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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
93/135

忍び寄る影

 遅くなりましたがやっと更新できました。

 再びクロードの動向がそのまま続きます。

 本編の主人公であるルーシュの出番は暫くなさそうでミストラルでの動きが描かれます。

※物語の時間軸が間違っていたので修正しました。(2016/10/8)

 クロード達は城塞都市内で宿を取る事にする。

 城塞都市内でもかなり広い。兵士が多く酒場はにぎわっているようで、治安は悪くないが柄の悪い兵士、恐らく傭兵という存在も多くいるようだった。

 宿自体は冒険者用の宿なので普通に質素だが、普段泊まっているような安宿ではなく、ソフィアのような勇者が泊まるのでそれなりのきれいな宿であった。

 宿にあるロビーでクロード、マリエッタ、ソフィア、パトリシアの4人が落ち合っていた。

「大聖堂までの地図を貰ってきたのです」

 クロードに陸路の地図を持ってくるのはマリエッタであった。

「ありがとう、マリー」

 クロードはマリエッタの頭を撫でる。マリエッタは嬉しそうに笑顔になる。

「ところで、パトリシアさん。ロベールは…」

「宿の馬小屋に繋いでおきましたわ」

「ありがとうございます。……っていうか、人に懐かなかったくせに何でウチのあれは女子にはいう事を聞くんだ……」

「所詮、雄ですわね」

「ぐう」

 クロードは悔しそうに歯噛みする。軍馬として生まれたのに親同然の自分以外ではなつかないと思っていた。だが、どうやら女性は懐くというとんだ駄馬であった事がつい先日に発覚したのだった。女性にあまり触れさせて来なかったので気付かなかった。

 女性には甘いという事実が発覚してこの上なくガッカリさせられる出来事だった。

 以前、ルーシュがロベールの誘拐ごっこをしていたが、ルーシュには見事に蹴られた後が残っていたが、レナは綺麗なものだった。マリエッタを上に乗せてもノホホンとしているし、まさか女子が好きだったと言う事実には愕然としたものでもある。

「女勇者に唆されて隣の国まで流れた勇者様ほどじゃないのです」

「いやいや、これはそれだけじゃないよ?」

 クロードはぶんぶんと首を横に振る。

 マリエッタはクロードが下心でついてきたと邪推している。無論、下心だけではない。

 クロードは過去に出会ったルーシュやセドリックのように自身の信念を持って行動する存在を見てきた。にも拘らず自分は流されるまま冒険者活動をしていた。

 無論、多くの冒険者は生きる為、ただ世間に流されて生活している。だが、仮にも自分は周りに勇者と呼ばれているのだから、勇者になるつもりが無くても、それなりに誇れる活動をしていきたかった。


 するとソフィアは真剣な表情でクロードのほうを見る。

「な、何ですか?」

 少しだけどぎまぎしてソフィアの方に尋ねる。

「気をつけてください、クロードさん」

「気をつけてといわれても……」

 クロードは何を気をつければいいのだろうと首を傾げる。

「あの方は確かに我等が神聖教団の聖人指定を受けた方ですが………西方教団では全く活動を知られていない方です。普通、聖人認定を受けるので、能力だけでなく、それなりに有名な枢機卿の方々の既知や親戚などなのですが…」

 ソフィアは真面目に説明をしてくれている。

 だが、クロードは聖人指定の方が無駄にコネで内定しているような話に聞こえてしまう。むしろ得体の知れない男の方が意外と本当の聖人なのでは?なんて思ってしまい、注意喚起があまり機能していなかった。

「あの、ソフィア様。それでは聖人がコネでなれているみたいで、何の説明にもなっていませんよ。ハイドリヒ卿がハイドリヒ伯爵家に入る前に何をしていたか、どんな顔なのかも一切不明であり、西方教団からすれば得体の知れない魔族弾劾派の急先鋒としか知られていないという事を説明しないと」

「あうう」

 パトリシアに突っ込まれて、ソフィアは顔を赤くして縮こまる。

 この2人は、勇者とメイドという変な組み合わせのパーティだが、どうもメイドの方が主導権を握っているように感じるのは気のせいでは無かったようだ。

 ソフィアは勇者として活動して正義に燃えているが、実質的な活動の大半をパトリシアが握っている。宿の手配や船の手配、冒険のあらゆる便宜を彼女がとっている。

 海でモンスターが出た際には戦闘力もあり、パトリシアが勇者の右腕というよりも、勇者がパトリシアについていっているようにさえ見えてしまうありさまだった。

「勿論、無礼の無いように、それにイヴェールの首が締まらないように注意しますよ」

 クロードは心配するソフィアとパトリシアに対して首を横に振ってハイドリヒ卿との会談で失礼内容に気を付ける事を誓う。

「私がついていければ良いのですが……」

「しかし、ハイドリヒ卿はクロード様に何の用があるのでしょうか。故郷が滅ぼされたと聞きましたが」

 パトリシアはクロードに訊ねると、クロードは視線を下に落とす。

 クロードは実家が銀翼の魔公によって滅びた事を、彼女達に詳しく話して無かった。

 神聖教団はどこか魔族を蔑視しているので、彼女達に魔族によって滅ぼされたと言う事実を伝えるのは蔑視に拍車が掛かりそうで躊躇していたのものある。マリエッタもその辺に関しては触れないようにしていた。

「ま、まあ、詳しく分かったら…」



 クロードは3人を残して宿を出る。

 水路をメインストリートに使われているため、脇道や橋が複雑になっており、歩いて行くと迷路みたいな町並へと変わっていた。

「まあ、教会はここからでも見えるし困ることはないかな」

 行き先はオーテーレ大聖堂、由緒正しい聖堂である。ラフィーラ教会の聖堂として作られたが、国教が変わり、現在では神聖教団の聖堂になっていた。

 宿屋の女将に聞いたところ、潰して新しいのを作り変えようと言う話が国政の大臣達から出たらしく、国民は多く反発の声が出ていたという。だが、国教を神聖教団に変えるように活動をしたハイドリヒ卿が潰さないように話を停止させて、国民に強い人気を残したと言う。随分と女将はハイドリヒ卿を褒め称えていた。だが、人気がなければそもそも神聖教団へと鞍替えする筈も無いのだから当然と言えるだろう。

 濃い青色に塗られた屋根が見える。ラフィーラ教は基本的に真っ白なのだが、神聖教団に変える際に聖堂も神聖教団のものにするべく、屋根を青く塗り替えたらしい。恐らく、ラフィーラ教の紋章であるヘキサグラムの紋様も無いのではと思われるが、ここからでは遠くて見えそうに無かった。

 クロードはそんな青い屋根の聖堂を目指して、迷路のようなオーテーレの町並を歩く。


 ハイドリヒは仕事があるらしく、日が沈んだ頃に聖堂に来て欲しいとの事だった。

 夜に聖堂に行くのは迷惑なのではと思ったが、どうも聖堂は多くの観光客が来るらしく明るく賑わっているそうだ。実際、太い水路沿いは人通りも多く明るい。聖堂に繋がる水路はまだ煌煌と魔導灯の光が輝いており、日没したとは思えない。

 暗い町並を魔導灯によって輝き、それが水面に反射して美しさを増していた。


「観光地っていう理由も分かる気がするなぁ」

 現在、海洋移動技術が発展し、観光しに他国から来るという富裕層の人間も少なく無かった。魔導機関技術とそれを用いた魔導船舶は大きな革命を起こしている。革命の中心はダイヤクラブという冒険者協会の最大出資者でもある世界最大商社である。

 クロードの世代では既にその技術が当然のものと受け入れられていた。


 明るい町並を外れて橋を渡る為に少し暗い道へと入る。

 水路がメインストリートなので陸路を使う人が少ないと言う理由を理解出来てしまう。城砦内なので治安が悪い事は無いが、それでも人通りがなく物騒な雰囲気を感じてしまうのだった。シャトーであれば危険で絶対に歩きたくないような暗い道である。


「暗いなぁ」

 暗いのは街の灯のない道だというだけでなく、月の満ち欠けの問題がある。

 現在は暦でいうと土の月53日である。この世界<グランクラブ>において、1年は六か月60日存在しているが、秋を表す”土”の月の終わり頃となる。新月が1日で満月が31日となっているので、現在は細い船のような形の月が見えるだけなので、月の光は非常に暗かった。

 イヴェールでは月初と月末は月の明かりが少なく犯罪が多発する為、衛兵の見回りが最も多い期間になっているとも言う。

 観光地だからこそ安心していたクロードだが、そこで背後から足音を耳にする。小さくクロードの足音に合わせるような音だった。

「?」

 いつの間にか賑やかな街から離れていて、人のいない場所に来ていた事に気付く。水路中心のこの都市では、陸路を使って歩くとどうしても橋を越えるために暗い道を通る事になってしまう。そして、今クロードのいる場所には全く人がいなく、家の前という事もない水路に囲まれたただの陸路で、繁華街の完全な真裏に来てしまっていた。

「ま、まさか…強盗?」

 クロードは恐ろしい雰囲気を感じ取り、走ってこの場から離れて賑やかな場所へ出ようとする。

 だが、走り出した瞬間、物凄い勢いで黒い闇が駆け抜けてクロードの背後へ襲い掛かる。

 煌く銀閃。

 クロードは命の危険を察して防御を試みる。とはいえ街中で剣や槍を持ち歩くと冒険者らしい半面で、冒険者の少ない土地では周りに異様に見られる。その為、長剣は置いて行動していた。

 冒険者として最低限もっている、腰のサバイバルナイフを握って咄嗟に攻撃を対応する。

 刃がぶつかり合い火花を散らす。


「くっ……」

 クロードは攻撃に吹き飛ばされて地面に転がる。重さは感じなかったが鋭さに驚きを感じる。

 襲撃者は小柄で黒尽くめの格好をしており、完全に闇に溶け込んでいた。近づいた時に少しだけわかったのは、黒い服に黒い胸当て、黒頭巾を目深に被り、口元も首に巻きつけてある黒い外套で隠していた。

(まるで暗殺者みたいな……強盗じゃないの?)

 クロードは体を半身にしてナイフを前に持って構えながら相手を見る。

 逃げたり大声を出す隙さえ与えないと言わんばかりに、黒い暗殺者は肉食獣のように態勢を低くして構えていた。

 刹那、黒い暗殺者は突風のような速度でクロードに襲い掛かる。闇に紛れて見難く、反応が遅れてしまうが、決してスピードに戸惑うことは無かった。

 銀閃がクロードの急所へ的確に迫るが、クロードは後に下がりながら、相手の刃を受け止める。

(速いけど………セドリック王達よりも遅いかも…)

 万を束ねる傭兵団の元副団長に稽古してもらい、散々打ち倒された時と比べればまだマシだった。クロードは、自身の能力は高くなくても、攻撃に対する耐性だけは強くなっていた。

 相手は腰から武器を取り出すと素早く投げ付けてくる。折り曲がっている刃のような武器は投げられると回転してクロードの首へと襲い掛かる。

 クロードは慌ててそれを避けるのだがハッと背後を見る。

 アルベールにいる頃に遊んでいたブーメランという投げると戻ってくる遊具に似ていた。村を降りてから見る事の無かった遊具だが、似た形状の刃のついた武器を投げた事で、ふと思い出される。

 まさか帰っては来ないよな?

 そういう気持ちになって背後を一瞥すると、案の定だが刃は折り返し戻ってくる。だが背後を見る隙をついて漆黒の暗殺者は凄まじい速度で襲い掛かってくる。

 ブーメランとの挟撃だ。

 クロードは背後から飛んでくるブーメランの軌跡から体をずらしつつ、暗殺者の攻撃に対処する。暗殺者は右手に持つ銀の刃でクロードを狙うが、クロードはナイフで攻撃を受け止める。

 最近ではかなり儲けが良かったので、その金で高価なナイフを買っておいて正解だった。普通のナイフだったら既に折れていたかもしれない。そんな事を思う程度にクロードの持つナイフは刃が打ち付けられるたびにつぶれていた。相手の持つ短刀とも言うべき片刃の武器は非常に重く鋭かった。

 クロードはブーメランの起動が襲撃者の左肩に当たると考えて、相手の攻撃を受け止めたまま堪えていた。

 だが、恐ろしい事に戻って来た抜き身の刃を左手で相手はキャッチするのだった。

「!?」

 ブーメランならばクロードでもキャッチは可能だが、刃の付いたブーメランをキャッチするなんて芸当はさすがに無理だと踏んでいたが、どうやらこの暗殺者にとっては容易な事らしい。

 暗殺者は更に右手でクロードのナイフを抑えつつ、左手で握ったブーメランのようなナイフでクロードの首を狙ってくる。

 クロードは慌てて下がって刃の軌道をかわすが、相手は更に踏み込んで右の刃がクロードへとむけられる。

 服が切り裂かれ、腹から鮮血が飛ぶ。

 クロードは痛みを押し殺してナイフを構えたまま相手が襲ってこないかを注視する。その間に自身の状況を把握する。結構な血が出ているが、死ぬような怪我ではないと即座に判断できる。

(どうにか……あっちの道に入って大通りに出れれば……)

 随分と大通りから離れている。外に魔力を出すのは苦手だが、魔力を使って運動性能を上げる事に関してはアレッサンドロやセドリックといった元オリハルコンの師匠からもお墨付き…とまではいかないがマシなレベルだと認められている。走れば逃げ切れるが、その走り出しの隙を与えられていない状況にあるのが現状だった。

 後ろを向いた瞬間、投げナイフ当たりで切り裂かれるのが容易に想像がついてしまうので動けないのだ。確かに相手のスピードは過去に訓練と称してアレッサンドロやセドリックと手合わせをした事を思えば遥かに遅いといえるだろう。

 というよりも先の2人がかなり化物だったのかもしれないが、比較対象があまりいなかったので比較しようもなかった。

 さらに言えば、目の前の暗殺者が彼らより遅かろうと、そもそもクロードが目の前の暗殺者より早く動けるわけでも無い。単純に、クロードに戦闘技術を教えてくれた2人の教師のおかげで速度に対する耐久性が上がっていただけの事だった。

「天より流転せし風の精霊よ。鋭き刃となりて…」

 目の前の相手は右手を前に掲げ魔法陣を展開し、小さい声だが呪文を唱える。高いハスキーボイスと小柄な見た目から、まさか子供かとも感じるのだが、子供だったとしても自身よりも強い相手に手加減出来る余裕は、クロードは持ち合わせていなかった。

 だが、魔法陣や呪文を見て、クロードはそれが風の魔法・風刃(ウインドカッター)であると即座に気付く。魔法を使えなくてもアルベールにいた魔族の師匠から多くの魔法を習っていた。魔法陣を見れば何をしようとしているか何となく察する事は出来る。

「我が障害を切り裂け。風刃(ウインドカッター)

 暗殺者は風の刃を放ってくる。

 クロードは慌ててそれを避ける。

 生み出された風の刃はかなりの威力を持っており、避けたものの、陸路と海路の境にある鉄でできた手すりが真っ二つにされていた。

 クロードは目の前の暗殺者が、あれほどの体術や戦闘能力を持っていて魔法まで使うという事実に驚かされる。普通、魔法がある程度使えるなら、肉体を磨くよりも魔法を習得した方が安全だ。さらにレアスキルでもあるので、高給取りにもなりやすい。

「世界に恩寵を齎す水の精霊よ…」

 再び相手は呪文を唱え始める。

(水の魔法!?)

 クロードはハッと周りを見る。この土地は水路がメインで水の上に浮かんでいるような都市である。つまり水の魔法を使いやすい土地柄でもあった。

 普通、水の魔法は溜めが大きく攻撃には向かない。これは、溜めが大きい理由として、水の精霊に呼びかけてから水を顕現するまでの時間が非常に掛かるからである。だが、ここには水が腐るほどある。今立っている場所とて右手には大きいゴンドラが通れるような幅の広い水路が広がっていた。

 その為、水を溜める時間なんて一切必要としない地形なのである事は誰にでもわかる。

「やばっ」

「鋭き牙を持つ戒めの力よ、汝の名は蛇、我が手先として顕現せよ」

「!」

 水魔法の中では上級に値する魔法を唱える黒尽くめの暗殺者。幼い頃、結局1つも習得できなかったが、師匠に多くの魔法を教わったので、流派が異なったり呪文が多少違っても、それによってどんな効果を成す魔法かが理解できてしまい、相手がかなりやばい魔法を使ったと即座に認識する。

水蛇(ウォータースネーク)!」

 横に流れる水路から現れたのは、人の体ほどもある巨大な蛇。それがクロードへと襲い掛かってくる。

(避けられない!だったら)

 クロードは走って相手へと反撃へ向かう。水路に落とせば逃げる時間が稼げると踏み、体当たりで水路に落とす事を目的とした体当たりを仕掛けに、全力で相手へと突進する。

 相手の初撃こそは突然の攻撃で吹き飛ばされてしまったが、少なくとも体格差はクロードの方が上だった。本当に体当たりすれば負けるはずはないとクロードは確信していた。

 だが暗殺者は再び右手を差し出しクロードへと向ける。

「!?」

風刃(ウインドカッター)!」

 クロードも驚くしかなかった。だが全力で体当たりをしに行っているので今更止められなかった。ウインドカッターによって自身の首が飛ぶ姿を幻視する。


 だがここで相手もクロードも想定していなかった事が起こった。

 クロードは人生の中で魔法をまともに食らった事が無かった。師匠から魔法を向けられた事も無かった。的に魔法をぶつけるのを見て、隣で同じく的に向けて魔法の練習をする事くらいしかしたことが無かった。

 まさかモンスターさえ切り刻む強力な風魔法を、自身が無力化してしまう体質だった事を理解して無かったのだ。確かにルーシュやマリエッタからは精霊や魔法を避ける体質だとは指摘されていた。だが、まさか、致死級の攻撃魔法が無効化されるなんて想定も市営無かったのだ。


 当然、当人さえ理解が及んでいない事を、暗殺者が分かっていた筈も無い。完璧に構成された風の魔法がクロードに当たり、勝利を確信した。

 にもかかわらず、その魔法が霧散するなんて夢にも思っていなかった。

 不意を突かれた暗殺者はクロードの体当たりをもろに受けてしまう。

 クロードの想定通り、暗殺者は大きく吹き飛び水路に頭から落ちてしまうのだった。

「や、やった。ラッキーだけど、これで逃げれる!」

 クロードは慌てて大通りのある方へ走り出す。水の蛇は魔導師が操作するタイプの魔法なので、魔導師が操作できなくなると再びただの水へと戻っていく。

 クロードは少し安心して消えていく水の蛇を背にして、走って逃げる事にする。だが、そこでクロードは不思議に思う。

 一度、水蛇のように水で体を構成して生み出された魔法は、相手が行動不能になっても構成がなくなったりはしない。それこそ意識がなくなるか、よほど混乱して制御を放り投げてしまうかのどちらかだ。普通、水の中に落ちたくらいで制御を失うことはありえない。むしろ水蛇を利用して態勢を整えるはずだ。

 クロードは走って逃げている中で背後にばちゃばちゃと水の音が激しく聞こえてくる。

「ま、まさか………」

 追ってくる気配も無い相手の方を振り向くと、あれほど凄まじい能力を持った暗殺者が、まるで泳げない子供のように必死にもがいて水の中で慌てふためいているのを目撃するのだった。

「泳げ無いの!?」

 クロードは慌てて引き返し水路の中に飛び込む事にする。

 ついさっき暗殺にあった相手を助けに引き返す。クロードは生粋のお人よしだと馬鹿にされても仕方ないが、これはほとんど性格なので直しようもなかった。



 クロードは、意識を失っている黒尽くめの暗殺者をどうにか水路から引き上げる。

 そしてどうしたものかと見下ろす。起こしたらその場で殺されないか怖いし、正直に言えば今すぐにでも逃げたい気分で一杯だった。

「息はしてるから命に別状も無さそうだし………、だからって……………どうしたもんかなぁ」

 クロードは水路から引き上げた黒尽くめの暗殺者を見下ろして困ったように眉根に皺を寄せる。

 暗殺者は黒装束に黒い頭巾黒いマフラーといった黒ずくめな格好だが、さすがに溺れてしまった為か着衣に乱れが生じていた。

 暗殺者の正体は、長い黒髪に、黒い猫耳をした可愛らしい少女だった。年齢はルーシュと似たくらいか、自分よりも年下のように見える。

 獣人の入場が許されないこの区画にいるという事は、間違い無く違法侵入した冒険者だと思われる。

 だが、魔族や獣人差別のあるこの街で、犯罪者として獣人の少女を突き出すには少し気が重くなる。その結末がどうなるか火を見るよりも明らかだった。

 少女を犯罪者として突き出すのも心許なく、このまま放置するのも申し訳なかった。

 結局、クロードは少しだけ考えてから、はだけた黒い頭巾をしっかりと頭にかぶせて耳を隠してあげる。そして、いそいそとその場を逃げる様に立ち去るのだった。

 新キャラ登場させています。黒髪の人猫族の少女です。

 元々、10年前に個人的に書いていた頃は主要キャラだったのですが、今回書く際に、あまりストーリーの根幹に関わっていなかったのでキャラクター数を減らす為に削除したキャラです(笑)

 当初予定した流れは、ルーシュ(ハティ&スコール)の暴走により、脆くも崩れてしまったので、それを修正する為に、設定をいくつか変えて投入という裏話があるとかないとか。


 四章で一段落はつけようとは思ってますので、物語でいうと三章は起承転結の転の部分として位置付けてます。(果たして1~2章が起承になっているか疑問ですが)

 質問好きなあの主人公(仮)が戻ってくる前に、この世界<グランクラブ>の根幹に関わる話はある程度、説明しておこうと考えてます。あの主人公(仮)が戻ってくると、また暴走して変な方向へと導きかねないので。


 個人的にはそろそろミストラルに渡った人兎族の少年を書きたいのですが……次回はクロードとハイドリヒが会談します。話し合いなので鍵括弧だらけになりそうです。うまく書けるかなぁ……。

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