向かうのは奴が放棄したくない拠点だからだ。これ以上、逃す積もりは無い」
「相手はこれ以上逃げないと?」
「これまで、奴の作った組織を叩き、何度となく滅ぼしもしてきた。だが、奴は結局私を恐れて逃げた。ほぼ互いに殲滅戦になっているにも構わずだ。奴は翼があるから逃げるのだけは速いのだよ」
「……つまり、戦いを放棄させない状況を作れば、チェックメイトをかけるだけという事ですね?そしてそれには戦力が必要。クロードさんもですか?」
パトリシアはクロードの戦闘力をよく知っている。冒険者としては駆け出しよりも上だが、特別高くはない。魔力が高く身体能力も悪くはないが、聖剣騎士団の中に入れば中の下といったところだろう。勇者と比較すれば足元にも及ばない。
「ああ。彼は私の切り札だ。見てみるが良い」
突如、シルヴィオは強力な光の弾丸を右手に形成する。
「光弾」
凄まじい閃光がクロードに襲い掛かる。あまりの事に誰も反応できなかった。
ソフィアもパトリシアも驚いた頃には町がえぐられるような大魔法が放たれていた。
だがその魔法がクロードの前で霧散する。
「ななななななな、何するんですか!?死ぬかと思いましたよ!?」
「通常なら死ぬな。そこの勇者でもあまりに不意打ち過ぎて動けもしなかっただろう?」
「…だ、大丈夫なのです?」
マリエッタはクロードを心配そうに見る。クロードは大丈夫だと心配してうろたえるマリエッタの頭をなでて落ち着かせる。とはいえ、当人もかなり心臓をどきどきさせて驚いていた。
「彼は魔法無効化能力がある。先代勇者と同じ……な」
シルヴィオは状況を見せて説明する。通常の人間なら致死の魔法でさえキャンセルする。クロードには他に無い体質があると実演して見せたのだ。
「そんな力が……」
ソフィアもパトリシアも驚いた表情でクロードを見ていた。
イヴェールで勇者に祭り上げられてしまった可愛そうな冒険者の少年という印象しか無かったので、想定外の才能に驚きを禁じえなかった。
「一応…魔族の友人に、精霊や魔法から避けられる可愛そうな人呼ばわりされていたけど。僕自身は全く普通の冒険者だし、意識した事が無かったから」
モンスターは精霊や魔力を駆使して魔法を使うような事はしない。無論、身体能力の高さは魔力によるものと言われているが。
「そう。彼は魔法に関してはほぼ無敵だ。戦闘能力が低いのを補って余りあるメリットだ。故にこそ同行を頼んだのだ。そして、できれば貴公にも協力を要請したい」
「も、勿論、クロードさんにはお世話になりましたし、大陸の危機と聞いては放ってはおけません。協力させていただきます」
「それはありがたい」
シルヴィオは首を縦に振りながら納得した様子を見せる。
「それで、出発はいつになるのですか?」
クロードは重要な部分を訪ねる。出発までに準備をする必要はある。
「出発は4日後だ。ミストラルは4日後にスラムの焼き討ちを行なうらしい」
シルヴィオの言葉にクロード、マリエッタ、ソフィア、パトリシアの4名は自身の耳を疑ってしまう。あまりにもとんでもない発言だったからだ。
「スラム街の焼き討ち…ですか!?」
クロードの不安そうな問いに、シルヴィオは頷く。
「ミストラルでは治安悪化が大きくなっているようで、特に治安の悪い北部のスラム区画を一掃したいそうだ。この混乱に乗じて暴徒と化したスラムの住民が南部へ入りこまないように、聖剣騎士団も壁の警備につくことになっている。その日には終わる予定なので、それが終わったらすぐさま北西部へと移動する」
「それは……やらなければならない事なんですか?」
「国が決めた事で、私は頼まれてしまっているからな。断れない状況にある。もう1つは………こう言ってはあれだが都合が良い」
シルヴィオはさらりととんでもない事を口にする。
「都合って…」
クロードの呆気に取られたような呟きに対して、シルヴィオは仮面の奥で苦笑を見せる。
「スラム街が焼ける事で混乱した獣人街は多くの北へ逃げる難民を出すだろう。難民の向かう先はミストラル王国の要塞都市アフルエンより東側の街道を通って北部のガイスラー帝国ヴァロワ領のヴァッサへ向かうだろう。ガイスラー帝国は敵か味方かも分からない膨大な数の難民を前に混乱するのは目に見えている。その隙を突いて我々はアフルエンの西部から行軍して、ガイスラー領へ侵入する。我々は決して軍事で滅ぼしながら進むわけではないから、ヴァロワ軍も慌てて追いかけることもないだろう。そのまま銀翼の魔公が拠点としているアルトベルクまで侵攻可能という事だ」
つまり難民を出す事でガイスラー軍の機能を麻痺させて、その隙に目的を果たしてしまおうという策らしい。
「それは……理解出来ますが……」
「必要な犠牲だと思っている。それにこれは我々が何もしなくても、ミストラル王国は自分達でやるだろう」
「そうなんですか?」
クロードは理解できない様子で首を捻る。
「いくら神聖教団が人間や亜人を優遇しても獣人を殺して良い等と言う教えはありません。ミストラルは何を考えているのですか」
さも当然と言う顔でソフィアは吹聴する。だが、理想と実際の間には大きな隔たりが存在している。
「ミストラル国王は単純に獣人が嫌いで、政治にしても獣人移民の所為で多くの国民が職を失ったという事実を取り上げて、人間を獣人の経済活動から守るには神聖教団は都合のいい宗教だっただけだ。ラフィーラ教会から見れば神聖教団は偏見主義者の集まりにも見えるが、基本的に政治都合で利用されているだけに過ぎない。東の大陸では人間が多く、西の大陸では獣人が多い。だから神聖教団も政府の考え方に従って変えるし、逆に取り込む際には都合の良い派閥を取り込む。そもそも神聖教団も一枚岩ではないからね。ミストラルは恐らく統一派に傾倒しているのだろう」
「統一派…?」
「細かい派閥があり、統一派は人間とエルフ以外は人類として認めないというかなり極端な派閥だが、神聖教団内では第2位の地位にある。ちなみに西方教団の自由派は第3位だ」
シルヴィオは事実を淡々と説明する。
「それは貴公の古典派がもっとも信仰されていると言いたいのか?」
ソフィアはむうと頬を膨らませて子供のように不満そうにする。自派閥が第3位というのがおもしろくないらしい。だが、否定しないという事は事実なのだろう。
「神聖教団の自由派って西の大陸では主流の宗教ですよね?どうしてその神聖教団自由派が第3位になっちゃうんですか?人口もそんなに差は無かったって思ってましたけど」
クロードは神聖教団の割合は西の大陸もかなり高いという認識であった。
「西の大陸は無宗教や獣神信仰、精霊信仰といった別の宗教や思想が広がっているから、人間は多く神聖教団であるが、獣人種の大半は獣神信仰なんだよ。亜人種は精霊信仰、で、あの大陸は人間の割合が少ない。だから人類の人口は同じ位でも神聖教団の割合は少ないんだ」
「なるほど」
「で、私は古典派だが、聖剣騎士団の中には統一派もいる。そうするとこいつらとしてはここからたくさんの寄付金が欲しいから、アピールをするのさ。ちなみに聖剣騎士団の団長は統一派だ。バランスをとっているのもあるが、何が起こっても統一派なら人間とエルフ以外を殺す事に躊躇いを持たないから我らのスポンサー側も使いやすいという事だ。今回のこの面倒くさい国の手伝いも、私が渋ろうが、聖剣騎士団側は乗り気だったんだ」
シルヴィオはクロードに対してかなり腹を割って話している。
これはクロードがラフィーラ教であるからというのもあるが、そこまでしてクロードの手を借りたいという想いから来ている。クロードとしてもシルヴィオが自分に頼ってきている事を察し、そして同じ目的を持つ者同志として必要な事だと理解する。
ラフィーラ教であるクロードの理解を得るには説明が必要なのだとシルヴィオは理解している。
実際、彼は人種差別をさほど持たない。少なくとも西方教団のソフィア達よりもそこら辺はフランクだが、立場上では人種差別的なことを今後もしていくのだろう。それを見せた時にクロードに離れられると困るから、今の内に全て伝えようとしている。
そういう意味では算段高いとも言えるが、クロードに対してシルヴィオは誰よりも真摯だった。
そしてクロードも友人としては仲良くなれなくてもビジネスパートナーという意味では信用できる人物なのだと認識しているからこそ、こうして隣に立っている。
「まあ、どちらにしてもミストラルがスラムの焼き討ちをして、僕らにとめられる事でも無いなら仕方ないよね…」
クロードは諦めるようにぼやく。
「そうですね。やりすぎですが、犯罪者を一斉討伐する為に焼き討ちをするのはよくある事ですし、人種に問わずミストラルを責める事は出来ませんし。調べましたが獣人の犯罪者件数はかなり多いようで、スラムに住み着く獣人たちがその元凶である事も…」
ソフィアも納得する様子を見せる。
「無論、止めようと思えば出来なくも無い。だが、結局の所どちらかを生かすかって話になる。私の最終目標はあくまでも銀翼の魔公による北の大陸の破滅を止めることであり、それ以外は多少目を瞑る。大陸にいる1億以上の人類を救う為、ミストラルで焼きだされるだろう数千、その余波によって出る万を超えるだろう難民に目を瞑り、我らはその機会をチャンスとして一気に銀翼の魔公を討伐する。今後も何度となくその選択肢が訪れるだろう。だが、私は常に銀翼の魔公を討伐する方向で動く」
神聖教団の2人が納得しているようで、クロードもこの国の政治に関与できるような存在でも無いので、4日後に貧民街のほうで大きい問題が起こるのを確認してから、シルヴィオや聖剣騎士団の面々と一緒に行動する事となる。
ラフィーラ教の聖女と勇者、神聖教団の聖人と勇者+メイド(パトリシア)というおかしな組み合わせのパーティが出来てしまう事となった。
「では、話は決まった事だし、早速私は仕事に行かねばならない。クロード君には悪いのだが、暫く南北を隔てる壁には触れないで貰えないか?」
話は終わったとばかりにシルヴィオは立ち上がる。それに伴ってクロード達も立ち上がるのだが、
「触れるも何も、そこに行く予定が全く無いのですが…」
南からやって来て、城塞の内側にある宿に泊まっている。城塞の外側に出る予定もなければ、態々スラムへ足を運ぶ予定も、北の壁へ行く予定も無いのだ。
「なら良い。ミストラルから依頼が来ていてね。焼き討ちをする際に犯罪者が混乱に乗じて南へ入ってこないように壁に結界を張ってほしいと言われていたんだ。私が結界を張っても君の場合触れるだけで壊しかねないからね」
「あ、ああ。……そんなに魔法に強いのかなぁ?気にした事ないから全然分からないや。まあ、取り敢えず気をつけます」
クロードは困ったように取り敢えず首を縦に振る。
「それにしても……変な状況になっているのです」
マリエッタは周りのメンバーを眺めてぼやく。
だが、人知れず迫る世界の危機を救うのだから、決して変なメンバーでは無い。それよりも、これまで魔王の子孫と一緒にいた方がよほど変なメンバーだったのだが、その事実には全く気付いていなかった。




