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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第1章 勇者誕生
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初めての海

 魔族達が言う地上界は人間達がいう所の『グランクラブ』、4つの大陸と7つの海を持つ世界そのものを指す。グランクラブは中央大陸に寄り添うように東、西、北の3つの大陸が存在している。東と北、北と西は交流があるのだが、中央大陸の大半は険しい山で人が住める場所はほとんどない為、中央大陸を経由して移動する人間は少なく、各大陸への移動は海路となっている。

 ルーシュ達がやってきたのは中央大陸西端にある集落だった。

 中央大陸にいるモンスターはグランクラブにおける最強種ともよばれるようなモンスターばかりが生息しており、そのモンスターの死骸からは最高の素材が手に入る。その為、これらのモンスターを屠り、その素材によって生計を立てる人間がたくさんいる。このようなモンスターを狩って生活する者達を総じて冒険者と呼ぶ。特にこの中央大陸を拠点にする冒険者達は、世界中の猛者が集まっており強力な人がたくさんいる。決してモン○ターハ○ターなどではない。



 たくさんの人が集落にある大きい通りを歩いている。だが、彼らは得てしてルーシュの見たこと無い容姿をしたような存在ばかりだった。

 魔人とさほど変わらない容姿の種族がたくさんいるのだが、彼等は得てして耳が短い。彼らこそがルーシュ達の言う所の人間種族である。だが魔族も混ざっていれば、猫耳だったり兎耳だったりする人もいるし、髪の色が異なっている魔人のような存在である亜人種のエルフもたくさん見られる。つまり様々な種族がこの集落に存在していた。魔族も様々な種族がいるが、暗黒世界の集落は大半が単一種族で統一されている。バエラス領は様々な魔族がいるのだが、この中央大陸にある人間達の集落は、その倍以上の種族が寄り集まって暮らしているのだった。

 たくさんの商人達が道端で店を広げて、武器や防具や素材、食べ物などを販売しているのが見られる。


 そんな中、通りすがりに獣人族が通り過ぎると、ルーシュは慌てて振り向く。

「はっ…犬耳!」

「ルーシュ、さすがに見ず知らずの他人の耳をなでさせてもらうのはダメだよ」

 レナが突っ込みを入れる。ルーシュもさすがにそれに関しては自重しているのだが、変わりに両肩に乗っているハティとスコールの毛並みに頬を摺り寄せていた。

「まあ、先ほども話したようにここは冒険者の街でもあるのです。集落としては小さいですが、冒険者でも強い者ばかりで、比較的治安も良いですね。何より、差別意識が全くないのです」

「差別意識?」

 不穏当な言葉にルーシュは首を傾げる。

「彼等は命懸けで死線を潜ってきた猛者揃いゆえ、種族間での差別をする暇がありません。他の大陸ではそれこそ魔族は虐げられて当然という社会性を持つ場所もたくさんありますが、この中央大陸は比較的差別意識の薄いものが多いのです」

「逆に言えば僕ら魔族はこの世界ではとっても差別されてるって事?」

 誰もが仲良さげに歩いている中央大陸の集落を見渡しながら、ルーシュはあまり想像がつかなかったので正直に訊ねる。

 ダンタリウスは苦々しい顔をして首を縦に振る。

「そうなります。ですがこれから向かう場所はそういう意識の低い場所です」

「西の大陸?」

「……いえ、北の大陸です。暗黒世界に繋がる道はここが一番近いので。西の大陸に最も近い場所に出ましたが、ここの港から北の大陸へ渡ります」

「なるほど。っていうか、さっきの口ぶりだと西の大陸は魔族に対してあまり良い思いを持ってないの?」

「人間達は総じて魔族をよく思ってませんよ。彼等は何故か先祖代々恨み辛みを伝えて当時以上に偏見と憎しみを我らにぶつけてくる種族ですから。特に東西の大陸は魔族蔑視は激しいものです」

「何それ、恐ろしい」

 ルーシュは人間達の恐ろしさに恐怖で震える。何で見も知らぬ相手に憎まれなければならないのか分からなかった。

「先生。北の大陸は大丈夫なの?」

 レナとしては今後の先行きの方が気になる事だった。レナはルーシュのように頑丈でもないので行き当たりばったりでは危険だと認識している。特に生い立ちの問題から種族的な部分には自分の敏感だった。

「歴史を知っているなら簡単です。ラフィーラ神の土地なのです、北の大陸は」

「ああ、なるほど」

 歴史…と、言われたものの歴史の教師だったのはダンタリウス、そしてルーシュは歴史の話が苦手なので授業はぐっすりと寝ていた。

 ルーシュの頭の上にはいくつかのクエッションマークが浮かんでいた。ラフィーラ神の土地といった時点で、ルーシュの知る限りそれは歴史ではなく神話の類である。


「ラフィーラ神…。えーと…ああ、知ってるよ」

 ルーシュはやっと理解したとばかりの手を打つ。

「ルーシュが知っている…だと?」

 レナは失礼にもかなり驚愕していた。ダンタリウスは自分の授業をちゃんと聞いていたのだと少しだけ胸をなでおろす。

「ラフィーラ神ってあれでしょ。人間と魔族が喧嘩をした際に『俺は羽根があるから魔族の仲間だ』と魔族たちに取り入りつつ、『俺は人間だからお前達の仲間だ』と人間達にも取り入って、最後はどっちにも良い顔をする為に皆に見放されてしまった哀れな蝙蝠野郎のお話だよね」

「微妙にあってるようで全く違いますよ!っていうか、そんな話、私は歴史の授業でしてませんからね!ドサクサに紛れて変な話を捏造しないで下さい!」

「あれ?」

 残念な事に、否、残念な頭のルーシュは異なる物語をごっちゃにして覚えていた。



 この世界の神話は以下のようなもの。

 遥か昔、天上界に住む4人の神様は、それぞれ異なる大陸を人々に与えた。西の大陸をジブリード神が獣人に与え、北の大陸をラフィーラ神がエルフに与え、東の大陸をミシェロス神が人間に与え、中央大陸をシャイターン神が魔族に与えた。

 大陸に住む人々は、自分達の神を敬い、他の大陸に住む人々は争い始め、神々もまた天界の覇権を手にしようと争い始めた。ラフィーラは喧嘩をやめる様に訴えたが、ジブリードはシャイターンに殺され、シャイターンはミシェロスに騙されて穴の奥に魔族共々封じられた。

 そして天界はミシェロスのものとなりシャイターンは暗黒世界に住む事になった。


 そういった神話から、フィーラ神は中立の神、あるいは愛の神と呼ばれており、200年前の魔族との戦争があった後でも、ラフィーラ教徒は魔族に対して蔑視する事はほとんどない。人間種、亜人種、獣人種、魔族種の4種族に対して平等に愛を持って接する事が、教義だからである。北の大陸も現在では人間の国ばかりとなったが、ラフィーラ教徒が多いので、多くの種族がそこで身を寄せている。その為、世界で一番人間以外の種族の多い大陸が北の大陸だった。



 一行は喧騒な賑わいを見せる町並みを抜けると、船着場に辿り着く。大きい防波堤が広がり、たくさんの船がそこに停泊していた。

「うわー…な、何この水溜り!しかもこんなに綺麗な水がたくさん!」

「す、すごーい」

「ほっほっほっ…。驚きましたかな?ずっと海が見えませんでしたからな」

 ルーシュとレナは防波堤ぎりぎりまで駆け寄って海を見渡す。後からダンタリウスが歩いてついていく。

「すごーい。すごーい」

「ダンタリウス先生。水がとっても綺麗だよ!」

「これが海、暗黒世界に存在しないものです」

「全部飲んで良いの!?」

「ルーシュ様が言うと本当に飲み干しそうなので辞めてください。それと凄くしょっぱいので飲むには適してませんからね」

「何と!?」

 こうしてみると本当に普通の子供なんだなぁとダンタリウスはルーシュとレナの様子に少しだけほっとする。

「ダンタリウス先生!な、何か変な生物がいるよ!」

 ルーシュは海の中を指差して訴える。

「ああ、魚ですね。人間達のエネルギー源としても取られる生物です。海の中にも海の生物序列があって、……そうそう我々魔族でも唯一地上に逃れたのが水棲魔族です」

「スイセイマゾク?」

「ええ、海で生活する魚人族も魔族でして、彼等は海に住む魚介類から魔力を摂取して生きてます。まあ彼等は海で生活する魔族なので、海の無い暗黒世界には元々いないのです」

 ダンタリウスが説明するとルーシュとレナは他にも仲間がいたのかぁと感動する。

 すると、ルーシュの肩の上に乗っていたスコールが手を振ると海の中にいた魚が空を舞って防波堤の上に落ちてくる。

 ハティとスコールはピチピチ跳ねる魚の周りに近寄るとハティが頭から半分をガリッと食って、残った尻尾側をスコールが食べる。

「おお、……どうだった?美味しかった?魔力は潤沢?」

「「くーん」」

「そうか、味は良いけど、魔力は今一だったかぁ」

 ルーシュは駆け寄るハティとスコールに話しかけており、何故か会話が成立しているのだった。ダンタリウスはレナを一瞥すると、レナは苦笑を見せる。

「ルーシュは犬の声から感情を読み取れる変な特技があるんです。フェンリルみたいに言語を理解して念話が使えなくても、あの子達と会話が成立してしまうんです」

「ま、まあ、そもそも犬と会話を成立させる獣人もいませんが…」

 ダンタリウスは少し呆れるようにぼやく。レナとてフェンリルには会った事はほとんどない。最初に見た時はルーシュを森から送ってきただけだったし、圧倒的な魔力は恐怖以外の何者でもなかった。

「にしても……って、ルーシュ様!何をしてるんですか!」

 ルーシュはいつの間にか10体の水の精霊達に海の水を小さな杯に汲ませていた。

 防波堤の岩壁から海面まで2mくらいの距離があるので、自分では水が汲めない。しかも空飛ぶのは禁止である。

 なので、あちこちに見られる水の精霊に、水を汲ませていたのだった。

「あれ、水を飲んじゃダメだったの?しょっぱいって言うから、どれだけ飲めたものじゃないか試したかったけど」

「そっちではありません!」

 ダンタリウスは慌てて訴える。

 ルーシュは不思議そうに首をかしげ、ルーシュの呼び出した水の精霊、親指大の人間の形をした水の塊も、海の入った杯を持ったまま一緒に首を傾げる。

「その水の精霊です!何でそんな高等召喚術をヒョイヒョイ使うのですか!」

「コートーショーカンジュツ?」

 ルーシュは不思議そうに首を傾げて、そして水の精霊たちを見る。

 水の精霊たちはルーシュに杯を渡すと、バイバーイと嬉しそうに消えて行くので、ルーシュも手を振って見送る。

「あの、ダンタリウス先生。ルーシュは魔法の加減が下手だったので、大体小さい規模の魔法を使えずに、代わりに精霊召喚を使うんです」

「それに対する魔力の対価は凄まじいものですぞ!ですが、魔力運用さえ感じませんでしたが…」

 ダンタリウスは驚きの声を上げるのは当然だった。


 現在、確認されている精霊は火、水、風、土の4つの要素。精霊召喚とはすなわち一時的に4つの要素<エレメンタル>の1つを支配する精霊を呼び出す魔法である。

 1体の水の精霊を使役すれば、半径100メートル程度の周りにある水を全て支配できる事になる。これは1要素を支配する事を意味しており、究極の魔法の1つとして一般的に認識されている。

 ルーシュはただ水を汲ませたい為に10体もの水の精霊を呼び出していた。普通の感覚からすれば、ちょっとありえない事である。


「何言ってるの、ダンタリウス先生。召喚なんてしなくてもあちこちに隠れてるんだし、声を掛けたら皆喜んでやってくるよ?そもそもそんな無理やり召喚しようとするからあの子達は嫌がって膨大な魔力を消費するんじゃないの?」

 ルーシュはあほだなぁと笑い飛ばすのだが、ダンタリウスは釈然としなかった。近くにいる精霊を呼ぶだけでやって来るなら、誰も魔法なんて使わないし、エルフ達の使う精霊術なんて必要ないのだ。

「あのー、ルーシュの魔法に関しては規格外なので何も突っ込まない方が良いですよ?」

「だ、だがしかし…シャイターン様じゃあるまいし、そんな…」

 ダンタリウスは自分で口にして気付く。


 ダンタリウスの主であった魔神シャイターンは四要素の精霊を支配する存在だったという。

 現在、シャイターンの血を引くのはルーシュを含めて4人だが、特にルーシュはシャイターンに似ているという事実に思い至って、ダンタリウスは諦めるように溜息をつく。そもそもシャイターンの血を唯一引くルシフォーン王家の常識は、普通の魔族からしても計り知れないのだ。

「ルーシュ様がシャイターン様の持つ特性を引き継いでいても確かに…不思議ではない。時代が時代なら、ルーシュ様は聖なる御子として扱われていた存在でもありますからな」

「いや、それはないような…」

 レナはそんな高貴さと無縁の幼馴染を見る。その幼馴染は早速海水を口に含んでみて、しょっぱさにのた打ち回っていた。

「ううう、酷い目に合った。これは飲み物じゃない」

 ルーシュは海水を吐き出し、グッタリした様子でレナとダンタリウスの方へ戻ってくる。

「ルーシュ様の精霊召喚は恐らくシャイターン様から受け継いだ神の権能の1つなのでしょうな。あの方は精霊達に物事を頼んでいましたから」

「神の権能って……僕は別に神様じゃないよ」

ルーシュはブンブンと手を振ってそれを否定する。それについて来たハティとスコールもブンブンと同じように前脚を振って否定する。

「ですが神の子であるのは確かですよ」

「神話の話でしょ?あの胡散臭い」

「神話ではなく歴史です」

 ダンタリウスはルーシュが過去に全く興味が無い事を理解した上で言い聞かせる。神話は過剰に盛られた歴史である事を、ダンタリウスはよく知っており、ルーシュはそれを御伽噺と同義と言う理解しかしていなかった。

 1000年生きる魔公やハイエルフのような長寿種族からすれば、神話等はそれこそ幼い頃の歴史なのである。

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