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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
91/135

フェンリル

別れたスコールとハティのシーンです。

 ハティとスコールは暗黒世界へと戻ってきていた。

 ルーシュと別れてから実に10日以上も経っていた。もっと早く辿り着く予定だったのだが、殊の外、辿り着くのに手間取ったのは彼らがダンジョン途中で寄り道を私したからである。


 2頭は暗黒世界に存在する自分達の領地でもある悪魔の森へと向かうのだが、その途中に一頭のドラゴンと出会うのだった。


 体長は自分達より少し大きい程度。大きい翼を小さく畳んでいるが、間違う事なき飛竜の子供だった。闇に閉ざされた暗黒世界である為に、黒い鱗を持つ目の前の子ドラゴンを目し出来ていなかったため、バッタリと2頭はその子ドラゴンと向き合ってしまっていた。

 本来であれば気付ける相手だが、母親であるフェンリルの魔力に向かって一直線に進んでいたので、その間に自分達に匹敵する魔力保持者に対して無警戒だった。

 今思えば、こうした他者を警戒しない悪い癖があるからこそ、人類風情に遅れを取る羽目になったのだと反省点は多い。


 しかし出会ってしまった。

 急な出会いに対して目の前のドラゴンもまた敵と認識して威嚇をする。

 威嚇をされた以上、プライドの高い神狼の子供が退く筈も無かった。

「わうー」

「わんわん」

「がおー」


 人類目線で見ると可愛らしい子犬と可愛らしい子ドラゴンなので、何だか2頭と1頭がガウガウとじゃれあっているようにしか見えないのだが。

 当人?同士は一触即発の状況だった。

 しかし、そんな三者の一触即発な睨みあいを壊したのはこの近辺を縄張りとしている猛者たちであった。


 地上の支配者グランドキマイラ、体長50メートルを越す巨大なキマイラは虎の頭にゴリラの肉体、爬虫類系の両脚、巨大な蝙蝠の翼、そして蛇の尾を持つモンスターである。

 山岳の悪魔ヒュドラ、体長100メートルを超える体長を持つ9つ首の蛇竜モンスターで、炎を吐き、鉄より堅い鱗を持つドラゴンさえも食いちぎる最強の蛇竜である。

 闇の不死鳥ダークフェニックス、体長30メートルを持つ巨躯をもったフェニックスは漆黒の羽毛と黒い炎を身に纏い、圧倒的な回復力で傷ついた体を瞬時に回復するモンスターである。


 そんな三者が子ドラゴンと子狼を取り囲むように虎視眈々と狙っていた。

 地鳴りのような鳴き声をあげて、3頭の小さな子ドラゴンと子狼を軽く食い散らかそうと思って近寄っただけだった。彼らにとって、こんな幼い小さなモンスター等食事の足しにもならない。しかし、偶然にもここはジャイアントキマイラとヒュドラの縄張りで上空からダークフェニックスが降りてきただけなのだ。

 三者のモンスターは暗黒世界においても屈指の支配力を持つ強大なモンスターで、魔公とて迂闊に手を出すような真似はしない存在である。


「がうー?」

「くーん」

「わうー」

 子ドラゴンは子狼達と顔を見合わせて、こちらの三者も困り顔で大きく溜息を吐く。

 喋れない彼らからすれば、『おいおい、どこのモグリだよ』『子供だからってバカにされてる?』『軽く締めとく?』みたいなやり取りである。


 スコールとハティは右前脚を軽く振り、子ドラゴンは獄炎を空に向かって吐きつける。

 スコールによって地上の支配者は3枚におろされ、ハティによって山岳の悪魔は9の頭を全て抉られ、子ドラゴンによって闇の不死鳥は焼き鳥になって地面に落ちる。


 そして三者は互いに見合わせ

 スコールは右前脚を差し出し、子ドラゴンも右前脚を差し出し、ワシッと握り合う。何故か男同士の友情に目覚めたようだった。

 ハティはそれを眺め、呆れたように溜息を吐く。




 そんな紆余曲折があり、ハティ&スコール一行はパタパタと飛ぶ子ドラゴンという同行者を得て、悪魔の森の奥、フェンリルの聖域へ入るのだった。

 三頭の気配を察してやってくるのが神狼、フェンリルであった。

 体長20メートルほどの巨躯をもった狼は、天上へと延びるような巨木の隙間から姿を現す。漆黒の毛皮は闇よりも昏く、音より早く走っても音さえ出さずにその場にやってくるのだった。

 背後に放たれる衝撃波だけが、悪魔の森に轟音を残す。

「わうーん」

「わふー」

 嬉しそうにハティとスコールは久し振りの母親との再会に嬉しそうに駆け寄る。

 フェンリルの足にしがみ付いて嬉しそうにするハティとスコール。

「がう?」

『ほう、竜王家の子ですか。噂ではお家騒動に巻き込まれて失踪したと聞いてましたが、どうしてこんな場所に?』

 フェンリルは右前脚にじゃれあうハティとスコールを適当に相手をしながら、子供達と一緒に自分のテリトリーに足を踏み入れてしまった子ドラゴンを見下ろす。

「がうーガウガウッ」

 身振り手振りで子ドラゴンは説明する。

 大体、話している事(?)を要約すると、「僕は竜王家の子供、最近、小父さんや小母さん達が徒党を組んで僕を虐めようとするので逃げて来た。悪魔の森の近くなら怖くて手を出さないと思っていたところ、途中でハティとスコールに会って、一緒についてきてしまったのだ。決して獣神ジブリードの転生体であるフェンリルの聖域を穢す真似をするつもりではなかったのを許してもらいたい」といった所である。

 礼儀正しく状況を説明し、フェンリルに対して最大の敬意を示すのだった。

『なるほど……。私がハティとスコールを生んだ同時期に、竜王の山で異変があったとは聞いてましたが………。竜王家を継げる子竜が生まれていたという事ですか』

「がう?」

 そうなの?とでも言いたい様に首を傾げる子ドラゴン。

『ドラゴンは皆総じて強いですが、シャイターンの化身たる神竜サミールに近い力を持った子らは生まれて来ませんでしたから』

「がうー」

 神竜サミールとはシャイターンが自身の肉から生み出した竜の統率者である。魑魅魍魎が跋扈する暗黒世界において知恵のあるドラゴンが最も危険な存在となった。己の消滅を予見していたシャイターンは、竜の形をした己の分身を生み出して、竜を統率したという。

 サミールは何人もの子をなしたが己の後継者に足る存在を生み出すことは無く、魔神の孫の暴走した際にシャイターン2世と共に戦って来たが、それで力を使い果たして早死にしたのが真相だ。

 サミールの子供達は竜王の座を賭けての争いが始まり、大体100年周期で竜王が入れ替わる。彼らは強欲でハレムを形成し利権争いを続けている。

 シャイターンの思惑は随分と外れてしまい、むしろ逆に自分の子が争い会っている現状は失敗だった。これは魔公たちにも言える事であったが。

 だが、シャイターン2世と神竜サミールは盟約によって不可侵である事を決定しており、それは現在でも守られている事に関しては、シャイターンの第一の目的である魔族と竜族の争いを避ける事だけは狙い通りだったといえるだろう。


 フェンリルは自分の頭の上に子供達を乗せると子ドラゴンの臭いを嗅ぎながらぐるりと一周する。子ドラゴンはビクビクとしていた。

 平和的な出会いはしているが、目の前の獣は神の転生である事を肌で感じていた。圧倒的な頂点の格を感じさせていた。

「が、がうー」

『やはり……。竜王の資質がありますね。恐らく、それを妬んだ同胞から命を狙われたのでしょう。ドラゴンは意外と魔族よりも人間臭いですからね。サミールと同じ鱗の色をしていますし』

「がうう」

『まあ、存外に……力ある者ほど、何故か興味が無いのですよね、そういう立場』

 呆れるようにフェンリルは溜息を吐く。

 例えば魔王家などは誰も魔王なんてやりたくないが、こんな厄介事を誰かに押し付けたくないという意味で引き受けているところがある。

『ところで、スコール、ハティ。貴方達、私に渡すものがあったのでは?』

 フェンリルは自分の頭に乗る2頭を、右前脚で引っ掛けて子ドラゴンの横に並べるように降ろす。

「わうー」

「わんわん」

 いっけね、うっかり忘れてた、と言わんばかりに2頭は右前脚で自分のコメカミを掻く。

 ハティは自分の首を持ち上げてスコールに差し出し、スコールはハティの首に巻きつけられた袋を嚙んで引っ張り地面に降ろす。そして袋から手紙を取り出して母へと差し出す。

 小さい紙切れをフェンリルは爪の先端で一生懸命伸ばして中身を読もうとする。

『ジブリードの頃と違って、この体だとこういうのが面倒ですね。魔力に関係なく神を殺せるこの身体能力は気に入っているのですが、正直使い道の無い力ですからねぇ』

フェンリルは腹ばいになって紙を伸ばしてルーシュの手紙を読む。

「わうわう」

「わおーん」

 ハティとスコールはルーシュ達が問題としている銀翼の魔公についてを説明する。

「がうう?」

「わうわう」

「わんわん」

「がううう」

『少し黙っててくださいね。ワンワンガウガウ言っても私にはただの雑音なので』

 フェンリルは呆れるように3頭に喋る事を止めさせる。

 3頭はショボンと項垂れるのであった。

 フェンリルは確かに彼らの言葉を聞く事が出来る。しかし、彼らの鳴き声では何も分からない。実際に聞いているのは心の声だ。隠している言葉は聞こえなくても伝えようとしている言葉は声にしなくても伝わる。そういう以心伝心するような特殊な能力が備わっている。

『なるほど、銀翼の魔公がシャイターンの再来ですか。確かに千年転生説は私の転生と見事に符合してますし可能性がないとは言いませんが……銀翼の魔公がシャイターンであることはないでしょう』

「わーう?」

 スコールは不思議そうに首を傾げる。

 まだ会っていない相手に対して確信を持った言葉を使う母親を不思議に感じる。

『暗黒世界は閉ざされています。精霊も魂も魔力もこの世界から出れていないのですから、暗黒世界からシャイターンが出ることはありえません。それに、シャイターンは己の血肉を魔族達に食わせて死んだと言います。魂とはシャイターン曰く魔力の持つ情報だといいます。その情報を複数人に食われている以上、再来はありえません。あるとすれば……遺骸の一部が輪廻するしかないでしょう。つまりシャイターンそのものの転生とはありえないし、外界でそれが現れる事もありえないのです。もしもシャイターンの転生が存在するとするなら……』

 フェンリルはそこで言葉を止めて少し考え込む。

『いえ、失言でしたね。それにシャイターンの転生だったとしても人類の頭脳では50年以上は思い出すことは不可能でしょう。私とて魔狼の肉体だったが故に思い出すにはかなりの時間を要しましたから』

「わうー」

 スコールは理解半分と言う顔で頷く。

「ガウガウ」

 そんな中、理解していない子ドラゴンは困ったように身振り手振りでフェンリルに何かを訴えてくる。

『まあ、スコールの連れてきた客人です。ドラゴン達もここまで来ないでしょうし、しばらくはここにいると良いでしょう』

「がうう」

 ホッとした様子の子ドラゴン。

 スコールは良かったなと言わんばかりに子ドラゴンの肩をポムポムと右前脚で軽く叩く。


 スコールと子ドラゴンの2頭は悪魔の森を適当にぶらっと歩きに向かうので、それをフェンリルとハティは見送る。

 この森は基本的に全てフェンリルのテリトリーなので、スコールからすれば大きい自宅みたいなものである。なので友達を自分の家に招待でもする気分でブラブラと歩き、子ドラゴンはパタパタとスコールの横を飛んで行く。


「わうう」

 不安そうにハティは母を見上げる。

『それにしても、貴方達も大概に変な奇縁がありますね。まあルーシュの事は心配いりませんよ。暫くここでリフレッシュしたら戻ると良いでしょう。少なくとも…スコールの体調が完全になるまでは』

「わう」

 母は全て見ていると言わんばかりにハティを宥める。ハティとしてはスコールを倒した男の件もあるし、ルーシュが少し心配なのだ。

『それに……ルーシュはそうそう死にませんし、これは社会勉強ですから。そろそろあの子には必要でしょう』

「?」

『あの子は暗黒世界では何もかもが自分の思い通りに動かせますが、グランクラブでは多くのしがらみがあって力を震えませんから。失敗経験は必要です』

「わうわう」

『ふふふ、まあ、貴方達は……やられた借りを返しに戻りたいでしょうが、もう少しここで力をつけて行きなさい。このままではルーシュの足手まといにもなりかねませんから』

「わうー」

 悔しそうにするハティの姿に、フェンリルは少し微笑ましく感じる。ハティは存外に感情を表に出さず、良い子を気取る性質の子だった。これは成長とも取れるだろう。

『まあ、ですが……ルーシュが躊躇うようならば貴方達が食い散らかしても構いませんよ?元より我々はシャイターン2世との間に、そういった盟約を持ってこの地に住んでいるのですから。暴走した魔神を食らうのは私の仕事です』

「わう」

『勿論……ルーシュのような奇特な子が暴走するとは思いませんが……どうやらグランクラブでは問題が発生しているようですね』

 フェンリルはふと天井を見上げる。

 雲に隠れた天井は岩盤となっており、転生前の記憶にある星空は一切存在しない。

 薄ぼんやりと光る苔や、稲光がこの世界の空である。

『再び1000年も昔のような平穏が訪れるものか…』


さて、これ以降はミストラルへと突入するのですが、しばしお休みいたします。

原因は仕事が忙しい事と、3章以降を再編している為です。お盆休みには書けるかなぁと思ってますが……。果たしてどうなる事やら。

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