アルベール調査
ルーシュとレナ、レヴィアの3人は、クリストフに連れられて魔導車でアルベールへとやって来ていた。
ルーシュが国でアルベール村の調査をした際にはどのような状況だったのか聞くべく、この国で顔の利く名誉侯爵であるクリストフに調査状況を教えて貰おうと話を聞きに行った。
だが当人に話を聞いてみると、その際に、折角なら一緒に行こうという話になった。
その為、飛んで行けば数日といった所だったが、シャトーからアルベールまで7日ほど掛けて移動している。
勿論、ルーシュ達は人類の文化に詳しくないので、相談役が1人いるだけでも十分に助かるのだから、文句は一切無かった。
人口100人程度の小さな村だと聞いていたアルベールは一言で言えば異常であった。
「こんな様子は報告書にありませんでしたな」
クリストフは目を細めて口にする。
「報告書の写しがどうにもはっきりしない感じだとは思った」
ルーシュもここに来る途中にみせてもらった被害状況を書かれた報告書の写しを読んでいたのだが、変に思っていた理由が目の前でハッキリするのだった。
「陛下なら何かしらの意見がありそうでしたが…」
「やっぱり、こういう建物とかにも詳しいんだ、セイは」
「ええ。陛下は崩壊した未来都市フトゥーロにも訪れてますし…」
ルーシュとクリストフ、レナとレヴィアもまた目の前の光景を見渡し息を飲む。
たった100人程度ののどかな農村という認識だった。
だが、背の高い森に囲まれた小さな集落は、大理石で作られた宮殿を中心に、鉄の柱で出来た背の高い建造物が並び、天井が透明なガラスに囲まれレンガに覆われた巨大な畑や、巨大な牧場跡が存在していた。
どう見ても文明レベルが首都シャトーよりも高かった。
だが、そんな建造物群や整備された農地も、見る影もないほどに穴だらけにされて崩壊していた。まるで隕石群が落ちたような跡地にも見える。
「クロードは牧場の跡取り息子だったって聞いていたけど。あとアルベールで林檎ができたみたいな話もあったかな。そういう場所はどこだろう」
ルーシュは首をかしげながら周りを見渡す。王都よりも背の高い鉄の柱によって支えられた家屋群、畑の周りは透明なガラスに覆われており、中には多くの野菜や果物が成っていた。
「調査資料によりますと牧場跡地はここより随分と東のようですな」
クリストフはガラスで囲まれた畑の奥の方を指差す。
「じゃあ、そっち行ってみようかなぁ」
「それよりも、我は同胞の亡骸を弔ってやりたいのじゃが、墓場はどこにあるのだ?」
オズオズとレヴィアはクリストフに訊ねる。
「それならば西の方ですな。地図だと……この道をずっと行った所に墓所があるのでそこに遺体を弔ったと報告にあります」
「うむ、では行こうか、レナよ」
「うーん、そうだね。じゃあ、ルーシュ。後でね」
レナはレヴィアについて行く事にする。
「じゃーまたねー」
ルーシュもレナに手を振って別れ、クリストフと共に東の牧場跡地へと向かう。
ルーシュとクリストフは歩いて東へと向かう。
「こんな文化を持った村だなんて聞いて無いよ」
ルーシュは透明なガラスの天井を持つ畑を見て溜息をつく。
「……破壊されて見る影も無いですが、残っている建物は明らかにイヴェールの文明を越えてますな。陛下が仰っていたリヴェルタの画などに似ておりました。陛下は、1つの国が、その文化レベルに持って行くまで、非常に時間の掛かる事だと話してましたが、こんな農村でそれができるなんて考えられませぬ」
「だよねぇ」
「…未来都市フトゥーロ……リヴェルタにその技術を卸していたと言われる文明レベルの高い都市を思い出させられます」
「フトゥーロ……も滅んだんだよね。アレッサンドロさんのいた場所なんだっけ?」
「はい」
ルーシュは共通の知り合いの例を出して訊ねる。
「フトゥーロは天界からの攻撃だったんだよね。こことは別なの?」
「……あの都市の生き残りの証言ですから」
「天界かぁ。興味あるんだよね。シャイターン様の件とか。僕ら魔族の事とか。暗黒世界は良くない方向に進んでいるから、どうにか出来ないかなってさ。彼らと話したいとも思ってるんだけど……天界への足がかりなんて無いから」
ルーシュは空を見上げる。
「……御伽噺とも言われてますが、実在している可能性もあります。かつて作った防衛システムだけが生きているだけの可能性もありますし、何ともいえませんな。人類の文化や考古学を専攻する私としては、興味深い話ですが…」
「魔王がいて、魔神がいたのならば、天界はあると思えるけど。まだミシェロスやラフィーラだって生きているだろうし。預言者は彼らと接触しているようだけどね」
「ルーシュ殿は空を飛べるのですし、空を探してみたら?」
「ムリムリ。寒いし息が出来ないもん。とてもじゃないけど長期間飛び続けるのは困難だよ」
実はこっそり試していたことだ。案外できないものである。
「そういえば山の高い場所は寒いし息苦しかったですな」
「魔公をたくさん連れ出したら、暗黒世界の領地にいる民が危険に晒されるから無理だし」
ルーシュは大きく溜息をつく。
「魔公は民を守る事を優先しているのですかな?」
「昔はもっと人口が多かったけど、今は絶滅した種族もたくさんあるから大変。生活環境も悪いし」
「…話を聞くと…魔族は暗黒世界ですか?そこから出たい…のですか?」
「別に出なくてもいいと思っている魔族はたくさんいると思うよ。実際、僕は不自由さを感じて無かったし。でも、閉塞した未来を考えるとやっぱりこっちに出る必要はあると思う。ただ…それをするとまた戦争になっちゃうから…」
「魔族の問題は大きいのですな。今のままでも問題はないのですが、先を考えるとこちらに出る必要がある。それが戦争に発展する恐れもあると」
「うん」
「ルーシュ殿は出ない側であると?」
「んー、ちょっと違うかな。暗黒世界に留まる穏健派でも、色々と考えはあるから。バエゼルブ家は自家の利権重視で他を考えてないけど、僕は外と仲良くできる状況じゃないと外に出る事に意味がないから反対しているかなぁ。ルシフォーン様の失敗は、内外を把握しきれていなかったからだって、最近は思うようになったし。彼は力が強すぎて、皆が皆、悪い人じゃないと思っていた部分があると思うよ。世間知らずというか。今、僕が立ったら、バエゼルブさんちもベーリオルトさんちも何をしだすか分からないし。だから諸侯はバエゼルブ連邦の頂点にお父さんや僕を置いているんだと思うよ」
「そう聞きますと、ルーシュ殿こそがルシフォーン殿の意思を継ぐとも聞こえますね」
「さあ、ルシフォーン様がどんな思いで死んだかなんて知らないもん。本当の意味で継いでいるのは誰かなんて…。母さんもベーリオルトさんも皆そう言っているから。でも…」
「?」
「ルシフォーン様がいなくなった暗黒世界を纏め上げたのも議会を作ったのも、実は今の魔王様なんだよね。子供っぽいところがある人だけど、当人とやって来た事が一致しないと言うか」
ルーシュは頬杖を付いて首を傾げる。
実際、大魔王ルシフォーンが失われ、暗黒世界は再び戦乱になるかと思われていた。それをまとめたのは魔公達から哀れまれるほどのポンコツのレッテルを貼られている魔王ルシフォーン三世である。
ルーシュは不思議そうにしているが、クリストフは何となく察してしまう。
ルーシュの話を聞く限りだが、現在の大魔王はルーシュによくにた性質だと感じていた。ルーシュはただ魔族のために駆け回るだけで、魔族だけでなくイヴェールの人々さえも支持されるようになっていた。
「陛下は…今の暗黒世界と手を結ぶのは可能だと考えているようです」
「でも、イヴェールはこの世界ではそこまで大きくないんでしょ?だからセイは無理だと」
「それが……セドリック陛下はもう1つの顔がありまして、そのもう1つの顔を使えば、かなり良い所まで行けると思っています。無駄な期待をさせないためにハッキリと無理と仰ってましたが」
「そうなの?」
「セドリック陛下は……冒険者時代にオリハルコンという傭兵団にいたそうです」
「オリハルコン?最強の傭兵団っていうのだよね。世界中にあるとか。一種の会社とかいうのみたいなのかな?」
「そうですな。派遣傭兵団というのが正しいのでしょう。ある意味で、金で兵力が買えるという時点で金があれば戦争に勝てると言う身も蓋も無いシステムを陛下は作ってますからな」
「そうか、そういう事か。確かに身も蓋も無いけど……人を富ませる国が勝てるというのはある意味で、戦いそのものの意味を変えてしまうね」
ルーシュは苦笑してしまう。金で第三者が戦争に勝利をさせるのであれば、最初から財力で勝てばよく、財力で勝てるなら、無駄に金を使って戦争をする意味さえ無いという事だ。
セドリックが作った派遣用兵団は世界のシステムを変えうるものだ。だが、それは運営者が世界のシステムになろうとしているからであり、利益を求めようとすれば国とくっつき、一人勝ちさせることも出来る危険性を持っている事にもなる。勿論、現在のオリハルコンにそこまでの戦力は存在しないのだが。
2人が歩いて行くと牧場跡地に辿り着く。
「さて、ここが牧場なんだけど…ここだけは普通の牧場ですねぇ」
「まあ、農業や工業は色々変わってますが、畜産場はあまり変わりませんからなぁ」
「馬でも牛でも山羊でも、のびのび走れる牧場が良いもんねぇ。死体はゾンビモンスター化してたりはしないの?」
「ありませんな。枯れた土地でも無いですから」
「まあ、こっちの地上ではそうだろうね」
モンスターのゾンビ化というのは主に精霊の加護が少ない土地で起こる。
暗黒世界でモンスターのゾンビ化が多く起こるのは、単純に魔公や魔王が魔力を使いすぎて、土地の魔力が失われるからである。ルーシュは精霊達に好まれる半面で、精霊の住まない土地を容易に作り出してしまうのだ。
「精霊の住まない土地には魔力が闇属性を持つからなぁ」
「そういえば、その理屈も分かってはいませんでしたが、ルーシュ殿達は周知の事実なのですか、それは」
「ん?精霊を見ることが出来る人は何人かいるから。全てを同時に見えるのは………僕くらいだけど、火、水、風、土の精霊を見る事がで切る魔族は1つの時代に必ず1人はいるし。だから、どういう土地がそういう事が起きるか現象を把握する事は難しくないかな。魔力がないと精霊が寄り付かず、精霊の加護が無いとそこに流れてくる魔力が勝手に闇属性に変わって来るんだよ。負の方向への魔力は、生きていた者の死骸の過去の情報を読み取ってしまい、ゾンビのように動き出すからね。そもそも僕の回復魔法は、闇属性の魔力が過去の履歴を読み取る事を応用しているし」
「ルーシュ殿はそれを随分幼い頃に身につけたとお聞きしましたが」
「僕ら魔公は知性や精神的に熟するのは早いから」
………
ルーシュの言葉にクリストフは言葉を失う。
どう見てもルーシュは年齢以上にお子様である。だが、考え方や魔法の知力に関してはそこらの為政者や学者をはるかに上回るものがある。確かに説得力はあるが、何と突っ込めばいいかちょっと困ってしまっていた。
すると牧場経営をしているだろう木の柵に隣接している建物が見えてくる。
「あれがクロードの家かな?」
「ものの見事に崩壊していますな」
「そうだねぇ」
建造物は一言で言えばログハウスと呼べるものだが、中央に二つほど巨大な穴が空いており、そこに柱が崩落して完全に家がつぶれていた。
牧場もだが、大量の流星群でも落ちたかのような印象を拭えない。綺麗な芝生の中に大小様々なクレーターがあった。
「普通なら焼け落ちそうだけど、焼けて無いとなると、やっぱり火の魔法ではなく、光の魔法だね」
熱によって消失した痕跡だが、火系魔法だとその余波で熱が伝わり燃えてしまう。光の魔法だと通過した場所だけが強力なエネルギーを受けて瞬時に焼けて灰になる。その為、光の魔法と火の魔法では焼失の仕方が異なるのである。
無論、光の魔法と火の魔法を両方使える存在でなければ、その違いは分からない。だが、ルーシュは火の魔法は苦手でも、精霊によって魔法と同じ現象を起こすことは可能なので、その識別は一目で分かる。
「ルーシュ殿、生命をピンポイントで魔法によって攻撃する事は可能でしょうか?」
クリストフは破壊された家の中に入りながら魔法の規模を分析しながら話を聞いてくる。
ルーシュもまた破壊痕を見ながら、どういった魔法だったかを検証している最中の質問なので直に頭を切り替える。
「んー、出来ると思うよ。僕の場合魔力の大小の区別する認識が下手だから、人の魔力波長だけを捕らえてその部分に光の魔法を打てばいいんでしょう?でも、この位の村の範囲なら、小さいのを上から降らすより、まるっと吹き飛ばすほうが楽かなぁ」
ルーシュはこんな小規模な魔法を使いこなせない。手加減が苦手なのだ。
出力が高すぎて、小規模魔法は最小出力にしても誤差範囲で家ごと吹き飛ばすのがルーシュの出力である。家に穴が空いている限り、ルーシュほど出力が高いとは思えなかった。
「さらっと恐ろしい事を言わないで下さい。確かに手加減しても山一つ吹き飛ばすルーシュ殿の魔法を鑑みれば、この村を滅ぼすならルーシュ殿のやり方の方が手っ取り早い。逆に言えばルーシュ殿ほど魔力がないとも言えますな」
「んー、でも…魔力の有無と強さとはまた別物だろうからね。胸を張って僕の方が強いとは言えないけど……、僕の手に負えないというレベルじゃないかも」
「そうなんですか?それは良い報告が陛下にできますな」
「んー、そうだね」
但し、同じパワーを持っていても、シホはルーシュよりも調整幅が低い所で使いこなす事が出来るので、魔法が得意なのである。シホが魔王継承権1位になったのは血筋だけではなく、魔法が苦手な魔王家において、魔法が得意という異端児とも言える部分があったからだ。
「ただ、問題は…この広範囲の攻撃、王都でやられたらぞっとしますな」
「………セイが戦争を起こさせない様にして、混乱を作らないように動いたのが大きいかな。でも広場に人がたくさん集まっていたけど」
ルーシュは腕組みして考え込む。
「あれはこの国の一部の人間だけですから。イヴェールでもシャトーは数十万と人がいます。それを滅ぼせば多くの敵を作ります。陛下はその情報を耳にしていたので色々と裏で動いていたようです。でなければ、あんな窮地に自分が追い込まれる事も無かったでしょう。正直に言えば……ルーシュ殿も恐れていたと思います」
「?」
「魔族を焼かれて、その報復として国を滅ぼされるのでは…と」
「えー、そんな恐ろしい事しないよぉ。……まあ、僕は無自覚で人の営みを滅ぼす部分があるから、そこら辺は気をつけてるけど」
「たまにルーシュ殿からはさらりと恐ろしい言葉が出ますな」
クリストフは引き攣って呻く。無自覚に滅ぼすとかちょっと怖い話だ。逆に言えば暗黒世界ではそれが普通なのだ。
そもそも人類は深く考えた事も無いだろう。暗黒世界の魔族達は、魔王や魔王家と言う規格外な存在と、日頃から付き合っている事実を。
「クロード殿はよく生きていられましたな」
「……案外……クロードは襲われたけどそれに気付かなかっただけかもね」
「え?」
ルーシュの記憶では、クロードは愛馬ロベールと共に村の外に出ていたという。だが村の外でも存在は感知していた筈だ。だが、クロードは魔法を無効化する体質がある。
光の魔法が降り注いで、ロベールに乗ったクロードが盾となり、クロードに当たる事で魔法が拡散し、ロベールも助かった。その為、村は滅んだが、クロードは滅ばなかった。これだけ大量のターゲットがいたのだから全員に向けて雨霰のように光の魔法を降らせてしまえば、1人くらい生き残っても気付けない可能性はある。或いは、生き残りがいようがいまいがどうでも良かったか。
「クロード殿だけが特別だったのでしょうか?例えばあの方のお父上かお母上も魔法無効化体質だったという事は?」
「それなんだけど、家が崩れて崩壊してるし、潰されて亡くなった可能性もあるかな」
「ああ、言われてみれば…」
さすがに潰れた家の中にいれば、押しつぶされた人間は生きられない。
するとレナが翼を広げて空を飛んでやってくる。
もはや空飛ぶの禁止事項とか皆守っていないのでルーシュは酷く心外だった。一応、ダンタリウスの言葉だったので、ルーシュとしては緊急事態でもなければ飛びたくは無かったのだが。
「ルーシュ!大変、大変!こっち来て!この村おかしい!」
「いや、おかしいのは分かってるけど」
レナはルーシュの前に着地して手をバタつかせて
「とにかくこっちに来て!」
と訴える。ルーシュもクリストフもよほどの事と感じて頷きあう。
4人が再び落ち合ったのは共同墓地であった。
大きい石碑と土が盛ってある場所がある。
ルーシュは、そこに穴でも掘って埋めたのだろうかと思って視線を移すと、もってある部分の中央が掘り返されていた。
「実は、中を掘り返してみたのじゃ」
レヴィアがとんでもない事を言い出す。
「あのね、それは暗黒世界だろうとグランクラブだろうと死者を冒涜する事であって…」
「分かっているが、どうしても気になっての。そこで想定外の白骨死体を見つけたのじゃ。見て驚かないで欲しいのじゃ」
レヴィアは白骨死体を指差す。
ルーシュとクリストフの二人は視線をレヴィアの指の受けた方向へ向ける。
それは確かに白い骨だった。だが明らかに人間の骨で無いものがある。
肩甲骨が折りたためる翼のような形になっていた。他にも、肩甲骨付け根に羽に似たものが付いている。
「この死体……まさか、魔公!?」
「横のものはハイエルフじゃろう。イザベラも背に伝承にある妖精のような羽根を隠し持っていた。それによく似ておる」
ルーシュは驚きの声をあげ、レヴィアは異常な死体と証したものを差して言う。
「どういう事でしょうか?」
クリストフは首を傾げる。
「魔族以外でもどのような種族がいたのか気になって少し掘り返してみたのじゃ。じゃが、想定外にもこの土地には魔公がおった。魔公とは我々と同様に、魔神シャイターン様より神に近い肉体に細胞レベルで進化させられた魔族の事じゃ。そうでないと、ほとんどの魔族はシャイターン様の肉を食らえばそのまま膨大な魔力を受け入れられずに蒸発してしまう」
「魔公の証拠である翼がある者がこの地にいたと……?」
「魔公は我々がしっかり管理しておる。200年前の戦争で行方不明者が幾人か出ているが、少なくともこの地にいるという事を把握してはいなかった」
レヴィアの説明に、クリストフは納得する。王族が知らない村で遺体となって発見されたようなものだ。確かに驚く所だろう。
ルーシュは歩いて白骨死体の元に跪いて、骨を見て、頭蓋の形を見る。魔法の余波であちこちが失われ、風化してボロボロだが、確かに魔公である特徴がある。
「当時、魔人奪還部隊にいて行方不明となった魔人系魔公。骨の大きさ、年齢は……400歳かな。レライ殿当人だろう……。彼はここで生きていたのか…」
ルーシュは頷き、両手を胸元で指を組んで目を瞑る。
「分かるのですか?」
クリストフの問いにルーシュは答えず、ただ目を瞑り祈りを捧げていた。
「魔王家は臣下の魔公を全て頭に入れる義務があるのじゃ。特に外に出るのであれば、外で行方不明になっている魔公を探すのも仕事じゃ。亡き者がいれば、かつて我々のために戦い、故郷で死ぬ事をさせられなかった事を謝らなければならないのじゃ。ルー君は律儀じゃからそういうのはちゃんと頭に入れておる」
「……」
クリストフの問いにはレヴィアが答える。クリストフはルーシュの日頃の行ないと、魔族としての行ないの違いに少し戸惑うが、それは自分の国の国王も同じなのである。自分の顔と魔王家としての顔を持っている。そして魔王家としての顔は余りにも気高く王者に相応しいものをもっていた。
「現在の魔王陛下と言う方がどのような方か会って見たいですな」
「セイも似た事を言っていたが、本当にポンコツ魔王じゃから、会ったらガッカリすると思うぞ?」
レヴィアは呆れた様にぼやく。
「ルーシュ殿の魔王家の人間としての振る舞いの背後に見えるものが、素晴らしく見えるのでしょう。少なくとも、陛下は相手の内にあるモノを見ますから、きっと魔王陛下とは良好な関係を結べると思います」
「セイがいて、魔王家が3人いるという今の状況はもしかしたら、我等がグランクラブに再度出ることが出来るようになってから100年で最も物事が進むチャンスかも知れぬの」
魔王家が外に出るというのは基本的にありえない状況だが、現在の魔王家は3人もいて、ルーシュに至ってはバエラス家に籍を移動している。魔王家がここまでフットワークの良い状況は過去に1度も無かったことだ。
(それを狙って外に出したのか……メリッサのやることは少し読めぬが……)
レヴィアはルーシュを動かしている後ろ盾であるメリッサの行動がそもそも理解できていない。ただ、ルーシュという存在は暗黒世界に置いて鍵となっているのは確かだ。
200年動かなかった状況が、魔王家から2人の子供が誕生した事によって、大きく変わってきている。
「クロードは気付いていたのかなぁ、魔公がいたって」
レナは不思議そうに考える。
「ただの農村ではなかったというのは正しいでしょうな。イヴェールも200年前は謎が多いのですな。例えばアルゴスの開発なども、陛下はその存在をリヴェルタで知ったそうですが、200年前の技術であのような人工モンスターを作ったなど考えられませぬ。この土地は比較的、アルゴスを作った研究施設が近いですし、当時の技術を残す場所になっていた可能性はありますな。いくつかの新しい農産物はイヴェール発というものがあるのですが、それを辿るとアルベールだったという物もあるそうです。クロード殿の馬も優秀な馬を掛け合わせて改良されたと思われますし、農産物の開発然り、我が国の中央で途絶えられた開発施設で、それを掴んだ銀翼の魔公が襲撃したというのはありえますな」
「じゃなければ、こんななんでもない村を意味なく襲撃するとは思えないからの。案外、東の大陸にはそういう記録がどこかに残されていた可能性はあるの。あの大陸は最終的に勇者が国を作った土地じゃからの」
レヴィアはクリストフの推測を肯定する。
ルーシュは祈りと黙祷を終えると立ち上がり
「取りあえずセイに報告するかぁ。東の大陸に何かあるにしても、僕らは迂闊に入れない場所でしょう?」
「まあ、東の大陸は大半が魔族は奴隷か最底辺種族じゃからの。正直、冒険者の印をつけ、耳を隠しても、碌な扱いは受けん。あの大陸の大半は人種差別に満ちておるからの。黒髪というだけで、飯屋ではテーブルにさえつけられんのじゃ」
レヴィアは苦虫を嚙むようにぼやく。
セドリックという心強い味方が出来ても、それほど文化の違う大陸でどうやって変える事が出来るのか、想像もつかなかった。いくら国と国で調整がついても、人の心は簡単に変わるものではない。
「じゃあ、今日はここに泊まって明日、片っ端から調査してから帰るかぁ。思ったより広いし」
ルーシュの提案にクリストフもレヴィアも頷くのだった。レナはあまり興味がないのか欠伸をしていたが。
仕事が忙しくて、次の展開に持っていく元気が無くてやばいです。
第3章をイヴェールの隣国であるミストラル編と銘を打ちながらも、その先の銀翼の魔公編のネタが切れていて、いっそくっつけるかとった状況で練り直してます。あと2話ほどをめどに一段落として、やっと隣国のミストラルのシーンへと行く予定です。
読んで頂いている方々には申し訳なく思いつつも、その後に再構成する為に1月ほど空ける事になると思います。ベースの流れはあるものの、手抜きプロットが足を引っ張ってます。手早く進めて手早く終わらせる予定が、なんだかこの物語1年位は続いていきそうです。連載って恐ろしい。




