ルーシュとセドリックの会談
アルベールの調査に行ったルーシュ達は、帰る途中にピドの街に寄って冒険者協会経由でセドリックに謁見の希望とアルベールに関する情報を流す事にした。
ルーシュ達がイヴェールの首都シャトーに辿り着く前日に滞在した街にある冒険者協会の館では既にセドリックから場所から逆算したのか、明後日には会おうという返信があった。
そういう理由で、待つ事も無く、直にセドリックと面会する事になった。
国王の執務室のソファーに座るルーシュ、レナ、レヴィア、クリストフの4人は雑談でもするような軽い感じで面会していた。少なくとも『謁見』とは呼ばない雰囲気である。
ルーシュはおおよその報告は手紙でしてたので、詳細説明を付け加える事にする。
「そりゃ、俺も聞いて無かったな。しかも魔公がいたとは……。灯台下暗しというか……」
セドリックも苦虫を噛むような顔でルーシュの説明に溜息を吐く。
「やっぱりセイも知らなかったのかぁ」
「まあ、先生が知っているレベルまでだよ。俺だって報告書ベースでしか知らないからな。というか、クロードの奴、そこら辺を全く把握して無かったのか。あのガキ、今度、ウチの国に戻ってきたらお灸を据えてやる」
セドリックはクロードを思い出して愚痴を吐き捨てるようにぼやく。だが、ルーシュは言葉の真意を測りかねて首をかしげる。
「………クロード、どこか行ったんですか?」
「ミストラルだ。そうか、こっちの話をしていなかったな。まあ、そっちの話の後にしよう」
「う、うん。で、まあ、僕からすると、あの村は文明レベルがここらとあっていない事から、何か違う国や文化が存在していて、他の大陸とか関わってたりしないかなって思ったんだけど。200年前の勇者とも関わりもありそう」
「そもそも200年前、アルゴスという兵器を開発したのは、北の旧国家なんだよ。あそこら辺がイヴェール領になったのは200年前に騒動があって滅んでしまい、纏める国が無かったからだ。勇者クラウディウスがその国の民だったのは事実で、高い文明を持っていたという話もあるが、滅んでいてその証拠となる物がほとんど無かった」
セドリックが説明すると、クリストフが目を丸くする。
「それは初耳ですぞ!?そもそも勇者は現在のガイスラー帝国付近出身と聞いております。だからこそガイスラーは北の大陸でありながら神聖教団正教派閥が入りこんでいるとも」
「確かにその通りだが、それは神聖教団がガイスラーに入る理由付けだ。北のモンターニュ山脈東部に勇者の故郷があり、そこが滅んだ古代文明国家だって訳。ユグドラシルもそうだったはずだ。イヴェールやガイスラーでも公に出来ない機密情報だから、先生が知る筈ないんだよ」
「……なるほど」
「アルベールがその影響を持っていて、勇者の血筋を残す為にクロードが育てられていたというのは大いにあるな。あの土地は農産物の品種改良なんかの産地でもあった訳だし」
「そう言えば、古代神話の中に、人類が誤った道を辿り、嘆いた神は救う必要のある男女一対の生物を方舟に乗せて世界を水没させたという伝承は各地にありますな。その遺跡がモンターニュ山脈にあるとも。モンターニュ山脈付近で都市が水没するとは考えられないのでありえないといわれてますが」
セドリックの品種改良の話を聞いて、種の保存という意味合いの神話をクリストフは思い出す。
「あそこら辺が水捌けの悪い土地であるなら、別に出来ない事でも無いがの」
セドリックとクリストフが話している中で、割り込むようにレヴィアは何と無しにぼやく。
「え?」
クリストフは驚いたようにレヴィアを見る。
「我やルー君は水の精霊を呼びかけることが出来る。山奥であっても盆地上ならば水浸しにしてその都市を滅ぼすくらい容易いわ。我ら精霊を見る事が可能な、神の血を引く存在からすれば、そこまで無理な事では無い。我らはエルフのように精霊が感じ取れるとか、精霊を魔法で呼び出せる魔術士とか、生易しい種族ではない。精霊に愛されていて、声をかければ彼らは喜んでいう事を聞く」
レヴィアの言葉にセドリックは引き攣る。
つまりルーシュは精霊に命令を下せばこの国の大都市をたやすく滅ぼせるという事を意味する。そんな存在を打倒しようとする愚か者がつい先日までこの国に存在していたのだから恐ろしい限りである。
「ぞっとしなくもないな。この国が沈んでたら笑い話にもならなかったぞ。とりあえず北部の旧文明に関してはこちらでも調査をしよう。何か先生が目を輝かせてやりたそうな顔をしているから、誰にやらせるか国政の人間に聞き難い状況だが…」
考古学をやりたくて、そういう学問系の要職に就くべく、様々な役職を兼任した元侯爵は、名誉侯爵になって以降はアカデミーで調査をしたりしていた。
しかし、金になる仕事がないので外に出る事が無かった。今回の件は願ったり叶ったりと言えよう。
「陛下。幼き頃の恩義とかあったりしませんかのう」
「今になって初めて持ち出しやがった!?俺よりも秘密兵器を取り出すタイミングが絶妙だぞ、おい」
「そりゃ、陛下の元教師ですからの」
70の老人が目をキラキラ輝かせているのには流石にセドリックも腰が引ける。数少ない理解者だったのでセドリックとしても強くダメとは言えない。
「分かったよ。支援はするよ。ガイスラーのヴァロワ辺境伯領とユグドラシル方面だからな。預言者やスティードにも話は通そう。ただ、あそこら辺は戦争中だから行き先に関してはもう少し調査してからだ。そもそも戦時中であるミストラルの首都、水の都オーテーレこそが、さっき話した方舟伝説で沈んだと言われる土地だからな。その北側はまさにミストラルがガイスラーに侵攻しようとしている場所だ。死なれたら元も子もない。安全確保には1月も掛からないから冬を明けてからにしてくれ」
セドリックは諦めるようにクリストフの嘆願を受け入れる事にする。
「じゃあ、何か情報があったら教えてね」
「勿論ですぞ」
ルーシュはクリストフに頼む事にする。むしろ誰かに話したい人なので頼まれなくても話してはくれそうだが。
「さて、もう1つの案件だが…クロード達がどうしたかというと、あいつらはミストラルへと向かった」
「ミストラル?……何だか最近、色んな所で色々聞く名称だけど」
ティモの引越し先であり、何とかって聖人がいるとか、ハティとスコールが遊びに行っていた土地だとか、方舟だとか。
「……ウチの国の裏側で手を出そうとしていた存在が2つあった。人間側を焚き付けていたのがシルヴィオ・ハイドリヒ。それ以外の種族を焚きつけようとしていたのが銀翼の魔公と目されている。シルヴィオは今回、勇者ソフィアをウチに焚きつけようと送ってきていた。ソフィアはそれに気づいて、クロードを伴いミストラルへ戻ったという訳だ」
「思春期のなせる業だね?」
ルーシュは、浮かれ気味のクロードを思い出して、呆れる様に口にする。
「まあ、アイツは銀翼の魔公の件もあったからだと思うがな。どうも銀翼の魔公はシルヴィオの敵となり、人々を殺すように対極に立っている部分がある。シルヴィオ自身も多くの民を虐殺すると聞く」
「それはイヴェールとしては大丈夫なの?ラフィーラ教が勇者を洗脳したとか言われない?戦争の火種とかにならないかな」
ルーシュは勇者2人がミストラルで何をやらかすかの方が少し怖かった。
「そこら辺は言い聞かせた。あいつらは思慮が足りないんだよ。迂闊に動けばウチとミストラルが戦争になるって言うのに、正義は我らにあるみたいな面しやがって。正義なんてもの自慰行為みたいなもんだ。自分勝手な正義を押し通す真似をすると無駄な血が流れる。政治家はそれを知っているから極力やらないのだが、それを理解していない。……勇者って奴らはどうにも自分勝手だからなぁ」
「クロードはそういうタイプじゃないと思うけど」
「……あのバカは素直すぎるからな。影響を受けやすい。あの無駄に正義を振りかざす熱血勇者の影響を受けているといえるだろうな」
「んー」
セドリックの言葉にルーシュは困った様に考え込む。
「例えば、勇者ソフィアは、国の為とか人の為とか、そういう物が無い。ルーシュの場合は魔族と他種族の共栄を第一にしているのだろう?だから行動に一貫性がある。あの勇者は正義の為という中身のない物を掲げている。見た目は美しかろうが、中身の無い正義ほど邪魔なものはない。誰の利益にもならないからな」
「まあね」
ルーシュも頷く。
ソフィアには主義主張がない。だから正義を掲げられてもはた迷惑なのだ。
応援できるものかどうかも分からないし、無駄に宗教が入り込んで本人自身も矛盾を抱えている。一生懸命なのは分かるのだが空回るのも当然だ。そんな一生懸命な姿にクロードは何となく惹かれたのだろうが、預言の勇者がそれに乗ったら厄介極まりない。
「セイはそもそも王様として何をしたいの?僕は手伝って欲しい事たくさんあるけど、僕に手伝って欲しい事とか無いの?」
ルーシュはそこで数少ない魔族を支える事を応援してくれている仲間であるセドリックを見る。
「特に無いな」
「そーなの?」
「敢えて言うなら……俺は過去に亡き友人達の夢を背負って生きている。その夢の中には『魔族が安心して暮らせるグランクラブを作ること』というものがあった。つまりルーシュが目的を果たすことが、そのまま俺の目的の1つが達成する事となる。だからお前には何もない」
「なるほど。確かに僕がここでやりたい事の1つだね。まあ、僕は長生きだから、何百年かかってもやるつもりではあるけど」
「俺達は長く生きれず、かつての同胞の抱いた夢は人生1つでやり遂げるには非常に難しいものだ。そもそも偏見を無くす事は長い闘いになるだろう。俺が生きている間に達することが出来ないかもしれない。それを託す事が出来る存在がいるというだけで十分だ」
「セイは色々と大変だねぇ」
「魔族の王家ほどじゃない」
ルーシュとセドリックは苦笑しあう。互いに色々と大変な身の上なので分かり合えてしまうのだった。
「さて、クロード達はミストラルに行ったのだが、ルーシュはどうする?恐らくだが、シルヴィオの拠点であったミストラルで大きい戦争が起こる前兆がある」
話の転換をするセドリック。きな臭い話であり、ルーシュは目を丸くする。そもそも魔族として隠密行動している筈のルーシュに振る話とは、当人は思えなかった。
「前兆?」
「実はな、現在、ミストラルは人間以外の種族が北部へ亡命し始めている。人種差別や国政が傾いているのが原因だ。国王が2年前に倒れてから新国王が始めた政策によるものが大きいようだ。軍はガイスラー辺境領への侵攻を進めつつ、ガイスラー辺境領へ逃亡する人々を亡命させないようにしているようだ」
「……そうなの?んー……何だか大変だね」
ルーシュは考え込みながら首をひねる。
「その亡命している人数と言うのも、もうガイスラー辺境伯の手に負えない量だと言うのだから、その規模がやばいのは確かだ。実はルーシュにやって欲しい事は無いと言っていたが、イヴェール王国国王として、実は魔公王子閣下にその亡命している人々を救って欲しいという頼みはあるんだ」
「魔公王子への頼み?つまり、亡命の手助けをして欲しいと?」
ルーシュは目を丸くする。むしろそれはイヴェール王国国王としてではなくセドリック個人としての頼みでは?という印象を抱く。
「肯定だ」
「でも話を聞いた限り、僕に出来る事は本当に無いと思うんだけど。だって、亡命先が無理って言ってるんでしょう?」
ルーシュは理解が及ばなかった。亡命先に導いても亡命先が受け入れられないのでは意味がない。ルーシュにできることは少ない。
「亡命の障害は5点だ。1、背後から迫る敵から逃げる。2、警備兵が守る国境を越える。3、国境を越えた後の未開地に住むモンスターを倒し土地を開拓する。4、インフラ整備と居住区の設営をする。5、民が自活を始めるまでの食糧確保」
セドリックは指を折っていく。
非常に厄介な問題だ。人、土地、物資、ガイスラーとミストラル両国との交渉、全てを必要とする問題だからだ。
「ミストラルは無視して良い。ガイスラー帝国の逃亡先となっているヴァロワ領領主は俺の頼みを断ることはしない。つまり警備兵が受け入れるという訳だ」
「2番は問題なく入れるのは分かってるけど。他の問題は?」
「ミストラルの追撃から民を守って欲しい。これは頼みの1つだ」
「それはその場にいれば言われなくてもする事だけど」
「頼もしいな」
「でも、僕らは錬金術師じゃないし、協力者も少ない。ガイスラーと土地に当てがあっても、ミストラルを無視したとしても、物資がないからさ」
ルーシュは問題点を明らかにする。
「金があればガイスラー側は動ける。その金は俺が出す。無利子でスティードに貸し付けて、あいつの伝手で居住用の資材や食料を買わせて送らせる」
セドリックはヴァロワ領に投資をして、ヴァロワが開発をすると言っている。
「で、ルーシュはつまり住民達を導き、モンスターを駆逐し、インフラ作りのお手伝いをするという事?」
レナは首を傾げて訊ねる。
「ああ。そういう事だ。その場で足りない人や物があったら言ってくれ。暗黒世界では住民受け入れを魔公はしているのだろう?現場指揮官程度は出来るんじゃないかなと思ってな」
セドリックは暗黒世界における魔公の立場を耳にしていたので思い切って訊ねてみる。
街づくりができる人材を送るのが非常に難しいからだ。オリハルコンでも、こういうケースはあるのだが、これは上級士官の仕事である。スティードは戦闘において優秀な指揮官であったが、戦闘バカである為、そこら辺は基本的に部下に丸投げしている。
セドリックが聞いている範囲では、現状のヴァロワ領にはよほど優秀な参謀がいる事が把握している。しかし、亡命者の受け入れでお手上げと言っている以上、領都から離れて動ける人材がたくさんいるとは思えなかった。
「というか、この200年で、ルー君は領主になってもっとも都市を発展させてるから、その仕事はむしろ得意分野じゃろ」
「そうだねぇ。まあ、そもそも僕の先祖たる魔神シャイターンってのは、中央大陸の開拓者だったって話だし。過去の魔王様方は色々な能力や魔力があって向き不向きがあったようだけど、僕はその能力を継いでいるらしいから、ある意味開拓は得意分野だろうけどね」
「破壊もね」
レナがちくりと突っ込みを入れる。ルーシュの破壊活動は暗黒世界の地図を年に6度は書き替える実績を持っている。開拓以上に破壊実績の方が大きい。
「ならば、任せても問題ないな。冒険者協会の館で連絡を取ろう。私は5日1日程度しか行けないが、それでもそこが最も早く私と直接連絡を取れる。リヴェルタが開発している遠距離音声受送信装置が出来れば、即座に連絡が取れるのだが、まだ開発中だから仕方ないが」
「リヴェルタって凄いんだね、魔導工学」
セドリックの想像つかない発言に、ルーシュは驚きの声を上げる。
「あの土地は魔族も獣人もエルフも基本的には平等だ。魔法公式を魔族達は感覚的に把握できるし、人の感覚では判らない音や熱などを獣人達が把握する。エルフ達は精霊の動きに敏感だ。彼らが協力して物事を生み出すのだから一っ飛びだ。フトゥーロ崩壊があって、航空技術は止まっているが、恐らく飛行技術は天界のシステムを止めれば可能だろうな。それだけの技術も金も既に持っている。それが出来た瞬間、リヴェルタはこの世界の支配者になる。そういう意味では、天界は平和に役立っているとも言えるが」
「……そこまで格差があるの?」
「リヴェルタを中心に西の大陸は圧倒的な国力をつけている。私がこの国の王になって大きく発展しているのもその影響だ。神聖教団でも取り分け古典派と呼ばれる神聖教団正教の連中は、自由派と呼ばれる西方教団を潰す為に活発に動いて思想を広げようとしている。この神聖教団内の派閥争いが、実はグランクラブ全体を巻き込んだ戦争となっていると言っても過言ではない」
「……もしかしてセイはその戦争を如何にかしようと思ってる?」
ルーシュはあまりに事情に詳しいセドリックをいぶかしむように尋ねる。
「それが同胞達の遺言でもあるがな。だが非常に難しい問題だ。冒険者として、そして国王として、大きい影響力ある立場にはなったがな」
「そうなんだぁ」
「理想としては、東の大陸が戦もせずに、思想が変わって、異なる種族と異なる種族とが手を取り合える世界になれれば良い。時間をかける問題だ。急な解決となると、それはやはり戦争となる」
「戦争で人の心は変わらないでしょ?むしろ傷はもっと大きくなる。今、生きている人達を見れば分かるけど、過去に戦争をした両者は国が統合されたり同盟を組んでも、互いの土地の人間同士で憎しみあっているよね?」
ルーシュは暗黒世界でも同じ王の下になっても、住民同士が仲たがいしている例を思い出して質問する。ルーシュからすれば生まれる前からの話で、住民たちも生まれていない頃の戦争なのだが、今生きている魔族たちは何故か戦争した相手同士でいがみ合っている例があった。
ルーシュは戦争によって仲良くなるなんて無いと考えている。
「そうだな。まあ、その大半は、実は国家の頂点が、そういう世論調整をしているのだが」
「そうなの?」
「そうだよ。今の暮らしに満足している存在なんていない。すると自国のトップが上手くやらないから悪いんだと思う。だが、それでは国は傾く。そこで、自分が憎しみを引き付けてしまわない様に、他に敵を作るのさ。理想としては、それが弱者であるのが好ましい。実はそういった政策の被害者がまさに魔族になっているんだよ。例えば東の大陸でも、リヴェルタや西方教団を敵視している連中も多い。彼らは、リヴェルタが敵でも、リヴェルタは攻撃しないのを知っているからな。好き放題に、国民達がリヴェルタへ敵意を向けさせているんだ」
「それが政策?」
「問題をすり替えているんだ。人ってのは弱いから、どこかに優越感や自尊心が欲しくて、喜んでその情報操作に乗るのさ」
「ふむぅ」
「泣くのは弱者だけさ。それを止めたいと願った同胞もいた。彼女は弱者を守れる国を作りたいと夢を見ていた。だから、俺は国王になってしまったから、弱者が泣かなくていい国を作るのもまた託された物の1つだと考えている。まあ、言ってしまえば、俺の政策は国民1人1人が弱者から脱するというものなのだがな。弱者と呼ばれる存在が、そもそも強ければ弱者を虐める気なんて起こらないだろう。誰かを差別するというのは、つまり自分が相対的に誰かより優れているとか、そういう事を思いたいのさ」
「なるほどー。セイは頭が良いなぁ。……見たか、レヴィアたん。僕はこういう教師に物を教わりたいのだよ」
「ジジイが草葉の陰で泣いておるぞ?」
レヴィアは苦笑してルーシュに突っ込みを入れる。亡きダンタリウスはルーシュの先生の1人であった。
「そういう哲学者や思想家は、リヴェルタにはたくさんいた。俺の言葉も大概は彼らの受け入りだがな。だが、ルーシュも魔公ならば少しは驕る部分がありそうなものだが、そういう部分が本当に少ないな。俺の知る魔公は驕った連中ばかりだったぞ」
「そりゃそうじゃろう。魔公というのは魔公の血を引き、能力が高いから魔公なのじゃ。じゃが、ルー君は魔王位継承権保持者。つまりかなり高度な資格を必要とする。他者を尊重できない素振りが見られれば、とっくにルー君は魔王様に食い殺されている。魔王家で魔王の力を継承したものは、人格が相応しくないと生きる資格さえも失うのが魔王家じゃ。今の時代に2人も魔王継承権を持つ存在が2人も現れたのは奇蹟と言えるじゃろう。但し、暗黒世界はこちらと異なり争いがほとんどない。ルー君はイヴェールだからこそ安心して送っていたのじゃ。他所の国じゃとどうなるか分からぬ」
「………危険だと?」
「ルー君自身は自制できるじゃろう。そういう風に育っておる。じゃが、ルー君は精霊に愛されすぎておる。ルー君の感情1つが、精霊達にとってはそれが敵意となり、国や町、世界その物を滅ぼす事になる。ルー君が魔神の再来と呼ばれる理由の1つは、精霊達が魔神のように認めておるからじゃ。ルー君が本気で敵意を持った相手ならば、ルー君が何もしなくても、精霊はその者を滅ぼすじゃろう。これは貴殿らが信用できるから話したが、この事実は暗黒世界でも一部の魔公しか知らぬ事実じゃ」
レヴィアはセドリックとクリストフに視線を向ける。勿論、レナはそれを知っている。でなくても一緒にいるのだから言われるまでもなく知っていることだ。
「……1つ聞きたいが、最近、火の魔石の活動が妙に弱いとか、冬が長いという話を聞くのだが…」
チラリとセドリックはルーシュを見る。ルーシュは大きく引き攣ってしまう。
「た、多分、火の精霊がここにあまり寄り付きにくくなっているからかなぁ。魔族が焼かれている時、僕が火の精霊達にどっか行けって命令したから。あれ以来、日々、彼らのご機嫌を取っているけど………来年の冬までには戻ると思うよ?」
ルーシュは背を丸めて視線を泳がし、申し訳無さそうに説明する。
「まあ、背に腹は変えられぬし、こちらの落ち度がある以上、文句を言える立場でも無いがな」
セドリックはやはりお前が原因かとも思いつつも、自身の弱みでもあったので責めたりはしなかった。視線は厳しいものだが。
「もしも、ルー君が火を消せと水の精霊に呼びかけていたら、シャトーが海に沈んでいたかも知れぬからな。ちょっと例年より寒い程度で済むならば被害は最小じゃったと断言できるぞ?」
レヴィアのフォローに、セドリックは諦め気味に頷く。
レヴィアからすれば、あのような暴挙をルーシュの目の前にみせていて、天変地異級の大災害が起こらなかった事の方が奇跡だと断じる。
「とすると、やはり厳しいのだろうか。魔族や獣人達の亡命の手助けをして欲しいという願いは。ミストラルは滅ぼしても良いが、正直に言えばその時に起こる天災で多くの民が死ぬのはまずい」
「ううん、僕にやらせて。困ってる人がいて、助ける力が僕にあるのだから、それはもう僕のお仕事だよ。それにミストラルには知人も引っ越していたし、あの子がそんな厄介な土地に行っていたなんて見過ごせないからね」
ルーシュはこぶしを握って意気込む。
「そうか。じゃあ、私も最大限のサポートはするよ。それとルーシュの事はグローリアにも伝えておく。グローリアは西方教団のトップでね、彼女もまた我々の同志でもある。まあ、彼女は私のような策略家でもなければ、君のような純粋な存在とは別でね。随分とえぐいし大の為に小を斬り捨てるを平気でやれる魔女のような女だが、……目指す目的地は同じだからね。きっと力になってくれるだろう。グローリア・マッケローニ…彼女はあのポンコツ女勇者の師匠でもある。最初は、彼女の弟子で勇者だから取り込もうと考えていたのだがね。どうにもアレだろう?」
セドリックは肩を竦めて呆れた様子を見せる。
「「ああ」」
ルーシュとレナは女勇者の様子を思い出して少し残念そうにする。
「彼女にはもう少し世を見てもらおうと思ってね。グローリアが世に出した理由も分かった。正直に言えばクロードと彼女のやる気とまともさを足して2で割ったくらいが丁度いいからな」
クロードはやる気はないが、ここぞという時の強い気持ちがある。
勇者ソフィアはやる気はあるが、何をしたいか分からない空回り感がある。
「どっちも残念な勇者なのはたしかなのじゃな」
「だが、クロードは2度我が国を救っているからな。預言者も言っていただろう?とても残念な星の下に生まれてしまったと。普通はそんな現場に2度もいないし、中心地にもいない。結果として暗黒世界は勇者を手助けしてしまっている訳だが、もしかしたらそれも策なのか?」
「さて、何の事じゃろうな」
セドリックはあたかも、お前達が何でここにいるかも分かっているんだぞ、という言葉を口にするが、レヴィアはヘタクソにとぼける。
亡命者を助けるのも本気の願いだろうが、勇者を追ってミストラルに行く口実をわざと作ったのはルーシュ達に借りを作る為にも思える。
「じゃが…セイは相変わらずクセモノじゃの。我のような天然魔公では掌で踊らされるだけじゃろう」
「そうですか?」
「それでも、貴公ではルー君を御する事は無理だと思うがの」
「元より……御す事が出来るような存在等、対等な仲間として手を結んだりはしませんよ」
「?」
ルーシュは良くわからない顔で、睨みあうレヴィアとセドリックを見て、首を傾げる。
レナはもう興味をなくしたようで紅茶を飲みながら窓の外を眺めていた。
一行のミストラル行きが決定したのであった。




