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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
95/135

獣人族の事情

シーンは変わります。

ミストラルへ引っ越したあの子が出てきます。

 冒険者カードを首にかけた1人の少年は、ミストラル王国オーティーレの城塞都市内を歩いていた。

 少年はコートを着ており、フードを目深に被って顔を見難くしていた。だが、背丈からもまだ10歳にも満たない幼い子供である事が分かる。そんな子供が夜の町を歩くのは少し割る目立ちをしていた。

 城塞都市にある綺麗な居酒屋に入っては、そんな少年は人相の書いてある紙を見せて、酒を飲む人に聞きまわっていた。

「こ、こんな人を見かけませんでしたか?」

「んー、見かけないなぁ」

「その……、城塞都市で見かけたという話を聞いたので…」

「しらねーよ。ガキがこんな所に来てるんじゃねえ」

 少年は様々な人に聞きまわるが、少年は数人ほど聞くと大人達に追い返される。


 だが少年は諦めずに次の酒場へとトボトボと歩いて進む。

「ううう、お母さん、どこいっちゃったんだろう」

 夜空を見上げるが、銀色の月が非常に細く頼りない。

 少年は少し寂しくなって俯くとフードから白い髪と白くて長い兎耳がポロリと出てしまう。慌ててフードを被って髪と耳を隠してから、ブンブンと周りを見渡す。運よく周りで見ていた人間はいなかったようだ。

 ホッと少年は溜息を吐いて、歓楽街を歩く。

 シャトーの冒険者の集るような酒場とは異なり、少しだけ落ち着いた雰囲気のある歓楽街である。公人や富裕層が多く住む城塞内部なのだから当然と言えば当然だろう。

 無論、子供にそのような違いは分からないのだが。


 少年は新たな酒場に入る。

 酒場は非常に賑やかで、照明は非常に明るく不健全さは感じられない。木のテーブルが幾つも並び、店員がカウンターでカクテルを作り、女性従業員が酒を振舞っている。

「すいません。この女の人を見かけませんでしたかー?」

 少年はコソコソと店の中に入って、店の邪魔にならないように飲んでいる客達に聞いて回っていた。

「うっせんだよ、ガキ。知るか、そんな女」

 だが、酒を飲んでいる男達に邪険にされる。いずれも兵士といった様相でラフな服装だが分厚い肉体を持った男達ばかりである。北部で行なわれている戦争に駆り出されている兵士達なのであろう。激しい戦いから帰ってきており気も立っていた。

 だが10にも満たない少年がそんな機微を知るはずも無い。自分の事で、つまり紙に書かれた女性を探すことで手一杯だった。

「すいませーん」

 隣の人に聞こうと紙を持っていこうとすると、

「さっきから五月蝿いんだよ、ガキは家で寝てろ!」

 酒を飲んでいた青年は、近付こうとする少年を蹴り飛ばす。少年は大きく吹っ飛び床を転がる。

「ううう、痛い…」

 少年はおなかを擦りながら涙目で起き上がろうとして、そこで周りが自分を見ている事に気付く。フードで隠していた白い兎の耳がヒョコリと露になっていたからだ。

 少年はそれに気付いて慌ててフードで頭を隠す。

 だが既に手遅れだった。

「お、おい、獣人だ」

「何で城塞内に?」

「ったく、面倒くせえな」

 途端に店の中には剣呑な空気が漂う。店にいた男達がゆっくりと腰を上げ、近くに置いてある武器を手にかける。

「お客さん、店の外でお願いしますね。獣人の血で店が汚れたら評判が落ちちまう」

 カウンターに立つ店員は回収したグラスを洗いながら、何事も無いように口にする。

 少年は剣呑な雰囲気を感じ取り、恐怖で後退り、店の出入口の方を一目散に走り出す。

「ひ、ひいいいいいいいいいっ」

 酒に酔っている男達は追いかけようとするが、足元がおぼつかなかったり反応が悪かったりと意外に追い始めるのが遅かった。

「待て!このガキ!」

「おい、獣人だ!獣人が城塞内に入り込んでるぞ!」

「殺せ!」

「こっちだ!」

 怒号の様に怒鳴り散らし、男達は武器を持って慌てて逃げ出した少年を追いかける。

 少年は恐怖に駆られて、とにかく必死になって走る。捕まったらどうなるか等を感覚的に理解していた。

 だが、小さな少年の足の長さでは、大きい大人達の方がふらついていようと足は速く、徐々に怒鳴り散らす声が近づいてくる。足音も大きく聞こえてくる。

 少年はこのままだと大変な事になると感じて、何処か逃げ道がないかを探す。川に飛び込むというのも考えたが、この季節は非常に寒く水の中に入る事自体を忌避した。そこで目に付いたのは狭い路地である。

 少年は慌てて自分の体が入る程度の細い路地へと飛び込むのだった。

「待ちやがれ!」

 男も路地に入ろうとするのだが、体がつかえて入れない。

「くっ狭すぎる」

「つかえてんじゃねえよ!くそっ!」

「ガキッ!戻って来い!ぶっ殺してやる!」

「待てやコラ!獣人如きが!」

「何してやがった!」

 少年は背後から響く大人達の酷い罵倒を怖がり、両手で耳を押さえて聞こえないようにして路地を走り続けるのだった。




 少年は必死に走って人気のない裏道に出る。

「はあはあはあ………だ、大丈夫かな?」

 追ってくる人間がいないのを感じて、膝に手を吐いて息を荒げる。

 この町は水路こそ整然と整えられているが、陸路は入り組んでいるので、こういうショートカット先に回り込むのは非常に困難である。

 向かう方向を決めて歩けば、そこにたどり着く事は可能である。だが、地図にない道を使って逃げる相手を、地図にある道だけを使って追いかけるとなると、ほとんど困難である。これは、近所に住んでいる地元民でも、ちょっと遠出すると、良い大人であっても迷子になってしまう。ゴンドラのタクシーに乗って家に送ってもらう事もよくあるくらいに複雑なのである。


 少年は息を整えてからとぼとぼとやってきたゴンドラのある方角へと歩き出す。

 暫く歩き続け、水路沿いの暗い道に出る。

 空には頼りない光しか射さない月しかなく、いつも以上に真っ暗であった。歓楽街のある方向から光が洩れているが、足元が暗く、とても頼りなかった。

 そんな中、少年はずぶ濡れで倒れている人影を見つける。

 黒尽くめの装束を着た怪しげな存在であった。

「…?」

 だが、少年はクンクンと鼻を利かせると、そこに倒れている黒尽くめの怪しげな存在が、獣人種の女性であると即座に気付く。目深に被せられた黒頭巾の中には黒い猫耳が生えていた。

「あ、あの、お姉さん?大丈夫ですかー?」

 ユサユサと肩を揺するのだが意識がないようだった。息はしているので死んではいないようだった。無論、獣人種の中でも特に耳の良い人兎族である少年には、目の前にいる女性から規則正しい呼吸音と心臓の鼓動がよく聞こえている。

 だが、いくら人の目のない場所でも、城塞の中で獣人種が見つかったら、どうなるかは幼い少年の想像力を持ってしても明らかだった。先ほど、有無を言わさずに大人達に追い回されたところだから尚更だった。

 何より冬場だというのに濡れている状態で放置したら死にかねない。非常にまずい状況だと気づく。


「どうしよう……」


 少年は早く城塞から逃げようと考えているのだが、目の前の倒れている女性を捨て置くのも偲び無かった。

 少年はピコピコと白くて長い耳を立たせたり傾けたりを繰り返しながら、うーんと唸って目の前の女性の対応を考える。

 そもそも自分もここから早く逃げないといけない。

 元の来たゴンドラを使って抜け道を通って帰らなければならないのだ。

 大人だったら持ち上げて、自分の乗って来たゴンドラまで運べるだろう。だが、さすがにそれは自身の腕力でする事は不可能だと理解している。倒れているお姉さんの方が大きくて重そうなのだ。ちょっとくらいなら引き摺って移動させることはできるだろうが。


「あ、そういえば」

 少年は自分がやって来たゴンドラの水路は、この陸路に面しているという事実に気付く。そして、ここの陸路と水路の間には高低差がほとんどない事もポイントである。

 さすがに自分の力では女性は運べない。助けを呼びたくても、この区画で助けを呼んだら自分達を襲う人間達がやってきてしまう。

 だが、よく考えればゴンドラまで運ばずとも、ゴンドラを近くに寄せて、女性をゴンドラに乗せてしまえば良いのだ。その位の距離なら、多少は引き摺っても運ぶことはできると感じる。

 自身がやって来た獣人区画地の孤児院へ帰れば、後は院長先生や孤児院の仲間たちがどうにかしてくれると思いつくのだった。


 少年は急いで元の来たゴンドラの方へと駆け出す。





 翌日、黒尽くめの格好をしていた黒い猫耳の少女が目を覚ます。

 少女は自身のおかれた状況を理解できていなかった。薄っぺらいが白い布団の中に包まっていた。自身の長い黒髪だけが布団の上に見える。


「おや、起きたようですね。大丈夫ですか?」

 少女に声を掛けるのは老人と呼べる程度の人間だった。人間の姿を見て少女は大きく警戒心を持つ。布団から飛び出して大きく距離を取る。武器を探すが手元には一切存在しなかった。

「き、貴様…何者だ……」

「はっはっはっ……まさかそう来るとは……。私はこの孤児院の院長を務めるジョセフ・ベアールと言います。別に貴方を取って食ったりはしませんよ」

 老人は禿げ上がった自身の額をペチペチ叩きながら、カラカラと笑う。

 とはいえ、少女は激しく動揺をしていた。彼女は主の密命によって城塞内へ侵入していた。だが、敵に返り討ちにあった挙句、泳げもしないのに水の中に落とされて、目を覚ましたら孤児院にいたと言うのは、あまりにも状況が飛びすぎていたからだ。

 周りを見渡そうとして目に入ったのは、戸の外に見える庭で、小さな子供が遊びまわっている様子で、目の前の老人が孤児院の院長と言うのは間違いないだろう。少女はそこでふと孤児院の庭で遊ぶ光景を見て目を細める。人間と獣人が一緒に遊んでいる様子だった。彼女にとってこの光景は異様としか形容が出来なかった。

 露骨に顔に出ていたのだろう。

「子を捨てる親は種族に関係なくいますから」

 老人はニコニコと笑った表情のまま、少し悲しそうな声色で溜息の様に口にする。

 少女はギュッと唇をかんで俯く。

「そ、その…私はどうして…こ、ここに?」

「ウチの子が人を探す為に城塞内の中に忍び込んでいたそうなのですよ。そしたら貴女を見かけてここに。ついてましたね」

「そ、そうですか」

 少女は、自分に起こったことが夢でもなんでもないことを知る。濡れた状態で冬の夜道で寝ていたら間違いなく朝には凍り付いて死んでいただろう。命の恩人だと心の中で感謝する。

「それよりも、若い娘さんがそんな格好でいてはよくない。今、着替えを出すからお待ちなさいな。着ていたものは干しているから…」

「え?あ…」

 少女は自分が下着姿だった事に気付き、赤面して慌てて身を両手で隠す。簡単に隠せる程度に貧弱な体ではあるが、さすがに年頃の少女だった。



 少女は乾いた黒い自身の服に着替えながら体に怪我がないかなどをチェックし、問題ないことを確認してから服を着る。

 あの日、何があったのか、当人も理解が及んでいなかった。ただ溺れていた時、誰かに助けられたのを覚えている。必死に手を伸ばした時にその手を掴んでくれた誰かがいた。

 誰かに助けられたのだが……あれは誰だったのか。

 少女は考え込んでいると、部屋の外から何とも言えない甘酸っぱい良い匂いが漂ってくる。子供達がワーッと庭の方から走ってきて、部屋の前を通り過ぎて家の奥の方へと向かっていくのが見える。

 少女は不思議に思って部屋を出る事にする。

 すると孤児院の院長がこちらの方へ歩いてくるのが見える。

「おや、もう大丈夫ですかな?」

「この臭いは?」

 少女は芳しい臭いが気になり訊ねる。

「ウチの子供がアップルパイを焼いたんです。折角ですのでどうぞ食べていってくださいな」

「いや、その…、ありがたいが…アップルパイとは?とりあえず私を助けてくれた恩人に例だけでもと思ったが」

「なら、尚更どうぞ、こちらへ」

「そ、それならば…」


 孤児院は10人程の子供がいて人間もいるが大半は獣人であった。

 そんな中で、10歳に満たない程度の、孤児院の中では中間層に位置する白髪に白い兎耳をした赤い瞳の人兎族の少年が、包丁で大きなアップルパイを切り分けていた。

人数分が切り分けられるとわーっと子供達が喜ぶ。

 そして1人1人の孤児院の子供達が皿を持って人兎族の少年の前に殺到し、切り分けたアップルパイをもらって行く。

 アップルパイを分け終わって、残りの入った皿をテーブルに置いて、少年は一息を吐くと、そこで少女と目があう。

「あ、お姉さん。目が覚めたのですか?」

 少年が使い慣れない敬語を使って少女の方を見上げてくる。

「?…もしかして君が私を助けてくれたのか?」

「えと、何だか城塞の中でビショビショになって寝てたから」

 人兎族の少年が応えると、

「私達が着替えさせたー」

 と女の子達が挙手をして、

「俺もゴンドラから運んだぞー」

「俺も俺も」

「僕は布団を引いたよ?」

 全員が何かしらアピールをする。そんな無邪気な子供達に少女は苦笑する。

「そうか。世話になった、ありがとう」

 少女は頭を下げると、全員が照れたようにする。

「孤児院なんて碌な環境でも無いのに随分と…」

 人のいい子供ばかりだと少女は感心する。

 少女もまた孤児である。だがお世辞にも良い環境とはいえなかった。大人達は乱暴で幼少期に死ぬ子供も多かった。ある程度育てば奴隷に売られる。孤児院とは名ばかりの劣悪な環境で、子供を育てて売り飛ばすような場所だった。

 その為か、目の前の暖かな空気があまりにも自身の環境と違っていて呆気に取れれていた。

 すると人兎族の少年はアップルパイを皿によそって少女におずおずと差し出す。

「あ、ありがとう。何だか助けてもらっただけでなく、こんなものまで貰って」

 少女はアップルパイの甘酸っぱい芳香を吸い込んでから、そのまま口に頬張る。

 程よい甘さと酸味が口の中に広がり、食べたことの無い美味さに、驚きを感じる。さらにもう一口と食べていくとあっという間にアップルパイがなくなるのだった。

「う、美味いな。店で売れるんじゃないか?」

「えへへへへ。ここに来る前、師匠に教えてもらったんです。すごい繁盛していたお店で修行してたんです」

 人兎族の少年はエヘンと胸をそらして笑顔で答える。

「この子はオーテーレに親子で住んでいたそうなのですが、人攫いに船へと乗せられて、母親とはぐれてしまったそうなんですよ。その後、人攫いから助けられてイヴェールの孤児院に流れ着いたそうで、そこで知り合った方から教わったそうです」

 院長が説明して、驚いた表情で少女は食べ尽くしてなくなったアップルパイの皿の上を見る。

「イヴェールの食べ物なのか。こんな美味しいものがあったとは」

「師匠のお店はいつも行列であっという間に売り切れたのです。ミストラルに戻れたのも師匠がお給金をくれたからで」

「なるほど。向こうでは良い人達に恵まれていたのか」

 少女は目の前の人兎族の少年が幸運な巡りあわせだったと感じ取る。

「えへへへ」

 ピコピコと白い耳をパタつかせる少年に対して、少女はすこしだけ羨ましそうな表情を見せる。だが少女は目の前の少年に恩を返さねばならないと考える。

「とにかく、君には世話になったようだ。私はカティア、冒険者を生業としている。仕事で城塞に入ったのだが、この国で城塞内に獣人が入る事は命の危険があった。君は命の恩人だ。困ってることがあったら何でも言ってくれ。君の名前は?」

「えと、ティモって言います。でも……別に困ってる事はないですよ?」

 ティモは小首を傾げて口にする。

 だが、他の子供達は不思議そうに首を捻るのだった。

「えー、ティモはお母さん探してるじゃん」

「折角だし、お母さん見つけたら教えてもらったらいいんじゃない?」

「そうだよー」

 という事を周りの子供達が口々に言う。

 カティアは周りの声を聞いて、ティモに確認を取るように訊ねる。

「母親を探しているのか?」

「はい。えと、きっと急に僕がいなくなったから、お母さんは心配してると思うんです。この町に住んでたけど、前に住んでた場所にはもういないみたいで。獣人がいったらいけない町だから探すのも大変で」

 ティモは心から母親を心配している様子で喋る。

 カティアはそんなティモの様子を見て、よほど母親が好きなのだろうと理解する。自分の為ではなく、母親が心配しているから早く安心させてあげたいと思っている事からも、優しい子供なのだろうと感じ取るのだった。そもそも自分を城塞からゴンドラに乗せて帰るのは、この小さい子供にはかなりの困難だった筈だ。当然のようにそれが出来てしまう子供の姿に心が温かくなる。

「そ、そうか。なら、私も探そうじゃないか」

「で、でも…」

「心配はいらない。私はこれでもそれなりに名の通った人間種族の冒険者様の部下でな。人間達の町の中でも人探しくらいは出来る」

「ほ、本当ですか?」

 少年は驚き、そしてキラキラと尊敬の眼差しをカティアへと向ける。

 心から尊敬するような眼差しに、カティアはこそばゆくも感じる。

「ティモと言ったね。母親の容姿の特徴などを教えてくれないか?」

「あ、はい。えと……小さい時に住んでいた場所にお絵かきの上手な人がいたです。その人が描いてくれたお母さんの絵があるのです。とっても上手だったので、この絵を使ってずっと探していたのです」

「ほう?」

 顔が似ているなら意外と手がかりくらいは見つかるかもしれないとカティアは考えて、ティモが取り出した羊皮紙を受け取る。

 羊皮紙には美しい女性の絵が描かれていた。


 だがカティアはその羊皮紙を受け取り、目を大きく広げて絶句するのだった。

 別に描かれていた女性が美しくて驚いたとか、或いは驚くほど変わった顔をしたとかそういう話ではない。描かれてはいけない決定的な物が描かれていたからだ。

 そんなカティアの驚きをティモは理解してはおらず、何かあったのかなと不思議そうにちょこんと首を傾げる。

 カティアは慌ててこの場で唯一の大人である孤児院の院長の方を見る。ティモの後ろにいる孤児院の院長は余りにも残念そうに首を横に振るのだった。

 カティアが激しく動揺した理由を当然の様に孤児院の院長は理解していたようだ。

「そ、そうか……。わ、分かった。もしも……彼女を見かけたら君に伝えよう。冒険者協会を通じて君へ連絡を寄越すようにしよう。オーテーレ出身のティモで良いんだね?」

「はい、そうです。ありがとうです」

 ティモは本当に嬉しそうに笑顔でペコペコと大きく頭を下げて礼をする。

 カティアにとって、そんな一生懸命なティモの姿があまりにも心苦しかった。

 その為、逃げる様に礼をして孤児院を出て行く事になる。


 何故ならカティアはその女性を探すつもりも、見かけたら連絡をするつもりも一切無くなってしまったからだ。余りにも酷すぎる話だと同情しか出来ない事だった。

「すまぬな、ティモ。私には君への恩義を返す事は出来ないようだ」

 孤児院を背に小さく呟く。


 だが、それは仕方ないことだった。

 ティモという少年の持っていた羊皮紙に描かれた女性はどこにも獣人の特徴である耳を持っていない、ただの人間だったからだ。

 人間の女性が獣人との間に子供を儲ける場合、人間が生まれるケースと獣人が生まれるケースがある。2年前辺りから獣人差別が始まって、人間の親を持つ獣人の子供は一斉に孤児になったり奴隷として売り飛ばされる事になったのは、オーテーレでは有名な話なのだ。

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